「深夜の告白」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
ZéroBot (会話 | 投稿記録)
m r2.7.1) (ロボットによる 追加: cy:Double Indemnity (ffilm)
Sien101 (会話 | 投稿記録)
m編集の要約なし
25行目:
『'''深夜の告白'''』(しんやのこくはく、原題: ''Double Indemnity'')は、[[ビリー・ワイルダー]]監督の[[アメリカ合衆国の映画]](1944年[[パラマウント映画|パラマウント]]社作品。モノクロ)。日本では1953年に公開された。
 
[[フィルム・ノワール]]の古典として現在でも高く評価される。不倫による[[生命保険]]金[[殺人]]を取り上げた倒叙型[[サスペンス]]の先駆であり、その後の多くの映画・[[テレビドラマ]]に影響を与えた。
 
原作である[[ジェームズ・M・ケイン]]の小説『倍額保険』(1936年)は、保険会社勤務の経験を持つケインが、1927年に実際に起きた保険金殺人事件「[[ルース・スナイダー事件]]」<ref>1927年、[[ニューヨーク]]で主婦のルース・スナイダーが不仲な夫を騙して高額の生命保険(最大4万5000ドル、死因が事故・犯罪被害等の場合はその倍額以上が支払われる契約)をかけ、不倫相手のジャッド・グレイを共犯に巻き込んで、強盗殺人に偽装し夫を殺害した事件。偽装が稚拙で早期に真相発覚、ルースとグレイは逮捕されて[[死刑]]判決を受け、翌1928年に共に処刑された。女性主導の保険金殺人という当時珍しい犯罪であったたこと、またルースの[[電気椅子]]処刑の瞬間が立ち会った新聞記者に[[盗撮]]されて[[新聞]]紙面に掲載されたことで、この時代におけるセンセーショナルな犯罪事件として知られている。</ref>に触発されて執筆したものといわれる。「倍額保険」の題名は、[[自動車]]など他の交通機関に比べて乗車中の危険率が低い[[鉄道]]での死亡事故が起きた場合、通常の生命保険契約の倍の保険金が支払われる、という作中での設定による。
31行目:
== あらすじ ==
{{ネタバレ}}
[[Image:Double indemnity screenshot 8.jpg|left|thumb|300px|スタンウィック(左)とマクマレイ。映画中盤、ネフのアパートメント玄関でのシークエンス]]
深夜、車を蛇行させつつ保険会社のビルに乗り付けた男。彼はよろめきながら無人のオフィスにたどり着き、ディクタフォン(事務用録音機)をセットして、自らの罪の告白を始めた。
 
49行目:
* フィリス・ディートリクスン - [[バーバラ・スタンウィック]]: 実業家の後妻。元看護師。
* バートン・キーズ - [[エドワード・G・ロビンソン]]: 保険調査員。
* ジャディートリン氏 - [[ポータートムパワ]]: 事件初老の実業家。フィリス証人
* ローラ・ディートリクスン - [[ジーン・ヘザー]]: ディートリクスンと既に死亡した先妻との間の娘。フィリスの継子に当たる立場だが、フィリスを憎む。
* ディートリクスン氏 - [[トム・パワーズ]]: フィリスの夫。ローラの父。
* ニノ・ザケッティ - [[バイロン・バー]]: ローラの恋人。
* ジャクソン - [[ポーター・ホール]]: ディートリクスンが死亡した事件の証人。
 
== 主な受賞歴 ==
72行目:
ジェームズ・ケインの小説『倍額保険』を読んで、その内容を気に入ったワイルダーは、長くコンビを組んできた脚本家[[チャールズ・ブラケット]]に「これを映画化したい、シナリオにできるだろうか」と差し出した。
 
だがしかし、[[スクリューボール・コメディ]]の優れた書き手根は旧式な道徳主義者のブラケットは、この当時としては極めてインモラルな小説を一読するや「糞だな」と評し、脚本化をにべもなく拒否したという。
 
そこで映画会社と契約を結んだばかりのチャンドラーがワイルダーと組むことになった。しかし初老で気難しく、映画脚本は初挑戦のチャンドラーと、まだ30代で洒脱な性格、脚本家としては既に一流だったワイルダーは、およそ正反対のタイプで非常に折り合いが悪かった。「軽薄に見える」ワイルダーの言動に何かと機嫌を損ねるチャンドラーと、映画シナリオ執筆の流儀に通じていないチャンドラーの扱いに閉口するワイルダーとの軋轢は深刻で、執筆は難航したという。
 
しかもチャンドラーは、ジェームズ・ケインの作品が大嫌いであった(それでも仕事を受けたのは、カネ目当てで、映画会社と高額の報酬で脚本家契約を結んでいたからである)。とかく我の強いチャンドラーは、原作者のケインが同席した製作会議の席でも容赦なく原作を罵倒したとうが、ケインは賢明にも沈黙を守った。
 
ともあれ、この映画にはチャンドラー得意の鮮やかな修辞と、ワイルダー流の辛辣な人物造形(および、隠し味のユーモア)が随所に見られる。
95行目:
原作では「ウォルター・ネス」だった主人公は、ロサンゼルスに当時、偶然にも同姓同名の保険外交員が実在したことからトラブルを慮って「ネフ」に改名された。
 
当時、この、悪女の誘惑に屈し、破滅する主人公のオファーに応じる俳優はほとんどいなかった。多くの男優とそのマネージャーは、悪女の誘惑に屈して破滅するような「不道徳なアンチヒーロー」であるキャラクターを演じることによる、スターとしてのイメージダウンを怖れたのである。
 
当初は、主演に[[ポール・ダグラス]]を考えていたが、ダグラスが急死したため、最終的にワイルダーは、もっぱら凡庸なB級コメディ映画の主役専門だった二枚目[[フレッド・マクマレイ]]を強引に口説き落とし、ネフ役に据えた。マクマレイにとっては初のシリアスな主演映画となり、彼の新境地を開くことになった。
 
[[Image:Double indemnity screenshot 7.jpg|right|thumb|300px|エドワード・G・ロビンソン]]
行動的な調査員・キーズを演じたエドワード・G・ロビンソンは、ギャング役で鳴らした大スターとして知られるが、知識人・労働者、善人・悪人の何れもこなせる万能型の性格俳優であった。短躯でダミ声の強面である彼は、本作では[[葉巻]]片手に圧倒的な早口で喋りまくり、ユーモアをも交えた緩急に富む演技で、この重苦しい作品の息抜き役ともなっている。ネスと悪女フィリスの関係が破滅の道へ陥っていくのと対照的に、ネとキーズの「男の友情」は全編に貫かれ、ラストシーンに至って、物語に深い余韻を残した。
 
== 評価 ==
106行目:
{{wikiquote|en:Double Indemnity}}
公開時は「倫理的に許し難い映画」という保守派の批判もあったが、戦時中の不安な世相の中で、観客の嗜好に合致したこともあり、大好評を博した。
ある種の「掟破り」ともいえ、以後『[[郵便配達は二度ベルを鳴らす (1946年の映画)|郵便配達は二度ベルを鳴らす]]』<ref>原作はジェームズ・ケインの1934年発表の小説。「倍額保険」に先立つケインの出世作で、モチーフも類似する。</ref>(1946年 監督[[テイ・ガーネット]]。1946)など、当時としてはインモラルなテーマの映画をハリウッドに輩出するきっかけともなった。
 
1946年にはフランスで公開され、早くから「[[フィルム・ノワール]]」の代表例として認識されることになった。