「展延性」の版間の差分

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弥三郎 (会話 | 投稿記録)
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==== 延性-ぜい性遷移温度 ====
[[ファイル:Ductility.svg|thumb|right|157px|丸い金属棒の引張試験結果の分類<br/>(a) ぜい性破壊<br/>(b) 延性破壊<br/>(c) 完全な延性破壊]]
体心立方格子金属やシリコンなどにおいては、室温で延性破壊していたものが温度の低下に伴ってぜい(脆)性破壊に遷移する、延性ぜい(脆)性遷移現象が起こる。この現象は降伏応力(YS)と劈開破壊の破壊応力の釣り合いにより説明される<ref>例えば、泉山, 茅野, 長井: 鉄と鋼, 100(2014), 704-712.</ref>。
金属の延性-[[ぜい性]]遷移温度 (ductile-brittle transition temperature, DBTT)、無延性遷移温度 (nil ductility temperature, NDT) は、破壊に要するエネルギーが所定の量(鋼の場合、標準的な[[シャルピー衝撃試験]]では一般に40J<ref>John, Vernon. ''Introduction to Engineering Materials'', 3rd ed.(?) New York: Industrial Press, 1992. ISBN 0831130431.</ref>)を下回るようになる温度である。材料がDBTTより低い温度にまで冷やされると、力がかかった際に変形するのではなく破断する可能性が高くなる。例えば[[亜鉛]]合金の[[ザマック]]3は常温ではよい展延性を示すが、零下になると衝撃で粉砕される可能性が高くなる。材料が[[応力]]にさらされる可能性がある場合、DBTTは材料選択時の重要な観点となる。同様に[[ガラス転移点]]はガラスや重合体での同様の現象に対応しているが、ぜい性が生じる仕組みは金属とは異なる。
 
金属の延性-[[ぜい(脆)]]遷移が起きる温度 (ductile-brittle transition temperature, DBTT)、無性ぜい(脆)性遷移温度 (Ductile-(nilto)-brittle ductilitytransition temperature, NDT) はDBTT)と呼ばれ破壊に要するエネルギーが所定の量(鋼の場合、標準的な[[シャルピー衝撃試験]]では一般に40J<ref>John, Vernon. ''Introduction to Engineering Materials'', 3rd ed.(?) New York: Industrial Press, 1992. ISBN 0831130431.</ref>)を下回るようになる温度である。材料がDBTTより低い温度にまで冷やされると、力がかかった際に変形するのではなくせずに破断する可能性が高くなる。例えば[[亜鉛]]合金の[[ザマック]]3は常温ではよい展延性を示すが、零下になるとわずかな衝撃荷重粉砕脆性破壊される可能性が高くなる。材料が[[応力]]にさらされる可能性がある場合、DBTTは材料選択時の重要な観点となる。同様に[[ガラス転移点]]はガラスや重合体での同様の現象に対応しているが、ぜい性が生じる仕組みは金属とは異なる。
物質によってはこの遷移が非常に急激に起きるものがある。例えば、一般に[[体心立方格子構造]] (BCC) の[[結晶構造]]の物質は、[[面心立方格子構造]] (FCC) の物質よりも延性-ぜい性遷移が急激である。DBTTは[[中性子線]]などの外部要因によっても影響を受ける。中性子線は[[格子欠陥]]を増大させるため、展延性が低下し、同時にDBTTが高くなる。
 
DBTTの定義は大きく、延性破面率50%になる温度である破面遷移温度(Fracture appearance transition, FATT)、吸収エネルギーが上部棚エネルギー(Upper shelf energy, USE)と下部棚エネルギー(Lower shelf energy, LSE)の中間値となる温度であるエネルギー遷移温度(Energy transition temperature, ETT)に分かれる。USEが熱活性過程である塑性変形の仕事を反映したものであり、厳密には温度依存性をもつものの、遷移温度域においては近似的に延性破面率とUSEとLSEで混合則が成り立つため、FATTとETTはほぼ同じ温度となる。
延性-ぜい性遷移現象およびその温度を正確に測定するには、破壊試験が必要である。典型的な破壊試験として、あらかじめヒビの入った金属棒を試料として4点曲げ試験を様々な温度で行う試験がある。高温ほど転位活性が高いため、一定のエネルギーでは破壊できない。ある温度を下回ると転位活性が低下することでヒビの先端から破断が起きる。この温度が延性-ぜい性遷移温度である。かける力を増せば、ぜい性破壊のおきる温度は高くなる。
 
一方、無延性遷移温度(Nil-ductile transition temperature, NDTT)という評価基準もあり、これは延性破面率が≦5%となる温度である。これらの遷移温度は目的に応じて遣い分けられる。
 
物質によってはこの遷移が非常に急激に起きるものがある。例えば、一般に[[体心立方格子構造]] (BCC) の[[結晶構造]]の物質は、[[面心立方格子構造]] (FCC) の物質よりも延性-ぜい性遷移が急激である。DBTTは[[中性子線]]などの外部要因によっても影響を受ける。中性子線は[[格子欠陥]]を増大させるため、展延性が低下し、同時にDBTTが高くなる。
 
延性-ぜい性遷移現象およびその温度を正確に測定するには、破壊試験が必要である。典型的な破壊試験としては、シャルピーやアイゾットなどの衝撃試験が広く用いられる。
 
== 原子炉圧力容器のぜい化 ==