「非有界作用素」の版間の差分
削除された内容 追加された内容
Kazehikibird (会話 | 投稿記録) en:Unbounded operator (13:40, 1 August 2012, UTC) の5~8節を翻訳 タグ: サイズの大幅な増減 |
前半の推敲 |
||
1行目:
[[数学]]の、特に[[関数解析]]や[[作用素論]]の分野における'''非有界作用素'''(ひゆうかいさようそ、{{Lang-en|''unbounded operator''}})は、位相線形空間のあいだの線形写像で不連続であること・全体では定義されていないことを許したようなものである。[[幾何学]]における[[微分作用素]]や[[量子力学]]における非有界[[オブザーバブル]]などを扱うための抽象的な基
ここで「非有界作用素」という語は誤解を招く恐れがある。実際に意味するところは、
* 「非有界」は、「必ずしも有界ではない」という意味で解釈される;
* 「作用素」は、「[[線形作用素]]」と解釈される(これは「[[有界作用素]]」の場合と同様);
* 作用素の定義域は線形部分空間であり、必ずしも全空間ではない(これは「有界作用素」の場合と異なる);
*
* 有界作用素の特別な場合において、定義域は通常、全空間であると仮定される;
という点に注意されたい。
[[有界作用素]]の場合と異なり、非有界作用素は
「作用素」という語はしばしば「有界線形作用素」を意味するが、この記事の文脈では「非有界作用素」を表すこととする(ここで上述の注意点に留意されたい)。
==小史==
20行目:
==定義と基本性質==
''B''<sub>1</sub> および ''B''<sub>2</sub> を[[バナッハ空間]]とする。'''非有界作用素'''(あるいは単純に、''作用素''){{nowrap|''T'' : ''B''<sub>1</sub> → ''B''<sub>2</sub>}} とは、''B''<sub>1</sub> の線形部分空間 ''D''(''T'') (すなわち、''T'' の定義域)から空間 ''B''<sub>2</sub> への[[線形写像]] ''T'' のことである<ref name="Pedersen-5.1.1">{{harvnb|Pedersen|1989|loc=5.1.1}}</ref>。
作用素 ''T'' に対して、もしその[[グラフ (関数)|グラフ]] Γ(''T'') が[[閉集合]]であるなら、''T'' は[[閉作用素|閉]]であると言われる<ref name="Pedersen-5.1.4">{{ harvnb |Pedersen|1989| loc=5.1.4 }}</ref>
: <math>
\|x\|_T = \sqrt{ \|x\|^2 + \|Tx\|^2 }\ .
</math>
について[[完備距離空間|完備空間]]であることは
作用素 ''T'' はその定義域が ''B''<sub>1</sub> において[[稠密集合|稠密]]であるとき'''[[稠密に定義された作用素|稠密に定義されている]]'''と言われる<ref name="Pedersen-5.1.1" />。 これは全空間 ''B''<sub>1</sub> 上で定義される作用素も含む。なぜならば全空間はそれ自身において稠密であるからである。定義域の稠密性は、その作用素の共役(adjoint)
もし {{nowrap|''T'' : ''B''<sub>1</sub> → ''B''<sub>2</sub>}} が閉で、その定義域上稠密に定義されており[[連続線形作用素|連続]]であるなら、それは全空間 ''B''<sub>1</sub> で定義される<ref>''f<sub>j</sub>'' を ''T'' の定義域上の列で {{nowrap|''g'' ∈ ''B''<sub>1</sub>}} へと収束するものとする。''T'' はその定義域上で一様連続であるため、''Tf<sub>j</sub>'' は ''B''<sub>2</sub> 内の[[コーシー列]]である。したがって {{nowrap|(''f<sub>j</sub>'', ''Tf<sub>j</sub>'')}} もコーシー列であり、''T'' のグラフが閉であることから、これはある {{nowrap|(''f'', ''Tf'')}} へと収束する。したがって {{nowrap|''f'' {{=}} ''g''}} であり ''T'' の定義域は閉である。</ref>。
35行目:
==例==
ルベーグ測度に関するL<sup>2</sup>空間''H''=L<sub>2</sub>[0,1] は [0,1] 上のすべての二乗可積分関数からなるヒルベルト空間である(より正確には、可測で、実数値あるいは複素数値の関数の同値類)。閉区間 [0,1] 上連続的微分可能なすべての関数 ''f''(''t'') からなる集合 ''D''(''T'') <ref>測度の台が[0, 1] 全体なのでC<sup>1</sup>級や連続な関数はL<sub>2</sub>[0, 1]の部分空間と見なせる。</ref>を定義域とし、''t''に関する微分によって定義された線形変換
: <math> Tf = f' \; </math>
▲これは線形作用素である。なぜならば、二つの連続的微分可能関数 ''f'' および ''g'' の[[線型結合|線形結合]]もまた微分可能であるからである(<math>(af+bg)'=af'+bg'.\;</math> が成り立つ)。
この作用素は有界ではない。例えば、[0,1] 上の関数 ''f<sub>n</sub>'' を <math> f_n(t) = \sin 2\pi n t \;</math> で定めると、<math> \|f_n\|_H = 1/\sqrt2 </math> であるが <math> \|Tf_n\|_H = 2\pi n/\sqrt2 \to \infty </math> となる。
この作用素は稠密に定義されて
==共役==
非有界作用素の共役(adjoint)の定義には、二つの同値な方法
一つ目として、有界作用素の共役を定義するときに用いられるものと同様な方法がある。すなわち、''T'' の共役 ''T''<sup>∗</sup> : ''H''<sub>2</sub> → ''H''<sub>1</sub> は、次の性質を持つような最大の作用素として定義される: :<math>\langle Tx \mid y \rangle_2 = \langle x \mid T^*y \rangle_1, \quad (x \in D(T)).</math>
:<math>\langle Tx \mid y \rangle_2 = \langle x \mid z \rangle_1, \quad (x \in D(T))</math>
を満たすような ''z'' を見つけることが可能である。なぜならば、ヒルベルト空間上の
定義により、''T''<sup>∗</sup> の定義域は、 <math>x \mapsto \langle Tx, y \rangle</math> が ''T'' の定義域上で連続となるような元 <math>y \in H_2</math> からなることが分かる。したがって、''T''<sup>∗</sup> の定義域はどのようなものでもあり得、例えば自明(すなわち、ゼロのみを含む)であるようなこともある<ref name="BSU-3.2">{{ harvnb |Berezansky|Sheftel|Us|1996| loc=Example 3.2 on page 16 }}</ref>。''T''<sup>∗</sup> の定義域は、閉[[超平面]]で、その定義上至るところで ''T''<sup>∗</sup> が消失することもあり得る<ref name="RS-252">{{ harvnb |Reed|Simon|1980| loc=page 252 }}</ref><ref name="BSU-3.1">{{ harvnb |Berezansky|Sheftel|Us|1996| loc=Example 3.1 on page 15 }}</ref>。
したがって、定義域上での ''T''<sup>∗</sup> の有界性は、必ずしも ''T'' の有界性を意味しない。一方で、もし ''T''<sup>∗</sup> が全空間で定義されるなら、''T'' はその定義域上で有界であり、したがって連続性により全空間上の有界作用素へと拡張することが出来る<ref>
証明: 閉であるため、至る所定義されている ''T''<sup>∗</sup> は有界である。これは''T'' を含む ''T''<sup>∗∗</sup> の有界性を
証明: <math>T^{**} = T</math> であるため、もし <math>T^*</math> が有界であるなら、その共役 <math>T</math> も有界である。</ref>。
共役作用素のもう一つの同値な定義は、
上の定義により、共役 ''T''<sup>∗</sup> は閉であることがただちに分かる<ref name="Pedersen-5.1.5" />。特に、自己共役作用素(すなわち、''T'' = ''T''<sup>∗</sup>)は閉である。ある作用素 ''T'' が稠密に定義された閉作用素であるための必要十分条件は、''T''<sup>∗∗</sup>が存在して''T''<sup>∗∗</sup> = ''T'' が成立することである<ref>証明: もし ''T'' が稠密に定義された閉作用素であるなら、''T''<sup>∗</sup> は
有界作用素に対してよく知られているいくつかの性質は、稠密に定義された閉作用素に対して一般化される。閉作用素の核は閉である。さらに、稠密に定義された閉作用素 ''T'' : ''H''<sub>1</sub> → ''H''<sub>2</sub> の核は、その共役の値域の直交補空間と一致する。すなわち<ref>Brezis, pp. 28.</ref>、
69 ⟶ 68行目:
{{仮リンク|フォンノイマンの定理|en|von Neumann's theorem}}によれば、''T''<sup>∗</sup>''T'' および ''TT''<sup>∗</sup> は自己共役であり、''I'' + ''T''<sup>∗</sup>''T'' と ''I'' + ''TT''<sup>∗</sup> はともに有界な逆を持つことが分かる<ref>Yoshida, pp. 200.</ref>。もし <math>T^*</math> の核が自明であるなら、<math>T</math> の値域は稠密となる。さらに、''T'' が全射であるための必要十分条件は、
:<math>\forall f \in D(T^*) \colon \|f\|_2 \le K\|T^*f\|_1</math>
と書ける。<ref>もし ''T'' が全射であるなら、<math>T: (\operatorname{ker}T)^\bot \to H_2</math> は有界な逆を持つ。それを ''S'' と表す。そうすると、求める不等式は成立する。なぜならば
:<math>\|f\|_2^2 = |\langle TSf \mid f \rangle_2| \le \|S\| \|f\|_2 \|T^*f\|_1</math>
であるからである。
|