「美浦トレーニングセンター」の版間の差分

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他方、数多くの有力馬を抱える栗東の上位〜中位の厩舎ではクラシックや芝重賞路線で所属馬を使い分ける程の余裕があり、特に牡馬クラシック路線は3歳春シーズンまでのGI競走が全て関東圏で施行されることから関東圏の競走へ積極的に出走させるケースが多く、関東圏の2-3歳戦が関西馬の草刈場と化し出走枠のほとんどを関西馬に独占されるシーズンも見られる。中には関西馬なのに3歳春シーズンまで関東圏でしか出走したことが無い馬もいる<ref group="注釈">[[ウイニングチケット]]([[1993年]][[東京優駿]])、[[ドリームジャーニー]]([[2006年]][[朝日杯フューチュリティステークス]])など</ref>。もっとも顕著な例としては[[2006年]]春季の牡馬クラシック路線があり、関東馬からはさしたる有力馬も現れることなく、[[東京優駿|日本ダービー]]においても出走枠を関西馬に悉く占められ、出走馬18頭中の関東馬は8番人気の[[ジャリスコライト]]ただ1頭だけであった。
 
この様な相対的な競走馬のレベル低下・成績低迷・確保難により、関西馬に関東圏の重賞競走や上位クラスの特別競走での席巻を悉く許している状況下では当然ながらこれを原因とする東西間の厩舎関係者や騎手の収入格差も見られている。単に勝利数だけを見れば一時期よりも改善はされつつあるものの重賞などの高額賞金レースのほとんどを関西馬に占められ、当然ながら獲得賞金の差も埋まっていない。また、その他にも景気動向による経済的都合などによる個人・法人の馬主の馬主業自体からの撤退や、馬主から支払われる預託料の滞納の増加という問題もある。馬主減少や預託料滞納の問題は美浦やJRAに限ったものではなく競馬界全体に横たわる問題であるが、獲得賞金の低迷に苦しみ大手・中堅の馬主や愛馬会法人の逸走も目立つ美浦ではトレセン所属厩舍経営にとってより大きな打撃となっている。また、さらに根本的なところで管理馬の数やそれを預託する馬主とのコネクションの確保・維持をできず、馬房の「空き」の発生に悩む調教師も多い。逆に栗東トレセンの上位厩舎にあっては、預託依頼や管理馬の出走予定が飽和状態となり、下級条件馬では「馬房が回ってこない」つまり、健康状態に問題無く自己条件ならば出走さえできればすぐに勝てる力量があるにもかかわらず所属厩舎の馬房状況の都合で栗東トレセンに入厩できず出走ができないという美浦の厩舎とは逆のケースも発生し、またこの様な下級条件馬を次々と放出する程に管理馬に数的・質的な余裕がある。この様な形で出走できないまま放出された馬を、美浦の厩舎が引き取っ受けて出走させるケースも少なからず見られる様になっている<ref name="tospo20110428">[http://www.tokyo-sports.co.jp/writer.php?itemid=13372 今週も転厩馬で荒稼ぎ:トレセン発㊙話]([[東京スポーツ新聞社]] 2011年04月28日)</ref>。その為、馬主・愛馬会法人の中には、美浦トレセンへ所有馬を入厩させる理由として、「馬の具合がいい時にスムーズに入退厩ができる<ref group="注釈">つまり、「本音では栗東トレセンの厩舎に入れたいが、栗東トレセンの各厩舎には空き馬房の余裕が少なく、同厩他馬との兼ね合いもあって馬の調子に合わせてトレセンに入厩できず出走できない為、管理馬が少ないことから厩舎の空き馬房状況に余裕があり、馬の体調を見計らって入退厩や出走が馬主サイドで自在に調整できる美浦トレセンの厩舎にやむを得ず入厩させる」という意味である。</ref>」ということを公言している者もいる程の状況であるなど<ref>[http://m-17260f40536c8200-m.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/310-ec53.html 近況です:タテジマくんの一口日記]</ref>、もはや調教師の手腕や営業力などを語る以前に「栗東トレセンの厩舎であるか否か」が重要視される状況も垣間見られる。
 
この様な過酷な現状に置かれている美浦トレセンでは、調教師が70歳の定年まで厩舎を維持することができずに次々と自ら調教師免許を返上して「[[勇退]]」し厩舍を解散したり、割り当てられた馬房を自主返上する、すなわち調教師の自主廃業が相次いでいる。この流れは2004年2月に[[佐藤征助]]が65歳で調教師免許を更新せずに厩舎を解散し「勇退」したことに始まり、2006年には[[富田一幸]]が50歳で、2008年には[[笹倉武久]]、[[内藤一雄]]が共に定年まで8年を残した62歳で免許を返上、さらに[[2009年]]2月には、[[中野隆良]]など50代から60代の定年前の調教師が5名も免許更新を行わずに「勇退」、5月には[[斎藤宏 (競馬)|斎藤宏]]が免許取得から僅か10年で「勇退」という状況になった。その後も同様の「調教師勇退」が散発的に発生している。これら調教師の「勇退」の事情には、理由は単純に経済的なものだけとは言い切れないものもあるにせよ、名目上の理由は「健康上の都合」であっても内実としては「成績不振を原因とした事実上の[[倒産|経営破綻]]による廃業」であった事を複数の競馬マスコミ関係者が事実上のこととして認めていたり、遠回しの表現であっても暗に示唆しているケースが存在している<ref>[http://www.tokyo-np.co.jp/tochu/article/horserace/news/CK2008012502082241.html 笹倉師 “経営難”で廃業 調教師の世界でも格差問題]</ref>。また[[岩城博俊]]の様に、比較的早い段階で厩舍経営を諦めた調教師が厩舍を解散して他の厩舍のスタッフとして再起を試みるというケースすら見られる様になった<ref>[http://www.sanspo.com/keiba/news/090213/kba0902130501003-n1.htm 岩城師、調教助手に転身「馬が好き」](サンケイスポーツ 2009年[[2月13日]])</ref>(ただし実際には調教師会・厩務員組合の猛烈な反発を受け、再起は限りなく困難な状況である<ref>『[[競馬最強の法則]]』([[KKベストセラーズ]])2009年6月号・p.143</ref>)。[[2010年]]には、上述した2009年の調教師の「勇退」続出なども要因の1つとなって、美浦における厩舎経営の不安定さが露呈した事をきっかけに、従来は厩舎の開業資金や運転資金の融資を担ってきた[[メガバンク|大手金融機関]]にさえも美浦トレセン自体を不安視するものがあり、美浦所属の調教師への融資を渋ったりあるいは融資を引き上げているものが存在する状況下で、成績不振・資金難で「勇退」という選択肢を考えている少なからぬ調教師たちを、これ以上のトレセン・厩舎群へのイメージ低下や空き馬房の大量発生を防ぐべく、JRAも馬房返上による厩舎の縮小経営を認めるなどして懸命に引き留めているのが実情であるとも報じられている<ref>『競馬最強の法則』(KKベストセラーズ)2010年4月号・p.145</ref>。しかし、その後の2011年にも実に9名もの美浦トレセン所属の調教師が定年前に厩舎解散を決断して「勇退」している<ref name="nikkan20120131">[30歳で合格の黒岩新調教師 まずは馬集め](日刊スポーツ [[2012年]][[1月31日]])</ref>など、状況の悪化に歯止めが掛からないのが実情である。
 
また、現在の美浦トレセンで発生している、システムで自動的に割り当てるべき調教師が存在しない馬房が数多く存在している「空き馬房問題」についても、2009年以降は調教師の「勇退」や馬房自主返上の続出の他にも調教師の死去による厩舎解散など、追い討ちとなる事態が発生する度に深刻なものとなっている。調教師は馬房数に応じて規定された人数の厩務員を雇用しなければならない規則である為、管理馬房の空きはそのまま余計な人件費に直結する一方で、JRAにとっても「空き馬房」の発生は厩務員のJRAという枠内での所属・雇用の問題にそのまま直結し、ひいては厩務員[[春闘]]などにも影響を及ぼしかねないものであるため、この「空き馬房問題」は発生する都度にJRAが事態の収拾に追われることになっている。