「不定積分」の版間の差分
削除された内容 追加された内容
m →定理 |
現代的な積分論の記述とコンパチブルとなるように記述を改めた。 |
||
1行目:
[[関数 (数学)|関数]]の'''不定積分'''という用語には次に挙げる
(積分論) 3) ルベーグ積分論において定義域内の可測集合を変数とし、変数としての集合上での積分を値とする集合関数を関数 <math>f</math> の '''集合関数としての不定積分'''(indefinite integral as a set-function)と言う。
岩波書店の数学辞典では 2) と 3) が掲載されているが、海外の数学サイトでは wikipedia を含めて 1) が掲載されている場合が多い。ただしこれらはそれぞれ無関係ではなく、後述するように、例えば 2) は本質的には 3) の一部分と見なすことができ、2) から 1) を得ることもできるが、後者の対応は一般には全射でも単射でもない。▼
▲
また後述するように、1) や 2) の意味の不定積分を連続でない関数へ一般化すると、不定積分は通常の意味での原始関数となるとは限らなくなるのだが、連続関数に対してはほぼ一致する概念であるため、しばしば混同して用いられる。▼
▲また後述するように、
本項では特にことわらない限り、「不定積分」という用語を 1) の意味で用いる。また、不定積分と原始関数という言葉を、以下の定義に従って使い分ける。▼
==
関数 <math>f(x)</math> (積分される関数という意味で'''被積分関数'''という) が与えられたとき、[[微分方程式]] <math>\left(\tfrac{d}{dx}F(x) = f(x)\right)</math> の解となる関数 <math>F(x)</math> 各々である[[特殊解]]を <math>f(x)</math> の'''原始関数'''といい、解となる関数 <math>F(x)</math> 全体である[[一般解]]を <math>f(x)</math> の '''逆微分としての不定積分''' という。
関数 <math>f(x)</math> の不定積分は、端点を指定しないリーマン積分の記法([[ゴットフリート・ライプニッツ|ライプニッツ]]の記法)を用いて
{{Indent|<math>\int f(x)\,dx</math>}}
のように表される。
定義から、不定積分は一つの関数を表すものではないことに注意すべきである (実際、一階の微分方程式の一般解なのであるから、少なくとも一つの積分定数と呼ばれる任意定数を含む)。ただし、実用上は任意定数の値を決めるごとに原始関数が一つ現れるから、あたかも一つの関数であるかのように扱うことができる。▼
== 不定積分の定義 ==
さらに一つの関数に対する二つの原始関数は定数の違いしかなく、すべての変数項が一致する。▼
実際、<math>F(x)</math> を閉区間上の連続関数 <math>f(x)</math> の原始関数のひとつとし、同じ定義域における <math>f(x)</math> の他の原始関数 <math>G(x)</math> をとると、▼
{{Indent|<math>G(x) = F(x) + C\, </math>}}▼
を満たす適当な定数 <math>C</math> が存在する。ゆえに <math>f(x)</math> の不定積分は任意定数 <math>C</math> を用いて▼
{{Indent|<math>\int f(x)\,dx = F(x) + C</math>}}▼
と書くことができる。▼
ここで任意定数 <math>C</math> は通常、'''積分定数''' と呼ばれる。▼
=== 基点を持たない不定積分 ===
▲定義から、不定積分は一つの関数を表すものではないことに注意すべきである (実際、一階の微分方程式の一般解なのであるから、少なくとも一つの積分定数と呼ばれる任意定数を含む)。ただし、実用上は任意定数の値を決めるごとに原始関数が一つ現れるから、あたかも一つの関数であるかのように扱うことができる。
閉区間上の可積分関数 <math>f(x)</math> と定義域内の任意の閉区間 <math>[a,b]</math> に対して、次の '''微分積分学の基本公式''' を満たす関数 <math>F(x)</math> を <math>f(x)</math> の '''不定積分''' という。
{{Indent|<math>\int_a^b f(x)\,dx = F(b)-F(a)</math>}}
===
閉区間上の連続関数 <math>f(x)</math> に対して、定義域内の定数 <math>a</math> から変数 <math>x</math> までの定積分
{{Indent|<math>\int_a^x f(x)
を <math>f(x)</math> の '''
このとき、'''微分積分学の基本定理'''('''第一基本定理''')から▼
{{Indent|<math>\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)dt = f(x)</math>}}▼
▲{{Indent|<math>\int f(x)\,dx = \int_a^x f(t)dt + C</math>}}
と書くことができる。▼
===
ユークリッド空間 <math>\mathbf{R}^n</math>
{{Indent|<math>\Phi(E) = \int_E f\,d\mu</math>}}
を関数 <math>f</math> の '''
このとき、<math>\Phi(E)</math> は絶対連続な完全加法的集合関数となる。
== 逆微分と不定積分、定積分との関係 ==
<math>f(x)</math> を閉区間上の連続関数とする。このとき、不定積分と逆微分は次の意味で対応する。
閉区間上の連続関数 <math>f(x)</math> の原始関数 <math>F(x)</math> が与えられれば、'''微分積分学の基本定理'''('''第二基本定理''')から、定義域内の任意の2点 <math>a</math> と <math>b</math> に対して▼
=== 不定積分から逆微分 ===
▲{{Indent|<math>\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)\,dt = f(x)</math>}}
が成り立つから、<math>a</math> を基点とする不定積分で与えられる関数 <math>\int_a^x f(t)dt </math> は <math>f(x)</math> の原始関数のひとつである。
さらに不定積分 <math>F(x)</math> の定義から、<math>G(x)=F(x)-F(a)</math> は <math>a</math> を基点とする不定積分 <math>\int_a^x f(t)\,dt</math> に一致するから、<math>f(x)</math> の原始関数のひとつであり、従って <math>F(x)=\int_a^x f(t)\,dt+F(a)</math> もそうである。
=== 逆微分から不定積分 ===
逆に閉区間上の連続関数 <math>f(x)</math> の原始関数 <math>F(x)</math> が与えられれば、'''微分積分学の基本定理'''('''第二基本定理''')から、定義域内の任意の閉区間 <math>[a,b]</math> に対して
{{Indent|<math>\int_{a}^{b}f(t)dt = F(b) - F(a)</math>}}
が成立するから、<math>F(x)</math> は <math>f(x)</math> の不定積分である。
が成立する。この式を、'''微分積分学の基本公式''' という。定積分を、定義から直接にリーマン和(微小長方形の面積の総和)の極限として求めるのは非常に困難であるが、不定積分が初等関数で表せる場合は、この公式を用いると単純な計算問題に帰着させることができる。▼
=== 集合関数としての不定積分から基点を持つ不定積分 ===
<math>\Phi(E)</math> を
=== 基点を持つ不定積分から逆微分 ===
連続関数 <math>f(x)</math> の「
例えば <math>f(x) = x</math> という連続関数を考えた場合、その「不定積分」は <math>\int x \,dx = \frac{1}{2}x^2 + C</math> であるが「
=== 逆微分と定積分との関係 ===
▲閉区間上の連続関数 <math>f(x)</math> の原始関数 <math>F(x)</math> が与えられれば、'''微分積分学の基本定理'''('''第二基本定理''')から、定義域内の任意の2点 <math>a</math> と <math>b</math> に対して '''微分積分学の基本公式'''
{{Indent|<math>\int_{a}^{b}f(t)dt = F(b) - F(a)</math>}}
▲が成立する
== 性質 ==
▲実際、<math>F(x)</math> を閉区間上の連続関数 <math>f(x)</math> の原始関数のひとつとし、同じ定義域における <math>f(x)</math> の他の原始関数 <math>G(x)</math> をとると、
{{Indent|<math>G(x) - F(x) = C\, </math>(定数)}} を満たす適当な定数 <math>C</math> が存在する。
▲と書くことができる。
▲ここで任意定数 <math>C</math> は通常、'''積分定数''' と呼ばれる。
従って特に <math>a</math> を基点とする不定積分と任意定数 <math>C</math> を用いて
=== 一般公式 ===
* <math>\int (f(x)+g(x)) dx = \int f(x)dx + \int g(x)dx. </math>
87 ⟶ 117行目:
* <math>\int \frac{1}{\tan x} \, dx = \ln|\sin x| +C. </math>
* <math>\int \tan^{-1} x \, dx = x\tan^{-1} x - \frac{1}{2} \ln (1+x^2) +C.</math>
▲== 特性定理 ==
▲#*<math>\Rightarrow </math> を証明する。条件より <math>(F(x)-F_1(x))'=f(x)-f(x)=0</math> であるから、平均値の定理より <math>F(x)-F_1(x)</math> は定数である。
== 一般化 ==
105 ⟶ 129行目:
実際、カントール集合から作られる単調増加関数であるカントール関数は、定数関数でないのに、恒等的に値 <math>0</math> をとる定数関数のここでの意味の原始関数となっている。
ただしカントール関数は絶対連続ではなく、一般に原始関数にさらに絶対連続性を要求するのであればこの様な例は排除される。
▲<math>n=1</math> で <math>X</math> が閉区間 かつ <math>f</math> を <math>X</math> 上で連続とする。
▲<math>\Phi(E)</math> を「ルベーグ不定積分」とするとき、定数 <math>a \in X</math> を固定し、変数 <math>x \in X</math> に対して、<math>x\ge a</math> のとき <math>F(x)=\Phi([a,x])</math> と、また <math>x\le a</math> のとき <math>F(x)=-\Phi([x,a])</math> と置いて得られる関数 <math>F(x)</math> は通常 <math>\int_a^x f(t)\,dt</math> と表される <math>f(x)</math> の「基点 <math>a</math> を持つ不定積分」を与える。
▲<math>f(x)</math> の「基点 <math>a</math> を持つ不定積分」<math>\int_a^x f(t)\,dt</math> は、基点 <math>a</math> を定義域内で任意に移動させることで「不定積分」の部分集合を与える。ただし、この対応は一般には全射にも単射にもならない。
▲例えば <math>f(x) = x</math> という連続関数を考えた場合、その「不定積分」は <math>\int x \,dx = \frac{1}{2}x^2 + C</math> であるが「基点 <math>a</math> を持つ不定積分」<math>\int_a^x\,t\,dt=\frac{1}{2}x^2-\frac{1}{2}a^2</math> からは <math>C \le 0</math> の場合しか得られず、同じ <math>C < 0</math> を与える <math>a</math> の値が二つ存在する。
==脚注==
|