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[[数学]]の、特に[[関数解析]]や[[作用素論]]の分野における'''非有界作用素'''(ひゆうかいさようそ、{{Lang-en|''unbounded operator''}})は、位相線形空間のあいだの線形写像で不連続であること・全体では定義されていないことを許したようなものである。[[幾何学]]における[[微分作用素]]や[[量子力学]]における非有界[[オブザーバブル]]などを扱うための抽象的な基礎付け構築すあたえであに用いられる。
 
ここで「非有界作用素」という語は誤解を招く恐れがある。実際に意味するところは、
* 「非有界」は、「必ずしも有界ではない」という意味で解釈される;
* 「作用素」は、「[[線形作用素]]」と解釈される(これは「[[有界作用素]]」の場合と同様);
* 作用素の定義域は線形部分空間であり、必ずしも全空間ではない(これは「有界作用素」の場合と異なる);
* そのような線形部分空間定義域は必ずしも閉ではない; それはしばしば(常にではないが)稠密であると仮定される;
* 有界作用素の特別な場合において、定義域は通常、全空間であると仮定される;
という点に注意されたい。
 
[[有界作用素]]の場合と異なり、非有界作用素は代数や線形空間を構成することは無い。なぜならばそ個々ような作用素は各々のが異なった定義域上で定義されを持ちうからため、非有界作用素同士の和や合成がいつあるも意味を持つわけではない
 
「作用素」という語はしばしば「有界線形作用素」を意味するが、この記事の文脈では「非有界作用素」を表すこととする(ここで上述の注意点に留意されたい)。与えられた以下の解説では主に[[バナッハ空間]]や[[ヒルベルト空間]]であると仮定の間の非有界作用素について説明する。[[バナッハ空間]]やほとんどの構成を適切な形に修正してより一般的な[[位相ベクトル空間]]へ一般化も可能とな場合ことできる。
 
==小史==
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==定義と基本性質==
''B''<sub>1</sub> および ''B''<sub>2</sub> を[[バナッハ空間]]とする。'''非有界作用素'''(あるいは単純に、''作用素''){{nowrap|''T''&thinsp;: ''B''<sub>1</sub> → ''B''<sub>2</sub>}} とは、''B''<sub>1</sub> の線形部分空間 ''D''(''T'') (すなわち、''T'' の定義域)から空間 ''B''<sub>2</sub> への[[線形写像]] ''T'' のことである<ref name="Pedersen-5.1.1">{{harvnb|Pedersen|1989|loc=5.1.1}}</ref>。通例有界線形作用素の場合とは異なり、ここでは ''T'' は全空間 ''B''<sub>1</sub> 上で定義されない場合も考慮する。二つの作用素が等しいとは、それらが共通の定義域を持ち、その定義域上で同一のものであることを意味する。
 
作用素 ''T'' に対して、もしその[[グラフ (関数)|グラフ]] Γ(''T'') が[[閉集合]]であるなら、''T'' は[[閉作用素|閉]]であると言われる<ref name="Pedersen-5.1.4">{{ harvnb |Pedersen|1989| loc=5.1.4 }}</ref>ここで、グラフ Γ(''T'') は[[直和]] {{nowrap|''B''<sub>1</sub> ⊕ ''B''<sub>2</sub>}} の線形部分空間で、ベクトル ''x'' を''T'' の定義域内の ''x'' にで動かして得られるするすべてのペア {{nowrap|(''x'', ''Tx'')}} 全てからなる集合である陽的一般表現すると、こ直和上ことは、''T'' の定義域に含まれる点からなる数列 (''xl<subsup>n1</subsup>'') で、ある ''x'' 和ノルムの)グラフと収束し、また ''Tx<sub>n</sub>'' の制限ある ''y'' へグラフノルム収束す呼ばれようなすべての数列 (''x<sub>n</sub>'') に対し''x'' は ''T'' の定義域に含まれ、{{nowrap|''Tx'' {{=}} ''y''}}成立す閉作用素であということを意味する<ref name="Pedersen-5.1.4"/>。そのような閉性(closedness)グラフノルムを用いて次のように表すことも出来ができる: ある作用素 ''T'' が閉であることと、その定義域 ''D''(''T'') がノルム
: <math>
\|x\|_T = \sqrt{ \|x\|^2 + \|Tx\|^2 }\ .
</math>
について[[完備距離空間|完備空間]]であることは必要十分同値な条件である<ref name="BSU-5">{{ harvnb |Berezansky|Sheftel|Us|1996| loc=page 5 }}</ref>。このことを具体的に言い表すと、''T'' の定義域に含まれる点からなる列 (''x<sub>n</sub>'') で、''B''<sub>1</sub>のベクトル ''x'' へと収束し、また ''Tx<sub>n</sub>'' が''B''<sub>2</sub>のベクトル ''y'' へと収束するようなものがあったとき、''x'' は ''T'' の定義域に含まれ、{{nowrap|''Tx'' {{=}} ''y''}}が成立する、ということになる<ref name="Pedersen-5.1.4"/>。
 
作用素 ''T'' はその定義域が ''B''<sub>1</sub> において[[稠密集合|稠密]]であるとき'''[[稠密に定義された作用素|稠密に定義されている]]'''と言われる<ref name="Pedersen-5.1.1" />。 これは全空間 ''B''<sub>1</sub> 上で定義される作用素も含む。なぜならば全空間はそれ自身において稠密であるからである。定義域の稠密性は、その作用素の共役(adjoint)および転置(transpose)の存在のための必要十分条件である。また、''S''と''T''について''D''(''S'') &sub; ''D''(''T'')かつ''T''|<sub>''D''(''S'')</sub> = ''S'' が成り立つとき''S''は''T''に'''含まれる'''(''S'' &sub; ''T'')という
 
もし {{nowrap|''T''&thinsp;: ''B''<sub>1</sub> → ''B''<sub>2</sub>}} が閉で、その定義域上稠密に定義されており[[連続線形作用素|連続]]であるなら、それは全空間 ''B''<sub>1</sub> で定義される<ref>''f<sub>j</sub>'' を ''T'' の定義域上の列で {{nowrap|''g'' ∈ ''B''<sub>1</sub>}} へと収束するものとする。''T'' はその定義域上で一様連続であるため、''Tf<sub>j</sub>'' は ''B''<sub>2</sub> 内の[[コーシー列]]である。したがって {{nowrap|(''f<sub>j</sub>'', ''Tf<sub>j</sub>'')}} もコーシー列であり、''T'' のグラフが閉であることから、これはある {{nowrap|(''f'', ''Tf'')}} へと収束する。したがって {{nowrap|''f'' {{=}} ''g''}} であり ''T'' の定義域は閉である。</ref>。
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==例==
ルベーグ測度に関するL<sup>2</sup>空間''H''=L<sub>2</sub>[0,1] は [0,1] 上のすべての二乗可積分関数からなるヒルベルト空間である(より正確には、可測で、実数値あるいは複素数値の関数の同値類)。閉区間 [0,1] 上連続的微分可能なすべての関数 ''f''(''t'') からなる集合 ''D''(''T'') <ref>測度の台が[0, 1] 全体なのでC<sup>1</sup>級や連続な関数はL<sub>2</sub>[0, 1]の部分空間と見なせる。</ref>を定義域とし、''t''に関する微分によって定義された線形変換
古典的な微分作用素
: <math> Tf = f' \; </math>
これ線形、 ''H''から ''H''への非有界作用素であを与えている。なぜならば実際、二つの連続的微分可能関数 ''f'' および ''g'' の[[線型結合|線形結合]]もまた微分可能であるからである(について<math>(af+bg)'=af'+bg'.\;</math> が成り立つため、これは線形作用素である
で、閉区間 [0,1] 上連続的微分可能なすべての関数 ''f'' からなる集合 ''D''(''T'') 上で定義されるようなものは、非有界作用素 ''H''&nbsp;→&nbsp;''H'' である。ここで ''H''=L<sub>2</sub>[0,1] は [0,1] 上のすべての二乗可積分関数からなるヒルベルト空間である(より正確には、可測で、実数値あるいは複素数値の関数の同値類)。この ''T'' の定義は意味を持つ。なぜならば、連続関数(あるいは連続的微分可能な関数)は至る所で消えている(vanish)という場合を除き、ほとんど至る所で消えるということはあり得ないからである。
 
これは線形作用素である。なぜならば、二つの連続的微分可能関数 ''f'' および ''g'' の[[線型結合|線形結合]]もまた微分可能であるからである(<math>(af+bg)'=af'+bg'.\;</math> が成り立つ)。
 
この作用素は有界ではない。例えば、[0,1] 上の関数 ''f<sub>n</sub>'' を <math> f_n(t) = \sin 2\pi n t \;</math> で定めると、<math> \|f_n\|_H = 1/\sqrt2 </math> であるが <math> \|Tf_n\|_H = 2\pi n/\sqrt2 \to \infty </math> となる。
 
この作用素は稠密に定義されておりいるが、折れ線をグラフとするような区分線形関数とその微分の対などがグラフの閉包に含まれるため、閉作用素ではない。
 
C<sup>1</sup>級関数の空間をふむ様々なバナッハ空間 ''B'' に対して、有界とはならないような同様の作用素 ''B''&nbsp;→&nbsp;''B'' が考えられる。しかしながら、いくつかのペア ''B''<sub>1</sub> および と連続関数の空間を含むバナッハ空間''B''<sub>2</sub> に対して上記のように微分を非有界作用素 ''B''<sub>1</sub>&nbsp;→&nbsp;''B''<sub>2</sub> の作用素して有界考えるこができる。いくつかの位相ベクトさらに、ノ空間 ''B'' ムの選び方対しよっも同様であはこの構成から有界作用素が得られる。一例してえばある開区間 定義域ではC<mathsup>I \subset \mathbb{R}1</mathsup> と、ノルム自身 <math>\| f \|_{\mathcal{C}^1} = \| f \|_{\infty} + \| f' \|_{\infty}</math> を考え、値域あるようはsupノルムを考えれば、微分は連続写像に空間 <math>\mathcal{C}^1</math> に対す作用素 <math>T : ( \mathcal{C}^1 ( I ), \| \cdot \|_{\mathcal{C}^1} ) \rightarrow ( \mathcal{C}^0 ( I
), \| \cdot \|_{\infty} )</math> が考えられる。
 
==共役==
非有界作用素の共役(adjoint)の定義には、二つの同値な方法によって定義されがある。

一つ目として、有界作用素の共役を定義するときに用いられるものと同様な方法がある。すなわち、''T'' の共役 ''T''<sup>∗</sup>&nbsp;:&nbsp;''H''<sub>2</sub>&nbsp;→&nbsp;''H''<sub>1</sub> は、次の性質を持つような最大の作用素として定義される:
:<math>\langle Tx \mid y \rangle_2 = \langle x \mid T^*y \rangle_1, \quad (x \in D(T)).</math>
より正確に、''T''<sup>∗</sup> を次のようにり正確な定義は以下のようにることが出来る。もしもベクトル''y'' が、<math>x \mapsto \langle Tx, y \rangle</math> が ''T'' の定義域上の連続線形汎関数となるようなものであるならば、それこの汎関数{{仮リンク|ハーン<!--バナッハの定理|en|Hahn–Banach theorem}}によってD(T)の閉包上のRieszで充分-->全空間へと拡張したのち、
:<math>\langle Tx \mid y \rangle_2 = \langle x \mid z \rangle_1, \quad (x \in D(T))</math>
を満たすような ''z'' を見つけることが可能である。なぜならば、ヒルベルト空間双対(dual)は、その内積により与えられる線型汎関数からなる集合は、内積によって定められもとの空間自身と同一視できるからである。このような ''y'' それぞれに対して、上の条件を満たす''z'' が一意に定められることと、その対応する線型汎関数が稠密に定義されていること、すなわち ''T'' が稠密に定義されていることは必要十分である。最後にこのとき、''T''<sup>∗</sup>''y'' = ''z'' とすることによって、''T''<sup>∗</sup> の導出は完了する<ref>''T''<sup>∗</sup> が線形自明(linear trivial)であ定められ確認。</ref>。ようにして''T''<sup>∗</sup> の値存在することつに定まるためには、''T'' が稠密に定義されていること必要十分であることに注意されたい。
 
定義により、''T''<sup>∗</sup> の定義域は、 <math>x \mapsto \langle Tx, y \rangle</math> が ''T'' の定義域上で連続となるような元 <math>y \in H_2</math> からなることが分かる。したがって、''T''<sup>∗</sup> の定義域はどのようなものでもあり得、例えば自明(すなわち、ゼロのみを含む)であるようなこともある<ref name="BSU-3.2">{{ harvnb |Berezansky|Sheftel|Us|1996| loc=Example 3.2 on page 16 }}</ref>。''T''<sup>∗</sup> の定義域は、閉[[超平面]]で、その定義上至るところで ''T''<sup>∗</sup> が消失することもあり得る<ref name="RS-252">{{ harvnb |Reed|Simon|1980| loc=page 252 }}</ref><ref name="BSU-3.1">{{ harvnb |Berezansky|Sheftel|Us|1996| loc=Example 3.1 on page 15 }}</ref>。
したがって、定義域上での ''T''<sup>∗</sup> の有界性は、必ずしも ''T'' の有界性を意味しない。一方で、もし ''T''<sup>∗</sup> が全空間で定義されるなら、''T'' はその定義域上で有界であり、したがって連続性により全空間上の有界作用素へと拡張することが出来る<ref>
証明: 閉であるため、至る所定義されている ''T''<sup>∗</sup> は有界である。これは''T'' を含む ''T''<sup>∗∗</sup> の有界性を意味し、''T'' の閉包である導く。至る所定義されている ''T'' の場合として、{{ harv |Pedersen|1989| loc=2.3.11 }} を参照されたい</ref>。もし ''T''<sup>∗</sup> の定義域が稠密であるなら、それには共役 ''T''<sup>∗∗</sup> が存在する<ref name="Pedersen-5.1.5" />。稠密に定義された閉作用素 ''T'' が有界であることの必要十分条件は、''T''<sup>∗</sup> が有界であることである<ref>
証明: <math>T^{**} = T</math> であるため、もし <math>T^*</math> が有界であるなら、その共役 <math>T</math> も有界である。</ref>。
 
共役作用素のもう一つの同値な定義は、一般的な事実に注意すグラフの直交空間を取ることにより得られる。線形作用素 <math>J: H_1 \oplus H_2 \to H_2 \oplus H_1</math> を、<math>J(x \oplus y) = -y \oplus x</math> によって定義する<ref name="Pedersen-5.1.5">{{ harvnb |Pedersen|1989| loc=5.1.5 }}</ref>(<math>J</math> は等長な全射であるため、ユニタリである)。すると、 <math>J(\Gamma (T))^\bot</math> がある作用素 ''S'' のグラフであることの必要十分条件は、 <math>T</math> が稠密に定義されていること、であることが分かる<ref name="BSU-12">{{ harvnb |Berezansky|Sheftel|Us|1996| loc=page 12 }}</ref>。簡単な計算により、この作用素 ''S'' は <math>\langle Tx \mid y \rangle_2 = \langle x \mid Sy \rangle_1</math> を、''T'' の定義域内のすべての ''x'' に対して満たすことが分かる。したがって、''S'' は ''T'' の共役である。
 
上の定義により、共役 ''T''<sup>∗</sup> は閉であることがただちに分かる<ref name="Pedersen-5.1.5" />。特に、自己共役作用素(すなわち、''T'' = ''T''<sup>∗</sup>)は閉である。ある作用素 ''T'' が稠密に定義された閉作用素であるための必要十分条件は、''T''<sup>∗∗</sup>が存在して''T''<sup>∗∗</sup> = ''T'' が成立することである<ref>証明: もし ''T'' が稠密に定義された閉作用素であるなら、''T''<sup>∗</sup> は存在し、稠密に定義されている。したがって、''T''<sup>∗∗</sup> が存在する。''T'' のグラフは ''T''<sup>∗∗</sup> のグラフにおいて稠密であるため、''T'' = ''T''<sup>∗∗</sup> が成立する。逆を考える。''T''<sup>∗∗</sup> の存在は ''T''<sup>∗</sup> の存在を意味し、これは ''T'' が稠密に定義されていることを意味する。''T''<sup>∗∗</sup> は閉であるため、''T'' は稠密に定義された閉作用素である。</ref>。
 
有界作用素に対してよく知られているいくつかの性質は、稠密に定義された閉作用素に対して一般化される。閉作用素の核は閉である。さらに、稠密に定義された閉作用素 ''T''&nbsp;:&nbsp;''H''<sub>1</sub>&nbsp;→&nbsp;''H''<sub>2</sub> の核は、その共役の値域の直交補空間と一致する。すなわち<ref>Brezis, pp. 28.</ref>、
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{{仮リンク|フォンノイマンの定理|en|von Neumann's theorem}}によれば、''T''<sup>∗</sup>''T'' および ''TT''<sup>∗</sup> は自己共役であり、''I'' + ''T''<sup>∗</sup>''T'' と ''I'' + ''TT''<sup>∗</sup> はともに有界な逆を持つことが分かる<ref>Yoshida, pp. 200.</ref>。もし <math>T^*</math> の核が自明であるなら、<math>T</math> の値域は稠密となる。さらに、''T'' が全射であるための必要十分条件は、
:<math>\forall f \in D(T^*) \colon \|f\|_2 \le K\|T^*f\|_1</math> for every <math>f \in D(T^*)</math> 
と書ける。<ref>もし ''T'' が全射であるなら、<math>T: (\operatorname{ker}T)^\bot \to H_2</math> は有界な逆を持つ。それを ''S'' と表す。そうすると、求める不等式は成立する。なぜならば
:<math>\|f\|_2^2 = |\langle TSf \mid f \rangle_2| \le \|S\| \|f\|_2 \|T^*f\|_1</math>
であるからである。