「ファデエフ=ポポフゴースト」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
m Operetee (会話) による ID:47599459 の版を取り消し
編集の要約なし
1行目:
{{場の量子論}}
'''ファデエフ=ポポフゴースト'''(({{Lang-en|Faddeev-Popov ghost}})或いは'''ゴースト場'''とも呼ばれる)とは、[[ゲージ理論|ゲージ]][[場の量子論]]の[[経路積分]]によ定式化する際に理論の整合性を保つために導入される場である。名称はファデエフ([[:en:Ludvig Faddeev]])とポポフ([[:en:Victor Popov]])に由来する<ref>W. F. Chen. [http://arxiv.org/pdf/0803.1340v2 Quantum Field Theory and Differential Geometry]</ref> 最初、[[リチャード・P・ファインマン|ファインマン]]により1ループレベルでその必要性が認識され、ドウィット([[:en:Bryce DeWitt]])により任意のループに一般化された。経路積分により初めて系統的に導出したのがファデエフとポポフである。<ref>{{Cite book[[#kugo|author=九後汰一郎|title=ゲージ場の量子論I|publisher=培風館|year=1989|id=ISBN]] 4-563024236}}p.167</ref>
 
== ゲージ場の経路積分 ==
ゴースト場はゲージ場の理論を経路積分ではによって定式化する際にあいまいさや特異性をもつ解を出さないように定式化するために必要となる。ゲージ対称性をもつ理論の場合、ゲージ変換で繋がる物理的に等価な解の中から一つだけ選び出す処方は存在しない。経路積分では、これらの等価な物理的状態に対応する場の配位が重複して計算されることによる問題が生じる。この重複は経路積分の測度の因子に含まれる。それが原因で、の為[[ファインマン・ダイアグラム]]などの通常の方法を用いて、様々な量を元の作用から様々な量を直接計算することができなくなる。
 
しかしながら、ゲージ対称性を破る場(この問題は'''ゴースト場)'''を作用に追加してゲージ対称性を破ることにより問題を解決することができる。この手法はファデエフ=ポポフの方法と呼ばれる。ゴースト場は現実の粒子ではなく計算上のツールであり、[[仮想粒子]]としてのみ[[ファインマン・ダイアグラム]]に現れる計算上のツールであるが、ユニタリティを保つために必要となる。
ゴースト場は場の量子論を経路積分によって定義する際に、あいまいさや特異性をもつ解を出さないように定式化するために必要となる。ゲージ対称性をもつ理論の場合、ゲージ変換で繋がる物理的に等価な解の中から一つだけ選び出す処方は存在しない。
 
経路積分では、ゲージ等価な物理的状態に対応する場の配位が重複して計算されることによる問題が生じる。この重複は経路積分の測度の因子に含まれる。それが原因で、[[ファインマン・ダイアグラム]]などの通常の方法を用いて、元の作用から様々な量を直接計算することができなくなる。
 
しかしながら、ゲージ対称性を破る場(ゴースト場)を作用に追加することにより問題を解決することができる。この手法はファデエフ=ポポフの方法と呼ばれる。ゴースト場は、現実の粒子ではなく[[仮想粒子]]としてのみ[[ファインマン・ダイアグラム]]に現れる計算上のツールであるが、ユニタリティを保つために必要となる。
 
物理量はゲージの選び方に依らないにもかかわらず、ゴースト場の定式化はゲージの選び方に依存する。通常は、ファインマン=トホーフトゲージがもっとも単純である。以後このゲージを仮定する。
 
== スピン-統計性の関係の破れ ==
ゴースト場に対しては、[[スピン角運動量#スピンと統計性|スピン-統計性の関係]]が成立しない。これはゴースト場が非物理的な場であることの理由づけとなっている。例えば、[[量子色力学]]などの[[ヤン=ミルズ理論]]では、ゴースト場はスピン 0 の複素スカラー場であるが、フェルミオンのように反可換な場で表される。
 
ゴースト場に対しては、[[スピン角運動量#スピンと統計性|スピン-統計性の関係]]が成立しない。これはゴースト場が非物理的な場であることの理由づけとなっている。例えば、[[量子色力学]]などの[[ヤン=ミルズ理論]]では、ゴースト場はスピン 0 の複素スカラー場であるが、フェルミオンのように反可換な場で表される。
 
一般に、ボゾン的な対称性に対しては反可換なゴースト場、フェルミオン的な対称性に対しては可換なゴースト場が必要となる。
 
== ファインマン・ダイアグラム ==
ファインマン・ダイアグラムでは、ゴースト場は3点の頂点を通じてゲージ場と繋がる閉じたループとしてのみ現れる。このダイアグラムのS行列への寄与は、(ファインマン=トホーフトゲージでは)3)3点の頂点からなるゲージ場のループと完全に相殺される。(3点以外の頂点を含むゲージ場のループはゴースト場のループとは相殺されない)
 
ゴースト場とゲージ場のループの寄与が互いに逆符号となるのは、フェルミオンとボゾンが互いに逆の性質を持っていることに由来する。(フェルミオンの閉じたループには -1 が余分につく))を持っていることに由来する。
ファインマン・ダイアグラムでは、ゴースト場は3点の頂点を通じてゲージ場と繋がる閉じたループとしてのみ現れる。このダイアグラムのS行列への寄与は、(ファインマン=トホーフトゲージでは)3点の頂点からなるゲージ場のループと完全に相殺される。(3点以外の頂点を含むゲージ場のループはゴースト場のループとは相殺されない)
 
ゴースト場とゲージ場のループの寄与が互いに逆符号となるのは、フェルミオンとボゾンが互いに逆の性質を持っていることに由来する。(フェルミオンの閉じたループには -1 が余分につく)
 
== ゴースト場のラグランジアン ==
ゲージ条件 <math>\Phi^I(A)=0</math> を課してゲージ変換の自由度を固定するとき、ゴースト場の[[ラグランジアン]]は
{{Indent|
<math>\mathcal{L}_\text{FP} =ib^I c^a\delta^a\Phi^I(A)</math>
}}
で与えられる。ここで <math>\delta^a</math> は微小ゲージ変換である。
ゴースト場 <math>c^a(x)</math> はゲージ群の[[特殊ユニタリ群#随伴表現|随伴表現]]の添え字をもち、ゲージ変換のパラメータを反可換にしたような場である。
反ゴースト場 <math>b^I(x)</math> は拘束条件と同じ添え字を持ち、[[ラグランジュの未定乗数]]を反可換にしたような場である。
 
[[ヤン=ミルズ理論]]でのゴースト場 <math>c^a(x), \,bar{c}^a(x)</math> に対する[[ラグランジアン]]以下のように与えられる。(添字 ''a'' はゲージ群の[[特殊ユニタリ群#随伴表現|随伴表現]]を表す)
{{Indent|
 
:<math>\mathcal{L}_\mathrmtext{ghost} = -i\partial_partial^\mu \overlinebar{c}^a\partial^\mu c^a + g f^mathcal{abcD}(\partial^_\mu\overline{ c}^a) A_\mu^b c^c. </math>
=-i\partial^\mu\bar{c}^a(\partial_\mu c^a +gf^{abc} A_\mu^b c^c)</math>
}}
で与えられる。
第一項は複素スカラー場と同様類似の運動項であり、第二項はゲージ場との相互作用を表している。''g'' はゲージ場の結合定数、f<mathsup>f^{abc}</mathsup> はゲージ群の構造定数である。
 
ヤン=ミルズ理論の場合、反ゴースト場はゴースト場と同じ随伴表現の添え字をもつ。
第一項は複素スカラー場と同様の運動項であり、第二項はゲージ場との相互作用を表している。''g'' はゲージ場の結合定数、<math>f^{abc}</math> はゲージ群の構造定数である。
当初は反ゴースト場はゴースト場の複素共役であると間違って信じられていたが、ゴースト場、反ゴースト場はともに実である<ref>[[#kugo|九後]] pp.175-176</ref>。
 
[[量子電磁力学]]のように可換なゲージ群をもつ理論では、第二項の f<mathsup>f^{abc}</mathsup> がゼロとなるため、ゴースト場ゲージ場相互作用せず、ゴースト場の存在理論になんの影響及ぼさない。
 
== 脚注 ==
{{reflist}}
 
== 参考 ==
* {{Cite book|和書
|author=九後汰一郎
|title=ゲージ場の量子論Ⅰ
|publisher=培風館
|series=新物理学シリーズ
|year=1989
|isbn=978-4-563-02423-9
|ref=kugo
}}
{{粒子の一覧}}