「傾き (数学)」の版間の差分

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{{about||物理的形状の水平距離当たりの傾き|縦断勾配|ベクトル解析における勾配|勾配 (ベクトル解析)}}
{{翻訳直後|15:48, 20 August 2012|date=2012年8月}}
{{出典の明記|date=2012年8月}}
[[File:Slope picture.svg|right|thumb|平面上の直線の傾きは、垂直移動距離を水平移動距離で割った ''m'' = ''Δy''/''Δx'' で定義される]]
{{for|物理的形状の水平距離当たりの傾き|縦断勾配}}
[[数学]]における[[平面]]上の[[直線]]の'''傾き'''(かたむき、{{lang-en-short|''slope''}})あるいは'''勾配'''(こうばい、{{lang-en-short|''gradient''}})は、その傾斜の具合を表す数値である。ただし、鉛直線に対する傾きは定義されない。
[[File:Slope picture.svg|right|thumb|平面上の直線の傾きは、垂直移動距離を水平移動距離で割った ''m'' = Δ''y''/Δ''x'' で定義される。]]
[[数学]]における[[直線]]の'''傾き'''(かたむき、{{lang-en-short|''slope''}})あるいは'''勾配'''(こうばい、{{lang-en-short|''gradient''}})は、その傾斜の具合を表す数値で、傾きの値が大きければ傾斜がきつくなり、垂直線に対する傾きは定義されない。
 
傾きは普通、直線上の2点間の'''変化の割合'''、すなわち''' ''x'' の増加量''' に対する ''' ''y'' の増加量'''の比率として定義される。また、[[同値]]な定義として、傾き ''m'' は傾斜角 ''θ'' として
{{訳語疑問点範囲|1= 傾きはふつう、直線上の二点間の「渡り」("run") に対する「上がり」("rise") の比率として定義される。例えば直線を、実務的な道路や屋根を表すモデルとして考え、測量技師が道路勾配を測るとする。二点間の上がりとは、道路の各点における高度 ''y''<sub>1</sub> および ''y''<sub>2</sub> の差 (''y''<sub>2</sub> − ''y''<sub>1</sub>) = Δ''y'' を言う。比較的短い距離(地球が曲がっていることが無視できる程度)での、渡りとは、一定の高さ (lebel) の水平線において測った二点間の水平距離 (''x''<sub>2</sub> − ''x''<sub>1</sub>) = Δ''x'' である。そうして、二点間の道路勾配 ''m'' というのは、単純に直線上の二点間の高度変化を水平距離で割った
: <math>m=\frac{y_2-y_1}{x_2-x_1}tan \theta</math>
で与えられるのである。
 
傾きの概念は、[[地理学]]および[[土木工学]]における[[斜度]]や[[勾配]]に直接的に応用できる。[[三角法]]を通して、道路勾配 ''m'' とその傾斜角 θ との関係は
: <math>m = \tan \theta</math>
と書くことができる。
 
[[曲線]]上の[[微分法|微分可能]]な1点に対しても、傾斜の具合を表す数値として傾き('''[[微分係数]]''')が定義できる。
道路勾配の例を一般化して数学的にきちんと述べるのは、[[微分法]]を用いて定められる[[曲線]]の各点における傾きで、これはその点における[[接線]]の傾きとして定義される。曲線が、平面上の点列、あるいは点の座標のリストとして与えられているならば、一点での傾きは計算できないが、任意の二点間の傾きは得られる。曲線が連続函数(恐らく代数的な式)として与えられるならば、微分法に従って曲線上の任意の点における傾きを計算できる公式が得られる。
 
傾きの概念は、[[地理学]]および[[土木工学]]における[[斜度]]や[[勾配]](たとえば[[道路]]など)に直接応用される。
傾きの概念を、水平長さと垂直長さの何れもが静的な構造ばかりでなく、それらが時間とともにあるいは曲線に沿って変化する場合や、他の因子の変化率に依存して変わる場合など、非常に複雑な場合においても考えて構成することができる。そうして、傾きについての単純な概念は、技術的にも構築された環境としても現代社会の主要な基盤の一つとなるのである。|date=2012年8月}}
 
== 定義 ==
''xy''平面上の直線の傾きは、''y''座標の増加量に対する ''y''座標の増加量の比率と定義される。式で書けば、直線の傾き ''m'' は
[[File:Slope of lines illustrated.jpg|thumb|400px|right|Slope illustrated for ''y''&nbsp;=&nbsp;(3/2)''x''&nbsp;&minus;&nbsp;1. Click on to enlarge]]
:<math>m=\frac{\Delta y}{\Delta x}</math>
で記述される。ここで、ギリシャ文字 "[[Δ]]"(デルタ)は、数学において「増加量」や「差分」を表す符牒としてよく用いられる。
 
増加量とは[[減法|差]]のことなので、直線上の2点を任意に取り、それらを (''x''{{sub|1}}, ''y''{{sub|1}}), (''x''{{sub|2}}, ''y''{{sub|2}}) とする。このとき、''m'' は
''xy''-平面上の直線の傾きは、一般に文字 ''m'' で表され、''y''-座標の変化量を対応する ''x''-座標の変化量で割ったものと定められる。式で書けば、等式
: <math>m = \frac{\Deltay_2 y-y_1}{\Deltax_2 x} = \frac{\text{rise}}{\text{run}-x_1}</math>
で求められる。
で記述される(ギリシャ文字 "[[Δ]]"(デルタ)は、数学において「差」や「変化」を表す符牒として広く用いられる)。
 
これらの等式から分かるように、鉛直線(''y''軸に平行な直線)の傾きは、[[零除算]]となり、定義されない。
二点 (''x''<sub>1</sub>,''y''<sub>1</sub>), (''x''<sub>2</sub>,''y''<sub>2</sub>) が与えられたとき、一方の点から他方の点への ''x'' の変化量 (''run'') は {{nowrap|''x''<sub>2</sub> − ''x''<sub>1</sub>}} であり、対する ''y'' の変化量 (''rise'') は {{nowrap|''y''<sub>2</sub> − ''y''<sub>1</sub>}} であるから、先ほどの関係式にそれぞれを代入すれば
: <math>m = \frac{y_2 - y_1}{x_2 - x_1}</math>
なる式を得る。この公式は ''y''-軸に平行な垂直線には適用できない([[零除算]])ので、垂直線の傾きは定義されない。
 
=== ===
 
直線が二点 ''P''&nbsp;=&nbsp;(1,&nbsp;2), ''Q''&nbsp;=&nbsp;(13,&nbsp;8) を通るとする。''y''-座標の差を ''x''-座標の差で割って、直線の傾きが
直線が2点 P(1, 2), Q(13, 8) を通るとする。増加量として、P に対する Q の増加量と考えるか、Q に対する P の増加量と考えるかで符号の違いが現れるが、それらの[[除法|商]]である傾きとしてはどちらも変わらない。ここでは P に対する Q の増加量を考える。
:<math>m = \frac{\Delta y}{\Delta x} = \frac{y_2 - y_1}{x_2 - x_1} = \frac{8 - 2}{13 - 1} = \frac{6}{12} = \frac{1}{2}</math>
:''x''の増加量 ''Δx'' = 13 &minus; 1 = 12
であることを得る。別な例として、直線が (4,&nbsp;15) と (3,&nbsp;21) を通るならば、傾きは
:''y''の増加量 ''Δy'' = 8 &minus; 2 = 6
:<math>m = \frac{ 21 - 15}{3 - 4} = \frac{6}{-1} = -6</math>
傾きとは、''y''座標の増加量に対する ''y''座標の増加量の比率のことなので、傾きを ''m'' とすると、
:<math>m=\frac{\Delta y}{\Delta x} =\frac{y_2 -y_1}{x_2 -x_1} =\frac{8-2}{13-1}=\frac{6}{12} =\frac{1}{2}</math>
である。
 
別な例として、直線が2点 (4, 15), (3, 21) を通るならば、傾きは
== 幾何学的な記述 ==
:<math>m =\frac{21-15}{3-4} =\frac{6}{-1} =-6</math>
傾きの絶対値がより大きくなれば直線の傾斜はより急になる。水平線は傾き 0, 45° で上昇する直線は傾き +1, 45° で下降する直線は傾き &minus;1 である。垂直線の傾きは定義しない。
である。
 
== 傾斜角による記述 ==
直線が ''x''-軸の正の向きとなす角 θ は、傾き ''m'' との間に[[正接函数]]を通じた関係
傾斜の度合いを表す傾きは、傾斜角と関係が深い。たとえば、傾き 1 の直線の傾斜角は 45°である。傾き &minus;1 ならば、傾斜角を 0°~180° の範囲で考えると 135°、&minus;90°~90° の範囲で考えると &minus;45° である。なお、鉛直線の傾きは定義されなかったが、傾斜角は定義され、90°である。
:<math>m = \tan\,\theta\quad(\iff \theta = \arctan\,m)</math>
を持つ([[三角法]]を参照)。
 
傾斜角とは、直線と ''x''軸の正の部分が作る角(反時計回りが正の向き)と定義される。取り得る範囲として 0° ≤ ''θ'' < 180° または &minus;90° < ''θ'' ≤ 90° の2つの流儀がある(状況に応じて使い分ける)。
二つの直線が平行であるための必要十分条件は、それらの傾きが一致するが直線としては一致しないことである(両者とも垂直線である場合を含めるならば、「または、それらの傾きがともに定義されないこと」という条件を適当に挿入する)。二つの直線が[[直交]]するのは、それらの傾きの積が &minus;1 となるか、一方の傾きが 0(水平線)かつ他方の傾きが定義されない(垂直線)ときである。だから、垂直線を定める別法として、一方の直線の傾きを求め、求めた傾きの逆数をとって正負の符号を反転したものを傾きに持つ直線を他方とすることが考えられる(例えば、傾き &minus; 2 の直線に垂直な直線の傾きは +1/2 である)。
 
直線の傾きを ''m''、傾斜角を ''θ'' とすると、2つの間には、[[三角法]]における[[正接函数]]を用いて
== 代数的な記述 ==
:<math>m=\tan \theta \ (\iff \theta = \arctan m)</math>
''y'' が ''x'' の[[一次函数]]ならば、''x'' の係数が函数の表現曲線(グラフ)として得られる直線の傾きを与える。つまり、直線の方程式を
の関係がある。
:<math>y = mx + b</math>
とすれば、''m'' が傾きであるということである。また ''b'' は、この直線が ''y''-軸と交わる点の ''y''-座標、即ち直線の[[y切片| ''y''-切片]]として解釈できるから、この形で与えられる直線の方程式は「傾き・切片標準形」という。
 
== 傾きの性質 ==
直線の傾き ''m'' と直線上の一点 (''x''<sub>1</sub>,''y''<sub>1</sub>) が既知ならば、直線の方程式は[[平面直線の標準形|一点・傾き標準形]]
*異なる2直線が平行であるための必要十分条件は、それらの傾きが一致すること、または、傾きがともに定義されないことである。
:<math>y - y_1 = m(x - x_1)</math>
*異なる2直線が[[直交]]するための必要十分条件は、傾きの積が &minus;1、または、傾きが 0 と定義されない場合であることである。
から求められる。例えば、二点 (2,8), (3,20) を通る直線の傾き ''m'' は
::たとえば、傾き &minus;2 の直線に垂直な直線の傾きは <math>\tfrac{1}{2}</math> である。
:<math>\frac {(20 - 8)}{(3 - 2)} = 12</math>
だから、直線の方程式は点・傾き標準形で
:<math>y - 8 = 12(x - 2) = 12x - 24</math>
と求まる。これはつまり ''y'' = 12''x'' &minus; 16 である。
 
== 1次関数における傾き ==
二変数[[線型方程式]]として定義される直線
=== 傾き・切片 ===
:<math>ax + by +c = 0</math>
''y'' が ''x'' の[[1次関数]]であるとする。このとき、''x'' と ''y'' には ''y'' = ''ax'' + ''b'' と表され、その[[グラフ (関数)|グラフ]]は直線となる。この直線の傾きは ''a'' に等しい。
の傾きは {{fraction|&minus;''a''|''b''}} である。
:(証明)
:''y'' = ''ax'' + ''b'' の[[グラフ]]上の任意の2点 P, Q を取る。P, Q の ''x''座標をそれぞれ ''x''{{sub|1}}, ''x''{{sub|2}} とすると、P, Q の座標は
:P(''x''{{sub|1}}, ''ax''{{sub|1}} + ''b''), Q(''x''{{sub|2}}, ''ax''{{sub|2}} + ''b'')
:である。
:''x''の増加量 ''Δx'' = ''x''{{sub|2}} &minus; ''x''{{sub|1}}
:''y''の増加量 ''Δy'' = (''ax''{{sub|2}} + ''b'') &minus; (''ax''{{sub|1}} + ''b'')
:= ''ax''{{sub|2}} &minus; ''ax''{{sub|1}}
:= ''a''(''x''{{sub|2}} &minus; ''x''{{sub|1}})
:傾き ''m'' は、
:<math>m=\frac{\Delta y}{\Delta x} =\frac{a(x_2 -x_1)}{x_2 -x_1} =a</math>
:(証明終)
1次関数 ''y'' = ''ax'' + ''b'' において、''a'' を傾きと呼ぶのに対して、''b'' を''' [[切片|''y''切片]]'''と呼ぶ。1次関数の ''y''切片は、グラフ(直線)が ''y'' 軸と交わる点の ''y'' 座標に等しい。したがって、''y'' = ''ax'' + ''b'' の形の方程式を「傾き・切片標準形」と呼ぶこともある。
 
1次関数 ''y'' = ''ax'' + ''b'' のグラフは、''y''軸平行の直線にはなりえないことに注意が必要である。
== 解析学的な記述 ==
 
[[File:Graph of sliding derivative line.gif|right|frame|各点における[[微分係数]]は、その点での曲線の[[接線]]となる直線の傾きである。各点に対して図の直線は常に曲線 (青) の接線を表し、その傾きとして微分係数が示される。接線は、微分係数が正のときは緑、負のときは赤、0 のときは黒で表されている。]]
=== 1次関数の決定 ===
傾きの概念は[[微分法]]の中心的概念である。一次函数でなければ、([[平均]]の、あるいは瞬間の)変化率は曲線にそって変化する。一点における函数の[[微分係数]]とは、その点における曲線の接点の傾きであり、従ってこれはその点における函数の(瞬間の)変化率に等しい。
1次関数の傾き ''m'' と直線上の1点 (''x''{{sub|1}}, ''y''{{sub|1}}) が既知ならば、1次関数の方程式は
:<math>y-y_1 =m(x-x_1)</math>
で与えられる(これを[[平面直線の標準形|1点・傾き標準形]]と呼ぶことがある)。
 
(例)
1次関数のグラフが2点 (2, 8), (3, 20) を通るとする。1次関数の傾き ''m'' は
:<math>\frac{20-8}{3-2} =12</math>
だから、直線の方程式は1点・傾き標準形で
:''y'' &minus; 8 = 12(''x'' &minus; 2)
と求まる。これはつまり
:''y'' = 12''x'' &minus; 16
である。
 
=== 直線の一般形 ===
Δ''x'' と Δ''y'' を曲線上の二点の(それぞれ ''x''-軸と''y''軸にそった)距離とすると、上記定義における(二点間の平均変化率としての)傾き
前述の通り、1次関数のグラフは全ての直線を表さない。2変数[[線型方程式]]の一般形
:<math>m = \frac{\Delta y}{\Delta x}</math>
:<math>ax+by+c=0</math>
は曲線の[[割線]]の傾きである。直線の場合は、任意の二点間での割線が直線自身と等しくなるが、直線でない任意の種類の曲線ではこれは成立しない。
は全ての直線を表す。''b'' ≠ 0 ならば、傾きが存在し、<math>-\tfrac{a}{b}</math> である。
 
== 微分係数 ==
例えば、''y'' = ''x''<sup>2</sup> 上の二点 (0,0), (3,9) と交わる割線の傾きは 3 である(このとき {{nowrap|1=x = {{frac|3|2}}}} における接線の傾きも 3 となるが、このような点が取れることは[[平均値の定理]]の一つの帰結である)。
[[File:Graph of sliding derivative line.gif|right|frame|各点における[[微分係数]]は、その点での曲線の[[接線]]となる直線の傾きである。各点に対して図の直線は常に曲線(青)の接線を表し、その傾きとして微分係数が示される。接線は、微分係数が正のときは緑、負のときは赤、0 のときは黒で表されている。]]
曲線上の1点に対しても、そこで微分可能ならば、傾斜の具合を表す数値としての傾きが定義できる。
 
''Δx'' と ''Δy'' を曲線上の2点間のそれぞれ ''x''座標、''y''座標の増加量とすると、その2点を通る直線([[弦 (数学)|割線]]という)の傾き ''m'' は
二点を限りなく近づけるとき、Δ''y'' と Δ''x'' はともに減少して、割線は曲線の接線に限りなく近づく。[[微分法]]は、この極限、つまり Δ''y'' と Δ''x'' が [[0]] に近づくときの Δ''y''/Δ''x'' の極限(これは接線の傾きに他ならない)が決められるかどうかを知るのに利用できる。''y'' が ''x'' に従属するならば、Δ''x'' が 0 に近づく極限のみを考えれば十分であるから、接線の傾きは Δ''y''/Δ''x'' の Δ''x'' → 0 の極限、つまり ''dy''/''dx'' に一致する。この極限
:<math>\frac{dy}{dx} m= \lim_{\Delta x \to 0}\frac{\Delta y}{\Delta x}</math>
である。この2点間を狭めたときの ''m'' の[[極限]]が、そこを直線として近似した傾きと考えられる。これは接線の傾きであり、'''微分係数'''と呼ばれる。場所 ''x'' を変数とした
を(曲線上の任意の点 (''x'', ''y'') における)[[微分係数]](あるいは ''x'' を変数として[[導函数]])と呼ぶ。
:<math>\frac{dy}{dx} =\lim_{\Delta x \to 0}\frac{\Delta y}{\Delta x}</math>
を、曲線の'''[[導函数|導関数]]'''と呼ぶ。
 
== 関連項目 ==
* [[勾配 (ベクトル解析)]]: 多変数への一般化
* [[縦断勾配]]
 
== 外部リンク ==<!--
<!-- {{Wiktionary|slope}} -->
* {{MathWorld|urlname=Slope|title=Slope}}
* {{PlanetMath|urlname=Slope|title=slope}}
 
{{DEFAULTSORT:かたむき}}