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安室黎 (会話 | 投稿記録)
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'''倍数性'''(ばいすうせい、英語 : {{Lang-en|ploidy}} または polyploidy){{Lang|en|polyploidy}})とは、[[生物]]あるいはその[[生活環]]の一時期において、生存に必要な最小限の[[染色体]]の 1 組([[ゲノム]])を何セット持つかを示す概念。
 
== 用語としての「ゲノム」と倍数性の関連 ==
[[ゲノム]]の最初の定義は「[[配偶子]]がもつ 1 組の[[染色体]]」であったが、その後定義が変更され、使われる分野も広がった。倍数性の説明に用いる「ゲノム」は、現在の「生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」という定義から外れるものではないが、最初の定義に近く、「生存に必要な最小限の 1 組の染色体」を指す。生物のゲノム構成を記号で示すときは、二倍体であれば AA や BB のように、四倍体であれば AAAA や AABB のようにあらわす。
 
== 倍数性 ==
'''倍数性'''とは、[[ゲノム]]を何セット持つかを示す概念である。
 
ゲノム 1 セットに相当する染色体数を'''基本数'''といい、''x'' (まれに ''b'')で示す。倍数性は基本数の倍数で ''x'', 2''x'', 3''x'', ... のように表され、それぞれ'''一倍性'''('''半数性''' : monoploidy, haploidy)、'''二倍性'''(diploidy) (diploidy)、'''三倍性'''(triploidy) (triploidy)、... という。
それらの倍数性の生物('''倍数体''')は、それぞれ'''一倍体'''('''半数体''')、'''二倍体'''、'''三倍体'''、... という。
 
例えば、基本数が 9(9 (''x'' = 9)9) の四倍性(4 (4''x'') の倍数体生物がいるとすると、その生物の体細胞(2 (2''n'') における染色体数は、「2''n'' = 4''x'' = 36」「2''n'' = 36 の四倍体」 などと示される。動物の場合、特殊なものを除いてほぼ全てが二倍体(2 (2''x'') であり、二倍体であることを強調したい場合でない限り、「2''x'' =」 という表現はされない。
 
倍数性を、しばしば ''n'', 2''n'', 3''n'', 4''n'', ... のように表現することがあり、生物学の教科書などでもこのような表現をしている場合があるが、これは'''誤り'''である。
 
''n'' と 2''n'' は、生物体またはその細胞の'''核相'''を示すものである。''n'' と 2''n'' は、それぞれ'''単相'''世代、'''複相'''世代であることを示す([[生活環]]を参照)ものであり、核相と倍数性の表現で直接的な関連はない(2''n'' の '''2''' は、2 倍体の '''2''' と関係ない)。染色体数の「''n'' = ・・・」「2''n'' = ・・・」という表現は、あくまで「'''どの核相の細胞における染色体数であるか'''」を示すものであり、たとえ半数体生物や 3 倍体生物でも、体細胞における染色体数は「2''n'' = ・・・」、配偶子細胞における染色体数は「''n'' = ・・・」で表す。
 
生物の核相は基本的に単相か複相のどちらかであり、3''n'', 4''n'', ... という核相は、特殊なもの(一般的な被子植物の二次胚乳細胞など)を除き、存在しない。
 
英語では二倍体以上の倍数性を示す polyploidy(倍数性・多倍性)も同様に使われる用語である。多倍性の生物を'''多倍体'''という。
 
また、一倍体ゲノムの DNA 量は C 値と定義される。
 
== 倍数体 ==
'''倍数体'''(ばいすうたい、英語 : polyploid){{Lang-en|polyploid}})とは、倍数性に基づいて表現した生物の分け方。'''一倍体'''('''半数体''' )、'''二倍体'''、'''三倍体'''など。
 
[[有性生殖]]をする[[動物]]の多くは、両親から[[配偶子]]を通してそれぞれ 1 セットのゲノムを受け取り、計 2 セットのゲノムを持つ二倍体(ヒト, 2''n'' = 46 など)である。
 
一方、[[植物]]には様々な倍数体が存在している。それらは、[[農業]]で役に立つ特性を持つことがあり、[[作物]]の[[品種]]・[[種 (分類学)|種]]として成立している。
 
植物の倍数体は、'''同質倍数体'''と'''異質倍数体'''とに分けられる。1 種類のゲノムを複数持つ場合を同質倍数体といい、2 種類以上のゲノムで構成されている場合を異質倍数体という。動物の場合は異質倍数体は少ないが、[[生殖]]能力がない種間[[雑種]]([[レオポン]]や[[ラバ]])は異質二倍体と考えることもできる。アフリカツメガエル (''Xenopus laevis'') は異質4倍体と考えられており、''Xenopus''属にはさらに異質8倍体や異質12倍体のカエルもいる。
 
=== 同質倍数体 ===
'''同質倍数体'''(autopolyploid) (autopolyploid) とは、同じ種類のゲノムを複数持つ倍数体。しばしば、「同質」を省略して表記される。
 
三倍体や四倍体では[[細胞]]・[[器官]]・植物体全体が大きくなる傾向があり、農作物の遺伝的改良([[育種]])に利用されている。倍数体は種子ができにくいこと(不稔・部分不稔)もあるが、逆に三倍体の不稔を利用して「種無し」の品種を作ることにも利用されている。人工的に倍数性を増加('''倍加''')させるには、[[コルヒチン]]などの薬剤を使う。
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=== 異質倍数体 ===
'''異質倍数体'''(allopolyploid) (allopolyploid) とは、2 種類以上のゲノムで構成されている倍数体。異なるゲノムを持つ植物間の雑種に由来すると考えられている。各ゲノムが 2 セットずつである場合、[[減数分裂]]の際に各ゲノムの染色体が[[娘細胞]]に均等に分配されるため、生殖能力は正常である。
 
染色体数を倍数性を明らかにして示すときは、例えば 6 セットのゲノムからなる場合、2''n'' = 6''x'' = 42 のように書く。
 
特殊な呼び方として、2 種類のゲノムを持つ異質四倍体 (2(2''n'' = 4''x'') を'''複二倍体'''(amphidiploid) (amphidiploid) という。人工的に複二倍体を作った例としては、ハクラン(ゲノム構成 AACC : [[ハクサイ]]+[[キャベツ]])などがある。
 
; 異質倍数体の例
:* [[パンコムギ|普通コムギ]] (''Triticum aestivum''、2''n'' = 6''x'' = 42、ゲノム構成 AABBDD)
:* [[タカナ]](''Brassica juncea''、2''n'' = 4''x'' = 36、ゲノム構成 AABB)、[[セイヨウアブラナ]](''B. napus''、2''n'' = 4''x'' = 38、ゲノム構成 AACC)
:: 上記 2 つの植物は、A ゲノム種(''B. rapa''、2''n'' = 20 : [[ハクサイ]]・日本在来[[アブラナ]]など)、B ゲノム種(''B. nigra''、2''n'' = 16 : セイヨウカラシナ)、C ゲノム種(''B. oleracea''、2''n'' = 18 : [[キャベツ]]・[[ケール]]など)のゲノムを持つ複二倍体である。
 
== 半倍数性 ==
{{main|半倍数性}}
 
'''半倍数性'''(haplodiploidy) (haplodiploidy) とは、[[生活環]]の中に(生殖細胞としてではなく)独立の個体として振舞う'''単相'''(半数体)と'''複相'''(二倍体であることが多い)の世代が存在することである。核相の違いは受精の有無などにより、性決定を伴う場合もある([[:en:Haplodiploid sex-determination system|Haplodiploid sex-determination system]])。例えば動物では受精卵(二倍体)が雌となり、未受精卵(半数体)が雄となる例があり、[[ハチ目|膜翅目昆虫]]([[ハチ]]・[[アリ]])が代表例である。同様の機構は[[ダニ]]や[[ギョウチュウ]]にも見られる。
<!--植物の例の解説は、[[生活環#規則的な生活環]]「単複世代交代型」を参照のこと。高等植物や[[藻類]]に多くの例がある。同様の世代交代は、動物の例としては、[[有輪動物]]が知られている。菌類では、[[カワリミスカビ]]など少数の例がある。-->