「タンムーズ」の版間の差分

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いずれにせよ、[[イナンナ]]と羊飼いドゥムジッドとの恋愛模様に関係した多くの牧歌的な詩と歌が残っている。1963年に復元されたテクストには「イナンナとドゥムジの求婚」が優しくも率直な言葉でエロチックに詳述されている。
 
イナンナ(アッカドではイシュタル)が姉妹[[エレシュキガル]]の支配する地下世界であるクル(Kur)に向かった時、そこを自分のものであると考えたであろう。イナンナ/イシュタルは七つの門を通ったが、一つの門を通る毎に装身具を一つずつおいて行く必要があった。その結果七番目の門を通過した後は全裸になっていた。僭越なことをし過ぎるなという忠告にもかかわらず、イナンナ/イシュタルは振り向くことなくエレシュキガルの王座に腰を下ろしてみせたのである。とたんに、冥界の[[アヌンナキ]]の裁きが下り、死をもたらす両眼で彼女を見つめた所、イナンナ/イシュタルは鈎にぶらさがる死体と化した。すると、イナンナ/イシュタルの死によって動物や人間からは生殖機能や活気が失われた。アッカドの文書では、冥界でエレキシュガルの宮殿に連れられたイナンナ/イシュタルが彼女の策略によって
60の悪霊に襲われて全身が病に侵され、同様に地上の動物や人間から生殖機能や活気が失われた。
 
イナンナの忠実な召し使いは他の神々に助けを求めたが、応えたのは賢神[[エンキ (メソポタミア神話)|エンキ]]/[[エア (メソポタミア神話)|エア]]のみであった。エンキとエアでは生き残らせる二つの神に違いがあるが、イナンナ/イシュタルの復活という目標は共通していた。エンキ/エアは自身の爪の垢から作り出した従者・クルガルラとガラトゥルをクルに送り込み、イナンナ/イシュタルに生命の食物と生命の水を与えて蘇らせた。アッカドの文書ではエンキ/エアが送り込んだ従者は自身の想像から作り出した従者・アスシュミナルを送り込み、イナンナ/イシュタルを同様に助けた。ところが、「魂の保存則」によって、クルにイナンナ/イシュタルの身代わりとして残す誰かを探さなければならなかった。彼女は神々ひとりひとりに当たったが、助命を嘆願する神々を強引に身代わりにする程彼女は冷酷ではなかった。そこで見たのが、彼女の王座に居座り、立派な衣服を着て宴会に興じるドゥムジ/タンムズの姿であった。恋女房であったはずなのに、彼は明らかに彼女に消えて欲しくてたまらなさそうだった。俄然イナンナ/イシュタルは彼に死神(demons)をおしつけた。ここでアッカドの文書はタンムズの姉妹ベリリ(Belili)を導入しようとして失敗している。彼女はタンムズの死を嘆いて身に付けた宝石を外し、タンムズ他死者の復活を求める者として、ここで初めて紹介される。
 
ここには混乱が見られる。シュメールの文書の一つにベリリの名前が現われるが、そこではドゥムジの姉妹はゲシュティンアンナ(Geshtinana)という名前になっており、他の老女の名前として用いられている。この老女は他の文書ではビルル(Bilulu)と呼ばれている。
 
ともかく、シュメールの文書は、ドゥムジがゲシュティマナの下に逃れた事、彼女はドゥムジを匿おうとしたが、結局は死神に対抗し切れなかったことを記述している。死神は次々にドゥムジの所に現れ、老女ビルルまたはベリリの協力を得たと思しくついには彼を捕まえ、冥界に連行する。ところがイナンナはそれを後悔するようになっていたのである。
 
イナンナはビルルと殺しにたずさわったその息子ギアギラ(G̃irg̃ire)及びギアギラの伴侶シッル(Shirru)(「呪われた沙漠の者、誰の子でもなく、誰の友でもない」)に対する復讐の機会を伺った。イナンナはビルルを皮製の水入れに、ギアギラを沙漠の守り神にし、シッルは沙漠の脅威が及ばないように、然るべき儀式が常に執り行われているか見張ることとなった。
 
結局、イナンナは不憫に思い、決意を曲げることにした。夫ドゥムジを生き返らせることにしたのである。一年の内6ヶ月はドゥムジの代わりにゲシュティンアンナがクルにいることになった。なお、アッカドの文書におけるドゥムジ/タンムズはイナンナ/イシュタルの蘇生に奔走し、最後には自らが率先して冥界に赴いている
 
ドゥムジ/タンムズが植物の周期の神であるのは、季節の変化と地上から彼が消えることとが関連づけられたからである。即ち、[[死と再生の神]]の一柱である。