「時刻系」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
1行目:
'''時刻系'''(じこくけい)とは[[時間]]が経過する歩度、もしくは[[時刻]]、またはその両方の基準である。例えば、常用時の基準は時間間隔とその日の時刻の両方を規定する。
 
歴史的には、時刻系は[[地球]]の[[自転]]周期に基づいていた。しかし地球が自転する速度は一定ではない。そこで地球自転に基づく基準は最初、地球の[[公転]]周期を用いた基準に置き換えられた。しかし地球の軌道は[[楕円]]であり、[[太陽]]に近い位置では地球の公転は速くなり公転速度も結局は一定ではない。比較的最近になると、時間間隔の基準は地球の自転や公転の速度に基づく過去の基準に代わって非常に正確で安定している[[原子時計]]に基づく基準に置き換えられている。
6行目:
 
==時刻の表現==
時刻系は[[時刻]]の基準であり、時刻を表現(例えば[[グレゴリオ暦]]の[[]][[]][[]][[]][[]][[]]の値を書き下す)する際は、時刻系を指定する必要がある。同一時刻でも、用いる時刻系によって異なる表現となる。例えば'''[[協定世界時]]'''('''UTC''')と'''[[国際原子時]]'''('''TAI''')とでは2010年3月現在、UTCによる時刻はTAIのそれより正確に34秒遅れた値となる。
 
==時刻系の例==
=== [[太陽時]] ===
*'''[[太陽時]]'''は太陽日、すなわちある日の[[正午]]から次の正午までの時間間隔に基づいている。1太陽日は平均すると約24時間である。しかし地球が太陽を公転する軌道は[[楕円]]であり、また太陽日には観測者の[[緯度]]に依存する変動があるために太陽時は平均太陽時に比べて最大約15分ずれる。他にも[[地軸]]のふらつきなど別の[[摂動]]があるが、これらの大きさは1年に1秒以内である。
*'''[[恒星時]]'''は[[恒星]]によって決まる時刻である。恒星日は地球が恒星に対して1回自転するのに要する時間である。1恒星日は約23時間56分4秒である。
*'''[[グリニッジ標準時]]'''('''GMT''')は[[本初子午線]]での時刻である。GMTは国際的な時刻基準として使われた。技術的に言えばこの目的のGMTは既に存在していないが、[[世界時]]が本質的にかつてのGMTを受け継いでいる。グリニッジ標準時は常用時(civil time)の国際基準としても使われた。この意味でもGMTは技術的にはもはや存在しないが、GMTという語は現在の国際基準であるUTCの同義語として今でも使われている。現在でのGMTは厳密には時刻帯の名称としてのみ存在している。
*'''[[国際原子時]]'''('''TAI''')はUTCを含む他の時刻基準の計算の基となる基礎的な国際時刻基準である。地球表面([[ジオイド]]面)上の[[座標時]]の実現と位置付けられる。TAIは[[国際度量衡局]](BIPM)によって維持されており、環境的・[[相対性理論|相対論]]的効果を補正された世界中の数多くの原子時計の入力を合成して作られている。また複数の原子時計の値を較正せず、単に平均して得られる原子時を[[自由原子時]](EAL)と呼ぶ。
*'''[[世界時]]'''('''UT''')は[[平均太陽日]]に基づいた時間尺度である。平均太陽日は地球回転の変動を可能な限り補正して一様に進むように定義した太陽日である。
**'''UT0'''は特定の観測地での地球自転に基づく時刻である。UT0は恒星や地球外の[[電波源]]の[[日周運動]]の観測から得られる。
**'''UT1'''はUT0から観測地の[[経度]]に表れる[[極運動]]の効果を補正して計算される。UT1は地球の自転に不規則性があるために一様な歩度からずれる。
**'''[[協定世界時]]'''('''UTC''')はTAIから整数秒だけずれている。UTCは[[閏秒]]という1秒を必要に応じて導入することでUT1との差が0.9秒以内に保たれている。今日まで挿入された閏秒は常に正の値であった。
*'''[[GPS時]]'''('''GPST''')は[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]で用いられる[[原子時]]。
 
=== [[恒星時]] ===
ある地域の'''地方時'''または'''常用時'''は、一日の始まりがその場所での深夜に始まるようにUTCに対して四捨五入された固定値(通常は1時間の整数倍)だけずれている時刻である。詳しくは[[標準時]]を参照のこと。また一年に2回、時刻を特定値(通常は1時間)だけ変更する場合がある。これについては[[夏時間]]を参照のこと。
*'''[[恒星時]]'''は[[恒星]]によって決まる時刻である。[[恒星日]]は地球が恒星に対して1回自転するのに要する時間である。1恒星日は約23時間56分4秒である。
 
=== [[グリニッジ標準時]](GMT) ===
==惑星運動の計算に用いられる時刻系==
*'''[[グリニッジ標準時]]'''('''GMT''')は[[本初子午線]]での時刻である。GMTは国際的な時刻基準として使われた。技術的に言えばこの目的のGMTは既に存在していないが、[[世界時]]が本質的にかつてのGMTを受け継いでいる。グリニッジ標準時は常用時(civil time)の国際基準としても使われた。この意味でもGMTは技術的にはもはや存在しないが、GMTという語は現在の国際基準であるUTCの同義語として今でも使われている。現在でのGMTは厳密には[[時刻帯]]の名称としてのみ存在している。
[[暦表時]]・[[力学時]]・[[座標時]]はすべて[[惑星]]の運動を計算するための一様な時刻を与える時刻系である。
 
=== [[国際原子時]](TAI) ===
*'''[[暦表時]]'''('''ET''')は暦表秒、すなわち[[回帰年]]のある整数分の1で定義された秒に基づく時刻系であったが、1984年に廃止され、現在は使われない。暦表秒は[[1956年]]から[[1967年]]まで[[国際単位系|SI]]秒の基準であった。暦表時(ET)は地球表面での用途については[[地球力学時]](TDT)で置き換えられ、TDTはその後さらに[[地球時]](TT)として再定義された。暦表時(ET)は[[天体暦]]の計算用途には、[[太陽系力学時]](TDB)で置き換えられた。しかしTDBの定義では不足があったため[[太陽系]]全体での用途については[[太陽系座標時]](TCB)で、また地球近傍での用途には[[地球座標時]](TCG)で再度置き換えられた。実際には天体暦の計算はT<sub>eph</sub>と呼ばれる、太陽系座標時(TCB)と線形的に関係する時刻が使われているが、これは公式には定義されていない。
*'''[[国際原子時]]'''('''TAI''')はUTCを含む他の時刻基準の計算の基となる基礎的な国際時刻基準である。地球表面([[ジオイド]]面)上の[[座標時]]の実現と位置付けられる。TAIは[[国際度量衡局]](BIPM)によって維持されており、環境的・[[相対性理論|相対論]]的効果を補正された世界中の数多くの[[原子時計]]の入力を合成して作られている。また複数の原子時計の値を較正せず、単に平均して得られる[[原子時]]を[[自由原子時]](EAL)と呼ぶ。
 
=== [[世界時]](UT) ===
*'''[[世界時]]'''('''UT''')は[[平均太陽日]]に基づいた時間尺度である。平均太陽日は地球回転の変動を可能な限り補正して一様に進むように定義した[[太陽日]]である。
**'''UT0'''は特定の観測地での[[地球自転]]に基づく時刻である。UT0は恒星や地球外の[[電波源]]の[[日周運動]]の観測から得られる。
**'''UT1'''はUT0から観測地の[[経度]]に表れる[[極運動]]の効果を補正して計算される。UT1は地球の自転に不規則性があるために一様な歩度からずれる。
 
=== [[協定世界時]](UTC) ===
*'''[[地球力学時]]'''('''TDT'''、[[:en:Terrestrial Time#History]])は暦表時(ET)に代わる時刻系で、暦表時との連続性を維持していた。TDTは一様に進む原子時(TAI)に基づく時間間隔を持ち、SI秒を単位とした。TDTはTAIと結び付いていたがTAIの原点の定義には若干任意性があったため、TDTはTAIと32.184秒という定数秒だけ、ずれを持たせていた。このずれによって暦表時との連続性が保たれた。地球力学時(TDT)は1991年に[[地球時]](TT)として再定義されたので、現在では使われていない。
**'''[[協定世界時]]'''('''UTC''')はTAIから整数秒だけずれている。UTCは[[閏秒]]という1秒を必要に応じて導入することでUT1との差が0.9秒以内になるように保たれている。今日まで挿入された[[閏秒]]は常に正の値であった。
 
=== [[GPS時]](GPST) ===
*'''[[GPS時]]'''('''GPST''')は[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]で用いられる[[原子時]]。
ある地域の'''地方時'''または'''常用時'''は、一日の始まりがその場所での深夜に始まるようにUTCに対して[[四捨五入]]された固定値(通常は1時間の整数倍)だけずれている時刻である。詳しくは[[標準時]]を参照のこと。また一年に2回、時刻を特定値(通常は1時間)だけ変更する場合がある。これについては[[夏時間]]を参照のこと。
 
== 惑星運動の計算に用いられる時刻系 ==
*'''[[地球時]]'''('''TT'''、[[:en:Terrestrial Time|Terrestrial Time]])は、1991年まで地球力学時('''TDT'''、[[:en:Terrestrial Time#History]])と呼ばれていた時刻系を再定義したものである。地球時(TT)は現在は[[地球]]表面(正確には[[ジオイド]]表面上)での[[座標時]]である。TT = TAI + 32.184秒(正確に)である[http://aa.usno.navy.mil/faq/docs/TT.php]。ここでTAIは[[国際原子時]]である。[[天文学]]で用いられる[[元期]][[J2000.0]]は、[[ユリウス日]]で2451 545.0 TT、又は 2000年1月1日12h TTである。この元期J2000.0は、[[国際原子時]]では2000年1月1日11:59:27.816 TAI、[[協定世界時]]では2000年1月1日11:58:55.816 UTC と換算される。
[[暦表時]]・[[力学時]]・[[座標時]]はすべて[[惑星]]の運動を計算するための一様な[[時刻]]を与える時刻系である。
現在では、[[地球時]](TT)は地球表面([[ジオイド]]表面上)での時刻、[[地心座標時]](TCG)は地球中心での座標時、[[太陽系座標時]](TCB)は太陽系の重心での座標時、そして[[太陽系力学時]](TDB)は太陽系重心での力学時である。
 
=== [[暦表時]](ET) ===
'''[[暦表時]]'''('''ET''')は暦表秒、すなわち[[回帰年]]のある整数分の1で定義された秒に基づく時刻系であったが、1984年に廃止され、現在は使われない。暦表秒は[[1956年]]から[[1967年]]まで[[国際単位系|SI]]秒の基準であった。
 
地球表面での用途については、暦表時(ET)は[[地球力学時]](TDT)で置き換えられ、TDTはその後さらに[[地球時]](TT)として再定義された。
*'''[[太陽系力学時]]'''('''TDB'''、[[:en:Barycentric Dynamical Time|Barycentric Dynamical Time]])は[[地球力学時]](TDT)と同様の時刻系だが、原点を太陽系重心に移すための[[相対論]]的補正を含んでいる。太陽系力学時(TDB)は[[地球時]](TT)に対して周期的項のみ異なっている。この差は最大でも10ミリ秒程度で、多くの用途では無視できる。[[1991年]]に、時空座標の間の関係を明確にするために異なる[[座標系]]に基づく新たな時刻系が導入された。
 
*'''[[天体表時]]'''('''ET''')は暦表秒、すなわち[[回帰年]]のある整数分の1で定義された秒に基づく時刻系であったが、1984年に廃止され、現在は使われない。暦表秒は[[1956年]]から[[1967年]]まで[[国際単位系|SI]]秒の基準であった。暦表時(ET)は地球表面での計算用途について[[地球力学時]](TDT)で置き換えられTDTはその後さらに[[地球時]](TT)として再定義された。暦表時(ET)は[[天体暦]]の計算用途には、[[太陽系力学時]](TDB)で置き換えられた。しかしTDBの定義では不足があったため、TDBは更に、地球近傍での用途には[[地球座標時]](TCG)で置き換えられ、[[太陽系]]全体での用途については[[太陽系座標時]](TCB)で、また地球近傍での用途には[[地球座標時]](TCG)で再度置き換えられた。実際には天体暦の計算はT<sub>eph</sub>と呼ばれる、太陽系座標時(TCB)と線形的に関係する時刻が使われているが、これは公式には定義されていない。
 
=== [[地球力学時]](TDT) ===
現在では、[[地球時]](TT)は地球表面([[ジオイド]]表面上)での時刻、[[地心座標時]](TCG)は地球中心での座標時、[[太陽系座標時]](TCB)は太陽系の重心での座標時、そして[[太陽系力学時]](TDB)は太陽系重心での力学時である。
*'''[[地球力学時]]'''('''TDT'''、[[:en:Terrestrial Time#History]])は暦表時(ET)に代わる時刻系で、暦表時との連続性を維持していた。TDTは一様に進む原子時(TAI)に基づく時間間隔を持ち、SI秒を単位とした。TDTはTAIと結び付いていたがTAIの原点の定義には若干任意性があったため、TDTはTAIと32.184秒という定数秒だけ、ずれを持たせていた。このずれによって暦表時との連続性が保たれた。地球力学時(TDT)は1991年に[[地球時]](TT)として再定義されたので、現在では使われていない。
 
=== [[地球時]](TT) ===
*'''[[地球時]]'''('''TT'''、[[:en:Terrestrial Time|Terrestrial Time]])は、1991年まで地球力学時('''TDT'''、[[:en:Terrestrial Time#History]])と呼ばれていた時刻系を再定義したものである。地球時(TT)は現在は[[地球]]表面(正確には[[ジオイド]]表面上)での[[座標時]]である。TT = TAI + 32.184秒(正確に)である[http://aa.usno.navy.mil/faq/docs/TT.php]。ここでTAIは[[国際原子時]]である。[[天文学]]で用いられる[[元期]][[J2000.0]]は、[[ユリウス日]]で2451 545.0 TT、又は 2000年1月1日12h TTである。この元期J2000.0は、[[国際原子時]]では2000年1月1日11:59:27.816 TAI、[[協定世界時]]では2000年1月1日11:58:55.816 UTC と換算される。
 
=== [[太陽系力学時]](TDB) ===
*'''[[地心座標時]]'''('''TCG'''、[[:en:Geocentric Coordinate Time|Geocentric Coordinate Time]])は地球の重心に空間座標の原点を持つ座標時である。TCGはTTと以下の式で線形に結び付いている。
*'''[[太陽系力学時]]'''('''TDB'''、[[:en:Barycentric Dynamical Time|Barycentric Dynamical Time]])は[[地球力学時]](TDT)と同様の時刻系だが、原点を太陽系重心に移すための[[相対論]]的補正を含んでいる。太陽系力学時(TDB)は[[地球時]](TT)に対して周期的項のみ異なっている。この差は最大でも10ミリ秒程度で、多くの用途では無視できる。[[1991年]]に、時空座標の間の関係を明確にするために異なる[[座標系]]に基づく新たな2つの時刻系(地心座標時(TCG)と太陽系座標時(TCB))が導入された。
 
=== [[地心座標時]](TCG) ===
*'''[[地心座標時]]'''('''TCG'''、[[:en:Geocentric Coordinate Time|Geocentric Coordinate Time]])は地球の重心に空間座標の原点を持つ座標時である。TCGはTTと以下の式で線形に結び付いている。
:TCG-TT=<var>L<sub>G</sub></var>*(JD -2443 144.5)*86 400秒
::ここでスケール差<var>L<sub>G</sub></var>は6.969 290 134 ×10<sup>-10</sup>と定義される。
 
=== [[太陽系座標時]](TCB) ===
 
*'''[[太陽系座標時]]'''('''TCB'''、[[:en:Barycentric Coordinate Time|Barycentric Coordinate Time]])は太陽系重心に空間座標の原点を持つ座標時である。TCBはTTと歩度や他の周期項が異なっている。周期項を無視し、長い期間にわたって平均すると両者は以下の関係にある
:TCB-TT=<var>L<sub>B</sub></var>*(JD -2443 144.5)*86 400秒
::IAUによるスケール差<var>L<sub>B</sub></var>の最も良い評価値は1.550 519 767 72 ×10<sup>-8</sup>である。
59 ⟶ 74行目:
 
==その他の時刻==
=== [[ユリウス通日]](AJD) ===
*'''[[ユリウス通日]]'''('''AJD''')は[[紀元前5千年紀|紀元前4713年]][[1月1日]]のGMTでの[[正午]]から数えた経過日数である。通常は直前の正午からの経過時間を日の小数で表す。これ[[正午]]を起点にしたの天文学、通常は夜間便利なよに、[[天文観測]]の便を考えて、夜間に日が変わることを防ぐ目的で決めれてようにするためである。
**'''修正ユリウス日'''('''MJD''')はMJD=AJD-2400000.5で定義される。それゆえMJDでの1日は常用日と同じく深夜から始まる。ユリウス日はUT, TAI, TDTなどを使って表せるため、正確に表す際には例えば「MJD 49135.3824 TAI」などと表す。
 
*'''[[地磁気地方時]]'''('''MLT''')は地球の磁軸を基準に定めた時刻系である。電離層や磁気圏の研究で用いられる。
=== 修正ユリウス日(MJD) ===
**'''修正ユリウス日'''('''MJD''')はMJD=AJD-2400000.5で定義される。それゆえMJDでの1日は常用日と同じく深夜([[:en:midnight|midnight]])から始まる。ユリウス日はUT, TAI, TDTなどを使って表せるため、正確に表す際には例えば「MJD 49135.3824 TAI」などと表す。
 
=== [[地磁気地方時]](MLT) ===
*'''[[地磁気地方時]]'''('''MLT''')は地球の[[磁軸]]を基準に定めた時刻系である。[[電離層]][[磁気圏]]の研究で用いられる。
 
== 参考文献 ==
<references />
 
*''Explanatory Supplement to the Astronomical Almanac,'' P. K. Seidelmann, ed., University Science Books, 1992, ISBN 0-935702-68-7
 
==関連項目==