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{{POV|date=2007年1月}}
'''デイヴィッド・ライマー'''('''David Reimer'''、[[1965年]][[8月22日]] - [[2004年]][[5月45日]])は、生まれた時は男だったが、割礼手術の失敗により[[陰茎]]の大部分を失う。その後、心理学者および性科学者のジョン・マネーの独断で性転換手術が執行され少女として育てられた[[カナダ]]人である。学会では彼の性転換手術のその後の適応は大成功と報告され、性差が文化的なものによって構成されるとの理論の証明例として大きく取り上げられ、女性学では特に大きく扱われた。しかし実際は女性として育てる試みは失敗しており、14歳で彼は男性に戻っていたのだがこの事実が学会に知られるのは1980年代の頃である。彼は、自分自身と似た症例に対する治療法(陰茎をなんらかの理由で損傷した幼児に性転換手術を施して女性として育てる)を止めさせるために、自分の生い立ちを公表したと述べている。
 
その後ライマーは自殺。現在では医学会では性転換手術を本人の同意を得ずに医師が勝手に行ってはならないという鉄則を示すための悲劇的な例として引用される。またこれまでは女性学のジェンダー論の根拠として扱われていたケースが実は悲劇的な結果を生んでいた事実が明らかになったことにより、男女の心理的、行動学的な差があくまでも文化的なものであるとの主張は急速にその支持を失っていく。
 
==生涯==
===誕生===
 
===誕生===
デイヴィッド・ライマーは、[[1965年]][[8月22日]]に[[カナダ]]の[[マニトバ州]][[ウィニペグ]]で、父親ロン・ライマーと母親ジャネット・ライマーの[[一卵性双生児]]の兄として生まれた。彼(デイヴィッド・ライ)はブルース、そして弟はブライアンと名づけられた。生まれて6ヶ月経った時、ブルースとブライアンは小便する時に痛みを訴えるようになり、病院で彼らは包茎と診断された。彼らは、8ヶ月の時に、[[割礼]]のためにセント・ボニフェイス病院に紹介された(代替医療法が試みられたかどうかは知られていない)。[[1966年]][[4月27日]]、[[外科医]]ジャン=マリー・ヒュートと麻酔専門医マックス・チャムが担当する手術は普通のメスではなく、[[電気焼灼器]]によって行われた(電気焼灼器は手足と生殖器に対して用いられる手術器具ではなかった)。電気焼灼器を使用した医療ミスにより、ブルースの陰茎の大部分は焼かれてしまった。この事故より、この後に行われる予定だったブライアンの割礼は中止された。そして、ブライアンはそれ以上の治療なしで、包茎症状は回復してしまった。つまり、ブルースの割礼手術は不必要な手術だった。
 
===ブレンダとしての人生===
ブルース(デイヴィッド・ライマー)の両親は、陰茎を失ったブルースのこれからの人生や性機能についての相談のために、[[ボルチモア]]にある[[ジョンズ・ホプキンス大学]]病院の[[:en:John Money|ジョン・マネー]]のところへ行った。マネーは[[半陰陽]]者の研究に基づいた性進歩と[[ジェンダーアイデンティティ]]の分野の開拓者とみなされている性科学者であり、その分野での権威だった。両親が悩んでいた当時、ブルースの医者達が時々口にしていたブルースを救うかもしれない人物、ジョン・マネーはカナダのTVテレビにも登場し、性転換手術を施された男性であった女性や彼の説を語っていたりしていた。
ジョン・マネーたちは、ブルースの両親に「ブルースを女性として育てることがブルースの将来のためになる」と説得した。そして、ブルースは1歳10ヶ月の時に陰茎や睾丸を去勢された。ブルースは女性としての名前'''ブレンダ'''を与えられた。その後数年間、ジョン・マネーたちによってブレンダは「自己を女性と認識する」ようにさせる心理的な治療を受け続けられた。マネーはブレンダの親に対しても、家庭内のブレンダとブルースに対する教育方針などを指導していた。
ジョン・マネーにとってはブレンダは格好の実験材料([[テンジクネズミ|モルモット]])だった。なぜなら、その当時、マネーは「性別を自己認識する要因は後天性(環境)」という説の強力な支持者だった。ブレンダとブライアンは[[デオキシリボ核酸|DNA]]も全く同じ双子で、同じ時期に母親の胎内で同じ成分の[[ホルモン]]を与えられた。そして、性別の自己認識が出来てない時期(マネーの説によれば、3歳まで)に一方は男(ブライアン)、一方は女(ブレンダ)として育て上げることができる。これはマネーの人体実験にとって最高の比較材料ともいえる。もしも、ブレンダが自分のことを女性として人生を送るようになれば、「性別を自己認識する要因は先天性(遺伝子)ではなく、後天性である」というマネーの説が正しいと証明されるからである。
また、ジョン・マネーは診療を受けに来る子供・親達に対して、子供に性的自己認識を起こさせるために早期の擬似性体験を奨励していた。性に関する言葉や裸体の男女の写真などを子供達に示し自らも実践を行なっていた。
 
ジョン・マネーたちは、ブルースの両親に「ブルースを女性として育てることがブルースの将来のためになる」と説得した。そして、ブルースは1歳10ヶ月の時に陰茎や睾丸を去勢された。ブルースは女性としての名前'''ブレンダ'''を与えられた。その後数年間、ジョン・マネーたちによってブレンダは「自己を女性と認識する」ようにさせる心理的な治療を受け続けられた。マネーはブレンダの親に対しても、家庭内のブレンダとブルースに対する教育方針などを指導していた。
しかし、ジョン・マネーの診察にもかかわらず、ブレンダは自分のことを「女の子」だとは一度も思わなかった。彼女は男の子が遊ぶような遊びをし、人形ではなく車や飛行機などの玩具に興味を持っていた。小学校に入ると、仲間により「変な女の子」としていじめられていた。フリルがついているドレスや[[女性ホルモン]]治療なども、自分自身を女性だとは感じさせなかった。そして、スカートや髪を長く伸ばしたり、女の子のように歩くのも大嫌いだった。しかし、マネーはこのブルースの母親から受けていた事実の報告を公表せず「ブレンダは女の子として順調に育っている」と発表するのみだった。
 
ジョン・マネーにとってはブレンダは格好の実験材料([[テンジクネズミ|モルモット]])だった。なぜなら、その当時、マネーは「性別を自己認識する要因は後天性(環境)」という説の強力な支持者だった。ブレンダとブライアンは[[デオキシリボ核酸|DNA]]も全く同じ双子で、同じ時期に母親の胎内で同じ成分の[[ホルモン]]を与えられた。そして、性別の自己認識が出来てない時期(マネーの説によれば、3歳まで)に一方は男(ブライアン)、一方は女(ブレンダ)として育て上げることができる。これはマネーの人体実験にとって最高の比較材料ともいえる。もしも、ブレンダが自分のことを女性として人生を送るようになれば、「性別を自己認識する要因は先天性(遺伝子)ではなく、後天性である」というマネーの説が正しいと証明されるからである。
 
また、ジョンマネーは診療を受けに来る子供・親達に対して、子供に性的自己認識を起こさせるために早期の擬似性体験を奨励していた。性に関する言葉や裸体の男女の写真などを子供達に示し自らも実践を行なっていた。
 
しかし、ジョンマネーの診察にもかかわらず、ブレンダは自分のことを「女の子」だとは一度も思わなかった。彼女は男の子が遊ぶような遊びをし、人形ではなく車や飛行機などの玩具に興味を持っていた。小学校に入ると、仲間により「変な女の子」としていじめられていた。フリルがついているドレスや[[女性ホルモン]]治療なども、自分自身を女性だとは感じさせなかった。そして、スカートや髪を長く伸ばしたり、女の子のように歩くのも大嫌いだった。しかし、マネーはこのブルースの母親から受けていた事実の報告を公表せず「ブレンダは女の子として順調に育っている」と発表するのみだった。
 
家族の生活は苦難に満ちていた。母親はマネーの指導に従い努力していたがことは好転しない。家族は一度は町を出る決心をして引っ越した。しかし、転居しても精神的に追い詰められていくばかりで、夫婦は妻の自殺未遂・離婚する寸前までいった。そして一家はまたウィニペグへ帰るのだった。
 
ジョンマネーは成長期にあったブレンダとその家族に、膣を造成する手術を受け女性としての外観を完成させるように迫っていた。しかし、ジョンズ・ホプキンス大学病院を訪れること、ジョンマネーに会うことをブレンダ自身が自殺をほのめかすほど猛烈に抵抗し、家族はジョンズ・ホプキンス大学への通院をやめた。そして、地元でカウンセリングを受けていた。
 
[[1978年]]、[[英国放送協会|BBC]]がジョン・マネーが世界に発表している双子に関してのドキュメンタリーの製作をはじめる。
[[1980年]][[3月19日]]、英国でThe First Question(Is it a boy or girl?)が放送される。顔・身分等を伏せてライマー夫婦も出演。性科学者[[ミルトン・ダイアモンド]]がコメンテーターとして選ばれるが、内容はダイアモンドとマネーの立場・バランス・問題の複雑さを配慮したものとなり、ブレンダ以外のケース、成功とされる例も一件紹介された(後に[[ジョン・コラピント]]にインタビューを受け、彼の著書の中に登場する)。放送後の世間の反応は、米国も含め予想外に静かなものであった。
 
===デイヴィッドとしての人生===
ブレンダは14歳の時、父親から出生は男であったことや手術の失敗により陰茎を失った事等、真実を聞かされた。その話を聞いたあと、ブレンダはすぐに男性に戻る事を決心した。男性に戻った後、新しい名前として、'''デイヴィッド'''と名乗るようになった(この名前は[[ダビデ]]に由来している)。
 
[[1990年]][[9月]]、デイヴィッドはジェーン・アン・フォンテーヌと結婚した。そして、彼はジェーンの子供の継父となった。
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両親との関係においてデヴィッドがその生涯を通じて悩み苦しみ続けていたが、このあまりに大きな困難に加え、2002年には双子の弟が抗うつ薬の大量摂取により死亡するという出来事と向き合わなくてはならず、更には、彼自身の失業と妻との結婚生活の破綻という問題も生じた。 2004年5月2日、妻ジェーンがデヴィッドに対して一時的に距離を置きたいという彼女の希望を伝えたところ、彼はそのまま家を飛び出し戻らなかった。2日後、ジェーンは警察からデヴィッドの所在を掴んだという電話連絡を受けたが、この時、デヴィッド自身は、自分の所在を妻に知らせることを望んでいなかった。最初の連絡から2時間後、再び警察からジェーンにかけられた電話はデヴィッドが自殺し死亡したことを告げるものとなった。自殺の直前、デヴィッドはショットガンを取りに自宅に戻っていた、その時ちょうどジェーンは家にいなかった。そして5月5日の朝、彼は食品雑貨店の近くの駐車場で彼の車を駐車し、その場で自分の頭を撃ち自殺した。<ref>{{cite news | url = http://slate.com/id/2101678/ | title = Gender Gap: What were the real reasons behind David Reimer's suicide?| last = Colapinto | first = J | authorlink = John Colapinto | work = [[Slate (magazine)|Slate]] | date = 2004-06-03 | accessdate = 2011-01-04 }}</ref>
 
 
上記で指摘されているデイヴィッド自殺の背景の情報源はわからないが、デイヴィッドは子供のころの悪夢といつも向かい合っていた。人生最初の14年間は借り物であったと。外部リンクにあるコラピントの記事では自殺背景について、家族の状況や金銭問題とコラピントのコメントを載せている。
 
==デイヴィッド・ライマーの症例の社会的な影響==
デイヴィッド・ライマーの症例とそれについてのジョン・マネーの報告は、医学に影響を与えた。
 
ジョン・マネーによる報告は、人間の「性別を自己認識(ジェンダーアイデンティティ)する要因は先天性(遺伝子)か後天性(環境)どちらか」という論争における、先天的要因の支持論が主流になった。これにより男らしさや女らしさなどの「男性性・女性性」は後天的なものではなく、先天的であり、産まれ持ったものであるという結論に至った。
 
そして上述のとおり、[[1990年代]]になってミルトン・ダイアモンドが発表した論文によってブレンダのその後が明らかにされ、ジョン・マネーの研究結果は[[フェミニスト]]からも「論拠に使わない」とされるようになった。
 
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==外部リンク==
* Chalmers, Katie (2004年5月10日). ''[http://canoe.ca/NewsStand/WinnipegSun/News/2004/05/10/453481.html Sad end to boy/girl life].'' Winnipeg Sun.
* ジョン・コラピント (2004年6月3日) ''[http://slate.msn.com/id/2101678/ Gender gap: What were the real reasons behind David Reimer's suicide?]'' Slate.
*CBC News(2004年5月10日)[http://www.cbc.ca/news/background/reimer/]
*「ブレンダと呼ばれた少年」復刊問題[http://transnews.at.infoseek.co.jp/as-nature-made-him-returns.htm]
*The True Story of JOHN / JOAN By John Colapinto (The Rolling Stone, December 11, 1997. Pages 54-97) (size 135kByte)[http://www.pfc.org.uk/news/1998/johnjoan.htm]
*AS NATURE MADE HIM - THE BOY WHO WAS RAISED AS A GIRL / BY John Colapinto [http://www.amazon.com/exec/obidos/search-handle-form/002-4164774-5327265]