「疲労 (材料)」の版間の差分

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[[File:Rainflow fig2.PNG|thumb|300px|変動応力波形(ランダム応力)]]
 
材料に負荷する応力が一定ではなく時間に対して変動することによって引き起こされる破壊が疲労の定義の1つである{{refnest|group="注釈"|一定応力下で時間が経過し、破断に至る現象は[[クリープ]]と呼ばれる。}}。そのような疲労応力を発生させる荷重を疲労荷重(Fatiguefatigue loading)または動荷重(Dynamicdynamic loading)と呼ぶ。外的な荷重が負荷しなくても、このような繰り返しの疲労応力は発生し得るので注意が必要である。例えば、部材に温度変化が発生する場合は熱応力による疲労破壊が発生する可能性がある。
 
=== 繰返し応力 ===
疲労を引き起こす応力の中で、応力振幅、平均応力が一定の周期的な応力を'''繰返し応力'''(repeated stress)、繰返し応力を引き起こす荷重を繰返し荷重と呼ぶ<ref name = "機械工学辞典_345"/>。疲労の試験では実現の容易さのため、繰返し応力を[[正弦波]]の応力波形を与えて材料の疲労特性を試験することが多い。このような繰り返し応力を受ける実際の機械構造物としては、一定荷重を支えて走行する[[車軸]]などがある。以下に繰返し応力の重要因子を示す。
* σ<sub>max</sub>:最大応力
* σ<sub>min</sub>:最少応力
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* N:繰り返し数
* f:周波数
特に、R=-1のときを両振り応力、R=0のときを片振り引張応力、R=-∞-∞のときを片振り圧縮応力と呼ぶ。
 
=== 変動応力 ===
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=== 概要 ===
[[Image:BrittleAluminium320MPA S-N Curve.jpg|thumb|300px|アルミニウムのS-N曲線]]
材料がどれくらいの繰り返し応力に耐えられるか、どれくらいの回数を与えるとどれくらいの応力で破断するのかをあらわすためには'''S-N曲線'''(S-N curve)が広く使われている。S-N曲線は、縦軸に応力振幅(Stress(stress amplitude)あるいは応力範囲(Stressstress range)、横軸にその応力を繰り返し負荷して破断するまでの繰り返し回数(Number(number of cycles)の[[対数]]で表される[[グラフ]]である。S-N曲線は、世界で最初にS-N曲線を見つけ出したドイツの技術者アウグスト・ヴェーラーの名前から、ヴェーラー曲線(Wöhler curve)」と呼ばれることもある。材料のS-N曲線を求めるためには、疲労試験装置に試験片を取り付け、破断するまで繰り返し応力を加えて求められる。
 
繰り返し数が10<sup>5</sup>回程度以上で発生する疲労破壊を高サイクル疲労(Highhigh cycle fatigue)と呼び、10<sup>4</sup>回程度以下で発生するものを低サイクル疲労(Lowlow cycle fatigue)あるいは塑性疲労と呼ぶ<ref name = "機械工学辞典_1109"/><ref name = "疲労設計便覧_8"/>。低サイクル疲労では負荷される応力が材料の[[降伏 (物理)|降伏応力]]以上となるため、材料の疲労試験をする際には、繰り返し応力振幅を一定にして試験する場合と繰り返しひずみを一定にして試験する場合で結果が異なる。繰り返しひずみ一定の場合の疲労評価を表す場合は、応力振幅の代わりに全塑性ひずみ幅Δε<sub>t</sub>を用いたε-N曲線が使用される<ref name = "疲労設計便覧_133"/>。またさらに、10<sup>7</sup>回以上の繰り返し数でも疲労破壊が起こる場合があり、このような繰り返し数領域での疲労を超高サイクル疲労(Veryvery high cycle fatigue)あるいはギガサイクル疲労(Gigacycle fatigue)などと呼ぶ<ref name = "高強度鋼の超高サイクル疲労に関する研究動向_1"/>。
 
鉄鋼系材料であれば、10<sup>6</sup>から10<sup>7</sup>回ほど繰り返したところで、S-N曲線がほぼ横ばいになり、それ以下の応力では何度回数を繰り返しても破断しないと考えられる応力振幅の限界点が存在する場合がある。この時の応力振幅を[[疲労限度]](Fatiguefatigue limit)または耐久限度(Enduranceendurance limit)と呼び、長期間変動荷重に晒されるものを設計する際の目安になる。<u>ただし、対象となる部材の表面状態や欠陥・切欠き等の有無、雰囲気、外気温度、繰り返し応力の加わり方などによって疲労限度は大きく異なり、あるいは疲労限度が存在しなくなる場合も存在する。疲労の許容応力をどのように評価するかは、実験値の疲労限度のみならず、対象物の実際の使用状況を検討し、多くの影響因子を考慮して決める必要がある。</u>また、右下がりに傾斜している範囲の応力を時間強度(Strengthstrength at finite life)あるいは単に疲労強度(Fatiguefatigue strength)と呼び{{refnest|group="注釈"|ただし疲労限度も含めたその材料の一般的な疲労に対する強度のことを疲労強度と呼ぶことも多い。}}、例えば10<sup>6</sup>回に対応する時間強度(応力)を10<sup>6</sup>時間強度などと呼ぶ。[[アルミニウム]]や[[黄銅]]、あるいは[[プラスチック]]などは、鉄鋼系材料のような明確な疲労限度を持たず、繰り返し回数を多くするほど破断応力は低下する傾向を示す。このような材料では10<sup>7</sup>~10<sup>8</sup>回程度の時間強度を疲労限度と同じような目安と見なして取り扱う<ref name = "機械工学辞典_1110"/>。
 
S-N曲線であらわされる耐久性は、装置上で試験片に、ごく単純な正弦波状の繰り返し応力を加え続けたものであり、材料の形状や温度変化、[[腐食]]など性質の変化、時間的に非連続的な応力がかかることなどは考慮されていない。そのため実際に材料が使われている状況とは違うことを考慮することが必要である<ref name = "金属疲労の盲点"/>。
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以上の寿命予測方法は[[1924年]]にパルムグレン(Palmgren)により発表され、[[1945年]]にマイナー(Miner)により広められたため、パルムグレン-マイナー則(Palmgren-Miner rule)あるいは単にマイナー則(Miner's rule)と呼ぶ<ref name = "疲労設計便覧_212-213"/>。
 
マイナー則では、疲労限度以下の応力振幅については、破断応力は''N<sub>i</sub>''=∞と考えて疲労損傷に影響を与えないとしている<ref name = "疲労設計便覧_212-213"/>。しかし、変動応力下では疲労限度以下の応力でも疲労損傷を増加させる場合があるため<ref name = "疲労設計便覧_215"/>、S-Nの曲線の時間強度部分をそのまま直線で疲労限度以下まで延長した修正マイナー則(modified Miner's rule)が実際には良く使用されている<ref name = "疲労設計便覧_220_221_220-221"/>。
 
マイナー則により寿命を予測するには、実働応力の応力頻度分布(発生する''σ<sub>i</sub>''とそれに対する''n<sub>i</sub>'')を求める必要がある。このために種々の応力頻度計数法が提案されており、遠藤らにより提案されたレインフロー法(雨だれ法)([[w:rainflow-counting algorithm|rainflow-counting algorithm]])<ref name = "「Rain Flow Method」の提案とその応用"/>が良く使用されている<ref name = "疲労き裂_182"/>。
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<ref name = "疲労設計便覧_220-221">[[#疲労設計便覧|「疲労設計便覧」pp.220-221]]</ref>
<ref name = "高強度鋼の超高サイクル疲労に関する研究動向_1">[[#高強度鋼の超高サイクル疲労に関する研究動向|「高強度鋼の超高サイクル疲労に関する研究動向」p.1]]</ref>
 
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