「人工多能性幹細胞」の版間の差分

細々と修正
m (曖昧さ回避処理)
(細々と修正)
元来、動物を構成する種々の細胞に分化し得る[[幹細胞#分化万能性(Pluripotency)|分化万能性]]は、[[胚盤胞]]期の胚の一部である[[内部細胞塊]]や、そこから培養されたES細胞(胚性幹細胞)、および、ES細胞と体細胞の融合細胞、一部の[[生殖細胞]]由来の[[培養細胞]]のみに見られる特殊能力であったが、iPS細胞の開発により、[[受精卵]]やES細胞を全く使用せずに分化万能細胞を単離培養することが可能となった。
 
分化万能性を持った細胞は理論上、体を構成するすべての[[組織 (生物学)|組織]]や[[臓器]]に分化誘導することが可能であり、[[ヒト]]の患者自身から採取した体細胞よりiPS細胞を樹立する技術が確立されれば、[[拒絶反応]]の無い移植用組織や臓器の作製が可能になると期待されている。ヒトES細胞の使用において懸案であった、胚盤胞を滅失することに対する倫理的問題の抜が根本的解決繋がる無いことから、再生医療の実現に向けて、世界中の注目が集まっている。
 
また、再生医療への応用のみならず、患者自身の細胞からiPS細胞を作り出し、そのiPS細胞を特定の細胞へ分化誘導することで、従来は採取が困難であった病変組織の細胞を得ることができ、今まで治療法のなかった難病に対して、その病因・発症メカニズムを研究したり、患者自身の細胞を用いて、薬剤の効果・毒性を評価することが可能となることから、今までにない全く新しい医学分野を開拓する可能性をも秘めていると言える。
 
しかし一方で、この技術を使えば男性から[[卵細胞|卵子]]、女性から[[精子]]を作ることも可能となり、同性配偶による子の誕生も可能にするため、技術適用範囲については大いに議論の余地が残っている。さらには、iPS細胞は発癌遺伝子c-Myc[[遺伝子導入|導入]]するなどして[[悪性腫瘍|癌]]細胞と同じように無限増殖性を持たせた人工細胞であり、また、[[遺伝子導入]]の際に使用している[[レトロウイルス科|レトロウイルス]]などが[[染色体]]内のランダムな位置に発癌遺伝子などの遺伝子を導入してしまうため、もともと染色体内にある遺伝子に変異が起こって内在性発癌遺伝子を活性化してしまう可能性があるなど、実際に人体に移植・応用するには大きな課題が残っている。
 
==それ以前==
[[植物]]は基本的には組織切片から全体を再生することができる。例えば[[ニンジン]]を5[[ミリメートル]]角程度に切り出し、[[エタノール]]などにつけて消毒し、適切な[[培地]]に入れて適切な(温度・日照などの)条件におけば[[胚]]・[[不定芽]]などを経て生育し、元のニンジン同様の形になる([[組織培養]])。
 
しかし、(高等)[[動物]]では、受精卵以外の組織はこうした能力([[幹細胞#分化全能性 (Totipotency)|全能性]])を持たない。一方、培養下において、全ての組織に分化し得る能力(分化万能性)を持つ細胞は存在する。一般論をいえば、これらの分化万能性を持つ動物の細胞を適切な培地にいれて適切な条件で培養しても、秩序だった組織は形成されず、細胞の塊ができるだけである。しかし、これらの細胞から組織、器官を分化・形成させることができれば、事故や病気などで失ってしまった体の部分を[[移植元の人体 (医療)|ドナーから臓器提供]]を受ける事無く欠損部位に必要組織や器官を入手移植することができる。また、他人のドナーに由来する組織移植することに伴う拒絶反応の発生を抑制することも可能となると考えられる。そのため、培養による組織の形成には様々な試みがなされてきた。
 
[[胚性幹細胞|ES細胞]]はその代表例であり、体を構成する様々な細胞に分化誘導できることが知られていた。しかしES細胞は[[胚発生|発生]]初期の胚からしか得ることができず、ヒトES細胞については胚の採取が母体に危険を及ぼすことや、個体まで生育しうる胚を実験用に滅失してしまうことについては倫理的な問題が指摘さ伴い、その作成や実験等には厳しい制約が課せられている。
 
そのため、[[皮膚]]や[[血液]]など、比較的安全に採取でき、かつ再生が可能な組織からの分化万能性をもった細胞の発見が期待されていた。
 
==iPS細胞樹立の背景==
ヒトの体はおよそ60兆個の細胞で構成されているが、元をたどればこれらの細胞はすべて、たった一つの受精卵が増殖と分化を繰り返して生まれたものである。この受精卵だけが持つ完全な分化能を全能性 (totipotency) と呼び、ヒトを構成するすべての細胞、および[[胎盤]]などの胚体外組織を自発的に作り得る能力を指す。受精卵が胚盤胞まで成長すると、胚体外組織を形成する細胞と、個体を形成する細胞へと最初の分化が起こる。後者の細胞は内部細胞塊に存在し、胚体外組織を除くすべての細胞へ分化できることから、これらの細胞がもつ分化能を分化万能性 (pluripotency) と呼ぶ。この内部細胞塊から単離培養されたES細胞もまた分化万能性を持ち、個体を構成するすべての細胞に分化できる。なお、成人にも[[神経幹細胞]]や[[造血幹細胞]]など、種々の[[幹細胞]]が知られているが、これらの幹細胞のもつ分化能は、神経系や造血系など一部の細胞種に限られているため、[[幹細胞#分化多能性 (Multipotency)|多能性]] (multipotency) と呼ばれている。
 
ES細胞などの分化万能細胞は、培養条件によって分化万能性を維持したまま増殖したり、多種多様な細胞へ分化することができる。しかしながら、同一個体においては、分化万能細胞も体細胞も核内にもつ遺伝子の[[塩基配列]]は([[テロメア]]など一部を除き)全く同一であり、分化能の違いは、様々な遺伝子の発現量と、それを制御する[[クロマチン]]修飾、及び[[DNAメチル化]]などの[[エピジェネティクス|エピジェネティック]]な情報の違いに由来すると考えられている。例えば、ES細胞は[[Oct3/4]]や[[Nanog]]などの遺伝子を発現してES細胞としての分化万能性を維持しているが、終末分化した体細胞ではこれらの遺伝子は発現していない。全ての体細胞はOct3/4やNanogの遺伝子を核内に持ってはいるが、様々な[[転写因子]]やエピジェネティック機構により、発現が抑制されているのである。
 
こうした遺伝子発現パターンの違いを解析し、人為的に切り替えることができれば、分化した体細胞を未分化な分化万能細胞へと戻すこと([[リプログラミング|初期化[リプログラミング]]])ができると考えられていた。この仮説を裏付けていたのが、[[1962年]]に[[:en:John Gurdon|ジョン・ガードン]]が[[核移植]]技術によるを用いて[[アフリカツメガエル]]の[[クローン]]胚作製成功した事例にはじまるクローン動物の存在である。すなわち、体細胞の核を取り出し、核を取り除いた未受精卵<ref group="注">受精卵が用いられる場合もある。</ref>内に移植することによって、核内の遺伝子発現パターンが未分化な細胞のパターンにリプログラムされることが示されている。また、体細胞をES細胞と融合させることにより、体細胞の[[遺伝子発現]]がES細胞様に変化することも知られていた。これはつまり、卵やES細胞の中に、核内のエピジェネティックな情報をリプログラムすることが可能な因子が含まれていることを意味している。ただし、その因子が一体何であるのかは、長い間謎に包まれていた。
 
==マウスiPS細胞の樹立==
山中らのグループは、体細胞を多能性幹細胞へとリプログラムする因子を探索する過程で、ES細胞に特異的に発現するFbx15という遺伝子に着目し、Fbx15遺伝子座中の構造遺伝子を[[ネオマイシン]][[耐性遺伝子]]と入れ換えた[[ノックインマウス]]を作製していた<ref>{{cite journal|author=Tokuzawa Y, Kaiho E, Maruyama M, Takahashi K, Mitsui K, Maeda M, Niwa H, Yamanaka S.|title=Fbx15 is a novel target of Oct3/4 but is dispensable for embryonic stem cell self-renewal and mouse development|journal=Mol Cell Biol|volume=23|pages=2699-2708|year=2003|id=PMID 12665572}}</ref>。このマウスには明らかな異常は認められなかったが、山中らは『通常はFbx15を発現しない線維芽細胞が、何らかの方法で多能性を獲得するとFbx15を発現するようになる』との仮説を立て、このノックインマウス由来の線維芽細胞にレトロウイルス[[ベクター (遺伝子工学)|ベクター]]を用いて候補遺伝子を導入した後、ES細胞増殖の条件で[[G418]]<ref group="注">ネオマイシンと類似の構造を持ち、[[真核細胞]]と[[原核細胞]]の両方に毒性を示す[[抗生物質]]。ジェネティシン (geneticin) ともいう。</ref>を添加して培養するという実験系を構築した(図)。彼らの仮説に基づけば、Fbx15を発現しない線維芽細胞はG418によって死滅するが、多能性を獲得した細胞はFbx15遺伝子座上のネオマイシン耐性遺伝子が発現し、G418耐性となって生き残ると考えられた。
 
ES細胞で特異的に発現し、分化万能性の維持に重要と考えられる因子を中心に、24個の候補遺伝子を選んで導入実験を行ったが、どの遺伝子も単独ではG418耐性を誘導できなかった。そこで24個すべての遺伝子を導入したところ、G418耐性の細胞からなるコロニーを複数形成することに成功した。この細胞を分離培養するとES細胞に酷似した形態を示し、長期に[[継代]]可能であった。彼らはこのES様[[細胞株]]を「iPS細胞」と命名し、24遺伝子の絞り込みを行い<ref group="注">具体的には24遺伝子のうち1つだけを除き23遺伝子を導入して挙動を観察した。これにより除いた遺伝子が分化万能性の維持に関わっているかを確認する。除く遺伝子を変えながらこの作業を順に24回繰り返した。</ref>、最終的にiPS細胞を樹立するには4遺伝子で十分であることを突き止めた。この4遺伝子はOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycで、発見者の名を取り“山中因子 (Yamanaka factors)”とも呼ばれている。これらの研究成果は、2006年8月に[[セル (雑誌)|セル]]誌に掲載された<ref>{{cite journal|author=Takahashi K, Yamanaka S.|title= Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors|journal=Cell|volume=126|pages=663-676|year=2006|id=PMID 16904174}}</ref>{{#tag:ref|当時は[[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E7%A6%B9%E9%8C%AB#ES.E7.B4.B0.E8.83.9E.E8.AB.96.E6.96.87.E4.B8.8D.E6.AD.A3.E4.BA.8B.E4.BB.B6|韓国におけるヒトES細胞捏造事件]]が発覚した直後であり、厳しい批判が予想されたため、論文の著者はあえて自分と筆頭著者だけに絞った。現在では、Fbx15ノックアウトマウスの樹立に貢献した大学院生と技官の2名を著者に加えなかったことを大変後悔している、と山中は述懐している<ref group="出">{{cite journal|和書|author=山中伸弥|year=2009|month=3|title=iPS細胞の樹立〜若い力がもたらした幸運|journal=細胞工学|volume=28|issue=3|pages=pp. 242-243|publisher=秀潤社}}</ref>。事件の影響の大きさを物語るエピソードである。|group="注"}}。
 
===マウスiPS細胞作製法の改良===
Fbx15遺伝子の発現によって選別され樹立されたiPS細胞(Fbx15-iPS細胞)は、細胞形態や増殖能、分化能などにおいてES細胞と極めて良く似ていたが、一部の遺伝子の発現パターンや、DNAメチル化パターンなどはES細胞と異なっていた。また、[[ヌードマウス]]の皮下に移植すると3[[胚葉]]成分からなる[[奇形腫]]をつくることができるが、胚盤胞に注入してもiPS細胞由来の細胞が混在した[[キメラ]]マウスは産まれなかったことから、ES細胞と同様の分化万能性を持つとは言い難かった。山中らは、ES細胞の万能性維持に重要なNanog遺伝子の上流に[[緑色蛍光タンパク質|GFP]]および[[ピューロマイシン]]耐性遺伝子を挿入した[[トランスジェニックマウス]] (''cf.'' [[:en:Genetically modified mouse|en]]) を作製し、このマウス由来の線維芽細胞に上述の4遺伝子を導入して、Nanogの発現レベルによってiPS細胞を選別、樹立した。[[2007年]]7月に発表されたこの改良iPS細胞(Nanog-iPS細胞)は、オリジナル最初のiPS細胞(Fbx15-iPS細胞)に比べてよりES細胞に近い遺伝子発現パターンを示し、胚盤胞への注入により成体キメラマウスを得ることが可能で、さらにキメラマウスとの交配で次世代の子孫にiPS細胞に由来する個体が産まれること (germline transmission) が確認された<ref>{{cite journal|author=Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S.|title= Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells|journal= Nature|volume= 448|pages=313-317|year=2007|id=PMID 17554338}}</ref>。時をほぼ同じくして、[[マサチューセッツ工科大学]] (MIT) の[[ルドルフ・イエーニッシュ]]らのグループ<ref>{{cite journal|author=Wernig M, Meissner A, Foreman R, Brambrink T, Ku M, Hochedlinger K, Bernstein BE, Jaenisch R.|title= In vitro reprogramming of fibroblasts into a pluripotent ES-cell-like state|journal=Nature|volume=448|pages=318-324|year=2007|id=PMID 17554336}}</ref>、[[ハーバード大学]]ハーバード幹細胞研究所のコンラッド・ホッケドリンガー (Konrad Hochedlinger) と[[カリフォルニア大学ロサンゼルス校]] (UCLA) のキャスリン・プラース (Kathrin Plath) らのグループ<ref>{{cite journal|author=Maherali N, Sridharan R, Xie W, Utikal J, Eminli S, Arnold K, Stadtfeld M, Yachechko R, Tchieu J, Jaenisch R, Plath K, Hochedlinger K.|title=Directly reprogrammed fibroblasts show global epigenetic remodeling and widespread tissue contribution|journal=Cell Stem Cell|volume=1|pages=55-70|year=2007|id=PMID 18371336}}</ref>からも、同様の研究成果が報告された。
 
遺伝子導入によって多能性を獲得した細胞を選別する際に、Fbx15やNanogなど特定の遺伝子の発現を指標とする場合、GFPや薬剤耐性遺伝子などの[[レポーター遺伝子]]を特定の遺伝子座に組み込んだトランスジェニックマウスやノックインマウスなどの[[遺伝子改変動物]]が必要となる。しかし、ヒトの場合は細胞に対してこれらの遺伝子改変技術は適用できないため、ヒトiPS細胞の樹立に際して大きな障害となっていた。2007年8月、ヤニッシュらのグループは、[[野生型]]マウス由来の線維芽細胞に4遺伝子を導入後、細胞の形態変化によってiPS細胞を選別、単離することに成功し、遺伝子改変マウスを用いなくてもiPS細胞が樹立できることを報告<ref>{{cite journal|author=Meissner A, Wernig M, Jaenisch R.|title= Direct reprogramming of genetically unmodified fibroblasts into pluripotent stem cells|journal= Nat Biotechnol|volume=25|pages=1177-1181|year=2007|id=PMID 17724450}}</ref>、ヒトiPS細胞の樹立へと道を拓いた。同年9月には、[[カリフォルニア大学サンフランシスコ校]]のミゲル・ハマーリョ-サントス (Miguel Ramalho-Santos) らのグループも、薬剤による選別を行わず、c-Mycの代わりにn-Mycを、またレトロウイルスベクターの一種である[[レトロウイルス#.E3.83.AC.E3.83.B3.E3.83.81.E3.82.A6.E3.82.A4.E3.83.AB.E3.82.B9.E4.BA.9C.E7.A7.91|レンチウイルス]]ベクターを用いてiPS細胞を樹立した<ref>{{cite journal|author=Blelloch R, Venere M, Yen J, Ramalho-Santos M.|title=Generation of induced pluripotent stem cells in the absence of drug selection|journal=Cell Stem Cell|volume=1|pages=245-247|year=2007|id=PMID 18371358}}</ref>。
 
iPS細胞の癌化への対策についても、様々な改善方法が試みられている(後に詳述)。
 
==ヒトiPS細胞の樹立==
== 再生医療への適用 ==
=== 加齢黄斑変性 ===
今、ipsiPS細胞を用いた再生医療研究の中で最もヒトへの応用が近いとされるものが[[加齢黄斑変性]]に対する再生医療である。この病は[[アメリカ]]に於ける中途[[失明]]の原因の一位とされ、日本に於いても[[高齢化]]や生活の欧米化等より、近年著しくその患者数を増やしている。この病には[[加齢黄斑変性#滲出型|滲出型]]と[[加齢黄斑変性#萎縮型|萎縮型]]があり、前者に関しては血管の新生を抑える薬を眼に注射する方法や、レーザーを照射し、新生血管を閉じる治療などが行われているが、今のところ[[加齢黄斑変性#萎縮型|萎縮型の加齢黄斑変性]]に対する有効な治療法は今のところは無い。
また、レーザーを照射するといった既存の治療の場合、新生血管と接触する網膜の視細胞をも破壊してしまい、光が感知出来なくなる点、絶対暗点を生じさせるといった問題点もある。 
このような問題に対し、以前に他人から提供された眼や胎児細胞を使った網膜色素上皮細胞の再建が海外で試されることもあった。しかしながら、この方法では強力な拒絶反応が起きるとされ、実用には及ばなかった。この課題について、'''本人の細胞から作製するipsiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を使うことで'''解決が出来ると考えられている。<br />
 
また、網膜色素上皮細胞は一種類の細胞から成る一層のシート状の構造をしており、他の「複雑な組織と比べ作成し易い組織といえる。さらに、'''「色素」'''という名前が示すように、黒い色素がついており、他の細胞と区別がし易く、使いやすい細胞といえる。移植する細胞数が少なく、元々腫瘍化しにくい組織なので、安全性も高い。万が一癌化した場合も、レーザー治療などで比較的簡単に対処が出来る。
以上の理由により、他の再生医療と比べてリスクの排除がし易いというメリットがある。ただし、未知のリスクは排除しきれないことに加え、シートの移植には通常の眼科手術が必要で、その手術に伴う危険性は存在しうる。<br />
 
更なる課題として、将来、多くの患者が利用する為には、網膜色素上皮細胞の製作時間の短縮、製作費用の削減する工夫が必要とされる。<ref>この節の内容全て「日刊工業出版社 京都大学ips細胞研究所編著 山中伸弥教授 監修 ips細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学」から。</ref>
 
=== パーキンソン病 ===
 
 
==iPS細胞樹立に対する世間の反応==
iPS細胞樹立の成功により、ES細胞の持つ生命倫理上の問題を回避することができるようになり、免疫拒絶の無い再生医療の実現に向けて大きな一歩となった。2007年11月には宗教界からの評価の一例として、[[ローマ教皇庁]](ローマ法王庁)の生命科学アカデミー所長の{{仮リンク|エリオ・スグレッチャ|en|Elio Sgreccia}}[[司教]](肩書きはいずれも当時のもの。なお、同司教は2010年11月に[[枢機卿]]に親任されている)は「難病治療につながる技術を受精卵を破壊する過程を経ずに行えることになったことを賞賛する」との趣旨の発表を行った<ref group="出">万能細胞:ローマ法王庁が京大などの研究成功を称賛 毎日新聞 2007年11月23日</ref><ref group="出">[http://www.afpbb.com/article/life-culture/religion/2315537/2381232 APF BBニュース 人工多能性幹細胞の作製成功でローマ法王庁、「倫理的問題とみなさず」2007年11月22日]</ref><ref group="注">なお、出典の一つのAFPでは「スグレシア」の表記を行なっているが、ここでは[[カトリック中央協議会]]が訳出した、同司教を含めた2010年10月の「[[ベネディクト16世 (ローマ教皇)|ベネディクト16世]]の[http://www.cbcj.catholic.jp/jpn/feature/benedict_xvi/bene_message552.htm 新枢機卿任命のことば(の日本語訳)]」の表記「スグレッチャ」に従った。</ref>。
 
またこの成功に対して、2007年[[11月23日]]に日本政府が5年間で70億円を支援することを決定。さらに、山中は2010年4月より京都大学iPS細胞研究所長を務めている。
 
===癌化・奇形腫の形成===
ipsiPS細胞に於ける癌化の懸念は、少なくともタイプが2つ想定される。ひとつは初期化因子の導入に伴う遺伝子異常、もう一つはきちんと分化しきていないままに、万能性を残した細胞の残存による[[奇形腫|奇形腫(テラトーマ)]]の形成である。<ref>「日刊工業出版社 京都大学ips細胞研究所編著 山中伸弥教授 監修 ips細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学」から。</ref>
マウスの実験において表面化した最大の懸念は、iPS細胞の[[悪性腫瘍|癌]]化であった。iPS細胞の分化能力を調べるためにiPS細胞をマウス胚盤胞へ導入した胚を偽妊娠マウスに着床させ、[[キメラマウス]]を作製したところ、およそ20%の個体において癌の形成が認められた。これはES細胞を用いた同様の実験よりも有意に高い数値であった。この原因は、iPS細胞を樹立するのに発癌関連遺伝子であるc-Mycを使用している点と、遺伝子導入の際に使用しているレトロウイルスは染色体内のランダムな位置に遺伝子を導入するため、元々染色体内にある遺伝子に変異が起こり、内在性発癌遺伝子の活性化を引き起こしやすい点が考えられた。
 
2009年3月には、[[イギリス|英]][[エディンバラ大学]]の[[梶圭介]]グループリーダーらにより、ウイルスを使わないでiPS細胞を作成する方法が発表された。
 
他にも、'''プラスミド'''と呼ばれる環状の[[デオキシリボ核酸|DNA]]をベクターとして用いるという方法を、2008年、CIRAの[[沖田圭介]]らのグループが発表した。この方法の場合、導入した遺伝子が染色体に取り込まれることが無い為、ウイルスベクターを用いる方法と比べ安全性が高い。しかし、ipsiPS細胞生成の効率が低いことが過大課題だった。そこで彼らは、プラスミドを使用する方法を更に改良し、2011年4月には細胞内で自律的に複製される'''エピソーマル・プラスミド'''を使用し、加えて初期化因子として''Otc3/4,Sox2,klf4,lin28,L-mYC,p53shRNA''と呼ばれる6つの因子を使うことで、ipsiPS細胞の作成効率を高める事に成功した。
<ref>「日刊工業出版社 京都大学ips細胞研究所編著 山中伸弥教授 監修 ips細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学」から。</ref>
 
===倫理的問題===
ES細胞において最大の問題となっていたのは、受精卵を破壊しなければES細胞を作成できないという倫理的問題であった。iPS細胞はこの問題を解決することが期待されて孕まなが、ここにきて別途、新たな倫理的問題が浮上している。
 
2012年10月、京都大学の斎藤通紀教授らのグループがマウスにおいてiPS細胞から精子と卵子を作製し、それらを元に受精、出産に成功したと発表した。これにより、不妊治療へ応用開かれた半面、「同性愛者間での妊娠・出産の是非」や、「同一人物の精子と卵子を受精させ、出産させる」ことが可能であるという倫理的問題が浮上している。
 
前者の「同性愛者間での妊娠・出産」に関しては各個人の価値観に基づく問題ともいえるが、後者の「同一人物の精子と卵子を受精させ、出産させること」に関してはクローン羊ドリーが誕生した時に騒がれたように、ある特定の人物を複数誕生させることができ、[[クローン人間]]同様に「iPS細胞の由来で生まれた人間」の[[人権|権利]]が認められない、などの問題がある。また、日本やアメリカなど主要国が「iPS細胞由来生殖細胞による受精を禁止」しても、これを禁止していない国ならば容易に可能であるということも問題に拍車をかけている。これはiPS細胞が大学院生でも作製可能という容易さと、体細胞由来ということから生じた予期せぬ倫理問題であり、今後解決すべき必要があるといえる。
 
===iPS細胞から組織への分化誘導===
1981年にマウスES細胞<ref>{{cite journal|author = Evans M, Kaufman M|title = Establishment in culture of pluripotential cells from mouse embryos|journal = Nature|volume = 292|issue = 5819|pages = 154-6|year = 1981|id = PMID 7242681}}</ref>、1998年にヒトES細胞<ref>{{cite journal|author = Thomson JA, Itskovitz-Eldor J, Shapiro SS, Waknitz MA, Swiergiel JJ, Marshall VS, Jones JM.|title = Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts.|journal = Science|volume = 282|issue = 5391|pages = 1145-7|year = 1981|id = PMID 9804556}}</ref>が樹立されてから年月が経ち、期的に脈打つ[[心筋]]細胞や[[軸索]]を持った[[神経細胞]]、[[インスリン]]を分泌する[[膵臓#ランゲルハンス島(内分泌部)|膵β細胞]]など、ES細胞からさまざまな種類の細胞を作り出すことに成功しているが、大部分はまだ細胞レベルの基礎研究であり、実際に移植した際の機能や組織補完能力についてはまだ良く分かっていない。また、高度な機能と構造を持った組織や臓器レベル(心臓、[[脳]]、膵臓など)の再生は、実用化に程遠いのが実状である。
 
===拒絶反応===
3,235

回編集