「ゲンセンカン主人」の版間の差分

老婆が[[駄菓子]]をしゃぶり[[おはじき]]をして遊ぶ、老婆しかいない町は、前年につげ義春が旅をした[[群馬県]]の[[湯宿温泉]]がモデルになっている。湯宿温泉は[[上州街道]]から少し外れた旧・[[三国街道]]に面した[[宿場町]]であり、旅館も5,6軒しかなく源泉[[掛け流し|かけ流し]]の[[共同浴場]]が複数あるばかりの目立たない温泉である。タイトルの『ゲンセンカン』はおそらく「源泉館」を意味するのであろうが、着想の元になった[[旅館]]は「[[大滝屋旅館]]」である。
 
そこでつげは強烈な体験をする。泊まった部屋は傾き、[[襖]]越しに老婆の[[お経]]が聴こえ、宿泊客も老人ばかりで、自分自身が人生の落ちこぼれ、敗残者のように感じ、またそれが自分に似合っているようで切ない気持ちになったのだという。また、この大滝屋の[[混浴]]の浴室で作品の浴場でおかみさんを襲うシーンの元になる原体験をする。混浴に入るのをためらい、人のいなくなったのを見計らい一人で入り脱衣をしているときに中年の女が不意に入ってきて手早く衣服を脱ぎ全裸になり、体を二つ折りにし、つげに向かって腰を高く向けた際に偶然、中年女の[[女性器]]が丸見えになってしまう。まだ若く[[独身]]であったつげは大変なショックを受ける。二人で無言で湯に浸かりながら、体がゾクゾク震えたのだという。「そのときのショックが『ゲンセンカン主人』の入浴シーンを発想させたのでした。」(『[[夜行]]』NoNo.12 [[1983年]])とのちに述懐する。
 
つげはこの旅の時、ひなびた[[宿場|宿場町]]の風情に[[孤独]]の境地を味わい、[[世捨て人]]になりたいと強く願ったというが、この時つげが宿泊した旅館も共同浴場もすっかり新装されて、今や往時の面影を求めるのは難しい。ただし[[石畳]]の道は今も残っていて、夜更けに人気のない道を靴音を響かせながら歩くと、漫画の世界に迷いこんだような感覚に襲われる。
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