「ワームホール」の版間の差分

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ワームホールが通過可能な構造であれば、そこを通ると[[光]]よりも速く時空を移動できることになる。ワームホールという名前は、[[リンゴ]]の虫喰い穴に由来する。リンゴの表面のある一点から裏側に行くには円周の半分を移動する必要があるが、虫が中を掘り進むと短い距離の移動で済む、というものである。
 
[[ジョン・ラー|ジョンケイネス・アーチボルト・ホイーラー]]が[[19571958年]]に命名したのかもしれない
 
==研究==
ワームホールは、[[アルベルト・アインシュタイン|アインシュタイン]]-ローゼンブリッジとも呼ばれるが、現在のところ、[[数学]]的な可能性の一つに過ぎない。[[シュヴァルツシルトの解]]で表される[[ブラックホール]]解は、周りの物質を何でも呑み込む領域を表すが、数学的にはその状況を反転した[[ホワイトホール]]も存在する。ブラックホールとホワイトホールを単純に結んでワームホールと考えてもよいが、この場合は通過不可能である。またホワイトホールはブラックホールとは逆の、落下不可能な反地平面を持つが、この反地平面は物理的にきわめて不安定であるためホワイトホールを仮定するようなワームホールはすぐに潰れてしまう。また、観測的には、ホワイトホールのような領域の存在を示唆する事実は全くない。
[[電荷]]を加えたブラックホールでは通過可能になり得るが、元の場所へは戻ってこられないし、そもそもそのような解はブラックホールの外の座標系をブラックホールの内側まで延長したことで得られるものであり、妥当性に疑問がある。また、そのような場合は特異点が真空を分極するため、人間が耐えられないほどの高エネルギーかつ高ラックスの放射線が発生していると考えられる。
 
したがって、通行可能なワームホールは誕生した段階で進行方向に対して地平面も反地平面も持たず、特異点も持たないような時空構造を持つ必要がある。つまりブラックホールやホワイトホールを単純に連結した時空とは本質的に異なるものである。また人間が利用することを考える場合は、トンネルの内側は潮汐力が十分小さく通過に必要となる時間がトンネルの外を直接目的地に向かうよりも十分短くなるような時空構造になっていることが望ましいであろう。
 
==実用化への問題==
通過可能なワームホールを考えることは研究上の遊びでもあり、[[キップ・ソーン]] (Kip Thorne) らの1988年の論文を端緒に市民権を得ている。小説「[[コンタクト_(映画)|コンタクト Contact]]」を執筆中だった[[カール・セーガン]] (Carl Sagan) が、地球外生命との接触が可能になるようなシナリオをなんとか科学的に作れないか、とソーンに話を持ちかけたのがきっかけだったという。ソーンらは「通過可能であるワームホール (traversible wormhole)」を物理的に定義し、[[アインシュタイン方程式]]の解としてそれが可能かどうかを調べた。そして、「もし[[負数|負]]の[[エネルギー]]をもつ[[物質]]が存在するならば、通過可能なワームホールはアインシュタインテラヘルツ方程式の解として存在しうる」と結論し、さらに、時空間の[[ワープ]]や[[タイムトラベル]]をも可能にすることを示した。ただし、ここでの研究は、現在の技術では制御が難しい高密度(中性子星の中心部ほど)の負のエネルギーの存在を前提としており、また、どうやってワームホールを通過するのか、あるいは出口がどこなのかは全くの未知の問題として棚上げされた上での研究である。
 
後に、ソーンの考えたワームホール解は不安定解であることが数値計算から報告されている。数値計算ではワームホールを正の質量をもつ粒子が通過した場合、ワームホールは加速度的に潰れてブラックホールに変化してしまうという結論が得られている。そのため通行可能なワームホールは自然なままでは一度きりしか使えない一方通行の道になってしまう。しかしもし通行のたびに旅行者が加えたじょう乱の分だけワームホールに人工的な補正を加えて恒久的に維持し続けられるなら、相互通行に使用できるということも数値計算から導かれている。