「ストイシャとムラデン」の版間の差分

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この民話を採取し出版したのはセルビア人学者[[ヴーク・カラジッチ|ヴーク・ステファノヴィッチ・カラジッチ]](Вук Стефановић Караџић 1787-1864)である。19世紀初頭のトルコの支配下においてヴークはセルビアの民謡と民話の収集に力を入れる。ヴークの『セルビアの民話』の1853年版によるとこの「ストイシャとムラデン」は1829年にグユーヨ・メハンジッチと言う人物から採録したとしている。ヴークは青年期からセルビアの民話を収集し出版し続け後年の出版ほど民話集の量は増えていく。「ストイシャとムラデン」はヴークの1853年版『セルビアの民話』に収録され、日本においては[[田中一生]]が1980年に日本語共訳本を刊行している<ref>[[栗原成郎]]、[[田中一生]]共訳編「ユーゴスラビアの民話 1」[[恒文社]] 1980年、pp.1-5,322-327前書きおよび訳者あとがき</ref>。
== 物語 ==
昔とあるところに一人の王がいた。王は3人の王女を大事に育てており、一度も外に出したことがなかった。ところが3人が嫁に行く年齢になった時に輪舞を踊ってよいとの許可を出した。しかし、それが悲劇の発端だった。外で輪舞を踊ったとたん突然つむじ風が起き、3人とも風に運ばれながらさらわれてしまったのだ。王に残ったのは身ごもっていた女王だけで、女王はやがて男子を生んだ。その子が勇者ストイシャである。ストイシャが姉たちの行方不明を女王から聞いたのは18歳の時であった。この話を聞いたストイシャは、姉たちが手に巻きつけているものと同じ[[ハンカチ]]を手に、姉たちを取り戻す旅が始まった。
 
ある町にやってくると1人の娘がストイシャが持つハンカチに反応する。長女は竜の領土であるこの国の[[宮殿]]に王女として生きていた。長姉はストイシャを宮殿に案内するが、「怒りまくる火を吹く竜がやって来る」と警告し、その通り竜がやってきた。ストイシャは竜のごちそうまで平らげて竜王を挑発した。竜の土鉾が宮殿に投げられるとストイシャは竜王よりも遠く投げ返した。驚いた竜王は戦いを挑むが簡単に負けてしまった。2番目の竜王の居所を聞き、竜王の土鉾が宮殿に投げられると竜よりも遠く投げ返し、竜王をねじふせ、さらに3番目の竜をも竜の土鉾を返した上でねじふせた。恐れをなした3番目の竜王は宴会を開き、ストイシャをもてなした。
 
ストイシャは3番目の竜の宮殿の中で不自然な穴をみつけた。3匹の竜は、この地域には竜の[[帝王]]がいるので逃げるための穴を設置していると答えた。それをストイシャは「退治しましょう。お手伝いします」と答えた。もっと強い奴と戦いたかったのである。
 
さっそく王子は単身、『帝王』と呼ばれる竜の宮殿に向かった。宮殿の一番高いところに[[ウサギ]]がいるのを見て、「なんであんなところにウサギが?」と門番に聞いた。すると門番は「だれかがウサギを取ろうとするとウサギは自分で自分を切り刻み、鍋に入って調理してしまう。そんなウサギを取る奴の首を王がはねることになっている」と聞いた。
 
さっそくストイシャは挑発すべくウサギを捕った。ウサギはさっそく自分で自分を傷つけ、鍋とその具材になる。門番はおどろいて「早く逃げろ」とストイシャに言った。だが遅かった。竜が帰って「ウサギを盗ったのはだれだ!」と答えた。城の人間の答えはみんな同じだった。犯人を聞くと竜は「おれに出くわす前に失せろと言え」と門番に言ったがストイシャは[[決闘]]を申し込むことを逆に門番に伝えた。門番の答えを聞くと竜は怒りで真っ赤になり体中から焔を吹き、ストイシャのいるバルコニーまで飛んでいく。ストイシャは焔の竜をねじふせることができない。死闘がくりひろげられたが決着はつかなかった。死闘の果てにストイシャはとうとう竜の名前を聞いた。すると竜帝王は「私の名はムラデン(末っ子の意)だ。」<ref>なお、Mladen(Младен)という名は人名にもよく使われる。栗原成郎、田中一生共訳編「ユーゴスラビアの民話 1」恒文社 1980年,p53より。</ref>この答えに対しストイシャは「実は私も末っ子です」と満身創痍で答えたという。同じ末っ子ということと、死闘の末に互いに友情が芽生えこともあってストイシャは竜帝王ムラデンと新たに義兄弟の契りを交わした。ストイシャは「なんでムラデンは穴をほって君から逃げようとしている3兄弟の竜の国を攻めないんだい?だったら今のうちに2人で三兄弟の竜の国に攻め入ろう」といった。ムラデンはこの提案に賛成し、一気に攻め入った。3匹の竜王たちは強力な軍隊をかき集めたものの、敗北し穴から逃げようとする。しかし、そこで王子と帝王の竜は急いでかき集めた藁を穴に放り込み、火を放った。こうしてストイシャとムラデンは穴から逃げようとする竜王3兄弟を焼き殺した。王子は3匹の竜王の宝物を持ち帰り、さらに3人の姉を取り戻した。ストイシャは義兄弟となった竜帝王ムラデンには3兄弟が元々支配していた領土と宮殿を与え、自分は母国に凱旋したという。その後ストイシャは母国の帝王となった。
== 脚注 ==
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