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'''工学'''(こうがく、'''engineering''')とは、
'''工学'''(こうがく、'''engineering''')は、[[科学]]、特に[[自然科学]]の知見を利用して、人間の利益となるような[[技術]]を開発したり、製品・製法などを発明したりするための事柄を研究する学問の総称である。▼
* [[エネルギー]]や[[自然]]の利用を通じて便宜を得る[[技術]]一般<ref name="w_pedi">平凡社『世界大百科事典』1988年版【工学】</ref>。
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[[ファイル:Maquina vapor Watt ETSIIM.jpg|thumb|350px|[[産業革命]]で大きな役目を果たした[[ジェームズ・ワット|ワット]]の[[蒸気機関]]は工学の重要性を示す歴史上の例である。]]
== 概要 ==
[[ファイル:Dampfturbine Montage01.jpg|thumb|right|225px|[[タービン]]の設計には様々な分野の
[[国立大学#日本における国立大学|日本の国立8大学]]の工学部を中心とした「工学における教育プログラムに関する検討委員会」の文書(1998年)では、次のように定義されている。
歴史的に見ると工学は[[自然科学|理学]]と相互に影響しながら発達してきたと言える。例えば、[[蒸気]]機関の効率についての研究から[[熱]]についての認識が深まっていった。熱についての理学的な研究が進められることによって冷却も可能になったと言える。▼
{{Quotation|工学とは[[数学]]と[[自然科学]]を基礎とし、ときには[[人文科学|人文]][[社会科学]]の[[知識|知見]]を用いて、公共の[[安全]]、[[健康]]、[[福祉]]のために有用な事物や快適な[[環境]]を構築することを[[目的]]とする[[学問]]である。<ref>「[http://www.eng.titech.ac.jp/~jeep/08-10/pdf/pamph01.pdf 8大学工学部を中心とした 工学における教育プログラムに関する検討]」([[PDFファイル]]) 工学における教育プログラムに関する検討委員会、1998年5月8日。</ref>}}
工学
したがって工学では[[安全性]]、[[経済性]]、[[運用性|運用]]・[[保守性]]といった、[[実用]]上の観点の価値判断が重要である。使用できる[[時間
また'''[[公共の福祉]]'''に対する配慮も必要であり、工学各分野の学会([[電気学会]]、[[土木学会]]など)では[[倫理]]的な内容を盛り込んだ信条規定([[:en:Creed|Creed]])が定められている。▼
工学には、他の[[学問]]の成果を[[社会]]に[[還元]]するための[[技術]]の[[開発]]という面もあるが、近年はそれに加えて、その技術の適用にあたっての[[長所]]、[[短所]]の[[調査]]('''[[アセスメント]]''')、調査結果とともに調査
現代の我々が用いている意味での「engineering」という用法・概念は18世紀になって生まれたものであるが、その概念に合致するような営みは、実際には古代から行われていたとも考えられている。(→[[#歴史]])
▲工学も大半の分野では理学の分野である[[数学]]・[[物理学]]・[[化学]]等々を基礎とするが、工学と理学の相違点は、ある現象を目の前にしたとき、理学は「なぜそのようになるのか」という現象そのものに対する理解を追求するのに対して、工学は「どうしたら目指す成果に結び付けられるか」という人間・社会で利用されることに対する合目的性を追求する点である。
▲国立8大学工学部を中心とした「工学における教育プログラムに関する検討委員会」による工学の定義(1998年)によると、『'''工学とは数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である。'''』<ref>「[http://www.eng.titech.ac.jp/~jeep/08-10/pdf/pamph01.pdf 8大学工学部を中心とした 工学における教育プログラムに関する検討]」([[PDFファイル]]) 工学における教育プログラムに関する検討委員会、1998年5月8日。</ref>と位置づけられている。
工学を実践する者を「engineer」「エンジニア」「[[技術者]]」と呼ぶ。日本では技術者の公式な資格の一つに[[技術士]]がある。
▲したがって工学では安全性、経済性、運用・保守性といった、実用上の観点の価値判断が重要である。使用できる時間やその他の資源の制約の中、工学的目的を達成するための技術的な検討とその評価を'''工学的妥当性'''と言い、工学的な性質には、環境適合性、使いやすさ、整備のしやすさ、生涯費用(ライフサイクルコスト)など、[[質量]]、[[速度]]などの単なる科学的に測定できる性質とは違った評価方法の必要なものが多い。その評価方法の開発も重要な分野とされる。
▲また公共の福祉に対する配慮も必要であり、工学各分野の学会([[電気学会]]、[[土木学会]]など)では信条規定が定められている。
▲工学には、他の[[学問]]の成果を[[社会]]に[[還元]]するための[[技術]]の[[開発]]という面もあるが、近年はそれに加えて、その技術の適用にあたっての[[長所]]、[[短所]]の[[調査]]([[アセスメント]])、調査結果とともに調査[[過程]]の資料を公表説明すること([[アカウンタビリティ]])が求められるようになってきている。
== 歴史 ==
工学という用語や概念自体は歴史的に見れば比較的新しいものであるが、「工学」という概念で照らしつつ人類の歴史を遡って眺めてみれば、それに相当するものは実際上は古代から存在していたと言うこともできる。
工学の概念は、古代の人々が[[滑車]]や[[梃子]]や[[車輪]]といった基本的機構を発明したころから存在していた。基本的な機械的(物理的)原理を利用して便利な道具やモノを作るという意味で、これらの発明も工学の現代的定義に適合している。▼
後に民間の橋や建築物の建設技法が工学分野として円熟してくると、"civil engineering"<ref name="ECPD Definition on Britannica">[http://www.britannica.com/eb/article-9105842/engineering Engineers' Council for Professional Development definition on Encyclopaedia Britannica] (Includes Britannica article on Engineering)</ref> (日本語にあえてす
つまり、古くは「engineering」という語はmilitary engineering [[軍事技術]]だけを意味していたことがある<ref name="w_pedi" />。だが、18世紀以降はcivil engineering(=軍事以外の技術)が発展し、それ以来、engineeringという言葉はエネルギーや資源を利用しつつ便宜を得る技術一般を指すようになった<ref name="w_pedi" />のである。
▲近代的な「工学
=== 古代 ===
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== 社会的状況 ==
工学は本質的に社会や人間の行動に左右される。現代の製品や建設は必ず工学設計の影響を受けている。工学設計は環境・社会・経済に変化を及ぼす強力なツールであり、その応用には大きな責任が伴う。多くの工学系の学会は行動規約や[[倫理]]規約を制定し、会員や社会にそれを周知させようとしている。
工学プロジェクトの中には論争となっているものもある。例えば、[[核兵器]]開発、[[三峡ダム]]建設、[[SUV]]の設計と使用、[[重油]]抽出などである。これに対して、[[企業の社会的責任]]について厳しい方針を設定している工学企業もある。
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== 他の学問分野との関係 ==
=== 科学 ===
{{quote|科学者はあるがままの世界を[[研究]]し、技術者は見たこともない世界を[[創造]]する。|[[セオドア・フォン・カルマン]]}}
[[科学的手法]]と工学的手法にはオーバーラップする部分があり、工学は科学の[[応用]]ともいえる。どちらもその基本は現象などの正確な観察である。観察結果を[[分析]]し伝達するため、どちらも[[数学]]や分類基準を使う。
Walter Vincenti は著書 ''What Engineers Know and How They Know It''<ref name="vincenti">{{cite book|last=Vincenti|first=Walter G. |title=What Engineers Know and How They Know It: Analytical Studies from Aeronautical History|publisher=Johns Hopkins University Press|year=1993}}</ref> において、工学の研究は科学の研究とは違う性質を持っているとしている。工学は[[物理学]]や[[化学]]が基本的によく理解している分野を扱うが、問題自
Fung らは古典的な工学教科書 ''Foundations of Solid Mechanics'' の改訂版の中で、次のように書いている。
<blockquote>工学は科学と全く異なる。科学者は[[自然]]を[[理解]]しようとする。技術者は自然界に存在しないものを作ろうとする。技術者は[[発明]]を強調する。発明を具現化するには、[[アイデア]]を具体化し、人々が使える形で設計しなければならない。それは装置、道具、材質、技法、コンピュータプログラム、革新的な実験、問題の新たな解決策、既存の何かの改良である。設計は具体的でなければならず、形や寸法や数値が設定されていなければならない。新しい設計にとりかかると、技術者は必要な[[情報]]が全て揃っているわけではないことに気づく。多くの場合、科学知識の不足によって情報が制限される。そこで技術者は数学や物理学や化学や生物学や力学を勉強する。そうして工学における必要性から関連する科学に知識を追加することも多い。こうしてengineering sciences([[理工学
▲「{{要出典範囲|歴史的に見ると工学は[[自然科学|理学]]と相互に影響しながら発達してきたと言える。例えば、[[蒸気]]機関の効率についての研究から[[熱]]についての認識が深まっていった。熱についての理学的な研究が進められることによって冷却も可能になったと言える。|date=2011-8}}」とも言う{{誰|date=2011-8}}{{いつ|date=2011-8}}。
=== 医学と生物学 ===
[[ファイル:Leonardo self.jpg|thumb|right|[[レオナルド・ダ・ヴィンチ]]の自画像。芸術家兼工学者の典型<ref name="Bjerklie, David"/>。[[人体解剖学|人体解剖]]や[[人相占い]]の研究でも知られている。]]
目的や方向性は異なるが、[[医学]]と工学の一部の分野の共通部分として[[人体]]の研究がある。[[医学]]においては、必要なら[[テクノロジー]]を使ってでも[[人体]]の機能を維持・強化し、場合によっては人体の一部を代替することも目指
現代医学は既に一部の臓器の機能を人工のものと置換することを可能にしており、[[心臓ペースメーカー]]などがよく使われている<ref name="Boston U">[http://www.bu.edu/wcp/Papers/Bioe/BioeMcGe.htm Ethical Assessment of Implantable Brain Chips. Ellen M. McGee and G. Q. Maguire, Jr. from Boston University]</ref><ref name="IEEE foreign parts">[http://ieeexplore.ieee.org/Xplore/login.jsp?url=/iel5/2188/27125/01204814.pdf?arnumber=1204814 IEEE technical paper: Foreign parts (electronic body implants).by Evans-Pughe, C. quote from summary: Feeling threatened by cyborgs?]</ref>。[[医用生体工学]]は生体への人工物の埋め込みを専門とする領域である。
逆に人体を生物学的機械として研究対象とする工学分野もあり、テクノロジーによってその機能を[[エミュレーション|エミュレート]]することを専門とする。それは例えば、[[人工知能]]、[[ニューラルネットワーク]]、[[ファジィ論理]]、[[ロボット]]などである。工学と医学の学際的な領域もある<ref name="IME">[http://www.uphs.upenn.edu/ime/mission.html Institute of Medicine and Engineering: Mission statement The mission of the Institute for Medicine and Engineering (IME) is to stimulate fundamental research at the interface between biomedicine and engineering/physical/computational sciences leading to innovative applications in biomedical research and clinical practice.]</ref><ref name="IEEE">[http://ieeexplore.ieee.org/xpl/RecentIssue.jsp?punumber=51 IEEE Engineering in Medicine and Biology: Both general and technical articles on current technologies and methods used in biomedical and clinical engineering...]</ref>。
医学も工学も実世界における問題解決を目的としている。そのためには、現象をより厳密かつ科学的に理解する必要があり、実験や[[経験]]的知識が必須となっている。
医学はその一部として人体の機能も研究する。[[機械論|人体を生体機械と捉え
例えば[[心臓]]は[[ポンプ]]によく似た機能を有し<ref name="Science Museum of Minnesota">[http://www.smm.org/heart/lessons/lesson5a.htm Science Museum of Minnesota: Online Lesson 5a; The heart as a pump]</ref>、[[骨格]]は[[てこ]]を繋げたような構造をしている<ref name="Minnesota State University emuseum">[http://www.mnsu.edu/emuseum/biology/humananatomy/skeletal/skeletalsystem.html Minnesota State University emuseum: Bones act as levers]</ref>と理解することも可能である。また[[脳]]は[[信号 (電気工学)|電気信号]]を発している<ref name="UC Berkeley News">[http://www.berkeley.edu/news/media/releases/2005/02/23_brainwaves.shtml UC Berkeley News: UC researchers create model of brain's electrical storm during a seizure]</ref>。このような類似性や医学における工学の応用の重要性の増大により、工学と医学の知識を応用した[[医用生体工学]]が生まれた。
[[システム生物学]]のような新たな科学の分野は、システムのモデリングやコンピュータを利用した解析など工学で使われてきた解析手法を採用して、[[生命]]を理解しようとするものである<ref name="Royal Academy"/>。
=== 芸術 ===
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