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== 概要 ==
東ゲルマン語群はいずれも[[死語]]となったが、唯一ゴート語のみは[[写本 Codex]]([[コデックス]]) として言語学的資料が残っている。特に、4世紀に書かれたゴート語翻訳版[[聖書]]が有名である。他の東ゲルマン語族の言語としては[[ヴァンダル語]] ([[:en:Vandalic language|en]]) や[[ブルグンド語]] ([[:en:Burgundian language|en]]) があるが、いずれも言語名と固有名詞などが残っているに過ぎない。
 
ゴート語はインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属するしておりもっとその内で最も古いゲルマン語派の言語であるが、直系の子孫言語を持っておらず、前述のとおり死語となった。現存する最も古いゴート語の書物は前述の4世紀のものである。ゴート語は6世紀中頃に衰退した。理由としては、
*ゴート族が[[フランク人]]に敗北した
*イタリアからゴート語が排除された
*ゴート語話者が主に[[ラテン語]]を使用する[[カトリック教会|ローマ・カトリック]]へ改宗した
という点が挙げられる。また、イベリア半島(現在の[[スペイン]]と[[ポルトガル]])で8世紀ごろまで使われた。フランク人の詩人・神学者[[ワラフリード・ストラボ]]が書き残したものによれば、ドナウ川下流地域、及び地域的に隔絶された[[クリミア半島]]山岳地帯に、9世紀中頃まで残っていたとのことである。それ以降(9世紀後期以後)に発見されたゴート語に見える文書・碑文は、ゴート語ではない可能性がある。
 
このように、死語でありながらも初期の文書が残っており、[[比較言語学]]の見地からは研究材料として極めて興味深い言語である。
 
* 最も規模の大きい保存文書群は、[[アリウス派]]の教父[[ウルフィラ]](Ulfilas または Wulfila, 311-382年)によって書かれた聖書と、その写本である(以下、ウルフィラ版聖書と記述)。ウルフィラは、[[ローマ帝国]]の行政区[[モエシア]](現在の[[ブルガリア]]と[[セルビア]]の一部)の[[西ゴート族]][[キリスト教徒]]コミュニティの指導者であった。彼は[[ギリシア語]]の[[七十人訳聖書]]を元に、ゴート語に翻訳する取りまとめを行った。このうち、[[新約聖書]]の約4分の3と、[[旧約聖書]]の若干の断片が遺っている。
:* '''銀泥写本'''([[:en:Codex Argenteus|en]])または銀文字写本(Codex Argenteus) および'''シュパイアー断片'''(Speyer fragment):188葉
** '''銀泥写本'''(または銀文字写本)Codex Argenteus(および'''シュパイアー断片''' Speyer fragment):188葉 - 銀泥写本 ([[:en:Codex Argenteus|en]]) は、最も保存状態の良いゴート語の写本。6世紀に北イタリアの[[東ゴート族]]に送られ、保存されていたもの。四[[福音書]]の大部分を含む。ギリシア語から翻訳されたものであるため、ギリシア語の[[借用語]]と語法が多数含まれている。[[文法|構文]]は、しばしば部分的にはしばしばギリシア語からそのまま転用されている。
** '''アンブロジウス写本'''([[ミラノ]])Codex Ambrosianus (Milan)(および'''タウリネンシス写本''' Codex Taurinensis):5分冊、合計193葉 - アンブロジウス写本は、新約聖書(福音書と書簡の一部を含む)と旧約聖書([[ネヘミヤ記]])、およびSkeireins(ゴート語による解説)として知られる注解からなる。テクストの一部が写字生によって幾分か修正された可能性があり得る。
:* '''アンブロシアヌス写本'''(Codex Ambrosianus)および'''タウリネンシス写本'''(Codex Taurinensis):5分冊、合計193葉
** '''ギーセン写本'''([[ギーセン]])Codex Gissensis (Gießen):1葉 - [[ルカによる福音書|ルカ福音書]]23-24の断片。1907年に[[エジプト]]で発見されたが、1945年に水害で破損した。
** '''アンブロジウス写本'''([[ミラノ]])Codex Ambrosianus (Milan)(および'''タウリネンシス写本''' Codex Taurinensis):5分冊、合計193葉 - アンブロジウス写本は、::新約聖書(福音書と書簡の一部を含む)と旧約聖書([[ネヘミヤ記]])、およびSkeireins(ゴート語による解説)として知られる注解からなる。テクストの一部が写字生によって幾分か修正された可能性があり得る。
** '''カール写本'''(ヴォルフェンビュッテル)Codex Carolinus (Wolfenbüttel):4葉 - [[ローマの信徒への手紙|ローマ書]]11-15の断片。
:* '''ギーセン写本'''(Codex Gissensis):1葉
** '''バチカン・ラティヌス写本5750''' Codex vaticanus Latinus 5750:3葉 - Skeireinsの57-58ページ、59-60ページ、61-62ページ。
** '''ギーセン写本'''([[ギーセン]])Codex Gissensis (Gießen):1葉 - ::[[ルカによる福音書|ルカ福音書]]23-24の断片。1907年に[[エジプト]]で発見されたが、1945年に水害で破損した。
:* '''カール写本'''(Codex Carolinus) :4葉
::[[ローマの信徒への手紙|ローマ書]]11-15の断片。
*:* '''バチカン・ラティヌス写本5750''' (Codex vaticanus Latinus 5750:35750):3 - Skeireinsの57-58ページ、59-60ページ、61-62ページ。
::Skeireinsの57-58ページ、59-60ページ、61-62ページ。
* 少数の古文書:アルファベット、カレンダー、いくつかの文書で見つかる語彙注記。また、実体はゴート語であると思われる[[ルーン文字]]のいくつかの碑文。一部の学者は、これらの碑文のすべてがゴート語であるとは考えていない(Braune/Ebbinghaus "Gotische Grammatik" Tübingen 1981)。
* 用語集:16世紀のフランドルの外交官で、[[クリミア半島]]に住んだオジエ・デ・ビュスベク ([[:en:Ogier Ghiselin de Busbecq|Ogier Ghiselin de Busbecq]])により[[トルコ語]]で編集された、数十語の用語集。これらの用語は記述時点から約1世紀前のものであり、ウルフィラ時代のゴート語ではなく、クリミア・ゴート語に関連がある。
[[アリウス派]]の異端弾圧に伴う根絶運動があったため、ゴート語の多くのテクストはおそらく削られて、元の字句を消した上で他の言語で上書きされたか、あるいは[[焚書]]されたものと考えられている。聖書はその対象とはならなかったため、ゴート語の相当長いテクスト Skeireins として残されている。これは[[ヨハネによる福音書|ヨハネ福音書]]とその解説を含んでいる。
 
ゴート語の極めて希少な二次史料が8世紀後頃にあるが、おそらくその時代にはゴート語は使われなくなっていた。中世とゴート族に言及するテクストを評価する際には、多くの著者が東部ヨーロッパにおけるどんなゲルマン語族類も「ゴート語」として扱った可能性に注意する必要がある。これは当時のラテン系国家におけるゲルマン語への理解不足があによる。ゴート語の聖書からは、当時の人々の多くの人々がゴート語を使っていた訳ではないことが伺える。一部の著者は、スラヴ語派を話す人々さえゴート族として言及している。
 
[[クリミアゴート語|クリミア・ゴート語]]とウルフィラのゴート語との関係は不透明である。16世紀以降のクリミアゴート語の語彙の断片は、聖書のゴート語と有意な差が見られる。しかし、いくつかの語彙、たとえば "ada"(卵)のような言葉は引き継がれている。
{| border="0" cellpadding="10" cellspacing="10"
|-
| 単母音<br />[[Image:Phon_gotique2.pngsvg|200px]]
| 重母音<br />[[Image:Phon_gotique3.pngsvg|200px]]
|}
 
/a/ ・/i/・/u/には、いずれも短音と長音がある。ゴート語の書法では、/i/のみについて短音長音別する。''i'' と書いた場合には短音に、''ei'' と書いた場合には長音になる([[二重音字]])が、これはギリシア語の{{lang|el|ει}} = {{IPA|iː}}の借用である。単母音は、歴史的には鼻子音が/h/の前に来た時に、しばしば長音になる([[代償延長]])。たとえば、動詞 briggan {{IPA|briŋgan}}(「持ってくる」英:bring 独:bringen)は、[[過去形]]では brahta {{IPA|braːxta}}(「持ってきた」英:brought 独:brachte)となるが、これは[[ゲルマン祖語]] *braŋk-dē が元である。発音表記を意図した詳細な字訳においては、長音記号が用いられ、brāhta([[マクロン]])または brâhta([[サーカムフレックス]])という表記になる(マクロンを用いる方が望ましい)。[uː]はしばしば他のコンテクストで見受けられる。例)brūks「便利な」(独:Gebrauch 瑞:bruk「使い方」)。
 
/eː/と/oː/は長い[[半狭母音]]である。これらはそのままe・oと書かれる。例)neƕ {{IPA|neːʍ}}(「近い」 英:nigh 独:nah「近い」)、fodjan {{IPA|foːdjan}}(英:to feed「養う」)。
 
/ɛ/と/ɔ/は短い[[半広母音]]である。これらは二重音字でai・auと書かれる。例)taihun {{IPA|tɛhun}}(「10」 英:ten 独:zehn 「10」):zehn)、dauhtar {{IPA|dɔxtar}}(「娘」 英:daughter 独:Tochter)。ゴート語を字訳する際には、これらの二重音字のアクセントは、元のai・auと区別するために、2番目の母音aí・aúに置かれる。多くの場合、短音の{{IPA|ɛ}}・{{IPA|ɔ}}は{{IPA|r, h, ʍ}}の前の/i, u/の異音となる。さらに、畳音を持つ過去時制の二重音節ではaiがよく使われるが、これはおそらく短音の{{IPA|ɛ}}で発音される。最後に、{{IPA|ɛ}}と{{IPA|ɔ}}はギリシア語と[[ラテン語]]からの借用語によく現れる。例)aípiskaúpus {{IPA|ɛpiskɔpus}}({{lang|el|ἐπίσκοπος}}「僧正」)、laíktjo {{IPA|lɛktjoː}}(英:lectio「司教」)、Paúntius {{IPA|pɔntius}}(英:Pontius「ポンティウス」)など。
 
ゲルマン祖語の二重母音ai・auは、ゴート語ではそのままai・auとして現れる。(通常この二重母音は、最初の母音字にアクセント符号を付けることでゲルマン祖語i/e, uが元になったai・auとは区別する)。一部の研究者は、{{IPA|ai}}または{{IPA|au}}が二重母音のまま発音されたと考えている。他の研究者は、これらが長い[[半広母音]]{{IPA|ɛː}}・{{IPA|ɔː}}として発音されたと考えられている。たとえばains {{IPA|ains}} / {{IPA|ɛːns}}(英:one 独:eins「一つ」)、augo {{IPA|auγoː}}または{{IPA|ɔːγoː}}(英:eye 独:Auge「眼」)。ラテン語起源のゴート語名称においては、ゲルマン語のauは4世紀までにoとなり、後にouとなった(Austrogoti → Ostrogoti)。長音{{IPA|/ɛː/}}及び{{IPA|/ɔː/}}は、特に後ろに母音が来る場合、異音/eː/及び/uː/, /oː/となる。例)waian {{IPA|wɛːan}}(英:to blow 独:wehen「~に吹く」)、bauan {{IPA|bɔːan}}(英:to build 独:bauen「生きる」、瑞:bo「~に建てる」)、ギリシャ語の借用語Trauada 「トロイア人」(希:{{lang|el|Τρῳάς}})。
 
/y/はギリシア語の借用語でのみ使用され、ドイツ語''ü''やフランス語の''u''に等しい。この音は、母音の中ではwで転写される。例えばazwmus {{IPA|azymus}}([[マッツァー|無酵母パン]]、英:unleavened bread 希:{{lang|el|ἄζυμος}})。ギリシア語では{{lang|el|υ}} (y)または二重母音{{lang|el|οι}} (oi) に相当するが、どちらもその時期のギリシア語では{{IPA|y}}で発音された。しかし、この音はゴート語とは合わなかったため、{{IPA|i}}で発音された可能性が高い。
 
/iu/は下降二重母音である。すなわち{{IPA|iu̯}}であり、{{IPA|i̯u}}ではない。例)diups {{IPA|diu̯ps}}(英:deep 独:tief 瑞:djup「深い」)。
|-
![[破裂音]]
| ''p'' {{IPA|p}}
| ''b'' {{IPA|b}}
|colspan=2| &nbsp;
| ''t'' {{IPA|t}}
| ''d'' {{IPA|d}}
|&nbspbsp;
| ''?ddj'' {{IPA|ɟ:}}
| ''k'' {{IPA|k}}
| ''g'' {{IPA|g}}
| ''q'' {{IPA|kʷ}}
| ''gw'' {{IPA|gʷ}}
|&nbsp;
|-
![[摩擦音]]
| ''f'' {{IPA|ɸ}},{{IPA|f}}
| ''b'' {{IPA|β}}
| ''þ'' {{IPA|θ}}
| ''d'' {{IPA|ð}}
| ''s'' {{IPA|s}}
| ''z'' {{IPA|z}}
|colspan=2|&nbsp;
| ''g, h'' {{IPA|x}}
| ''g'' {{IPA|ɣ}}
| ''ƕ'' {{IPA|ʍ}}
|&nbsp;
| ''h'' {{IPA|h}}
|-
![[接近音]]
|colspan=2| &nbsp;
|&nbsp;
| ''j'' {{IPA|j}}
|colspan=2|&nbsp;
|&nbsp;
| ''w'' {{IPA|w}}
|&nbsp;
|-
![[鼻音]]
|&nbsp;
| ''n'' {{IPA|m}}
|colspan=2| &nbsp;
|&nbsp;
| ''n'' {{IPA|n}}
|colspan=2|&nbsp;
|&nbsp;
| ''g, n'' {{IPA|ŋ}}
|colspan=2|&nbsp;
|&nbsp;
|colspan=2| &nbsp;
|&nbsp;
| ''l'' {{IPA|l}}
|colspan=2|&nbsp;
|colspan=2|&nbsp;
|colspan=2| &nbsp;
|&nbsp;
| ''r'' {{IPA|r}}
|colspan=2|&nbsp;
|colspan=2|&nbsp;
|}
 
一般に、ゴート語の子音は語尾[[無声音]]となる。ゴート語は豊富な摩擦音は豊富であるを持つ(しかしながら、それらの多くは[[接近音]]にも近く、これらを弁別することは難しい)。弁別に関する推察は、ゲルマン語派の特徴に沿った形で、[[グリムの法則]]と[[ヴェルナーの法則]]が適用されている。ゴート語は、他のゲルマン語派と違って、R音声母音を通した{{IPA|r}}が現れない場合、{{IPA|z}}音を持つ。さらに、母音の間の二重子音は、ゴート語では単音長音か、倍音 (germination) が区別される。例)atta {{IPA|atːa}}(英:dad「父」)、kunnan {{IPA|kunːan}}(英:to know 「~を知る」独:können「~できる」瑞:kunna「知る」)。
 
=== 閉鎖音 ===
{{IPA|β}}・{{IPA|ð}}・{{IPA|γ}}は有声摩擦音で、母音の間にのみ見つかる。これらは{{IPA|b}}・{{IPA|d}}・{{IPA|g}}の異音であり、書かれる際には区別されていない。{{IPA|β}}はもっと安定した唇歯音の{{IPA|v}}になり得る(構音強化 [[:en:articulatory strengthening|en]])。これらの音素は通常、ゲルマン語派言語の研究に基づきƀ・đ・ǥと表記される。例)haban {{IPA|haβan}}(英:to have「~を持つ」)、þiuda {{IPA|θiu̯ða}}(英:people 古スカンジナビア語:þióð, 独:Deutsch→英:Dutch)、áugo {{IPA|auγoː}}(英:eye 独:Auge「目」)。
 
ƕ(hwまたはhvと転記される)は{{IPA|x}}に対応する唇口蓋音バリアントで、初期インド・ヨーロッパ語の{{IPA|kʷ}}から派生した。これはおそらく{{IPA|ʍ}}(無声の{{IPA|w}})発音され、これは英語の多くの方言における{{IPA|wh}}のよう発音され同じである。例)ƕan {{IPA|ʍan}}(英:when)、ƕar {{IPA|ʍar}}(英:where)、ƕeits {{IPA|ʍiːts}}(英:white)。
 
=== 鼻音、接近音、その他の音素 ===
ゴート語は3つの鼻子音をもつ(うち1つは異音である)。それらは[[相補分布]]([[:en:Complementary distribution|en]])だけで見ることができる。ゴート語の鼻音は、他の多くの言語と同じように、発音は同じ[[調音部位]]で行われるため、続く子音のどちらかと[[同化 (音声学)|同化]]する。その結果、たとえば{{IPA|md}}と{{IPA|mb}}のような語順は持ち得ない。
 
{{IPA|n}}・{{IPA|m}}は単語と[[最小対]](ミニマルペア)のどの位置にも現れうる。ただし、特定のコンテクストで中和される。{{IPA|n}}の前に[[両唇音]]がある場合の前の{{IPA|mn}}に、また{{IPA|m}}の前、また{[[歯音]]がある場合の前の{IPA|m}}は{{IPA|n}}に変化する。
 
{{IPA|ŋ}}はゴート語においては音素ではなく、位置も自由ではない。これは鼻子音が軟口蓋閉鎖音の前で中和される際に現れ、{{IPA|n}}・{{IPA|m}}とともに相補分布をなしている。ギリシア語の慣例で、これは通常g(時々n)と書かれた。þagkjan {{IPA|θaŋkjan}}(英:to think「考える」)、sigqan {{IPA|siŋkʷan}}(英:to sink「~を沈める」)、þankeiþ {{IPA|θaŋkiːθ}}(英:thinks「彼は考える」)。子音群ggwが意味するのは {{IPA|ŋgʷ}}・{{IPA|gʷː}}である(上述参照)。
{{IPA|l}}は英語や、多の欧州系言語のように使われる。laggs {{IPA|laŋks}}(英:long)、mel {{IPA|meːl}}(英:meal 独:Mahl「食事」)。
 
{{IPA|r}}は[[ふるえ音]]{{IPA|r}}、最終的に(あるいは[[はじき音]]{{IPA|ɾ}})である。raíhts {{IPA|rɛxts}}(英:right)、afar {{IPA|afar}}(英:after)。
 
共鳴音{{IPA|l}}・{{IPA|m}}・{{IPA|n}}・{{IPA|r}}は音節の核として、語尾の子音、または二つの子音の間で働く([[成節子音]])。これは現代英語でも見られる現象で、たとえばbottleの発音は、たいていの方言では{{IPA|bɒtl}}である。ゴート語でのいくつかの例)tagl {{IPA|taγl}}(英:tail 瑞:tagel)、máiþms {{IPA|mɛːθm̩s}}(英:gift)、táikns {{IPA|tɛːkn̩s}}(英:token 独:Zeichen 瑞:tecken)、tagr {{IPA|taγr}}(英:tear)。
 
=== 強調とイントネーション ===
ゴート語の[[アクセント]]は、[[グリムの法則]]と[[ヴェルナーの法則]]を用いて、音声比較学的に再建することができる。ゴート語は、初期インド・ヨーロッパと違い、高低アクセントよりむしろ[[強勢]]アクセントを用いた。たとえばある音節が弱いアクセントの時は、長母音{{IPA|eː}}・{{IPA|oː}}が短くなる、{{IPA|a}}・{{IPA|i}}が消失する、といった特徴がある。
 
他のゲルマン語派言語のように、インド・ヨーロッパ語族の自由に動くアクセントは、単純な語彙では第1音節に固定された(たとえば、現代英語では、第一音節にアクセントを持っていないほとんど全ての単語は、他言語からの借用語である)。単語が語形変化しても、アクセントは移動しない。大部分の複合語での強勢の位置は、2番目の語に依存する。
 
=== 名詞 ===
ゴート語は、現代ゲルマン語派(特に豊富なインド・ヨーロッパ語族の[[語形変化]]体系)に必ずしも残っていない、初期インド・ヨーロッパの特徴(特に豊富な[[屈折|語形変化]]体系)を有している。ゴート語は[[主格]]、[[対格]]、[[属格]]、[[与格]]の4つの[[格]]を持ち、時々主格と対格に同化することのあった[[呼格]]の痕跡もある。インド・ヨーロッパ語族に特徴的なまた[[性 (文法)|文法上の性]]が三つ全てはインド・ヨーロッパ祖語に存在した。通性(男性名詞と女性名詞が融合したもの)とは対照的に現代ドイツ語・[[アイスランド語]]、また[[オランダ語]]・[[デンマーク語]]・[[ノルウェー語]]・[[スウェーデン語]]にある程度見られる中性を含む。名詞と形容詞は単数・複数、二の語形変化全て伴う保った
 
東ゲルマン語族にもっとも顕著な特徴の一つとして弱い語容詞が弱変化(一般に、[[語幹]]がnで終わる場合)と、強い語形変化(語幹が母音で終わるか、[[代名詞]]を示す[[屈折接辞]]で終わる場合)に分けるを持つことができ挙げられる。この区分はゴート語において重要である。名詞が語形変化のひとつのクラスに属すことができる場合は、語幹の終わりに従属し、つかの形容詞は強弱どちらかの語形変化をすることができる。の意味で使用され的な[[指示詞]]が付属するまたは[[形容定冠詞]]、たえばsa, tata, soのようなともに使用される[[指示代名詞]]、または明確な[[冠形容詞]]は、弱い語形変化をとる。り、一方[[不定冠詞]]とともに使用される形容詞は強い語尾変化を持つ。
 
この規則は、形容詞の語形変化として、現代ドイツ語でいまだに見ることができる。
 
* 弱い語形変化: d'''er''' gute Wein (英:the good wine)
* 強い語形変化: gut'''er''' Wein (英:good wine), ein gut'''er''' Wein (英:a good wine)
 
ゴート語の記述形容詞(最上級を表す語尾-ist・-ost)と[[分詞#過去分詞|過去分詞]]はどちらも語形変化するを伴う。いくつかの代名詞は弱い語形変化を起こすのみである形しか持たない。例)sama(英:same)、比較級形容詞と現在分詞に相当する形容詞的な語 unƕeila(英:constantly、語幹はƕeila 英:timeだが、英:whileと比較される)。他の語また、例えばáins(英:some)などの形容詞い語形変化だけを起こす形しか持たない
 
下の表はゴート語のblind(英:blind)の語形変化について、弱い語形変化を起こすguma(英:man)と、強い語形変化を起こすdags(英:day)のそれぞれにとともにまとめたものである。
 
{| class="wikitable"
|-
! Case
! colspan="5" | 弱い語形変化
! colspan="5" | 強い語形変化
|-
! rowspan="2" | 単数
! 女性
|-
| '''主格''' || guma
| rowspan="4" align="right" valign="middle" | blind-
| -a || -o || -o || dags
|}
 
この表は完全なものではない。特に、ここには第二の抑揚、特に強い変化中性単数(a-stem neuter)や他のコンテクストにおいて不規則変化を起こす名詞が含まれていない。ゴート語が取りうる語尾の形式については、下記に示す。
 
* '''強い語形変化'''(strong declensions)
** 語幹が-a, -ja, -waで終わる(男性・中性):ラテン語とギリシア語の第二変化と等価(‑us / ‑iおよび{{lang|el|‑ος / ‑ου}})
** 語幹が-o, -jo, -woで終わる(女性):ラテン語とギリシア語の第一変化と等価(‑a / ‑æおよび{{lang|el|‑α / ‑ας(‑η / ‑ης)}})
** 語幹が-iで終わる(男性・女性):ラテン語とギリシア語の第三変化と等価(‑is (対格‑im)および{{lang|el|‑ις / ‑εως}})
** 語幹が-uで終わる(全ての性):ラテン語の第四格変化(‑us / ‑us)およびギリシア語の第三変化と等価({{lang|el|‑υς / ‑εως}})
* '''弱い語形変化'''(weak declensions、すべての語幹が-nで終わる)、ラテン語とギリシア語の第三変化と等価(‑o / ‑onisおよび{{lang|el|‑ων / ‑ονος}}または{{lang|el|‑ην / ‑ενος}})
** 語幹が-an, -jan, -wanで終わる(男性)
** 語幹が-on, -einで終わる(女性)
** 語幹が-nで終わる(中性):ラテン語とギリシア語の第三格変化と等価(‑men / ‑minisおよび{{lang|el|‑μα / ‑ματος}})
* '''小さい語形変化'''(minorminor declensions):declensions:語幹が-r, -ndで終わり、他の子音の語尾に痕跡がある場合。ラテン語とギリシア語の第三変化と等価。
 
ゴート語の形容詞は密接に名詞語形変化に続く。と関わり、これらは同じ種類の抑揚屈折を用いる。
 
=== 代名詞 ===
ゴート語はインド・ヨーロッパの代名詞完全な集合を引き継いでいる:[[人称代名詞]](各[[三人称]]のための[[再帰代名詞]]を含む)、[[所有代名詞]]、単純・複合それぞれの[[指示代名詞]]、関係代名詞、疑問詞、不定代名詞。他のインド・ヨーロッパ語族の言語のように、それぞれ特殊なパターンの抑揚に続く曲用を持つ(特に名詞の語形変化を反映する)。
 
特筆すべき一つの大きな特徴は、[[数 (文法)|双数]]の存在である。これは「二人」または二組の何かを表す際に用い、複数とは区別して使われた。従って、「我々のうち二人」と「我々」は、それぞれwitとweisと表記された。インド・ヨーロッパ語族(たとえば初期ギリシア語や[[サンスクリット]])は双数を文法の全ての範疇に応用するが、ゴート語では代名詞為だけに使っており、珍しいケースであみ存在する。
 
単純な指示代名詞sa(中性:tata 女性:so、インド・ヨーロッパ語族の語幹では *so, *seh<sub>2</sub>, *tod、同族のギリシア語では{{lang|el|ὁ, τό, ἡ}}、ラテン語ではis'''tud''')は冠詞として使うことができわれ、さらに「定冠詞+弱い形容詞+名詞」という構造を作ることができる。
 
疑問代名詞は全てƕ-で始まっているため、注目に値する。初期これはインド・ヨーロッパの子音*k<sup><small>w</small></sup>が起源であり、英語の多数の方言で疑問詞の始めに付くwh-も同類である。同じ起源のものは、多くのインド・ヨーロッパ語族の疑問に見られる。例)英:wh-、独:w- {{IPA|v}}、瑞:v-、ラ:qu-(これは現代のロマンス多くも残する)、希:{{lang|el|τ}}または{{lang|el|π}}(*k<sup><small>w</small></sup>の継承としてギリシア語独自のもの)、サンスクリット:k-、その他。...
 
=== 動詞 ===
ゴート語の大半の動詞は、インドヨーロッパ語族の動詞活用のうち幹母音型 ([[:en:Athematic|en]]) と呼ばれるタイプの語形変化に従う。幹母音型と呼ばれるのはこの型ではインド・ヨーロッパ祖語で*eまたは*oと再建される母音が語根と語尾のあいだに挿入されるためである。このパターンはラテン語とギリシア語にも存在する。
 
* ラテン語 leg-i-mus ("「我々は読む」"):語根"leg-"+幹母音"-i-"(<*e)+人称語尾"-mus"
* ゴート語 nim-a-m ("「我々は受け取る」"):語根"nim-"(独:nehmen)+幹母音"-a-"(*oから)+人称語尾"-m"
 
他にゴート語には、無幹母音型 ([[:en:Athematic|en]]) と呼ばれる動詞変化がある。これは語根に直接的に語尾が付くものであり、ギリシア語とラテン語同様ゴート語でも造語力はなく古い形式の化石としてしか存在しない。これが例証されるもっとも重要なものが[[Beコピュラ動詞|コピュラ]]で、ギリシア語、ラテン語、サンスクリット、ほか多数のインド・ヨーロッパ語でも無幹母音型変化である。
 
ゴート語の動詞は、名詞と形容詞のように、強変化型の動詞と弱変化型の動詞に分けられる。弱変化動詞は、接尾辞-daまたは-taを付けることによって過去形の特徴が付与され、並行して過去分詞に-þ / -tが伴う。強変化動詞は、語根の母音を置き換えることにより過去時制を表すか、語根の最初の子音を二重にするが、いずれにせよ接尾辞を加えることはない。同様のものはギリシア語とサンスクリット語の[[完了形|完了時制]]に見られる。この二分法は、現在のゲルマン語派言語にも残っている。
* 弱変化動詞 ("「持つ」")
* 強変化動詞 ("「与える」")
** ゴート語:haban, 過去形 habáida, 過去分詞 habáiþs
 
** 英語:(to) have, 過去形 had, 過去分詞 had
{| class="wikitable"
** ドイツ語:haben, 過去形 hatte, 過去分詞 (ge)habt
|-
** アイスランド語:hafa, 過去形 hafði, 過去分詞 haft
!||colspan=3|弱変化||colspan=2|強変化
* 強変化動詞 ("「与える」")
|-
** ゴート語:不定詞 giban, 過去形 gaf
** 英語:!||不定詞 (to) give, ||過去形 gave||不定詞||過去形||過去分詞
|-
** ドイツ語:不定詞 geben, 過去形 gab
|ゴート語||haban||habái'''da'''||habái'''þ'''s||g'''i'''ban||g'''a'''f
** アイスランド語:不定詞 gefa, 過去形 gaf
|-
|英語||(to) have||ha'''d'''||ha'''d'''||(to) g'''i'''ve||g'''a'''ve
|-
|ドイツ語||haben||hat'''te'''||(ge)hab'''t'''||g'''e'''ben||g'''a'''b
|-
|アイスランド語||hafa||haf'''di'''||haf'''t'''||g'''e'''fa||g'''a'''f
|}
 
ゴート語の動詞は、次のような形態を持つ。
* [[態]]:[[能動態]]と[[中動態]]
* [[数_(文法)|数]]:単数・双数・複数 (双数は3人称はない)
* [[時制]]:現在・過去
* [[法 (文法)|法]]:直説法、接続法(→形態上は希求法([[:en:Optative mood|en]])に由来)、命令法
* 現在不定詞、現在分詞、過去受動分詞
ただし、全ての時制と人称がすべての態と法を示すいう訳ではない。いくつかの動詞変化は助動詞を伴う。
 
最後に、''過去現在動詞''(preterit-present verb)と呼ばれるものがある。古いインド・ヨーロッパ諸語では現在時制として解釈し直された完了時制である。ゴート語のwáitは、インド・ヨーロッパ祖語の*woid-h<sub>2</sub>e(「見る」の完了時制)に相当し、これはサンスクリットでの同根語のvedaとギリシア語の{{lang|el|(Ϝ)οἶδα}}に一致する。双方とも、語源的には「私は見る」の完了を意味するが、実際には「私は知っている」という過去現在としての意味である。ラテン語はいくつかの同じ決まりを受け継いでいる。(例)nōuī(「私は知った」と「私は知っている」)。過去現在動詞は他にもaihan(「所有する」)やkunnan(「知っている」)などがある。
 
== 他のゲルマン言語との比較 ==
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