「白血病」の版間の差分

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Jade0416 (会話 | 投稿記録)
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白血病の治療では骨髄移植が知られているが、[[骨髄移植]]や臍帯血移植などの[[造血幹細胞移植]]療法は過酷な治療であり治療そのものが死亡原因になる治療関連死も少なくはない。また寛解に入っていない非寛解期に移植をしても失敗する可能性は高い。その為に白血病の診断がついてもいきなり移植に入ることは無く、まずは抗がん剤による治療になり、その後は経過や予後不良因子によって移植の検討がされる<ref group="註">寛解に入っていない非寛解期に移植をしても失敗する可能性は高いためにまずは寛解にもっていく必要がある。一旦寛解したのち運悪く再発してしまった後に再度の抗がん剤治療で寛解導入した第2寛解期での移植での5年生存率は58.9%再々発後の第3寛解期での5年生存率は38.6%と早い寛解期での移植の方が5年生存率は高い。なので最初から再発する可能性が高いと予想される高リスク(予後不良)群ではなるべく早い寛解期、状況によっては第一寛解期(最初の寛解で再発はまだしていない)期に移植を推奨されることがある。予後が良いと予想される低リスク(予後良好)群では第一寛解期からの地固め療法でそのまま治癒になる可能性が高く、過酷でリスクの高い移植治療を無理に選択する必要は無い。尚、白血病細胞の治療抵抗性が高く寛解に至らない非寛解期での移植では5年生存率は22.4%と高くは無い-押味『カラーテキスト血液病学』p.321-尚最初から治療抵抗性で寛解に持って行けない難治性のAMLでは移植が唯一長期生存が期待できる方法である。前述では22.4%という数字をあげたが資料によってだいぶ数字は異なり、寛解導入に失敗しても移植によって15-40%の患者は長期生存が可能であるともされる。-豊嶋『造血幹細胞移植』p.169</ref>。
 
※寛解とは白血病細胞が減少し症状がなくなった状態、完全寛解とは白血病細胞が見つからなくなった状態である。完全寛解には顕微鏡観察で白血病細胞が見つからない血液学的寛解と顕微鏡観察より鋭敏な分子学的捜索で白血病細胞が見つからなくなった分子学的完全寛解がある。症状が出てAMLと診断された時点では患者の体内には10<sup>12</sub>個(一兆個)もの白血病細胞があるが、血液学的完全寛解では10<sup>9</sub>個(10(10億個)以下、分子学的完全寛解では10<sup>6</sub>個(100(100万個)以下になる。血液細胞の数は骨髄内の有核細胞だけでも数千億個はあるので100万個の白血病細胞といえど容易に見つかるものではない<ref>[http://ganjoho.jp/public/cancer/data/AML.html 国立がん研究センター・急性骨髄性白血病</ref>。
 
治療の結果、もっとも鋭敏な検査法でも白血病細胞が見つからない完全寛解になっても白血病が再発することがあるのは、骨髄の奥深く[[造血幹細胞ニッチ|ニッチ]]環境で休眠状態の白血病幹細胞が抗がん剤に耐えて生き延びるためである。再発した白血病細胞は抗がん剤治療をくぐり抜けてきた細胞であるため非常に治療抵抗性が強く通常量の抗がん剤療法、放射線とも効きにくいため命を落とす確率が高く、そのため再発した白血病あるいは経験的に最初から化学療法の抵抗性を持ち再発が予想されるタイプの白血病では、もっとも強力な治療である骨髄移植や臍帯血移植などの[[造血幹細胞移植]]が適用となることが多い<ref name="小川p58-60">小川 『内科学書』pp.58-60</ref><ref name="阿部p37-43">阿部『造血器腫瘍アトラス』pp.37-43</ref><ref name="鶴尾p82-89">鶴尾『がんの分子標的治療』pp.82-89</ref><ref name="木崎p107-109">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』pp.107-109</ref>。
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過去には白血病は死の病であったが、[[1980年代]]以降、化学療法および造血幹細胞移植が発達し、治療成績は向上しつつある。しかし、依然として急性白血病では死亡率が4割近いなど重篤な疾患であることに変わりはないために、副作用も強い強力な治療が求められる。そのため特に高齢者の患者においては治療が困難な場合も多い。なお、化学療法に関しては、[[制吐剤]]が改良されたため、施行中の[[クオリティ・オブ・ライフ]] (QOL) は改善されている。
===急性骨髄性白血病の治療===
現在の急性白血病の基本の治療法はtotal cell kill(TCLkill (TCL) と言って、最初に抗がん剤を使用して膨大な白血病細胞を減らして骨髄に正常な造血細胞が増殖できるスペースを与え(初回寛解導入療法)、その後の休薬期間に空いた骨髄で正常な造血細胞が増えるのを待ってから、さらに間歇的に抗がん剤を使用すること(地固めおよび強化療法・維持療法)を繰り返して最終的に白血病細胞の根絶を目指す治療を基本とする。
 
急性骨髄性白血病では寛解導入剤として アントラサイクリン(ダウノルビシン)あるいは イダルビシン 3日間 と シタラビン(キロサイド) 7)7日間の併用療法が一般的である(急性前骨髄球性白血病 (AML-M3) は例外である、AML-M3については後に記す)。これでほとんどの患者では寛解にもっていける。しかし、血液学的に白血病細胞が見られなくなっても白血病の大本である白血病幹細胞は隠れて存在し、そのままでは再発するので、隠れた白血病幹細胞の根絶を目指す地固め療法を行う。地固め療法は アントラサイクリン, シタラビンに加え, エトポシドやビンカアルカロイドを加えた併用化学療法, あるいはシタラビン大量療法を行う。完全寛解の状態が5年続けば再発の可能性は低く治癒とみなしてよいとされているが、治癒を得るには、血液学的完全寛解では不十分であり、寛解後療法(地固め療法)と呼ばれる化学療法を継続して分子学的完全寛解まで到達することが必要である。<ref name="小川p113-114">小川 『内科学書』pp.113-114</ref><ref name="杉本p.1655">杉本 『内科学』p.1655</ref><ref name="国立がん研究センター・白血病">[http://ganjoho.ncc.go.jp/public/cancer/data/leukemia_basis.html 国立がん研究センター・白血病]2011.7.23閲覧</ref>。
 
急性白血病では、急性前骨髄球性白血病 (AML-M3) のみ治療法はまったく異なりオールトランスレチノイン酸(ATRA) (ATRA) による分化誘導療法と抗がん剤の併用療法が用いられる。オールトランスレチノイン酸を与えると、分化障害を持っていた急性前骨髄球性白血病細胞はATRAによって強制的に分化・誘導させられ、継続的に白血病を維持する能力を失ってしまうのである。この薬剤の登場により, M3はAMLのなかで最も予後良好な群となった。<ref group="註">急性前骨髄球性白血病 (AML-M3) のオールトランスレチノイン酸治療中にはレチノイン酸症候群と呼ばれる急激な白血球増加と[[急性呼吸窮迫症候群|ARDS]]様の呼吸不全が生じることがある、またATRA単剤では耐性を持ちやすい。それらの予防として抗がん剤[[アントラサイクリン]]を併用する。不幸にも[[レチノイン酸症候群]]が発症してしまった場合は[[副腎皮質ホルモン]]を投与する。-阿部『造血器腫瘍アトラス』p.465- なお、ATRA治療中は、絶対に[[トラネキサム酸]]を投与してはいけない[http://www.3nai.jp/weblog/entry/22519.html 金沢大学血液内科・急性前骨髄球性白血病(APL) (APL) とDIC:ATRA、アネキシンII]。また、ATRA単剤では白血病細胞数が多い症例では寛解を得にくいが、抗がん剤を併用して細胞数を減らしながらATRAを使用すると高い完全寛解率を得ることができる。-大野「急性前骨髄性白血病」</ref>。ATRA治療後に急性前骨髄球性白血病(AML-M3)が再発してしまった場合には、機序は違うが、やはり細胞を分化誘導とアポトーシスに招く[[亜ヒ酸]]が著効することが知られている<ref name="愛知県がんセンター・急性前骨髄球性白血病 ">[http://akimichi.homeunix.net/~emile/aki/html/medical/hematology/node73.html#SECTION06111000000000000000 愛知県がんセンター・急性前骨髄球性白血病]</ref><ref>[http://www.midb.jp/blood_db/db.php?module=case&id=553 国立九州がんセンター・15;17転座急性前骨髄球性白血病 (AML-M3) ]</ref><ref name="白血病の最新治療">[http://medical.radionikkei.jp/Jshp/final/pdf/080225.pdf 白血病の最新治療]2011.06.17閲覧</ref>。
===急性リンパ性白血病の治療===
急性リンパ性白血病では白血病細胞は[[副腎皮質ホルモン|プレゾニゾロン]]に良く反応し数を減らし、またAMLに比べて使用できる薬剤は多いが、治療の基本的な考え方は急性骨髄性白血病と同じである。
 
急性リンパ性白血病の寛解導入(初回の治療)ではビンクリスチン(VCR(VCR 商品名オンコビン)とプレゾニゾロン(プレドニン)及びアントラサイクリン系抗がん剤の組み合わせを基本とし、それにシクロホスファミド(エンドキサン)やL-アスパラキナーゼ(ロイナーゼ)などを加えることもある。どのプロトコール(薬剤の組み合わせや各薬剤の投薬量・投薬スケジュール)が良いかは一概には言えず、標準治療は存在しない<ref name="木崎p153">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』pp.153</ref>(上にあげた薬剤でプレゾニゾロンは抗がん剤ではない。ステロイドである)
 
寛解導入後に行われる地固め療法も様々なプロトコールがあるが、寛解導入とは組み合わせを変えるのが基本となる。なるべく多種類の薬剤を使用したり、シタラビン(キロサイド)大量療法などがある<ref name="木崎p153"/>。
 
小児ALLでは化学療法だけで長期生存する確率が高いので第一寛解期で移植を検討することは少ないが、しかし、成人のALLでは再発率が高いのでAMLに比べると第一寛解期での移植を検討することは多い<ref name="木崎p162-163">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』pp.162-163</ref>。移植を行わない場合はその後も数年の維持療法(主に経口抗がん剤)を続け再発の可能性を下げる<ref name="木崎p153"/>。
 
===慢性骨髄性白血病の治療===
慢性骨髄性白血病については従来はインターフェロンが一部には有効ではあったが、インターフェロンが効かない場合は移植治療以外には、単に延命を計るだけの治療しかなかった。しかし、2001年分子標的薬[[グリベック]]の登場で様相が一変した。グリベックは慢性骨髄性白血病は遺伝子変異によって作られた異常なBcr-Abl融合タンパク(自己リン酸化して常に活性化しシグナル伝達を行う基質をリン酸化し、それはさらに下流の細胞の分裂を促す細胞内シグナル伝達系を活性化させていく酵素(チロシンキナーゼ)でこのため、白血病細胞は自律的に増殖する<ref>黒田 「慢性骨髄性白血病の細胞死の抑制」</ref>)が異常な細胞分裂を促すシグナルを伝達をするのを阻害する薬で、活動している慢性骨髄性白血病細胞にのみに的を絞って攻撃し、正常な細胞は攻撃しないので副作用の少ない画期的な抗がん剤である。慢性骨髄性白血病のBcr-Abl遺伝子変異にも様々なサブタイプ(変異体)があり、中にはグリベックが効かないBcr-Abl変異体もがあるが、同様な分子標的薬が次々に開発され、Bcr-AblタンパクT315I変異体という治療抵抗性の強いサブタイプの1つを除いては慢性期のCMLはほぼ押さえ込むことができるようになっている(ただし、分子標的薬は休眠している白血病幹細胞には届かないため、病気を抑えることはできても、治癒は必ずしも望めない。また付加的な遺伝子異常がおきてしまい急性期に移行した場合には分子標的薬も有効とも限らず移植医療が適用になることが多い)<ref name="アトラスp.37-43">阿部『造血器腫瘍アトラス』pp.37-43</ref><ref name="押味p24-27">押味『WHO分類第4版による白血病・リンパ系腫瘍の病態学』pp.24-27</ref><ref name="薄井「白血病幹細胞を標的とする薬剤開発」">薄井「白血病幹細胞を標的とする薬剤開発」</ref><ref name="鶴尾p82-89"/>。
 
===慢性リンパ性白血病の治療===
狭義の慢性リンパ性白血病は進行が緩慢で無治療でも天寿を全うすることが出来る患者も少なくなく[[病期]]によって治療手段が違い、リンパ球の増加のみで症状がなく安定している場合は治療によって生命予後が改善されるとは限らない<ref name="木崎p445-448">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』pp.445-448</ref>。そのため状態がリンパ球の増加のみであるならば無治療で経過観察を行い、病期が進み、リンパ節腫大や脾肝腫、貧血、血小板減少などがあらわれてくると治療の対象になる<ref name="小川pp.127-128">小川『内科学書』pp.127-128</ref>。近年では狭義の慢性リンパ性白血病には進行のゆっくりで無治療でよい群と進行が早く治療の必要な群の2群があることが判明しつつあり、遺伝子研究が進んでいる<ref name="木崎p445-446">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』pp.445-446</ref>。National Cancer Insititute-sponcered Working Groupのガイドラインによれば(1)6ヶ月以内に10%以上の体重減少、強い倦怠感、盗汗、発熱などの症状(2)貧血や血小板減少(3)著しい脾腫、リンパ節腫大(4)リンパ球数が2ヶ月の間に50%あるいは6ヶ月で2倍の増加、以上の(1)-(4)のどれかが認められた場合に治療を開始するとされている<ref name="木崎p447">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』p.447</ref>。治療は以前にはシクロフォスファミドが使われていたが、現在ではフルダラビン単剤、もしくはフルダラビンとシクロフォスファミドの併用が標準であり、リツキシマブの併用も有効性が認められている<ref name="小川pp.127-128"/><ref name="木崎p448-449">木崎『白血病・リンパ腫・骨髄腫 : 今日の診断と治療』pp.448-449</ref>。ただし、治癒は望めず治療の目的は病勢のコントロールと生存期間の延長を図ることである<ref name="木崎p448-449"/>。