「中国産食品の安全性」の版間の差分

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農家 (会話 | 投稿記録)
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== 中国国内の概況 ==
[[中華人民共和国|中国]]の主要な[[農産物]]には[[米]]、[[トウモロコシ]]、[[コムギ|小麦]]、[[大豆]]、[[綿]]、[[リンゴ]]<ref>USDA.[http://www.ers.usda.gov/briefing/china/keystatistics.htm "China - Key Statistics"] and [http://www.fao.org/es/ess/top/country.html;jsessionid=93CD1398BDF8721D9BD4C12D18EE569E?lang=en&country=351&year=2005 "China - Key Statistics"]. 2005.</ref>、主要な[[畜産]]物は[[豚肉]]、[[牛肉]]、[[乳製品]]と[[卵]]などがある<ref>USDA. [http://www.ers.usda.gov/briefing/china/keystatistics.htm "China - Key Statistics"]</ref>。中国の農業のシステムはそのほとんどが小さな地主農家<ref>Food and Agriculture Organization of the United Nations. [http://www.fao.org/DOCREP/003/Y1860E/y1860e08.htm#P1_1 "East Asia"]</ref>と自給自足の農家によって成り立っている。しかし中国の耕作可能地は他国より狭く、農家は高い生産性を維持するため肥料と農薬を集中的に使用している<ref>Gale, Fred. "China at a Glance: A Statistical Overview of China's Food and Agriculture." April 2002. [http://www.ers.usda.gov/publications/aib775/aib775e.pdf Agricultural Information Bulletin No. AIB775]</ref>。食品は海外市場と都市部のスーパーマーケットに出荷され、1990年代後半には中国の農場は特定の作物用により専門化され、地方の市場は国内外の市場により強く連結された。しかし、地方当局のほとんどは中央政府が介入しない限り、大まかな規制しか行っていない<ref>Gale, Fred. "Regions in China: One Market or Many?." April 2002. [http://www.ers.usda.gov/publications/aib775/aib775i.pdf Agricultural Information Bulletin No. AIB775]</ref>。
 
中国の[[社会主義]][[計画経済]]時代には、食料政策は品質面よりも量的確保が重視されたため、衛生面は軽視され、制度的整備も十分ではなかった<ref name="review47"/>。[[改革開放]]以降の1995年になってようやく[[食品衛生法]]が制定された<ref name="review47"/>。経済成長にともない中国の生産物や食品は海外市場と都市部のスーパーマーケットに出荷されるようになり、1990年代後半には中国の農場は特定の作物用により専門化され、地方の市場は国内外の市場により強く連結されるようになった。しかし、地方当局は中央政府が介入しない限り、大まかな規制しか行ってこなかった<ref>Gale, Fred. "Regions in China: One Market or Many?." April 2002. [http://www.ers.usda.gov/publications/aib775/aib775i.pdf Agricultural Information Bulletin No. AIB775]</ref>。中国は2001年に[[WTO]]に加盟するが、その翌年の2002年の中国の食品工業の生産高は1兆元程度だった<ref name="review47">[http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/review/pdf/primaffreview2012-47-4sec.pdf]河原昌一郎「中国の食品安全問題」農林水産政策研究所レビューNo.47 (2012年5月31日)。
</ref>。しかし2009年には約5兆元となり7年で5倍となった<ref name="review47"/>。なかでも肉製品、乳製品、缶詰の生産額が増大し、中国都市部の食生活は高度化し、また多様化が急速に進んだ<ref name="review47"/>。
 
中国政府は2000年頃より食品輸出促進のための政策をとるようになり、[[先進国]]をはじめとする[[国際社会]]の食品安全基準は中国を[[貿易]][[差別]]するもので「緑色貿易障壁」だと称して国際社会を攻撃したが、その後、国家品質監督検査検疫総局(質検総局)などを創設するなど制度整備に急速に取り組むようになった<ref name="review47"/>。輸出食品の品質向上が優先される一方、国内の食品安全対策は遅れたままとなり、2000年代、2010年代には様々な食品汚染問題が中国国内および海外での輸出品目においても多発するようになった<ref name="review47"/>。
 
=== 毒菜(問題菜)と香港 ===
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=== 食の安全性をめぐる事件の相次ぐ発覚 ===
中国における食品生産システムの変化、また収入の増加をした都市部の消費者が生活の質への向上もより強く求められるようになってきたなか、経済的利益追求のために悪徳業者が横行し、人体に健康被害をもたらす有害な食品が多数流通するといった食品への安全性の認識を高めるきっかけとなる事件が多数報道されていく。以下、事例の詳細は[[#事例]]を参照。
 
2003年には各国で使用が禁止されている[[DDT]]が中国茶から検出され(2005年にも検出)、2004年に[[安徽省]]偽[[粉ミルク]]による幼児が死亡する事件が発生、また[[成都市]]や[[四川省]]で作られた漬物から[[残留農薬]]が検出され、また理髪店から回収された人毛から[[アミノ酸]]抽出加工して作られた[[人毛醤油]]が日本など外国へ輸出されていると[[中国中央電視台]]が放映した。2005年には禁止されている着色料[[スーダンレッド]]が使用されていることが判明した。2008年9月には、[[甘粛省]]で[[メラミン]]で汚染された粉ミルクが発覚し、国際社会も輸入停止措置を行った。
 
こうした事件が相次ぐなか中国の国民のなかで食品の品質、安全性、加工過程の安全に関する要求も高まり、都市部の居住者やスーパーマーケットは中国政府やメディアの食品問題に対する姿勢に関心を払うようになってきた<ref>Gale, Fred. "Chinese Household Food Spending and Income." January, 2007. [http://www.ers.usda.gov/publications/err32/err32e.pdf Economic Research Report ERR-32]</ref>。世論調査によると、中国産食品の安全性に対し日本では96%、中国でも79%の人が不安を感じている<ref>[http://www.jacom.or.jp/news/news09/nous101s09010704.html]</ref>。
 
中国政府は対応を迫られ、衛生管理を強化したり、事件等の調査などに取り組んでいる([[#中国政府の対応]]参照)、2003年3月に国家食品医薬品監督管理局を設置し、「食品安心工程」「食品安全行動計画」などを公表、2007年には国家食品薬品安全第11期5カ年計画が発表された。2009年2月には食品安全法が施行された
 
しかし、その後も中国国内での食品問題は続出し、[[2010年]]には[[下水道]]の[[汚水]]を[[精製]]した[[地溝油]](ちこうゆ)<ref name="review47"/>という油を[[食用油]]として中国全土の飲食店で多数使われていたことや、2011年2月には中国で[[カドミウム]]を含んだ[[米]]が流通していたことがわかり、さらに中国で生産された米の10%がカドミウム汚染米になっていると中国政府調査や研究者による調査で明らかになった<ref name="review47"/>。このほかにも、肉を赤くするために染料など有害な物質を使用した「赤身化剤肉」([[呼吸困難]]で死亡することも)、重量を重くするために水を注入した「注水肉」なども流通している<ref name="review47"/>。中国衛生部弁公庁による2010年の[[食中毒]]調査では微生物性食中毒が4585人、化学性食中毒が682人、有毒動植物食中毒が1151人であった<ref name="kawahara2"/>。キノコからは[[ホルムアルデヒド]]が検出された<ref>李銅山(2009)『食用農産品安全研究』</ref><ref name="kawahara2"/>。
 
2011年に中国国家統計局黒竜江省によるハルピンでの世論調査では71%が中国産食品に失望していると回答した<ref name="kawahara2">[http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/pdf/cyugoku_sec.pdf]河原昌一郎「中国の食品安全制度-食品安全に関する中国の現状と取組-」2012年10月2日,農林水産政策研究所。</ref><ref name="review47"/>。
 
このように中国国内でも野菜、コメ、果物、茶葉などの残留農薬<ref name="kawahara2"/>、高毒農薬検出、違法添加物の使用、重金属汚染等による有毒食品、動物用医薬品や抗生物資などの超過残留などの事例発生が後を絶たず、また、工場からの排ガス・排水等による河川汚染、[[土壌汚染]]などの環境汚染によって、汚染農産物が生産され輸出もされている<ref name="review47"/>。2009年の李銅山の調査では重金属汚染耕地は2000万ha、農薬汚染耕地は900万ha、汚水灌漑汚染耕地は216.67万ha、大気汚染耕地は533.33万ha、個体廃棄物堆積・毀損耕地は13.33万haとなっている<ref name="kawahara2"/>。また、中国での水質調査では中国の河川70%が工場廃水によって汚染されており、そのうち40%は基本的に使用できない状態であり、また都市部を流れる川の95%が重度の汚染状態にあると報告された<ref name="kawahara2"/>。2013年3月23日の中国中央電視台の番組では、上海市の[[黄浦江]]で病死した豚が1万5000頭漂流した事件、および病死した豚を買い付け転売する違法業者についても報道され、河川汚染が指摘された<ref>「違法業者の摘発が生み出した上海市の漂流ブタ=中国テレビ局が特集―中国」レコードチャイナ2013年3月25日。</ref>。
 
このような食品汚染問題で最大の要因が企業モラルにあるとされる<ref name="review47"/>。企業モラルを高度に維持することで食品安全を確保するには、政府の指導、[[消費者]]の監視、企業の自覚の3つが欠かせないが、中国では、政府系企業が中国共産党の指導下になっているケースが多く、そのため企業への政府の指導が癒着などで厳正に行われないこともあり、また消費者がそうした企業を批判する自由にも実質的な制約がある<ref name="review47"/>。中国における食品の安全性確保のためには、[[行政]]と[[企業]]の分離や、適正な社会的[[監視]]等が必要と指摘されている<ref name="review47"/>。中国国内での食品安全の検査監督は衛生部と農業部が主な機関であるが、2012年時点でも検査体制の整備は十分ではない<ref name="review47"/>。
しかし、その後も中国国内での食品問題は続出し、[[2010年]]には[[下水道]]の[[汚水]]を[[精製]]した[[食用油]]([[地溝油]])が中国全土の飲食店で多数使われていたことや、2011年2月には中国で[[カドミウム]]を含んだ[[米]]が流通していたことがわかった。
 
== 国際社会の反応 ==