「コレラ菌」の版間の差分

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[[1876年]]、[[ロベルト・コッホ]]([[:en:Robert Koch|Robert Koch]])が[[炭疽]]の病原体が[[炭疽菌]]であることを証明したことによって、細菌が病原体であるという、細菌病原体説が証明された。コッホは、さらに[[結核菌]]がヒトの[[結核]]の病原体であることを[[1882年]]に立証し、ある細菌が特定の病気の原因であることを証明するための原則として[[コッホの原則]]を提唱していた。
 
このような時代背景の中で、[[1881年]]にインドで発生したコレラ(第5次パンデミック)は徐々に広がりを見せ、[[1883年]]には[[エジプト]]に到達して流行を起こした。これに対して、ドイツ政府はコッホとガフキー([[:en:Georg Theodor August Gaffky|Georg Theodor August Gaffky]])を中心にした調査団を、フランス政府は[[ルイ・パスツール|ルイ・パストゥール]]([[:en:Louis Pasteur|Louis Pasteur]])の弟子にあたる[[エミール・ルー]]([[:en:Emile_Roux|Emile Roux]])を中心とした調査団を、それぞれ[[アレクサンドリア]]に派遣して、その原因究明に臨ませた。実験動物を用いてコレラ菌を分離しようとしたフランスの調査団に対し、コッホらは患者の腸管で増殖している菌を観察、分離培養することを試み、コレラ患者の糞便にコレラの原因菌と思われる[[コンマ]]型をした細菌の存在を見出した。なおフランス側の手法は成果なく終わったが、これは後に判ったことであるが、コレラ菌はヒト以外のほとんどの動物ではコレラを起こさないためであった。
 
エジプトでの流行が終息した後、コッホらはインドの[[コルカタ|カルカッタ]]に赴きさらに調査を続けた。その結果、カルカッタのコレラ患者の糞便や死者の腸管からも、コッホがアレクサンドリアで見つけたものと同じ細菌が存在し、一方コレラ以外で死んだ死者の腸管にはこの菌が存在しないことを見出した。そこでコッホはこの細菌こそがコレラの原因菌であると考え、その形態からコンマ状桿菌(Kommabazillus)(Kommabazillus)と呼んだ。コレラ菌は、ヒト以外の実験動物にはコレラを起こさなかったため、コッホの原則のすべてを満足しなかったものの、コッホは本菌がコレラの原因であると結論し、[[1884年]]にドイツ政府に報告した。このことによってコッホはコレラ菌の発見者として広く認知され、コレラ菌には''Vibrio comma''という学名が与えられたが、後にパチーニの業績が見直され、コッホが発見した菌が既に30年前に発見されていたものと同じであることが明らかになり、分類学上の取り決めに従って、先に名付けられた''V. cholerae''が優先され、正式な学名になった。
 
このコッホの発見に対して、[[マックス・フォン・ペッテンコーファー]]([[:en:Max Joseph von Pettenkofer|Max von Pettenkofer]])など細菌病原体説を支持しない立場の研究者が反論し、コレラ菌を自ら飲む[[自己実験|自飲実験]]による検証を行った。一連の実験結果は十分な再現性を示さなかったものの、最終的にはコレラ菌がコレラの病原菌であることは、多くの科学者や医者に認められることとなった。
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その後、コレラ菌について生化学的、血清学的な研究が進められ、実際にコレラを起こすのは、コレラ菌に分類される菌の一部であることが判明した。流行の原因になったコレラ菌はいずれもコレラ毒素を産生するという特徴を持っており、いずれも血清学上でO1と呼ばれるグループに属するものであったため、コレラ菌は、コレラを起こすO1コレラ菌と、コレラを起こさない非O1コレラ菌(NAGビブリオとも呼ばれる)の2つに大別して考えられるようになった。しかしさらにその後、この考えを単純にあてはめることができない事例が複数発生し、コレラ菌に対する考え方はある種の混乱を含んだまま、変遷を遂げている。
 
[[1961年]]にインドで発生して第7次パンデミックを起こしたコレラ菌は、溶血性を持つなどの点で従来のものと異なる生物学的特徴を示した。そこで、従来のO1コレラ菌を'''古典型'''あるいはアジア型、新しく流行したタイプのO1コレラ菌を'''エルトール型'''(この菌は[[1905年]]にエジプトの[[エルトール、[[:en:El-Tor|El-Tor]]で最初に発見されていた)として、異なる生物的特徴を示す型(生物型、biovar)として区別することになった。このエルトール型による大流行は2005年現在も継続中である。
 
さらに、これまですべてがコレラ毒素を産生すると考えられていたO1コレラ菌の中に、わずかではあるがコレラ毒素を産生しないものがいることが明らかになり、このような菌による感染症はコレラとして扱われないこととされた。