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'''自給自足'''(じきゅうじそく、ドイツ語 Autarkie、英: self-sufficiency)とは、自らの需要を自らの生産で満たすこと<ref>広辞苑第六版</ref>。
'''自給自足'''(じきゅうじそく)とは、[[生活]]に必要な物資をすべて自ら(単身または[[家族]]で)手に入れる生活のあり方のことである。一般的な[[生物]]はすべて自給自足である。[[ヒト]]においてはそれが普通でないのは、[[道具]]などの使用において、専門性や分業制が現れ、流通が広域化していることに由来する。
 
== 概説 ==
自給自足では、[[食料]]や[[衣料]]、[[住居]]などを自分自身で[[生産]]または[[製作]]したり、もしくはそれを実行したりしながら生活する。
必要なものを自ら生みだすことである。例えば[[生活]]に必要な物資を自然環境から手に入れたり畑などで自ら生産したりすることなど。
 
[[遊牧民]]や[[狩猟民]]は基本的に(は)自給自足の生活を送っている。[[イヌイット]]([[エスキモー]])は[[アザラシ]]や[[カリブー]]を狩り、その肉を食べ、血や内臓を食べることでビタミンを摂り、皮をはいで衣服にしたりテントや住居の材料にし、骨を削り道具や釣り針などにする。日本では[[縄文時代]]の人々は皆、自給自足生活を送っていた。その後も[[アイヌ]]の人々はそうした生活をしていた。現代でも[[アマゾン]]の奥地や[[パプアニューギニア]]の奥地などでは、完全な自給自足生活を送っている人々が大勢いる。文明と接触せずに悠々と暮らしている人々がいるのである。その他にも、世界各国の田舎では自給自足の割合がかなり高い生活を送っている人々が非常に大勢いる。
== 半自給生活 ==
 
現代において完全な自給生活を送っている人はまずなく、一般的には、[[自動車]]など維持運用に資金を必要とする機器にあまり依存せずに、必要な[[食料]]は自分で[[畑]]や[[田]]を耕し[[穀物]]や[[野菜]]、[[果物]]を育て、足りない物資は近隣の人々との[[物々交換]]などで手に入れるなど、[[現金]][[収入]]にそれほど依存していない生活スタイルを指す。中には衣料や住居を自分で作り生活する人達もいる。このような生活スタイルは[[工業化]]が進む以前の農山村において普通に行われていた。近年、エネルギーや食料価格の高騰、[[給与]]所得の低迷を受け、このような半自給的生活を実行しようとする人が増えつつある。
自給自足生活を送るには、恵み豊かな自然([[山]]、[[野]]、[[海]])などが周囲にある場合のほうが圧倒的に有利である。
 
現代では、自給自足度を高めてゆくと、「貨幣」というもので計れない形で、実質的な生活が豊かになってゆく。貨幣の数字には現れないかたちで、実質を豊かにできるのである。例えばお金を全然使わずに、毎日のように美味しい水を飲み、美味しい野菜、穀類、卵、乳などを食し、快適に風呂に入り、快適に眠る、という健康的な生活を送ることも可能である。貨幣をほとんど使わないので、現金収入を得る必要もなく、現金収入を得るために雇用され雇用主との人間関係に悩む必要もなく、また、またせっかく働いた分の大部分を政府や税務署によって(直接的課税、あるいは企業等への課税が間接的に消費者に振り向けられる税負担によって)搾取されてしまうこともかなり減る。
 
;完全自給自足
原則的に一切、外部の社会と物資のやりとりなどしないで食・衣・住に必要な物資を調達し生活することである。
 
完全自給自足生活では、[[食料]]は野・山・川・海・家の周囲の畑などで入手する。[[衣料]]については自然の樹木の繊維を用いてそれを織って布としたり、動物の[[毛皮]]などを加工して身にまとう。[[住居]]などは、石や樹木や毛皮などを用いて自分自身で作る。
 
かつては[[イヌイット]]([[エスキモー]])などがこうした生活をしていた。ただし、近年では、カナダや米国の文化の流入で、スノーモービルや銃等々は購入したものを使うようになっていて、家屋は北米の(カナダや米国の)スタイルのものに住むようになっていて、半自給自足へシフトしてしまった。
 
== ;半自給生活 ==
現代の自給自足では、この半自給自足を行っている人の割合が高い。あらかじめ「山」(田舎で言う「山」。山間地の地域で、小さなひと山、山あいの土地など)を所有していてそこで自生している植物を利用できる場合、自給自足にかなり有利である。もともと「山」を持っていない人でも、実は、山間地の土地は(都会の人が知ると驚くほどに)安く売られているので、最初に土地を手に入れる費用だけは若干かかるが、あとは比較的簡単に半自給生活に持ち込むこともできる。また「山」を数十年単位でタダ同然(あるいは本当にタダ)で借地して自給自足生活を始める人もいる。(「山」の持ち主から見ると、「山」は放置すると荒れ放題になってしまい面倒なことになるので、荒れるよりは、タダ同然でもいいから誰かに借りてもらって手入れをしてもらったほうがまし、と考える持ち主も多いため。)
 
ものをほとんど購入しないで済ませる(つまり[[現金]]にほどんど依存しない。貨幣システムに依存しない)生活が現代でも可能である。このような生活スタイルは昭和初期までの農山村においてはごく普通に行われていた。(それを日本人の大半が知らなくなってしまったのは、実はわずかここ数十年のことである)。近年、日本でもエネルギーや食料価格の高騰、給与所得の低迷などを受け、このような半自給的生活を実行しようとする人が増えつつある。
 
===食===
*[[水]] - 近くに川、泉などがあればその水を用いる。山間部などに住むと、しばしば山肌などから豊富に水が湧き出している場所がある。山あいの土地の傾斜地などでは、一年の大半、大量の水がまるで滝のように勢いよく流れている場所もある。あらかじめ調べて、水量が豊富な場所を居住地として選んでおけば、使いきれないほど水がタダで手に入ることになる。水道代がかからない。もしも衛生の点で若干不安がある場合は、沸かしてから飲めば大丈夫である。(定住生活では)[[井戸]]を掘るという方法もある。
*家の近くに野・山があれば、そこで食べられる植物を手にいれる。川、海などで魚や海藻などを採取する。また家の周囲などに[[畑]]をつくり、[[穀物]]や[[野菜]]、[[果物]]を育てる。野菜などはできるだけ「種あり」の種類を選び育て、収穫したら種子はしっかり保存し、紙袋・封筒などに入れて乾燥した状態で保存し、翌年以降のその種を撒いて育てる。こうすることで「種子」も購入しなくて済むようになる。
*[[鶏]](ニワトリ)を飼い、[[鶏卵|卵]]を産んでもらう。鶏を飼うことは現代でも世界中の農家や「田舎暮らし」で行われている、ごく普通のことである。新鮮で美味しい卵料理が食べられる。
*家畜([[ヤギ]]、[[牛]])などを飼うと、[[乳]]をとることができ、(売られているものよりもずっと)コクのある乳が飲める。野や山などの場所であれば、ヤギなどは、周囲にはえている草を餌として食べてくれ、つまり[[除草]]をしてくれ<ref>万田正治『ヤギ―取り入れ方と飼い方・乳肉毛皮の利用と除草の効果 (新特産シリーズ)』</ref>、一石二鳥や一石三鳥にもなる。
*渓流が近くにあれば、釣りを行い、渓流の魚(例えば、日本では[[ヤマメ]]、[[アユ]] 等々等々)を手に入れ、食べる。
*恵み豊かな海が近くにあれば、[[海釣り]]で様々な魚を釣ることができる。海岸では(特定の季節には)貝類がよくとれる。(日本に[[貝塚]]が残っているのは、古代の人々が貝を食べる自給自足生活をしていた痕跡である)海岸では[[海藻]]類も採取でき、そのまま汁ものに入れたり、乾燥させて保存してから使うこともできる。
*調理に使う燃料 - 樹木の枝を折って集めたり幹などを切り、それを雨を防げて風通しの良い場所に置いて数カ月~数年程度乾燥させておき、「焚木(たきぎ)」や「[[薪]]」としたものを用いる。すると燃料代は不要になる。日本人にはなじみ深い[[昔話]]で「おじいさんは山に<u>しばかり</u>に、おばあさんは...」と語られているのは、基本的にこの燃料集めのことである。さらに、集めた木材を炭焼き小屋で[[炭]]にしたものなどを用いる方法もある。
*調理場 - 手作りで「[[かまど]]」あるいは「[[いろり]]」を作るとよい。かまどは石やレンガ状のものを積み、粘土などで固めて乾かす。数十センチの高さの小規模のものでも十分に便利で、上部には鍋などをおける円い穴をあけ、手前に薪をくべる穴、空気が入る口を開け、できれば煙が部屋の中にこもらず部屋の外に出るように、かまどと外部をつなぐ煙突状のものもつくるほうがよい。「いろり」は天井からカギ状のもののものを下げ、そこに鍋などをかけると調理場になる。自在鉤を使えば、微妙な調整もでき便利である。「いろり」は調理場であり、また、いろり回りは食事をとる場にもなり、寒い季節は暖をとる場所…と一日の大半を過ごす「いこいの場」になる。
 
===衣===
衣類まで自分で作る人は現代日本では少数派であるが、参考までに、努力すれば何ができるか、一部の熱心な人が何をしているか説明すると
*[[綿]]を育てて、棉の繊維を([[紡錘]]や[[糸車]]を使って)[[紡ぎ|紡いで]] [[綿糸]]を作り、それを(明治期にはあちこちの農家に普通にあった足踏み式の[[織機]]や現代風の手芸用手織機で)[[織り|織る]]ことで[[綿布]]にし、棉の衣類を作る。
*[[麻]]を育てて、[[麻糸]]を作り、それを織り[[麻布]](あさぬの、[[麻織物]])にして、麻の衣類を作る。
*[[羊]]を飼い、年に一度 [[羊毛]]を刈り、羊毛を紡いで[[毛糸]]にし、[[セーター]]などを[[編み物|編む]]。
*動物の[[皮]]をはいで、[[なめし]]、衣服(の一部など)に用いる。
 
===住===
* [[石]]などは、山であれば豊富にある場合がある。石を積み上げることで壁として家の形(の一部)を作ることもできる。山や林に十分に太い樹木があれば、それを切り倒し、樹皮を剥ぎ、梁や柱などとして用いることができる。
* 「完全」ではなく「半」自給自足ということで割り切っていれば、[[ログハウス]]の材料となる材木がワンセットで販売されているので(「キット」などとして、北米などから輸入する形態や、日本の代理店を通す形態など)、材料だけはそれを購入して、あとの材木の加工、組み立てなどは自力を行う、ということも行われている。家を職人に建ててもらうのと比べてはるかに安く家ができる。
* 風呂 - 自作する手もある。あるいは風呂の自作は諦めてバスタブだけを(中古でも新品でも)手にいれる。できるだけ、[[薪]](たきぎ)で湯を沸かすことができるタイプのものにするとよい。水は自然の水をタダで入手する。山で樹木を切り、薪をつくり、その薪で湯をわかす。するとガス代も(あるいは夜間電気湯沸かしの代金も)かからない。つまり風呂の費用をタダで済ますことができる。そもそも風呂を薪でわかす、ということは昭和前半までは日本の大半の家庭で行っていたことである。
* 暖房 - 自然の樹木を用いた薪を使う。よくあるのは[[薪ストーブ]]などを使う方法である。あるいは韓国の[[オンドル]]風に[[床暖房]]のものを自作することもできる。
 
===他===
*維持・運用に多大なお金を必要とする機器はなるべく所有しない。(特に[[自動車]]などは無しで済ませる)
*電気器具はできるだけ使わない。電気を使わなければ、電力会社から電気を買う必要もなく、電気の基本料金すらも払う必要がなくなる。どうしても少し電気を使いたい場合は、[[ソーラーパネル]]や[[小規模水力発電|小型水力発電機]]などを設置しておいて[[バッテリー]]に溜めておき、それを12Vのまま使ったり、[[DC]]-DC変換機(しばしば数百円程度)で電圧を変えて使ったり、[[DC-AC変換機]](許容するワット数に応じて数千円~2万円程度)で100V交流などに変換して使う。(モンゴルの遊牧民や中国奥地の人々など、ソーラーパネルによって、送電網とは無関係に、全く電気料金を払わずにテレビなどを見る人口が近年増えた。)山あいの土地で、傾斜地を勢いよく水が流れている場所に小型水力発電機を設置すると、使いきれないほどの大量の電気をタダで得ることができる。
*足りない物資でも近隣の人々との[[物々交換]]などで手に入れられることは多い。
 
== 動物と人類 ==
[[生物]]はほとんどが基本的には自給自足で生きている。 [[人類]]においてもかつてはそれが当たり前であった。近代以降にそれが珍しくなってきたのは社会構造が変化し、流通が広域化し、分業が行われるようになっていることや、(以前は当たり前ではなかったのだが)「国家」という制度が、人類社会のほとんどに影響を及ぼすようになり、政府が強制的に人々から収穫物を取り上げるようになったり、貨幣制度が広まり「税」という名目で貨幣の形で政府にそれを差し出すように(政府が暴力を用いつつ)強制したことによって、人々の意思・気持ちにかかわらず、強引に貨幣経済の一端に組み込まれ大きな分業システムに組み込まれて、細分化されたことをせざるを得なくなってしまったこと、また、産業全体に占める大企業の比率が増し、大企業がおうおうにして都市部にあるため、大企業で勤務する人々は、結果として、周囲に野・山・海などの恵み豊かなな自然の土地から切り離されてしまったことも原因である。
 
== 関連人物 ==
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* [[横井庄一]] - [[グアム島]]のジャングルで自ら作った地下壕などで自給自足生活、28年後の1972年にようやく日本に帰還。
* [[小野田寛郎]] - 終戦を知らされず、[[太平洋戦争]]終結から30年近く[[フィリピン]]・[[ルバング島]]にて自給自足をしながら一人戦い続ける。
<!--* [[リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件|市橋達也]] - 沖縄県の[[オーハ島]]に4回にわたり潜伏。最長3ヶ月間の自給自足生活を送っていた。-->
*{{マーク・ボイル|en|Mark Boyle (Moneyless Man)}} - 現代の若者。古びたバス一台を手に入れそれを家にして貨幣に頼らない生活を行った<ref>マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』</ref>
 
== 関連作品 ==
*「[[リトル・フォレスト]]」
*「[[リトル・フォレスト 夏・秋]]」
 
== 関連項目 ==
{{Wiktionary|自給自足}}
*[[自給率田舎暮らし]]
*[[狩猟採集社会]]
*[[原始共産制]]
*[[ラスタファリ運動]]
*[[アーミッシュ]]
*[[ヒッピー]]
*[[スローライフ]]
*[[原始共産制]]
*[[狩猟]]
*[[ダーチャ]]
*[[バイオスフィア2]]
*[[閉鎖経済自給率]]
*[[地産地消]]
*[[生態系]]、[[食物連鎖]]
*[[アーミッシュ]]
*[[エコロジー]]、[[持続可能性]]
*[[実態経済]]。「[[閉鎖経済]]」
*[[自治]]
 
== 関連書 ==
* ジョン・シーモア『完全版 自給自足の本』文化出版局1983
* 大内正伸『山で暮らす愉しみと基本の技術』農山漁村文化協会 2009
* 『農家に教わる暮らし術―買わない 捨てない 自分でつくる』農山漁村文化協会、2011
* 中島正『農家が教える自給農業のはじめ方―自然卵・イネ・ムギ・野菜・果樹・農産加工』農山漁村文化協会、2007
* 万田正治『ヤギ―取り入れ方と飼い方・乳肉毛皮の利用と除草の効果 (新特産シリーズ)』農山漁村文化協会、2000
* 中島正『自給養鶏Q&A―エサ、育すう、飼育環境、病気、経営』農山漁村文化協会、2009
* 大内正伸『囲炉裏と薪火暮らしの本』農山漁村文化協会2013
* マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』紀伊國屋書店、2011年
 
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