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'''テクノクラート'''(technocrat) (technocrat) とは、高度な[[科学技術]]の専門知識と[[政策]]能力を持ち、なおかつ、[[国家]]の政策決定に関与できる上級職の技術官僚([[技官]])のこと。'''高級技術官僚'''とも呼ばれる。同様の人々に[[官僚|ビューロクラート]](事務官僚)がいる。
 
== 概要 ==
多くのテクノクラートを輩出した時期は、[[近代]]からである。科学技術の発展により、その技術と[[政治]]力を結びつけ、[[国力]]を増大させる時にテクノクラートが大きな役割を果したと言われる。[[第二次世界大戦]]や[[冷戦]]時の[[軍事政策]]、米ソの[[宇宙開発競争]]などでは、実に多くのテクノクラートが活躍した。特に[[ソ連]]では全てを[[国有化]]して[[工業化]]に偏重したために巨大な事務官僚制・技術官僚制ができてテクノクラシーと呼ばれ<ref>Graham, Loren R. ''The Ghost of the Executed Engineer: Technology and the Fall of the Soviet Union''. Cambridge: Harvard University Press, 1993. 73</ref>、[[長老支配]]を敷いた[[ブレジネフ]]など国家の指導者たちも工学を学び、[[ソ連共産党政治局]]のメンバーは89%がエンジニアだった<ref>Graham, 74.</ref>
 
一般に、テクノクラートは[[科学主義]](テクノクラシー)を重んじ、時に民衆の利益よりも科学の発展を優先する傾向があるとされている。その暴走により、国家が破綻するとの考えもあるが、基本的に[[民主主義]]国家では、テクノクラートは国家及び民衆のためにその科学技術を基に国民の利益につながる政策に関与することが主である。
 
日本では、テクノクラートが多い[[日本の行政機関|省庁]]としては、[[国土交通省]]、[[経済産業省]]、[[文部科学省]]、[[防衛省]]、[[気象庁]]などある。[[厚生労働省]]には、[[医師]]や[[歯科医師]]が就くポストがある。政策決定に関与できる高級ポストが医師出身者の技官の場合、[[局長]]クラスが[[医政局]]長、[[健康局]]長、技術総括審議官などの3つほどのみである。歯科医師の最高位は[[課長]]クラスの[[歯科保健課]]の1つであり、これは政策決定に関与できる立場ではなく、テクノクラートと言えるポストではない。その意味では、医学と歯学では格差が厳然とあると言える。
 
なお、[[国立大学]]や[[警察]]関係に[[上級技官]]というポストがあるが、これとはまったく別のものである。あくまでも、国家([[州]]や[[県]]なども含む)や[[国際機関]]において政策決定に関与できる者を指すことが多い。また、現行の[[官僚制]]に「テクノクラート」という役職・階級がある訳ではない。
 
== 各専門分野のテクノクラート ==
=== 医療関係 ===
* [[医学]]系では、過去に技官に就く人は少なかったが、現在では少なくはない。これは、医師養成機関である[[医学部]]が早い段階から、「医学部=臨床医師養成機関」という価値観を変化させた点にあると考えられている。[[医療政策]]の講座の設置、[[公衆衛生大学院]]の設立、[[社会医学]]系の構築など、[[看護学]]などの[[保健学]]を傘下に幅広い人材養成体制を構築し、臨床医師以外の道を切り開いているためだと考えられる。今後、医学技術を持つテクノクラートが増えるかもしれない。
* [[薬学]]系では、企業研究者としての道に進む者が多く、行政関係では[[薬事]]関係の一般技官としての任に就く者が少数である。今後、薬学系と医学系テクノクラートの増加により、[[医薬品]]認可の効率化など薬事行政の効率運用が更に行われるかもしれない。
 
* [[歯学]]系では、テクノクラートと呼べる人材は少ない。それは、歯科医師養成機関である[[歯学部]]が単に臨床歯科医師養成という教育方針であり、前述の医学系のように幅広い人材育成体制を構築してこなかったことに原因があるとされている。医科が学閥や医師会の力により政治的な働きかけに長けていたのに対し、歯科ではほとんどが個人開業医であり、こうした分野への進出が盛んではなかったことによる。
*[[薬学]]系では、企業研究者に進む者が多く、行政関係では[[薬事]]関係の一般技官としての任に就く者が少数である。今後、薬学系と医学系テクノクラートの増加により、[[医薬品]]認可の効率化など薬事行政の効率運用が更に行われるかもしれない。
 
*[[歯学]]系では、テクノクラートと呼べる人材は少ない。それは、歯科医師養成機関である[[歯学部]]が単に臨床歯科医師養成という教育方針であり、前述の医学系のように幅広い人材育成体制を構築してこなかったことに原因があるとされている。医科が学閥や医師会の力により政治的な働きかけに長けていたのに対し、歯科ではほとんどが個人開業医であり、こうした分野への進出が盛んではなかったことによる。
 
=== 防衛関係 ===
過去の[[防衛]]([[軍事]])関係のテクノクラートは、{{要出典範囲|date=2010年8月|その暴走により科学技術の競争のための場として、[[戦争]]を選択することがあり}}、その危険性を絶えず背負う立場であった。現在でもその立場を完全に払拭したわけではない。また、世界に眼を向ければ、[[原子力]]開発の技術者や軍事技術者がテクノクラートとして政策決定権のある要職に就くこともある。
 
=== 経済関係 ===
近年、理工系出身者で[[金融工学]]や[[数理工学]]など高度な専門能力を活かしたテクノクラートが輩出されている。
 
==書籍・論文 脚注 ==
*[[中嶋毅]]『テクノクラートと[[革命]]権力 [[ソビエト|ソヴィエト]]技術政策史1917-1929』[[岩波書店]]、1999年、ISBN 400002714X
*[[川井悟]]「1930年代[[中国]][[経済]]建設における[[中国人]]テクノクラートの研究」[[文部省]]科学研究費補助金研究成果報告書、1990年
*[[梶田孝道]]『テクノクラシーと社会運動 [[対抗的相補性]]の[[社会学]]』[[東京大学出版会]]、1988年、ISBN 4130550152
*[[矢野武]]『[[幕末]]テクノクラートの群像』[[近代文芸社]]、2005年、ISBN 4773373032
*[[小野清美]]『テクノクラートの世界と[[ナチズム]] 「近代超克」の[[ユートピア]]』[[ミネルヴァ書房]]、1996年、ISBN 4623026523
*石井正紀『技術中将の日米戦争 - 陸軍の俊才テクノクラート[[秋山徳三郎]]』[[光人社]]、2005年
 
== 参照 ==
<references/>
 
==関連項目 参考文献 ==
* [[梶田孝道]]『テクノクラシーと社会運動 [[対抗的相補性]]の[[社会学]]』[[東京大学出版会]]、1988年、ISBN 4130550152
*[[官僚]]
* [[川井悟]]「1930年代[[中国]][[経済]]建設における[[中国人]]テクノクラートの研究」[[文部省]]科学研究費補助金研究成果報告書、1990年
*[[技官]]
* [[小野清美]]『テクノクラートの世界と[[ナチズム]] 「近代超克」の[[ユートピア]]』[[ミネルヴァ書房]]、1996年、ISBN 4623026523
*[[厚生労働技官]]
* [[中嶋毅]]『テクノクラートと[[革命]]権力 [[ソビエト|ソヴィエト]]技術政策史1917-1929』[[岩波書店]]、1999年、ISBN 400002714X
*[[医官]]
* [[矢野武]]『[[幕末]]テクノクラートの群像』[[近代文芸社]]、2005年、ISBN 4773373032
*[[キャリア (国家公務員)]]
* 石井正紀『技術中将の日米戦争 - 陸軍の俊才テクノクラート[[秋山徳三郎]]』[[光人社]]、2005年
*[[ノンキャリア]]
*[[公務員]]
 
== 関連項目 ==
* [[官僚]]
* [[技官]]
* [[厚生労働技官]]
* [[医官]]
* [[キャリア (国家公務員)]]
* [[公務員]]
 
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