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'''枕バネ'''(まくらばね、Secondary suspension、Secondary spring)は、[[鉄道車両の台車]]に設けられる[[ばね|バネ]]装置のひとつで、台車と車体の間に設けられるものを指す。車軸に設けられる軸バネと相まって、車両の荷重を台車に伝達するとともに、列車の走行にともなって発生する振動を抑制・減衰させ、車両の走行安定性や乗り心地を確保することを目的とする機構である。
 
== 概要 ==
[[画像:Function of Bogie ja.png|250px|thumb|台車に設けられる二種類のバネ]]
=== 枕バネの位置付け ===
鉄道車両の台車にしばしば用いられる[[ボギー台車]]では、右図に示す二種類のバネが設けられる。台車に[[輪軸 (鉄道車両)|輪軸]](車輪と車軸)を支持する'''軸バネ'''と、台車に車体を載せるための'''枕バネ'''である<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_223"/>
 
=== 枕バネに求められる性能 ===
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== 枕バネとして用いられるバネ ==
鉄道車両の枕バネとしては、かつては一般に重ね板バネやコイルバネが使用されるケースが多く、その他防振ゴムブロックや[[トーションバー・スプリング|トーションバー]]を使用する例も見られたが、現在は[[空気バネ]]の使用が一般的となっている<ref name="鉄道車両技術入門_13"/>
 
それぞれの得失は以下の通り。
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=== 重ね板バネ ===
[[画像:JNR-TR43-2.jpg|thumb|right|200px|スイングハンガー方式を採用する[[国鉄TR23形台車|国鉄TR43形台車]]の枕ばね部。複列の重ね板ばねを上下向かい合わせに組み合わせた枕ばね本体が、台車枠の内側から揺れ枕つりと呼ばれるリンクで吊り下げられた下揺れ枕に乗っている。]]
薄い鋼板の曲げ特性を利用したバネであり、主体となる板バネに順次数枚の子バネを重ね合わせてボルトで締め付け拘束したものである。[[リーフ式サスペンション|リーフスプリング]]とも呼ばれ、[[自動車]]などでも用いられている。枕バネとして用いられる場合は、容量を確保するため複数の重ね板バネを並列に配置したり、変形量を確保するため上下に重ねるなどして配置される<ref name="電車基礎講座_124"/>
 
重ね板バネは、それぞれの板バネの接触面に摩擦があることから、非線形特性を有しており振動に対する減衰性能が得られる。また、子バネの枚数変更や板厚変更により、必要に応じ任意の荷重上限を設定できるというメリットがある。その反面、摩擦力の調整が困難で所定のバネ定数に調整することが難しいこと、減衰性能は固体摩擦によるものであって振動数の高い「びびり振動」を吸収できないことが欠点として挙げられる。バネ鋼の品質に自信のあったヨーロッパ、とくにドイツで好んで使用され、枕バネとしてスパンが2m前後で厚い板バネを使用することで適切なたわみ量を確保しつつびびり振動の発生を抑制したゲルリッツ台車など、このバネの特性を最大限活用した機構も開発された。
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=== コイルバネ ===
[[画像:JRW kiha47-1005 DT22D.jpg|thumb|200px|right|コイルバネ使用の[[国鉄DT21形台車|DT22D形台車]]]]
バネ鋼と呼ばれる鋼材をコイル状に形成したもので、板バネに比して固体摩擦が無くバネを柔らかく設計できるメリットがある。また、吸収エネルギー量に対するバネの重量を小さく出来る点でも優れる。但し、固体摩擦を持たずびびり振動が発生しない反面、単体では適切な減衰が得られないため、枕バネに使用する場合には粘性減衰特性の高い[[ショックアブソーバー|オイルダンパ]]を併用する必要がある<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_223"/>
 
=== 防振ゴムブロック ===
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=== トーションバー ===
[[File:SIG-T 01.jpg|thumb|200px|2組みのトーションバー・スプリングを用いた[[レーティッシュ鉄道]] B2211 客車の SIG-T 台車]]
{{main|トーションバー・スプリング}}
[[トーションバー・スプリング]]はねじり棒バネとも称され、バネ鋼を使用した鋼棒のねじれからの復元力を利用したもの。コイルバネよりさらに吸収エネルギー量に対するバネの重量を小さく出来る点で優れる。このため、軽量化を重視する[[スイス国鉄]]向け軽量[[客車]]で[[シグ|SIG]]社によって枕バネへの応用が図られ、日本でも同社とライセンス契約を結んだ[[日本車輌製造]]により何種かこの方式を採用する台車が製造されたが、これも圧縮されるとバネ定数が上がる非線形特性を持つため、以後鉄道車両の枕バネにこのバネを使用する例はほぼ皆無である。
 
=== 空気バネ ===
[[画像:Tobu 8000 series EMU 008.JPG|thumb|right|200px|ベローズ形空気バネ使用の[[住友金属工業]]FS056形台車([[東武8000系電車]])]]
{{main|空気バネ}}
空気の圧縮性を利用したバネ機構で、容積を大きくすることでコイルバネを上回る柔らかい特性のバネ設計が容易に行える。また、自動高さ調整弁(レベリングバルブ)を使用することで空積にかかわらず床面高さを一定に保て<ref name="鉄道車両技術入門_13"/>、容積拡大のための補助空気室(通常、台車枠を流用する)とバネ本体の間に絞り弁を挿入することで粘性減衰特性を得ることが可能であり、オイルダンパを必要としない。その反面、編成中に元空気溜管を引き通して大容量空気圧縮機を搭載するなどの処置が必要となる。
* [[ベローズ]]形 - 縦に[[蛇腹]]形になったもので、垂直荷重は受けるが、横変形には弱い。
* [[ダイアフラムベローズ]]形 - 縦に[[椀|おわん蛇腹]]を伏せ形になっような形もの<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_225"/>、垂直荷重の他は受けるが、横変形にも復元力が働くが、用途によってその特性異なる弱い
* [[ダイアフラム]]形 - [[椀|おわん]]を伏せたような形で<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_225"/>、垂直荷重の他、横変形にも復元力が働くが、用途によってその特性は異なる。
* 低横剛性空気ばね - 緩衝ゴムを重ねた[[円柱|円筒]]の上に下面が窪んだ[[円盤]]状の空気ばねを組み合わせたもの<ref name="鉄道車両技術入門_14"/>。主に[[ボルスタレス台車]]に使用され、その名の通り横剛性を引き下げつつ上下方向のバネ作用を確保する。
 
== 関連項目脚注 ==
{{reflist|2|refs=
* [[鉄道車両の台車]]
<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_223">[[#鉄道車両メカニズム図鑑|鉄道車両メカニズム図鑑 p220]]</ref>
<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_225">[[#鉄道車両メカニズム図鑑|鉄道車両メカニズム図鑑 p225]]</ref>
<ref name="鉄道車両技術入門_13">[[#鉄道車両技術入門|鉄道車両技術入門 p13]]</ref>
<ref name="鉄道車両技術入門_14">[[#鉄道車両技術入門|鉄道車両技術入門 p14]]</ref>
<ref name="電車基礎講座_124">[[#電車基礎講座|電車基礎講座 p124]]</ref>
}}
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書
|author= 伊原一夫
|year= 1987
|title= 鉄道車両メカニズム図鑑
|publisher= グランプリ出版
|edition=初版
|isbn= 4-906189-64-4
|ref=鉄道車両メカニズム図鑑
}}
*{{Cite book|和書
|author = 野元浩
|year = 2013
|edition = 初版
|title = 電車基礎講座
|publisher = 交通新聞社
|isbn = 978-4-330-28012-7
|ref = 電車基礎講座 }}
* {{Cite book|和書
|author=近藤圭一郎
|title=鉄道車両技術入門
|edition=初版
|date=2013-07-20
|publisher=オーム社
|isbn=978-4-274-21383-0
|ref=鉄道車両技術入門
}}
 
 
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{{デフォルトソート:まくらはね}}
[[Category:鉄道車両の台車]]
* [[Category:鉄道車両の台車工学]]