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[[有機化学]]において、'''環ひずみ'''(かんひずみ、{{lang-en-short|ring strain}})は、分子中の結合が異常な角度を形成する時に存在する不安定性の一種である。ひずみは[[シクロプロパン]]や[[シクロブタン]]といったC-C-C角度が約109ºの理想的な値からかなりずれている小さな環について通常議論されている。高いひずみのため、これらの小さな環の[[燃焼熱]]は上昇する<ref>{{March6th}}</ref><ref name=Wiberg>{{Cite journal | title = The Concept of Strain in Organic Chemistry | journal = [[Angew. Chem. Int. Ed. Engl.]] | year = 1986 | volume = 25 | pages = 312–322 | doi = 10.1002/anie.198603121 | author1 = Wiberg, K. | issue = 4}}</ref>。
 
ひずみは'''角ひずみ'''や配座ひずみ({{仮リンク|ピッツァーひずみ|de|Pitzer-Spannung}})、{{仮リンク|プレローグひずみ|en|Prelog strain|label=渡環ひずみ}}(ファンデルワールスひずみ)の組み合わせに起因する。角ひずみの最も単純な例はシクロプロパンやシクロブタンといった小さな環状アルカンである。そのうえ、環系には緩和できない重なりひずみがしばしば存在する。
 
[[ファイル:1.1.1-propellane.png|150px|thumb|[[1,1,1-プロペラン|1.1.1-プロペラン]] (C<sub>2</sub>(CH<sub>2</sub>)<sub>3</sub>) は最もひずんだ既知分子の一つである。]]
 
==角ひずみ(バイヤーひずみ)==
===アルカン===
[[アルカン]]において、[[原子軌道]]の最適な重なりは109.5ºで達成される。最も一般的な環状化合物は環内に5つあるいは6つの炭素原子を持つ<ref name="wade"/>。[[アドルフ・フォン・バイヤー]]は、環状分子の相対的安定性を説明したバイヤーひずみ理論の発見により1905年の[[ノーベル賞]]を受賞した<ref name="wade">Wade, L. G. "Structure and Sterochemistry of Alkanes." Organic Chemistry. 6th ed. Upper Saddle River, NJ: Pearson Prentice Hall, 2006. 103-122. Print.</ref>。
 
ひずみは[[結合角]]が特定の[[化学構造]]において結合強度が最大となる理想的な結合角からずれた時に起こる。角ひずみは通常、非環状分子のような柔軟性を持たない環状分子に影響を与える。
 
ひずみは分子を不安定化し、これは反応性の高さと燃焼熱の上昇によって明白に示される。最大の結合強度は[[化学結合]]における原子軌道の効果的な重なり合いに由来する。角ひずみの定量的評価基準は[[ひずみエネルギー (有機化学)|ひずみエネルギー]]である。角ひずみと[[ひずみ (化学)|ねじれひずみ]]は組み合わさり、環状分子に影響を与える環ひずみを作り出す<ref name="wade"/>。
 
:C<sub>n</sub>H<sub>2n</sub> + 3/2 n O<sub>2</sub> → n CO<sub>2</sub> + n H<sub>2</sub>O - ΔH<sub>combustion</sub>
 
ひずみの比較が出来るように正規化されたエネルギーはシクロアルカンの[[メチレン基]] (CH<sub>2</sub>) 当たりのモル燃焼熱を測定することによって得られる<ref name="wade"/>。
 
:ΔH<sub>combustion</sub> per CH<sub>2</sub> - 658.6 kJ = strain per CH<sub>2</sub>
 
658.6 kJ/molという値はひずみのない長鎖アルカンから得られる<ref name="wade"/>。
 
{|class=wikitable
|+一般的なシクロアルカンのひずみ<ref name="orgobook2">Anslyn, Eric V., and Dennis A. Dougherty. "Chapter 2: Strain and Stability." Modern Physical Organic Chemistry. Sausalito, CA: University Science, 2006. 100-09. Print. [http://books.google.com/books?id=gY-Sxijk_tMC&pg=PA101&lpg=PA101&dq=half-chair+conformation+angle+strain+cyclopentane&source=bl&ots=etrLi8LoWh&sig=dlL5UfvtHn75iKRf3ORxmLru5nI&hl=en&ei=YkcBTpeqNYGDtgeX64iaDg&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CDEQ6AEwBA#v=onepage&q=half-chair%20conformation%20angle%20strain%20cyclopentane&f=false]</ref>
|-
! 環の大きさ
! ひずみエネルギー (kcal/mol)
! rowspan=8 |
! 環の大きさ
! ひずみエネルギー (kcal/mol)
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|}
 
===アルケンにおける角ひずみ===
環状[[アルケン]]はsp<sup>2</sup>-混成炭素中心の変形から来るひずみを受ける。実例となるのは炭素中心がピラミッド状になっている[[バックミンスターフラーレン|C<sub>60</sub>]]である。この変形は分子の反応性を強める。角ひずみは[[ブレット則]]の基礎でもある。ブレット則は極度の角ひずみが生じるため橋頭位炭素原子は二重結合を形成できない、とするものである。
 
[[ファイル:Norbornene isomers Bredt rule.png|thumb|center|400px|ブレット則は橋頭位に二重結合がこないとする。これは角ひずみの結果である。]]
 
==例==
シクロアルカンにおいて、それぞれの炭素原子は2つの炭素原子と2つの水素原子と[[極性分子|非極性]]的な[[共有結合]]を形成する。炭素原子は[[混成軌道|sp<sup>3</sup>混成]]であり、理想的結合角109.5ºと持たなければならない。しかしながら、環構造の制限によって、この理想的角度は6員環 &mdash; [[いす型]]配座の[[シクロヘキサン]]でのみ達成される。その他のシクロアルカンでは結合角は理想的角度からずれる。シクロプロパン(炭素数3)およびシクロブタン(炭素数4)におけるC-C結合はそれぞれ60°および~90°である。
 
高い環ひずみを持つ分子は3員環、4員環、一部の5員環からなる。例としては[[シクロプロパン]]、[[シクロプロペン]]、[[シクロブタン]]、[[シクロブテン]]、[1,1,1][[プロペラン]]、[2,2,2][[プロペラン]]、[[エポキシド]]、[[アジリジン]]、[[シクロペンテン]]、[[ノルボルネン]]が挙げられる。これらの分子の結合角はsp<sup>3</sup>およびsp<sup>2</sup>結合に必要とされる最適な正四面体型(109.5º)および正三角形型(120º)結合角よりもより狭まった結合角を持つ。そのため、結合はより高いエネルギーを持ち、[[p軌道|p性]]が高くなることによって結合のエネルギーが減少する。加えて、シクロプロパンやシクロプロペン、シクロブタン、シクロブテンの環構造は非常に小さな柔軟性しかない。ゆえに、シクロプロパンの[[重なり形配座]]やシクロブタンのゴーシュ型、エクリプス型における環原子の置換基はファンデルワールス反発の形でより高い環ひずみエネルギーに寄与する。
 
3員環や4員環を持たない[[シクロアルカン]]もひずむことがある。これらには[[シクロファン]]や[[プラトン炭化水素]]([[キュバン]]など)、[[ピラミッド型アルケン]]、環状[[アルキン]]がある。
 
==脚注==
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==関連項目==
*[[ひずみ (化学)]]
*[[アルカンの立体化学]]