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== 概要 ==
ヘリコプター/[[垂直離着陸機]]を除き、航空機の発着には滑走スペースが必要である。艦船上における滑走スペースが飛行甲板と称される。<br/>
水上機を運用するために旋回盤や運搬軌条を備え、水上機を[[デリック]]や[[カタパルト|射出機]]まで導くための甲板についても飛行甲板という言葉が広く用いられているが、こちらは航空(機)作業甲板、飛行(機)作業甲板、あるいは単に作業甲板(Working deck)と呼ばれる。
 
[[File:SBD landing on Ranger 1942.jpg|thumb|250px|空母「[[レンジャー (CV-4)|レンジャー]]」へ着艦する[[SBD ドーントレス]]]]
===黎明期===
世界初の飛行甲板は、[[アメリカ海軍]]の[[軽巡洋艦]]「[[バーミングハム (CL-2)|バーミングハム]]」に設置されたものであった。前甲板に発艦用飛行甲板として滑走台(Flying-off platform)が設置された。これは木製仮設のもので、艦橋から艦首まで占め、艦首部へ行くにしたがって下方へ傾斜していた。1910年11月14日に[[ユージン・バートン・イーリー]]がカーチスD複葉機を操縦し、そこから離艦している。1911年1月18日にはサンフランシスコ湾上で着艦実験が、同じくユージン・バートン・イーリーの操縦するカーチスD-IV複葉機によって行なわれた。
[[File:First airplane takeoff from a warship.jpg|thumb|left|250px|バーミングハムでの発艦実験]]
世界初の飛行甲板は、[[アメリカ海軍]]の[[軽巡洋艦]]「[[バーミングハム (CL-2)|バーミングハム]]」に設置されたもので、前甲板に発艦用甲板として滑走台(Flying-off platform)が設置された。これは木製の仮設のもので、艦橋から艦首まで占め、艦首部へ行くにしたがって下方へ傾斜していた。1910年11月14日に[[ユージン・バートン・イーリー]]がカーチスD複葉機を操縦し、そこから離艦している。1911年1月18日にはサンフランシスコ湾上で着艦実験が、同じくユージン・バートン・イーリーの操縦するカーチスD-IV複葉機によって行なわれた。
 
[[装甲巡洋艦]]「[[ペンシルベニア (装甲巡洋艦)|ペンシルベニア]]」の後甲板に特設の飛行甲板が設けられ着艦および発艦に成功している。「ペンシルベニア」の飛行甲板には着艦制動の仕組みが設けられていた。1931年に[[イギリス海軍]]がこれを発展させて実用化した装置を空母「[[カレイジャス (空母)|カレイジャス]]」へ搭載した。これは航空機側の着艦拘束装置として[[アレスティング・フックワイヤー|着艦フックワイヤー]]を母艦側の[[アレスティング・ワイヤーフック|着艦制動索フック]]に引っ掛けを用いて航空機を拘束することにより、短い滑走距離での着艦を可能にした。
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[[File:HMSJapanese Furious-2aircraft carrier Hōshō Tokyo Bay.jpg|thumb|250px|left|全通形式の飛行甲板を設置した後のフューリアス有する空母「鳳翔」]]
世界初の航空母艦である「[[フューリアス (空母)|フューリアス]]」は、1917年の改装により前部砲塔を撤去し、その撤去跡に前甲板を飛行甲板を設置した。艦中央に艦橋・煙突、艦後部に砲塔を残したままであった。当初は発艦のみを行ない、後には艦橋を越えてから横滑りで着艦する運用を行なったが、用性が高いもの言えず着艦時なかった。そ事故も発生したため、1917年中に艦後部着艦用の飛行甲板に改装された。ただし艦橋は残ったままであり、滑走スペースの不足や艦の前後への機体の移動不便さを残したままだであった。1922年の改装により全通甲板へと改められてからは滑走距離が確保され、航空機運用が容易となった。1920年代の「[[鳳翔 (空母)|鳳翔]]」や「[[ハーミーズ (空母・初代)|ハーミーズ]]」では新造時より全通形式の飛行甲板を有していた。
[[File:Japanese aircraft carrier Hōshō Tokyo Bay.jpg|thumb|250px|right|全通形式の飛行甲板を有する空母「鳳翔」]]
世界初の航空母艦である「[[フューリアス (空母)|フューリアス]]」は、1917年の改装により前部砲塔を撤去し、その撤去跡に飛行甲板を設置した。艦中央に艦橋・煙突、艦後部に砲塔を残したままであった。当初は発艦のみを行ない、後には艦橋を越えてから横滑りで着艦する運用を行なったが、実用性が高いものとは言えず着艦時の事故も発生したため、同年中に艦後部を着艦用の飛行甲板に改装した。ただし艦橋は残ったままであり、滑走スペースの不足や機体の移動に不便さを残したままだった。1922年の改装により全通甲板へと改められてからは滑走距離が確保され、航空機運用が容易となった。1920年代の「[[鳳翔 (空母)|鳳翔]]」や「[[ハーミーズ (空母・初代)|ハーミーズ]]」では新造時より全通形式の飛行甲板を有していた。
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「フューリアス」のほか、[[グローリアス級航空母艦]]、「[[赤城 (空母)|赤城]]」、「[[加賀 (空母)|加賀]]」では一時期、多段式の飛行甲板を有した([[多段式空母]])。「フューリアス」およびグローリアス級航空母艦は2段、「赤城」「加賀」は三段である。最上段を離発着に用い、中・下段でも同時発艦を狙うものであった。しかし技術の進歩によって航空機の高性能化が進み、より長い滑走距離が求められるようになると、最上段の甲板では発着艦のために十分とは言えなくなり、が制限れる上に下の飛行甲板も設置位置が必然的に低くなってしまう関係で、荒天時には波浪が錨甲板だけでは止まらずに下段の甲板および甲板と直結している格納庫にも侵入するため多段式飛行甲板は不便であった。そのため、「赤城」と「加賀」は艦首から艦尾までの滑走距離がとれる一段式甲板に改装されている
===多段式甲板===
[[File:JapaneseAircraftCarrierAkagi3Deck cropped.jpg|thumb|250px|left|三段甲板時代の「赤城」]]
[[File:HMS Furious-15.jpg|thumb|250px|right|二段甲板に改装後の「フューリアス」]]
「フューリアス」のほか、[[グローリアス級航空母艦]]、「[[赤城 (空母)|赤城]]」、「[[加賀 (空母)|加賀]]」では一時期、多段式の飛行甲板を有した([[多段式空母]])。「フューリアス」およびグローリアス級航空母艦は二段、「赤城」と「加賀」は三段である。最上段を離発着に用い、中・下段でも同時発艦を狙うものであった。しかし技術の進歩によって航空機の高性能化が進み、より長い滑走距離が求められるようになると、最上段の甲板長では発着艦のために十分とは言えなくなり、さらに下段の飛行甲板も設置位置が低くなってしまう関係で、荒天時には波浪が錨甲板だけでは止まらずに下段の甲板および甲板と直結している格納庫にも侵入するため、多段式飛行甲板は不便であった。そのため、「赤城」と「加賀」は艦首から艦尾までの滑走距離がとれる一段式甲板に改装された。
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==アングルド・デッキ==
[[File:Cvnanim.gif|thumb|250px|アングルド・デッキ]]
1940年代までの飛行甲板は直線状であり、着艦失敗した機が艦前部に駐機中の機体に衝突する恐れがあった。これを防止するため第二次大戦期までの空母には滑走制止索(Crash barrier)が備えられていたが、航空機の性能向上に伴う航空機の重量増加と着艦速度の上昇は、将来において滑走制止索を用いてもなお事故に対処することが難しくなることが予想された。そこで1950年代にイギリス海軍で[[アングルド・デッキ]]が考案され、1952年にイギリス海軍の「[[トライアンフ (空母)|トライアンフ]]」で試験が開始された。当初は、甲板形状を変更せず、着艦ラインを艦首尾線に角度をつけたものであった。これは、着艦の復行が行ないやすくなり安全性が向上するほか、発着艦が同時に行なえる利点があった。このため、アングルド・デッキはさらに発展し、着艦帯方向にも飛行甲板が拡張されるようになり、20世紀後半以降の[[正規空母|大型空母]]では飛行甲板が左右非対称となっている。イギリス海軍でも1950年代から既存空母にも改装により取り付けられたほか、アメリカ海軍の[[エセックス級航空母艦]]や[[ミッドウェイ級航空母艦]]にも改装取り付けが行なわれた。角度については、[[ニミッツ級航空母艦]]で9度となっている。
{{Main|アングルド・デッキ}}
1940年代までの飛行甲板は直線状であり、着艦に失敗した機が艦前部に駐機中の機体に衝突する恐れがあった。これを防止するため第二次大戦期までの空母には滑走制止索(Crash barrier)が備えられていたが、航空機の性能向上に伴う航空機の重量増加と着艦速度の上昇は、将来において滑走制止索を用いてもなお事故に対処することが難しくなることが予想された。そこで1950年代にイギリス海軍で[[アングルド・デッキ]]が考案され、1952年にイギリス海軍の「[[トライアンフ (空母)|トライアンフ]]」で試験が開始された。当初は、甲板形状を変更せず、着艦ラインを艦首尾線に角度をつけたものであった。これは、着艦の復行が行ないやすくなり安全性が向上するほか、発着艦が同時に行なえる利点があった。このため、アングルド・デッキはさらに発展し、着艦帯方向にも飛行甲板が拡張されるようになり、20世紀後半以降の[[正規空母|大型空母]]では飛行甲板が左右非対称となっている。イギリス海軍でも1950年代から既存空母にも改装により取り付けられたほか、アメリカ海軍の[[エセックス級航空母艦]]や[[ミッドウェイ級航空母艦]]にも改装取り付けが行なわれた。角度については、[[ニミッツ級航空母艦]]で9度となっている。
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==スキー・ジャンプ甲板==
[[File:FRS.1 ski-jump take-off HMS Invincible.JPEG|thumb|250px|スキー・ジャンプ甲板]]
陸上の[[滑走路]]と異なり、面積が限られている飛行甲板においては、発着艦を援助する設備が設けられている。発艦の支援としては、[[カタパルト]]が設置され短い滑走距離での発艦を可能としている。航空母艦用のカタパルトは当初は油圧式であったが、より高出力の蒸気式へと発展し、将来的には電磁式が構想されている。
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このほか、ジェット排気が発艦待ち他所へ機体(および機外装備品)や甲板要員に影響を与えないようにするためジェット・ブラストディフレクターが甲板に埋め込まれており、発艦直前の[[アフターバーナー]]使用時に甲板からより立ち上がり、ジェット排気を上方へ逃がしている。[[インヴィンシブル級航空母艦]]をはじめとする[[航空機の離着陸方法#垂直/短距離離着陸機|V/STOL]]空母([[軽空母]])では[[カタパルト]]は有さないが、[[スキー・ジャンプ甲板]]により搭載機の発艦を助けている。「[[アドミラル・クズネツォフ (空母)|アドミラル・クズネツォフ]]」も[[航空機の離着陸方法#通常離着陸機|CTOL]]空母では有るが、[[航空機の離着陸方法#短距離離陸拘束艦機|STOBAR]]方式によりスキー・ジャンプ甲板を有している。
==諸装置==
===ブラスト・ディフレクター===
[[File:US Navy 050726-N-4321F-086 Capt. Gary Mace prepares to launch from catapult one aboard USS Kitty Hawk (CV 63) for a fly-over change of command of Carrier Air Wing Five (CVW-5).jpg|thumb|left|250px|発艦直前のF/A-18E。機体の後方にある衝立のようなものがブラスト・ディフレクター。]]
ジェット排気が発艦待ちの機体(および機外装備品)や甲板要員に影響を与えないようにするため、ジェット・ブラスト・ディフレクターが甲板に埋め込まれており、発艦直前の[[アフターバーナー]]使用時に甲板から立ち上がり、ジェット排気を上方へ逃がしている。[[インヴィンシブル級航空母艦]]をはじめとする[[航空機の離着陸方法#垂直/短距離離着陸機|V/STOL]]空母([[軽空母]])では[[カタパルト]]は有さないが、[[スキー・ジャンプ甲板]]により搭載機の発艦を助けている。「[[アドミラル・クズネツォフ (空母)|アドミラル・クズネツォフ]]」も[[航空機の離着陸方法#通常離着陸機|CTOL]]空母では有るが、[[航空機の離着陸方法#短距離離陸拘束艦機|STOBAR]]方式によりスキー・ジャンプ甲板を有している。
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===エレベーター===
[[File:CV-16 20Feb1944.jpg|thumb|250px|エセックス級「レキシントン」。飛行甲板の左舷側中央付近にある突起状のものがサイドエレベーター。]]
航空機を格納庫から飛行甲板に揚げるための装置。第二次大戦期までは飛行甲板の中心線上に設けられ、上昇時には飛行甲板(滑走甲板)の一部を形成していた。しかし従来のエレベーターの設置方法では艦載機を甲板上に揚げる際、もしくは艦載機を格納庫に下ろす際に飛行甲板に大穴が開く格好となり、艦載機の運用に不便を来たした。これを解決するため艦の舷側部に格納庫と通じる開口部を設け、そこから艦載機の上げ下げを行うためのサイドエレベーターが考案された。
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== 装甲 ==
飛行甲板は、艦体上部にあり[[装甲]]を施すことは、復原性が悪化するためトップヘビーの恐れから容易ではなかった。飛行甲板の装甲化はイギリス海軍が最初に行なってる。「[[イーグル (空母・初代)|イーグル]]」や「[[アーク・ロイヤル (空母・初代)|アーク・ロイヤル]]」といった初期の空母でもすでに装甲が装備されていた。
 
[[イラストリアス級航空母艦]]も装甲化した飛行甲板に装甲施してい持ち重防御であっ。ただし、代償として搭載機数の減少を招いている。日米海軍は軽防御で搭載機数の多い空母を優先して建造したが、飛行甲板の脆弱は実戦運用に不利の面があった。
 
アメリカ海軍はミッドウェイ級航空母艦以降、[[大日本帝国海軍|日本海軍]]では「[[大鳳 (空母)|大鳳]]」において飛行甲板の装甲化を行なった。
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== ヘリコプター甲板 ==
[[File:USS Rentz Detail 04 fan tail.jpg|thumb|200px|USSレンツ(FFG-46)のヘリコプター甲板]]
ヘリコプターは発着艦に対し、滑走が不要である。そのため、飛行障害の少なさから、全通甲板はヘリコプター用の飛行甲板としても有利優位はあるが、発着艦設備としては必ずしも必要ではない。
 
[[駆逐艦]]などにヘリコプターを搭載する場合、艦体中央上部や艦尾にシンプルな飛行甲板を設けることが多い。また、これらの小型艦は、全通甲板を設置できる大型艦よりも動揺が激しいことから、一部の艦では着艦拘束装置を設けて、荒天時の着艦を支援している。