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'''疲労'''(ひろう、{{Lang-en-short|
== 現象および機構 ==
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線形累積損傷則により寿命を予測するには、実働応力の応力頻度分布を求める必要がある。このために種々の応力頻度計数法が提案されており、遠藤らにより提案されたレインフロー法(雨だれ法)([[w:rainflow-counting algorithm|rainflow-counting algorithm]])<ref>{{Cite journal ja-jp
| author = 遠藤達雄・松石正典・光永公一・小林角市 | title = 「Rain Flow Method」の提案とその応用 | journal = 九州工業大学研究報告 | year = 1974 | publisher = 九州工業大学 | url = https://ds.lib.kyutech.ac.jp/dspace/bitstream/10228/3927/1/tech28_p33_62.pdf | format = PDF}}</ref>が良く使用されている<ref name = "疲労き裂_182"/>。
== 予防策 ==▼
[[材料力学]]を用いてあらかじめ余裕を持った設計にすることで疲労による破壊をある程度防ぐことができるが、用途によっては重量やコスト、安全性などの制約から十分な余裕を持てない場合もある(例えば[[航空機]]、[[原子炉]]など)。このような場合には、繰り返し荷重がかかる構造物の運用中に検出できない初期欠陥からき裂が発生・進展することを前提として寿命を評価する[[損傷許容設計]]が採用され<ref name = "疲労設計便覧_2"/>、応力を受ける部材を定期的に交換するか、あるいは定期的な検査において部材の微小な割れ目を検出して破壊に至る前に使用を中止し、新しい部材に交換する手法を用いる。割れ目の検出は[[超音波検査]]や[[浸透探傷検査]]、[[X線写真]]などの[[非破壊検査]]を用い、検出限界と設計の余裕から検査の頻度を規定することができる。但し、疲労は状況によって進行速度の変動する幅が大きいため、事前の試験方法を誤ったり、使用基準を守らなかったり、修理や改造などによって初期の設計から外れたりすると、予想より早く破断に至り事故につながることがある。▼
== 歴史 ==
材料の疲労現象は古くから経験的に知られていたと考えられるが、18世紀の[[産業革命]]による機械工業の発達以降、疲労による破壊事故が大きく社会的に問題として認識されるようになった<ref name = "金属疲労のおはなし_18-19"/>。産業革命により、それまでの水や馬といった小さな力の動力源から蒸気機関という力の動力源を使用するようになったためと考えられる<ref name = "材料強度学_76"/>。大きな対策のため、各国で学者や技術者による委員会が組織され、疲労の研究が本格的に進められるようになった<ref name = "金属疲労のおはなし_18-19"/>。
材料に対する「疲労」という用語を最初に用いたのはフランスの[[ジャン=ヴィクトル・ポンスレ]](Jean-Victor Poncelet)である<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_82-83"/>。ポンスレは1825年頃から[[メス (フランス)|メス]]の兵学校で、材料の疲労についての講義をしていたといわれる<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_82-83"/>。ポンスレによる疲労の発生機構の仮説は、繰返し荷重によって鉄の繊維状組織が結晶化して脆化することによる、というものであった<ref name = "機械材料学_37"/>
疲労の本質に迫った実験としては、1837年にドイツのウィルヘルム・アルバート(Wilhelm Albert)が、[[鉱山]]の鉄製チェーンの疲労に関する実験結果を報告したものが最初である<ref name = "図解入門よくわかる最新金属疲労の基本と仕組み_12-14"/><ref name = "材料強度学_77"/>。アルバートは[[鉱山]]の[[巻き上げ機]]の鉄製の[[鎖]]が時折突然破断することを経験して、その原因を調査する中で、巻き付けの繰返しが原因と推測して鎖用の疲労試験を考案、実施した<ref name = "材料強度学_76"/>。試験では、安定した繰返し荷重を実験対象のチェーンに与えるために、[[水車]]の仕組みを利用していた<ref name = "図解入門よくわかる最新金属疲労の基本と仕組み_12-14"/>。この試験により、アルバートは、静的な破断限界より小さな力でも繰り返し作用することで突然破断することを見出した<ref name = "材料強度学_76"/>。
1856年から1869年にかけて、ドイツの技術者であったアウグスト・ヴェーラー({{lang|de|August Wöhler}})は、自ら回転曲げ疲労試験機を作り出し、鉄道用車輪を使って疲労実験を繰り返し、疲労を科学的に分析した<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_42-43"/>。その結果、S-N曲線により疲労破壊特性を整理可能なことを発見した<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_42-43"/>。1870年、ヴェーラーは、車輪に10<sup>6</sup>回程度振動を繰り返した後は、どれだけ回数を繰り返しても耐久応力が下がらず、永久に耐え続けられるある一定の応力があることを発表した。このことをヴェーラー自身は耐久限度(Endurance limit)と呼んでいたが、後に疲労限度と呼ばれるものと全く同じである。▼
1853年にはフランスのモラン(A. Morin)が郵便馬車の車軸について、走行距離が7万kmを越えると破壊が始まることから、この距離を走行した時点で点検・交換することを指示した記録が残されている<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_82-83"/>。これが疲労破壊に対する予防保全の最初の例である。
1963年、ポール・パリス(Paul Paris)らにより、き裂の繰返し荷重1サイクル当たりの進展速度(da/dN)が応力拡大係数で整理でき、進展速度を予測可能であることが発表された<ref>{{Cite journal| author = Paul C. Paris| coauthor = Mario P. Gomez; William E. Anderson| title = A Rational Analytic Theory of Fatigue| journal = The Trend in Engineering| year = 1961| month = 1| volume = 13| pages = 9-14}}</ref>。1971年、ウォルフ・エルバー(Wolf Elber)により、き裂先端部の局所的塑性変形により引張荷重下でもき裂が閉じるき裂閉口現象の発生機構とその重要性について発表された<ref name = "疲労き裂_4"/>。▼
▲1856年から1869年にかけて、ドイツの技術者であったアウグスト・ヴェーラー({{lang|de|August Wöhler}})は、自ら回転曲げ疲労試験機を作り出し、鉄道用[[車
▲== 予防策 ==
▲[[材料力学]]を用いてあらかじめ余裕を持った設計にすることで疲労による破壊をある程度防ぐことができるが、用途によっては重量やコスト、安全性などの制約から十分な余裕を持てない場合もある(例えば[[航空機]]、[[原子炉]]など)。このような場合には、繰り返し荷重がかかる構造物の運用中に検出できない初期欠陥からき裂が発生・進展することを前提として寿命を評価する[[損傷許容設計]]が採用され<ref name = "疲労設計便覧_2"/>、応力を受ける部材を定期的に交換するか、あるいは定期的な検査において部材の微小な割れ目を検出して破壊に至る前に使用を中止し、新しい部材に交換する手法を用いる。割れ目の検出は[[超音波検査]]や[[浸透探傷検査]]、[[X線写真]]などの[[非破壊検査]]を用い、検出限界と設計の余裕から検査の頻度を規定することができる。但し、疲労は状況によって進行速度の変動する幅が大きいため、事前の試験方法を誤ったり、使用基準を守らなかったり、修理や改造などによって初期の設計から外れたりすると、予想より早く破断に至り事故につながることがある。
▲1963年、ポール・パリス(Paul Paris)らにより、き裂の繰返し荷重1サイクル当たりの進展速度(da/dN)が応力拡大係数で整理でき、進展速度を予測可能であることが発表された<ref>{{Cite journal| author = Paul C. Paris| coauthor = Mario P. Gomez; William E. Anderson| title = A Rational Analytic Theory of Fatigue| journal = The Trend in Engineering| year = 1961| month = 1| volume = 13| pages = 9-14}}</ref>。1971年、ウォルフ・エルバー(Wolf Elber)により、き裂先端部の局所的塑性変形により引張荷重下でもき裂が閉じるき裂閉口現象の発生機構とその重要性について発表された<ref name = "疲労き裂_4"/>。
==
疲労が原因として関与した[[事故]]の内、特に歴史的に有名な例を示す。
* 1842年: [[ヴェルサイユ列車事故]](車軸の破損)
* 1954年: [[
:: 機体設計時に疲労試験を行っていたが、強度試験をした機体で疲労試験も行ってしまったため応力集中部が塑性硬化を起こし、疲労強度が大きくなり、実際の使用条件に対して寿命を1桁大きく見積もってしまった
* 1980年: [[北海油田]]の石油プラットフォーム「アレクサンダーキーランド」の転覆事故(構造体溶接部の破損)
:: 溶接部の疲労試験も点検も行っていなかった。
* 1985年: [[日本航空123便墜落事故]]
::[[日本航空]]によって運行されていた[[ボーイング747]]SR型機が[[墜落]]し、死者520名を出し、過去最悪の航空機事故となった<ref name = "材料強度学_79"/>。直接の原因は[[圧力隔壁]]の疲労破壊で、同箇所の事故以前に行われた[[ボーイング社]]の修理が適切ではなかったため疲労破壊発生に至った<ref name = "材料強度学_79"/>。
* 1989年: [[ユナイテッド航空232便不時着事故]](エンジンファンの破損)
:: 部品を製造した直後から割れが進行していたにもかかわらず検査によって検出できなかった。
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* 1994年: 韓国[[聖水大橋]]崩落事故(鋼材接続ピンおよび溶接部の破損)
:: 検査によって溶接不良を確認していたにもかかわらず放置され、交通量の増大によって急激に疲労が進んでしまった。
* 1998年:
:: ドイツ高速列車[[ICE]]が200km/hで走行中に脱線し、101名の死者を出した事故となった<ref name = "材料強度学_80"/>。原因は[[弾性車輪]]の外輪と呼ばれる鉄製タイヤ部分の疲労破壊によるものであった<ref name = "材料強度学_80"/>。
* 2002年: [[チャイナエアライン611便空中分解事故]](機体スキンの破損)
* 2007年 : [[エキスポランド]] ジェットコースター横転事故(車軸の破損)
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=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<ref name = "機械工学辞典_1110">[[#機械工学辞典|
<ref name = "機械工学辞典_1211">[[#機械工学辞典|
<ref name = "機械工学辞典_1109">[[#機械工学辞典|
<ref name = "機械工学辞典_533">[[#機械工学辞典|
<ref name = "機械工学辞典_345">[[#機械工学辞典|
<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_42-43">[[#絵とき「金属疲労」基礎のきそ|
<ref name = "絵とき「金属疲労」基礎のきそ_82-83">[[#絵とき「金属疲労」基礎のきそ|
<ref name = "金属疲労の盲点">[[#金属疲労の盲点|
<ref name = "疲労き裂_4">[[#疲労き裂|
<ref name = "疲労き裂_182">[[#疲労き裂|
<ref name = "疲労設計便覧_2">[[#疲労設計便覧|
<ref name = "疲労設計便覧_133">[[#疲労設計便覧|
<ref name = "疲労設計便覧_8">[[#疲労設計便覧|
<ref name = "疲労設計便覧_205">[[#疲労設計便覧|
<ref name = "疲労設計便覧_129-130">[[#疲労設計便覧|
<ref name = "機械材料学_37">[[#機械材料学|
<ref name = "図解入門よくわかる最新金属疲労の基本と仕組み_12-14">[[#図解入門よくわかる最新金属疲労の基本と仕組み|
<ref name = "金属疲労のおはなし_18-19">[[#金属疲労のおはなし|
<ref name = "材料強度学_76">[[#材料強度学|材料強度学 p.76]]</ref>
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<ref name = "材料強度学_80">[[#材料強度学|材料強度学 p.80]]</ref>
}}
140 ⟶ 149行目:
|year=2007
|edition=第2版
|
|ref=機械工学辞典
}}
149 ⟶ 158行目:
|year=2008
|edition=第3版
|
|ref=疲労設計便覧
}}
157 ⟶ 166行目:
|publisher=日刊工業新聞社
|year=2008
|
|ref=絵とき「金属疲労」基礎のきそ
}}
178 ⟶ 187行目:
|author=平川賢爾・大谷泰夫・遠藤正浩・坂本東男
|title=機械材料学
|series =基礎機械工学シリーズ 2
|publisher=朝倉書店
|year=2004
|edition=第1版
|
|ref=機械材料学
}}
190 ⟶ 200行目:
|year=2011
|edition=第1版
|
|ref=図解入門よくわかる最新金属疲労の基本と仕組み
}}
196 ⟶ 206行目:
|author=西島敏
|title=金属疲労のおはなし
|series =おはなし科学・技術シリーズ
|publisher=日本規格協会
|year=2007
|edition=第1版第1刷
|
|ref=金属疲労のおはなし
}}
* {{cite book ja-jp
|author=境田彰芳・上野明・磯西和夫・西野精一・堀川教世
|title=材料強度学
|url =http://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339044768/
|publisher=コロナ社
|series =機械系 教科書シリーズ
|year=2011
|edition=第1版
|isbn=978-4-339-04476-8
|ref=材料強度学
}}
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