「遅延記憶装置」の版間の差分

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== 水銀遅延線 ==
黎明期のコンピュータで主記憶装置としてよく使われた遅延記憶装置が、'''水銀遅延線'''(すいぎんちえんせん)である。記憶装置としては、[[ジョン・エッカート]]が考案した。[[水銀]]の中の[[超音波]]を利用する。英語 delay line memory から(delay memory とはしない)「遅延'''線'''」の語があるが、線というより管であることから'''水銀遅延管'''(すいぎんちえんかん)とも呼ばれる。英語でも mercury delay tube としている例が見られる。tank の語を使うことも見られる。
 
[[File:Delay line memory fr.svg]]
 
水銀を詰めた管の両端に[[圧電素子]]をとり付けた構造をしている。片方の素子に信号を入力し、[[圧電効果]](逆圧電効果)による[[振動]]で超音波を発生させる。超音波は水銀を媒体として管の中を伝わり、反対側の圧電素子を振動させる。振動させられた圧電素子は[[圧電効果]]により電圧を誘起するため、ここから入力信号と同様の波形を持つ信号が取り出せる。これを[[増幅]]して再び入力側に戻すと、信号が循環して、記憶装置として使うことができる。
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== その他の材料 ==
水銀以外に、記憶装置として使われた媒体としては、[[ETL Mark III]]などで使われたガラス<ref>[http://museum.ipsj.or.jp/computer/dawn/0011.html 情報処理学会コンピュータ博物館] によれば金石舎研究所の協力による開発</ref>、磁性体(金属)ワイヤを使った磁歪遅延線<ref>磁歪遅延線の解説と実装例(詳細不明)は、中野馨『脳をつくる』の pp. 137-138, p. 144 にある。</ref><ref>磁歪遅延線がETL Mark IVで使われたとしているウェブページがあるが、開発者の一人である[[高橋茂]]著『コンピュータ クロニクル』 p.14 には、トランジスタの速度を下げたため、動作速度を下げると容量的に不利な遅延線は止め、磁気ドラムを採用した、とある。</ref>、ETL Mark IVでタイミング調整用に使われ、[[HITAC]] 5020で(主記憶ではなく)レジスタに使われた、同軸ケーブル内を伝わる高周波信号の遅れを利用する電磁遅延線がある。固体遅延線や電磁遅延線は記憶以外に、アナログ時代にはフィルタの部品としてよく使われ、[[カラーテレビ]]などのために大量生産された([[NTSC#ライン相関を利用したクシ形フィルタ]]も参照。デジタル信号処理では逆に、記憶装置を使って信号の遅延が実現される)。
 
また、循環型で大容量のレジスタを作るために、磁気ドラムのトラックの一部を遅延線のように使うという手法があり、日本では[[マルス (システム)#マルス1|マルス1]]で使われたという例がある<ref>『日本のコンピュータの歴史』 pp. 155-172、第8章「MARS-1」</ref>。
 
変わったエピソードとしては、[[モーリス・ウィルクス]]によれば、水銀より安い媒体を1947年に検討していた際、[[アラン・チューリング]]が[[ジン (蒸留酒)|ジン]]を提案した、というものがある。アルコールと水が、室温において温度係数がゼロになる割合で含まれているから、だという<ref>『ACMチューリング賞講演集』 p. 235</ref>。遅延記憶装置において、温度変化により音速が変化するために動作速度がズレることは問題であり、恒温槽を必要とした、といった話があるが、[[FUJIC]]では逆転の発想で、水銀遅延線を動作させるクロックの速度を温度に合わて調節することにより解決している<ref>『日本のコンピュータの歴史』(1985) p. 69</ref>。
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<references/>
 
== ギャラリー ==
{{DEFAULTSORT:すいきんちえんせん}}
<gallery>
File:FUJIC delay line memory 1956 National Museum of Nature and Science.jpg|[[FUJIC]]の水銀遅延線
File:EDSAC (8).jpg|[[EDSAC]]の水銀遅延線。写っている人物は[[モーリス・ウィルクス]]その人
File:Ultrasonicdelayline.jpg|固体遅延線の一例
File:Torsion wire delay line.jpg|磁歪遅延線の一例
</gallery>
 
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Delay lines|遅延線}}
 
{{DEFAULTSORT:すいきんちえんせんきおくそうち}}
[[Category:記憶装置]]
[[Category:コンピュータ史]]