「反日亡国論」の版間の差分

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'''反日亡国論'''(はんにちぼうこくろん)とは、[[新左翼 (日本)|日本の新左翼]]の[[政治思想]]の一つ。新左翼が生み出した左翼思想の一種であるが、「'''日本に革命を起こす'''」理論・思想体系ではなく、「'''日本を滅亡させる'''」理論・思想体系である。従来、ただ漠然と「反日思想」などと呼ばれていた新左翼の思想に「反日亡国論」と命名者はしたのが[[大森勝久]]である。[[梅内恒夫]]の手記「[[共産主義者同盟赤軍派より日帝打倒を志すすべての人々へ]]がその理論的形成のきっかけとなった。
 
== 概要 ==
従来、左翼による[[反日思想]]の根拠とされたのは、いわゆる「[[明治]]以降の[[日本帝国主義]]が為した悪行」であった。一方、「反日亡国論」では、歴史をはるかに遡って、日本国の建国そのものを否定し、その国家と民族の絶滅を主張する<ref name="chianforum">治安フォーラム別冊『過激派事件簿40年史』[[立花書房]]、2001年</ref>。[[反ユダヤ主義]]に匹敵する過激思想であるが、反ユダヤ主義はユダヤ人以外の人々によるユダヤ人・ユダヤ教への差別思想であったのに対し、こちらは他でもない「日本人」自身が日本と日本人を否定する思想に傾倒していったという点で相違がある。
 
いわゆる「日本人」は、己が「抑圧者・犯罪民族」たる[[日帝本国人]]であることを充分自覚し、[[自己否定論|自己否定]]していかなくてはならない。日本は償いきれない犯罪を積み重ねてきた反革命国家であり、醜悪な恥晒し国家・民族であるので、日本を祖国と思うこと自体が最大の反革命思想であり、積極的に民族意識・国民意識を捨て去って「[[非国民]]」になれと説く<ref name="yatteinai">やっていない俺を目撃できるか!編集委員会編『やっていない俺を目撃できるか! 北海道庁爆破犯人デッチ上げ事件』三一書房、1981年</ref>。そして反日亡国論を全面的に受け入れて反日闘争の闘士となることで、初めて「抑圧者・犯罪民族」という「[[原罪]]」から解放されるとする<ref name="chianforum" />。
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また従来の左翼には[[帝国主義]]下の自国の敗戦を望む「[[革命的祖国敗北主義]]」という考え方があるが、革命的祖国敗北主義はあくまでも革命成就のための「'''手段'''」であるのに対し、反日亡国論は「日本滅亡」そのものが「'''目的'''」であることが大きく異なる。
 
=== 日本国家マルクス主義から「侵略性」脱却 ===
梅内恒夫の「共産主義者同盟赤軍派より日帝打倒を志すすべての人々へ」では、「今我々はマルクスを捨てよう」と説き、反日闘争を行うに当たっては、[[マルクス主義]]の既存概念に囚われてはならないとした。
従来の左翼思想の場合、[[ウラジーミル・レーニン|レーニン]]の『[[帝国主義論]](正式名称:資本主義の最高段階としての帝国主義)』の題名が端的に示すように、高度に発達した資本主義国家が、やがて「対外侵略性向」を帯びる帝国主義国家へと発展するという考え方が一般的である。そのため日本の「侵略性」も、[[封建主義]]社会から[[資本主義]]社会への移行に成功したことによる副作用であり、これを克服するためには[[共産主義革命]]を起こして、[[天皇制]]などの「日本帝国主義の残滓」を除去し、新生「日本人民共和国」に生まれ変わることで、日本の「侵略性」は消滅するとされる<ref name="sasaki">[[佐々木俊尚]]『「当事者」の時代』光文社、2012年</ref>。
 
*'''日本国家の「侵略性」'''
しかし反日亡国論の場合、日本の「侵略性」は帝国主義国家になって初めて現れたのではなく、建国以来連綿と続く「伝統」であるため、単に「日本人民共和国」と改組するだけでは「侵略性」を除去したとは言えない<ref name="kurokawa">[[黒川芳正]]『獄窓からのラブレター-反日革命への戦旅』 新泉社、1985年</ref>。'''最終的解決'''をするには、地球上から「日本」という国家を消滅させ、日本人の「邪悪な」血統を地上から完全に根絶し、「日本」を冠する如何なる形態の国家の復活も許さないとする<ref name="umenai">[[竹中労]]・[[平岡正明]]『水滸伝-窮民革命のための序説』より[[梅内恒夫]]「共産同赤軍派より日帝打倒を志すすべての人々へ」三一書房、1973年</ref>。
*:従来の左翼思想の場合、[[ウラジーミル・レーニン|レーニン]]の『[[帝国主義論]](正式名称:資本主義の最高段階としての帝国主義)』の題名が端的に示すように、高度に発達した資本主義国家が、やがて「対外侵略性向」を帯びる帝国主義国家へと発展するという考え方が一般的である。そのため日本の「侵略性」も、[[封建主義]]社会から[[資本主義]]社会への移行に成功したことによる副作用であり、これを克服するためには[[共産主義革命]]を起こして、[[天皇制]]などの「日本帝国主義の残滓」を除去し、新生「日本人民共和国」に生まれ変わることで、日本の「侵略性」は消滅するとされる<ref name="sasaki">[[佐々木俊尚]]『「当事者」の時代』光文社、2012年</ref>。
*:しかし反日亡国論の場合、日本の「侵略性」は帝国主義国家になって初めて現れたのではなく、建国以来連綿と続く「伝統」であるため、単に「日本人民共和国」と改組するだけでは「侵略性」を除去したとは言えない<ref name="kurokawa">[[黒川芳正]]『獄窓からのラブレター-反日革命への戦旅』 新泉社、1985年</ref>。'''最終的解決'''をするには、地球上から「日本」という国家を消滅させ、日本人の「邪悪な」血統を地上から完全に根絶し、「日本」を冠する如何なる形態の国家の復活も許さないとする<ref name="umenai">[[竹中労]]・[[平岡正明]]『水滸伝-窮民革命のための序説』より[[梅内恒夫]]「共産同赤軍派より日帝打倒を志すすべての人々へ」三一書房、1973年</ref>。
 
=== *'''階級的観点の否定 ==='''
*:従来の左翼思想では、民族の別よりも階級の別を重んじる傾向があり、各民族の労働者階級は「革命の主体」として互いに連帯しうるとされていた。
*:ところが反日亡国論では、「抑圧民族の労働者階級」は「抑圧民族の資本家階級」と同様に「被抑圧民族の労働者階級」に対する加害者であるとしている。従来の左翼思想のように「労働者階級の連帯」を強調することは、「抑圧民族の労働者階級」の加害責任を免責するものであるとする<ref name="kurokawa" />。
*:[[東アジア反日武装戦線]]のメンバー[[黒川芳正]]の言葉で言えば、「階級的観点に立脚した'''反日帝'''」ではなく「階級的区分を内に含んだ'''反日'''」とされる<ref name="kurokawa" />。そして自らの思想は「革命思想」とは別に「反日思想」とカテゴライズされるべきであり、従来の革命論から[[コペルニクス的転回]]を成し遂げた思想だと自画自賛している<ref name="shienrenrakukaigi">東アジア反日武装戦線への死刑・重刑攻撃とたたかう支援連絡会議編『でもわたしには戦が待っている 斎藤和「東アジア反日武装戦線大地の牙」の軌跡』風塵社、2004年</ref>。
 
=== 「日本」という国号について ===
「[[日本]]」という[[国号]]は「陽出づる処の天子の国」を意味し、[[天皇制]]と不可分の存在である。中国の[[中華思想]]を受容するだけでなく、その元祖の中国をも「陽没する処の国」と蔑視する「ウルトラ傲慢帝国主義」を体現したのが「日本」という国号であり、[[ユーラシア大陸]]東端の[[弧状列島]]の地域を表す価値中立的な地名でないとする<ref name="kf">東アジア反日武装戦線KF部隊 (準)『反日革命宣言 東アジア反日武装戦線の戦闘史』鹿砦社、1979年</ref>。
 
=== 日本国の歴史的位置付け ===
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=== 日本における労働運動の否定 ===
戦後の[[高度経済成長]]により、大多数の日本国民が「ブルジョア的」な生活を享受できるようになったが、これらの原資は「世界中の人民から搾取された富」によって成り立っている。よって「生活改善運動」「賃上げ運動」に代表される日本の[[労働運動]]などというものは、「強奪品の分け前をもっとよこせ」という「略奪民族・日本人」の「心貧しき願望」の表れであり、反革命であるとする<ref name="yatteinai" />。
 
=== 階級的観点の否定 ===
従来の左翼思想では、民族の別よりも階級の別を重んじる傾向があり、各民族の労働者階級は「革命の主体」として互いに連帯しうるとされていた。
 
ところが反日亡国論では、「抑圧民族の労働者階級」は「抑圧民族の資本家階級」と同様に「被抑圧民族の労働者階級」に対する加害者であるとしている。従来の左翼思想のように「労働者階級の連帯」を強調することは、「抑圧民族の労働者階級」の加害責任を免責するものであるとする<ref name="kurokawa" />。
 
[[東アジア反日武装戦線]]のメンバー[[黒川芳正]]の言葉で言えば、「階級的観点に立脚した'''反日帝'''」ではなく「階級的区分を内に含んだ'''反日'''」とされる<ref name="kurokawa" />。
 
=== 海外人権問題への不介入 ===
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== 参考文献 ==
* 太田竜『辺境最深部に向かって退却せよ!』三一書房、1971年
* 梅内恒夫「共産主義者同盟赤軍派より日帝打倒を志すすべての人々へ」『水滸伝 窮民革命のための序説』竹中労・平岡正明 、三一書房、1973年
* 太田竜『革命・情報・認識(よみかきのしかた)』現代書館、1974年
* 東アジア反日武装戦線KF部隊 (準)『反日革命宣言 東アジア反日武装戦線の戦闘史』鹿砦社、1979年
* やっていない俺を目撃できるか!編集委員会編『やっていない俺を目撃できるか! 北海道庁爆破犯人デッチ上げ事件』三一書房、1981年
* [[高沢皓司]]・[[佐長史朗]]・[[松村良一]]編 『戦後革命運動事典』新泉社、1985年
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* [[原田実]]『幻想の荒覇吐(アラハバキ)秘史-「東日流外三郡誌」の泥濘』批評社、1999年
* 治安フォーラム別冊『過激派事件簿40年史』[[立花書房]]、2001年
* 東アジア反日武装戦線への死刑・重刑攻撃とたたかう支援連絡会議編『でもわたしには戦が待っている 斎藤和「東アジア反日武装戦線大地の牙」の軌跡』風塵社、2004年
* 朝日新聞取材班『「過去の克服」と愛国心』朝日新聞社、2007年
* [[森口朗]]『なぜ日本の教育は間違うのか ~復興のための教育学~』扶桑社、2012年
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* [[自虐史観]]
* [[反ユダヤ主義]]
* [[共産主義者同盟赤軍派より日帝打倒を志すすべての人々へ]]
 
== 外部リンク ==