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{{Otheruses|ある要素の特徴によって別の語の形式が変わること|時制の一致|時制}}
[[言語学]]における'''一致'''(いっち)とは、[[文]]の中(または一連の[[談話]]の中の文)で互いに[[文法]]的な関係を持つ[[単語]]・[[句]]などの間に、明示される[[文法範疇]]に関して同じものが指示される規則である。
 
'''一致'''(いっち、agreement<ref name=mgy>『文部科学省学術用語集:言語学編』</ref>)または'''呼応'''(こおう、concordance<ref name=mgy />)とは、ある[[語]]や[[句]]の意味的・形式的な特徴によって、別の語の形式が変わることである<ref>Steele 1978: 610.</ref><ref>Corbett 2006: 4.</ref>。照応または符合といわれることもある<ref>亀井・河野・千野(編)1996: 69.</ref>。
[[英語]]のほか、世界の多くの[[言語]]([[屈折語]]、[[抱合語]]、一部の[[膠着語]])に一致の現象が見られる。以下に文法的関係と一致する文法カテゴリーの例を示す(カッコ内は、一般的ではないが一部の言語で例の見られるもの):
 
{|class="infobox"
文法的関係・・・一致する文法カテゴリー
!colspan="4"|性・数・格の一致(ロシア語の例)
|-
|colspan="4"|''Знаешь какой мне всегда давала совет моя мама?''
|-
|Zna-eš'||kak-oj||mne||vsegda
|-
|知っている-2SG||style="background-color:#ddf"|どんな-'''M.SG.ACC'''||1SG.DAT||いつも
|-
|dava-l-a||sovet||moj-a||mam-a?
|-
|style="background-color:#fdd"|与える-PST-'''F.SG'''||style="background-color:#ddf"|忠告'''(M)[SG.ACC]'''||style="background-color:#fdd"|私の-'''F.SG.NOM'''||style="background-color:#fdd"|母'''(F)-SG.NOM'''
|-
|colspan="4"|「母が私にいつもどんな忠告をしてくれたか知っていますか?」
|}
 
例えば右の[[ロシア語]]の例では、名詞とそれを修飾する形容詞の間に[[性 (文法)|性]]・[[数 (文法)|数]]・[[格]]の一致、名詞句とそれを[[主語]]とする動詞の間に性・数の一致が起きている。''sovet''「忠告」は男性名詞 (M) で単数 (SG)・[[対格]] (ACC) のかたちをとっているので、それを修飾する ''kakoj''「どんな」も男性・単数・対格の語尾 ''-oj'' をとっている。また、''mama''「母」は女性名詞 (F) で単数・[[主格]] (NOM) なので、名詞句の ''moja mama''「私の母」も女性・単数・主格となり、それを主語とする動詞 ''davala''「与えた」が女性・単数の語尾 ''-a'' で終わっている。
[[動詞]]・[[形容詞]]とその[[主語]]・([[目的語]])の間・・・[[人称]]・[[数 (文法)|数]]・[[性 (文法)|性]]・([[定性]])
 
==用語==
[[名詞]]とそれを[[修飾]]する形容詞等の間・・・数・性・[[格]]
一致を引き起こす要素を'''コントローラー''' (controller) またはトリガー (trigger)、ソース (source) と呼び、コントローラーとの一致によってその形式が決まる要素を'''ターゲット''' (target) という。一致の起きる統語的環境は一致の'''ドメイン''' (domain) 、一致を引き起こす特徴は'''素性'''(そせい、feature<ref name=mgy />)と呼ばれる。素性は'''値'''(あたい、value<ref name=mgy />)を持っており、例えばロシア語の性の素性には男性・女性・中性の三つの値がある。素性は伝統的には[[文法範疇]]とも呼ばれる。上で述べた名詞とそれを修飾する形容詞の性・数・格の一致を例にとると、名詞がコントローラーであり、それを修飾する形容詞をターゲットとして一致が起きている。一致している素性は性・数・格の三つで、一致のドメインは句である。
 
==典型的な一致==
名詞とそれを示す[[代名詞]]・[[関係代名詞]]の間・・・数・性
{|class="infobox"
|
{|
!colspan="4"|典型的な一致
|-
|a. ||The book ||'''is'''|| on the table.
|-
| ||本[SG]||ある.SG||テーブルの上に
|-
|b.||The book-'''s'''||'''are'''||on the table.
|-
| ||本-PL||ある.PL||テーブルの上に
|}
|
{|
!colspan="4"|典型的でない一致(英語の例)
|-
|c. ||The sheep ||'''is'''|| in the field.
|-
| ||羊[SG]||いる.SG||草地に
|-
|d.||The sheep||'''are'''||in the field.
|-
| ||羊[PL]||いる.PL||草地に
|}
|}
 
普通、コントローラーの素性の値はそれ自体にはっきり示されているので、典型的な一致は情報量が少なく冗長的である<ref>Corbett 2006:</ref>。例えば右の英語の例では、名詞句 ''the book/the books'' が動詞の一致を引き起こすコントローラーであり、''the book'' は単数 (SG)、''the books'' は複数 (PL) ということがそのかたちからはっきり分かる。動詞 ''is/are'' は主語の名詞句に合わせてかたちを変えているだけであり、かたちが変わることによって新しい情報が伝わるわけではない。
:このほか、名称の類似したものに「[[時制]]の一致」がある。英語などでは、絶対的な[[時間]]基準(陳述時現在を基準とする)を置き、さらに主節と[[従属節]]で表される事柄の相対的時間関係に応じて従属節の時制が決定される。例えば主節が過去のある時点のことで、従属節がそれ以前のことならば、従属節は大過去(過去完了)で表される。([[日本語]]では主節に対する相対的基準だけで従属節の時制を決めるのが普通)
 
一方、コントローラーに素性の値が示されない場合には、一致によって新しい情報が伝わることがある。例えば単複同形の ''the sheep'' が主語である場合、動詞が ''is/are'' とかたちを変えることで羊が一匹なのか複数いるのかという情報が伝えられる。
一致は文の内部での人称的水平関係構造を、ひいてはその文をめぐる者たちの間の人称関係を、形成し明示する効果がある。
 
{|class="infobox"
!colspan="4"|典型的でない一致(ブルガリア語の例)
|-
|colspan="4"|''Негово Величество е дошъл.''
|-
|Negov-o||Veličestv-o ||e||došăl.
|-
|style="background-color:#dfd"|彼の-'''N.SG'''||style="background-color:#dfd"|威厳'''(N)-SG'''|| ||
|-
|colspan="2" style="background-color:#ddf"|国王陛下'''[M.SG]'''||AUX.3SG||style="background-color:#ddf"|来る.PST'''[M.SG]'''
|-
|colspan="4"|「国王陛下がいらっしゃった」
|}
 
また、コントローラーの素性の値が常に変わらないのが典型的な一致である。例えばロシア語の名詞 ''mama''「母」は、常に女性として一致し、男性や中性のかたちを引き起こすことはない。しかし、右のブルガリア語の例のように、あるドメインでは中性、別のドメインでは男性として一致を引き起こすような場合がある。
 
==脚注==
{{Reflist|3}}
==参考文献==
*Corbett, Greville. (2006) ''Agreement''.
*[[亀井孝]]・[[河野六郎]]・[[千野栄一]] 編 (1996)「照応」『言語学大辞典:第6巻 術語編』三省堂。710。
 
{{DEFAULTSORT:いつち}}
[[Category:文法]]
[[category:形態論]]
[[category:統語論]]