「付き馬」の版間の差分

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'''付き馬'''(つきうま)は、[[古典落語]]の演目のひとつ。原話は[[元禄]]5年([[1692年]])に出版された[[笑話本]]・「噺かのこ」の第四巻'''付け馬'''(つけうま)「薬'''早桶'''(はやおけや)とも。主て人参を騙りし事」東京で広く演じられる
 
== 概要 ==
別題は「早桶屋」。『廓話』の一つであり、その構成から『泥棒噺』の要素も兼ねている。主な演者には[[三笑亭可楽#8代目|8代目三笑亭可楽]]、[[古今亭志ん生 (5代目)|5代目古今亭志ん生]]、[[春風亭柳朝 (5代目)|5代目春風亭柳朝]]、[[立川談志|7代目立川談志]]などがいる。
原話は[[1692年]]([[元禄]]5年)に出版された[[笑話集|笑話本]]『噺かのこ』第四巻「薬屋にて人参を騙りし事」。これは男が弁舌たくみに薬屋で[[朝鮮人参]]をだまし取る、という内容だが、落語では[[吉原遊廓]]を舞台にした「廓噺」のひとつとして成立した。
 
「付き馬(付け馬)」とは、遊廓における、料金の不足を徴収するために客の帰宅に同行する店員を指す俗称である。当初は送迎のための馬を引く[[駄賃馬稼|馬子]]が、この際の料金回収を担って客の自宅へ行っていたが、横領が後を絶たなかったため、やがて妓楼の従業員が直接担当するようになり、呼称だけが残ったものであるという。
== あらすじ ==
[[吉原遊廓|吉原]]のとある店の前で、考え込んでいる男が一人。気になった若い衆が声をかけると、こんな返事が返ってきた。
 
別題は「早桶屋」。『廓話』の一つであり、その構成から『泥棒噺』の要素も兼ねている。主な演者に[[三笑亭可楽#8代目|8代目三笑亭可楽]]、[[古今亭志ん生 (5代目)|5代目古今亭志ん生]]、[[春風亭柳朝 (5代目)|5代目春風亭柳朝]]、[[立川談志|7代目立川談志]]などが知られる。
「叔母の代わりに、吉原(なか)の店にかけ取りに来たんだけどね。明日まで待ってくれって言われたんだよ」
 
== あらすじ ==
男の家は遠方にあり、今から帰って出直すのはバカバカしい。それよりは、ここで一晩を過ごし、翌朝かけ取りに行ったほうが合理的…と思ったのだが、あいに
男がひとり、[[吉原遊廓|吉原]]のとある妓楼の前で何かを考え込んでいる。近くの店の妓夫(ぎゆう=男性従業員)が気になって声をかけると、男は「叔母さんが金貸しをしているんだが、叔母さんの代わりに、ここの店に[[掛取引|掛け取り]](=借金の回収)に来たんだけどね、『明日まで待ってくれ』って言われたんだ。うちは遠方にあり、今から帰って出直すのはバカバカしい。それよりは、近くでひと晩を過ごし、翌朝掛け取りに来たほうが合理的だと思ったのだが、あいにく金を持ってきていない。それで、相談があるんだよ。ひと晩あたしをあんたの店で遊ばせてくれないかな? 明日掛け取りした金で支払いをするから」と答える。
くお金を持ってきていない。
 
「で、相談があるんだよ。ほら、『田楽の 串で小判の 封を切り』なんていう[[川柳]]があるだろ? 掛け取りしたお金で支払いするからさ、一晩私を遊ばせてくれないかな?」
 
帳場が了解したため、男は登楼してどんちゃん騒ぎを開始。翌朝、男が顔を洗っていると、昨夜の若い衆が代金を取りにやってきた。
 
「じゃあ、昨夜の約束通りにお金を支払うことにするよ。これから取りに行くから、ついて来てくれないかな?」
 
店を出た男は、若い衆を伴って[[銭湯]]へ行き、定食屋で一杯やりつつ朝ごはん。その代金をすべて若い衆に建て替えさせたため、若い衆はだんだん不穏な気持ちになってくる。
 
しかも、知らない間に大門の外へ出ていたため、とうとう若い衆が文句を言いだした。
 
「大丈夫だよ。ここの近所に伯父さんがいるから、お金を借りて支払いを済ませてしまうから」
 
田原町まで来た男は、一件の早桶屋(葬儀社)を指さして「あれが伯父さんの家だ」。
 
もちろん、この早桶屋は男とは無関係。
 
付き馬と悟られないためといい、若い衆を待たせて早桶屋に入った男は、店の主を呼び足すとこんな話をし始めた。
 
「(小声で)通りの向こうに男がいるでしょ、あいつの兄貴が昨夜なくなりましてね。急に早桶が必要になったのですが、(大声で)'''何とかこしらえていただけませんでしょうか?''' (また小声で)晴れの病で死んだんでね、図抜け大一番小判型なんていうものすごい奴が必要になりましてね、(大声で)'''何とか一つお願い…え、大丈夫ですか!? '''おーい、なんとかしてくれると言ってるぞ!」
 
こんなかんじて、早桶屋の主には'''【早桶の注文】'''、若い衆には'''【借金の相談】'''だと思わせることに成功した男は、若い衆を主に引き合わせると「用事があるから」と言って姿を消した。
 
お金を持ってくるのかと思い待っていると、風呂おけ並みの馬鹿でかい早桶が出てきたため若い衆は仰天。
 
話の末、二人ともだまされたと気づくがもう後の祭り。そのまま口論になり、主が「こんな早桶はよそには回せねえ。手間賃はともかく、早桶の材料費は置いていけ」
 
若い衆が、有り金すべてさっきの男に使われたことを告げると、主が怒って
 
「おい奴、吉原まで付き馬に行け!!」
 
== 概要 ==
遊郭の従業員が詐欺にあう話。もともと、薬屋で[[朝鮮人参]]をだまし取るという内容だったものが、よりスリルを求めたのかこのような内容に変化した。
 
見どころは若い衆を引っ掛ける男の弁舌。
 
あらかじめ「あいつ(若い衆)は兄貴が死んで混乱しているから、変なことを言いかねない」と吹き込まれていた早桶屋の主が、若い衆と頓珍漢な会話を繰り広げるあたりは笑いを誘う。
 
妓夫を通じ、その店の帳場が了解したため、男は登楼し、どんちゃん騒ぎを繰り広げる。翌朝、男が顔を洗っていると、昨夜の妓夫が料金を取りにやって来る。男は「じゃあ、これから取りに行くから、ついて来てくれ」と答え、妓夫を連れて店を出る。男は昨日の店ではなく[[銭湯]]へ妓夫を連れて行き、さらには定食屋で酒を飲みながらの朝食をすすめる。そのたびに、妓夫が代金を立て替え、男は「あとで倍にして返すから心配するな」となだめる。
== 付き馬について ==
吉原遊郭へはたいていの人が徒歩で向かったが、町のはずれにあるため船、駕篭、まれには馬に乗ってゆく人がいた。
 
しかし、いつの間にか吉原大門を出て、遊廓の外にいたことに気づいた妓夫は「いつになったら払っていただけるのか」と怒り出す。男は「ここの近所にいるあたしの伯父さんに金を借りて、支払いを済ませよう」と提起して[[西浅草|田原町]]まで妓夫を連れ、1軒の早桶屋(=[[棺|早桶]]の注文販売を手がける葬祭業者)にひとりで入っていく。
吉原の遊郭で持ち金以上に遊んでしまった客がいた場合、馬子が掛け取りに行った。
 
男は店主を呼び出し、小声と大声を使い分けて次のように話す。「(小声で)通りの向こうに男がいるでしょう。あいつの兄貴が、ゆうべ(=昨夜)亡くなりましてね急に早桶が必要になったのですが、……(大声で)'''何とかこしらえていただけませんでしょうか?''' (また?……(小声で)腫(は)れの病で死んだんでね、図抜け大一番小判型なんていうものすごい奴が必要になりましてね、(。……(大声で)'''何とかひとつお願い……え、大丈夫ですか!? '''!?(大声のまま、妓夫の方を向き) おーい、なんとかしてくれると言ってるぞ! ……(小声で)あいつ(=妓夫)は兄貴が死んで混乱しているから、変なことを言いかねないが、ひとつよろしく男は妓夫と店主を引き合わせると、「用事があるから」と言って姿を消す。
しかし、持ちなれない大金を持った馬子が、出来心でそれを盗んでしまう事件が続出。廓の従業員がそれを代行するようになる。
 
男の声を「何とかこしらえていただけませんでしょうか」「大丈夫ですか」しか聞かなかった妓夫は、男が金の算段をまとめたと勘違いし、高圧的な態度で「出していただきましょう」と、金を待つ。店主は男の注文通りの巨大な早桶を出してくる。妓夫は仰天すると同時に、男が遊郭でただで遊びたいためについていた嘘に今までだまされていたと気づく。妓夫の話を聞いた店主は妓夫に対し「見抜けねえ、てめえも間抜けだ」と激怒し、「こんな早桶は、よそには回せねえ。手間賃はともかく、早桶の材料費は置いていけ」と妓夫に迫る。妓夫が「あり金は全部、さっきの男に使われた」と告げると、店主は早桶の職人を呼び、
その名残で『馬』という名前が残ったというわけ。
 
「おい吉原廓内(なか)まで付き馬に行け!!
== 詐欺師の出てくる落語 ==
この噺のほかにも、落語には手練手管で人をだます詐欺師たちが大勢登場する。
 
== 関連項目 ==
*『[[壺算]]』:壺を買いに来た男が、瀬戸物屋の主をだまして壺を半額で購入しようとする。
* [[壺算]]、[[時そば]]、[[紋三郎稲荷]] - 料金をだます人物が主人公の落語。
*『[[時そば]]』:口車でそばの代金を一文ちょろまかした男と、それをまねして失敗する男の対比がおかしい滑稽噺。
*『[[突き落とし_(落語)|突き落とし]]』:「付き馬」がグレードアップ? 集団で吉原で無銭飲食する男たちの策略が描かれる。
*『[[紋三郎稲荷]]』:ひょんなことから狐と間違われた侍が、そのまま狐になりきって宿代をタダにしてしまう。
 
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