「ボルスタアンカー」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
編集の要約なし
8行目:
[[鉄道車両の台車]]は[[輪軸]]を保持し[[鉄道車両#車体|車体]]の重量を支えるとともに、走行時に生じる振動・衝撃を吸収・緩和する働きを持つ<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_212"/>。さらに鉄道車両が線路の曲線部にさしかかった場合には、台車そのものが回転し、円滑に走行できるものでなければならない<ref name="鉄道の科学_78"/>。
 
このような機能を果たすため、台車には輪軸を支える'''軸バネ'''、車体を支える'''[[枕バネ]]'''の2種類のバネが設けられている<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_214-215"/>。軸バネを含む台車・輪軸の相対動きを許容する機構・装置を'''1次バネ系'''<ref name="電車基礎講座_117"/>や'''軸箱支持装置'''<ref name="鉄道の科学_36"/>などと呼び、枕バネを含む車体・台車の相対動きを許容する機構・装置を'''2次バネ系'''<ref name="電車基礎講座_117"/>'''車体支持装置'''<ref name="鉄道車両技術入門_12"/>などと呼ぶ。大きな相対動きを考えると軸バネは輪軸の上下動を吸収するのみであるが<ref name="鉄道の科学_37"/>、枕バネは上下動の吸収とともに台車の回転を許容する必要がある(図1-1)。
 
車体の重量を支えつつ回転させるという要求性能に対し、いくつかの機構が存在する。20世紀後期に開発された[[ボルスタレス台車]]では、枕バネそのものを横方向に変形させる{{refnest|group="注釈"|ボルスタレス台車では、枕バネに横方向変形能力の大きなダイヤフラム型空気バネや低横剛性空気バネを採用している。これらは、水平面内の許容変異量が従来のベローズ型空気バネと比較して格段に大きく、この特性を用いて枕バネに台車の旋回性能を与えている。}}ことで台車の回転に対応しているが、それ以前は'''枕梁'''(まくらばり、ボルスタ)と呼ばれる部材を介して、回転を許容する機構が主流であった<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_220-221"/>。<br / style="clear: both;">
20行目:
|4=図1-2(b)断面図
}}
枕梁は、枕バネの上部側か下部側もしくはその両方に設けられ、'''心皿'''(しんざら)および'''側受'''(がわうけ)と呼ばれる部材と接しており、台車の回転を許容する働きを持つ<ref name="ここまできた!鉄道車両_113"/><ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_220"/>。すなわち枕梁を持つ台車は、求められる2つの機能を以下のように分離している構造となっている。
* 上下動の吸収 - 枕バネ
* 台車の回転 - 枕梁と心皿・側受
図1-2は枕梁を有する台車の回転を示したものである。この方式の台車は、'''ダイレクトマウント方式'''と呼ばれるもので、車体に設けられたを支える枕バネは枕梁の上に乗っており、枕バネ自体は回転しない<ref name="電車基礎講座_128"/>。一方、枕梁は台車枠の横ばりと、中心ピン・心皿・側受でつながっている。側受や心皿は枕梁からの上下方向の力を受けるものであるが、平面的には摩擦板である側受によってある程度は滑る構造となっており、枕梁と台車枠は中心ピンを中心に回転することができる<ref name="電車基礎講座_129"/>
 
このように枕梁を有する台車では、枕バネを上下動の吸収のみに用い、台車の回転は枕梁を介して行う構造となっている。この方式のほか、枕梁を有する台車には、枕梁を枕バネの上に設置し車体との間で回転を許容する'''インダイレクトマウント方式'''<ref name="電車基礎講座_128"/>、側枠からスウィ揺れリグアームで下揺れ枕と称する枕梁を吊り下げてその上に枕バネを置き、さらにその上部に心皿と側受{{refnest|group="注釈"|揺れ枕式台車の場合、古くは荷重支持はその大半を心皿が受け持ち、側受は車体との間に数mmの隙間を設け、曲線通過等による車体傾斜時の支持にのみ用いる、心皿支持方式と呼ばれる方式が一般的に行われていた。しかしながら、軽量化の研究が進み荷重を枕バネに近い両側部で受けた方が部材断面の縮小による軽量化に有利であることが明らかとなり、また高速走行時の蛇行動についても側受の摺動面の摩擦によって抑止が可能であることが明らかとなった。このため、高速台車の研究が進展した1950年代後半以降、特に日本の鉄道では荷重を側受に分担させる側受支持方式への移行が進んだ。}}を支える上揺れ枕を備える'''揺れ枕式'''などがある<ref>{{Cite web |author=鉄道総合技術研究所|url=http://yougo.rtri.or.jp/dic/detail.jsp?yougo_id=382674|title=揺れリンク【台車の】 ゆれりんく|work=鉄道技術用語辞典|accessdate=2015-02-14}}</ref><ref name="電車基礎講座_126"/>。いずれも心皿・側受と枕梁の間で台車の回転を行い、枕バネそのものは回転しない構造である。<br / style="clear: both;">
{{refnest|group="注釈"|スウィングハンガー式台車の場合、古くは荷重支持はその大半を心皿が受け持ち、側受は車体との間に数mmの隙間を設け、曲線通過等による車体傾斜時の支持にのみ用いる、心皿支持方式と呼ばれる方式が一般的に行われていた。しかしながら、軽量化の研究が進み荷重を枕バネに近い両側部で受けた方が部材断面の縮小による軽量化に有利であることが明らかとなり、また高速走行時の蛇行動についても側受の摺動面の摩擦によって抑止が可能であることが明らかとなった。このため、高速台車の研究が進展した1950年代後半以降、特に日本の鉄道では荷重を側受に分担させる側受支持方式への移行が進んだ。}}
を支える上揺れ枕を備えるスウィングハンガー方式などがある。いずれも心皿・側受と枕梁の間で台車の回転を行い、枕バネそのものは回転しない構造である。<br / style="clear: both;">
 
=== 牽引力を伝達するボルスタアンカー ===
38 ⟶ 36行目:
}}
[[ファイル:Truck-FS075.jpg|thumb|200px|写真2 [[小田急5000形電車]]のボルスタアンカー(ダイレクトマウント方式)。]]
枕梁を有する台車では、枕バネは上下動に対応し、回転など横方向の変形は許容しない構造である。また、台車は車両から外れないように前後方向の拘束を行い、台車からの牽引力を車体に伝達しなければならない。しかしながら、枕バネは一般に横方向の剛性が低く、台車と車体の間に生じる前後方向の力を伝達するには至らない<ref name="ここまできた!鉄道車両_114"/>
 
このとき必要となるのがボルスタアンカーである。ボルスタアンカーは、枕バネの上部側・下部側を前後方向に拘束し、牽引力やブレーキ力を伝達するものである<ref name="ここまできた!鉄道車両_114"/>。一般に棒状の部材であり、前後方向の力を伝達するため台車の両側面に水平方向に配置される。枕バネの両端を結ぶ構造であることから、その多くは上下方向にブラケット(受け具)を設けた上で、水平方向を結ぶ構造となっている。また、上下に伸縮する枕バネの伸縮を妨げないよう、ボルスタアンカーの両端はピン結合、もしくはゴムブッシュを介した結合方法
{{refnest|group="注釈"|現在では{{要出典|範囲=一般的には可動ピンを使用する。|date=2015年2月}}現在ではただし、一部の私鉄ではこのピン構造を採用せず、上下の支持板にそれぞれに丸い穴を空けてそこにボルスタアンカー本体となる腕部を通し、支持板の前後から防振ゴムブッシュとナットで固定する方式が採用されている。こちらはボルスタアンカー本体の固定・支持に用いられるゴムブッシュの弾性変形により枕バネの上下動が抑制されつつも許容される。そのためこの方式は[[京阪電気鉄道|京阪]]・[[京成電鉄|京成]]といった比較的曲線の多い軌道条件の私鉄を中心に現在も継続採用されている。}}
とし、上下方向の変形を許容している<ref>{{Cite web |author=鉄道総合技術研究所|url=http://yougo.rtri.or.jp/dic/detail.jsp?yougo_id=322279|title=ボルスタアンカ【車両の】 ぼるすたあんか |work=鉄道技術用語辞典|accessdate=2015-02-14}}</ref>。一般にはモータによる加速力やブレーキによる減速力といった前後方向の力は台車→中心ピン→ボルスタ→ボルスタアンカ→車体という順番に伝えられる<ref name="鉄道の科学_35"/>。
 
図1-3はダイレクトマウント方式における、ボルスタアンカーの働きを示したものである。この方式では、枕バネは車体の直下に配置されるため、ボルスタアンカーは車体と枕梁を結ぶように配置される。側面図に示すように、車体から'''ボルスタアンカ受け'''を下ろし、ボルスタアンカ受けと枕梁をボルスタアンカーにより連結することで、車体と枕梁の前後方向の力を伝達する構造である<ref>{{Cite web |author=鉄道総合技術研究所|url=http://yougo.rtri.or.jp/dic/detail.jsp?yougo_id=363686|title=ボルスタアンカ受け ぼるすたあんかうけ |work=鉄道技術用語辞典|accessdate=2015-02-14}}</ref>。前述のとおり、ボルスタアンカーの両端はピンゴムブッシュ構造となっており、ゴムの変形により上下方向の伸縮を逃がしている。ボルスタアンカーにより枕梁まで伝達された前後方向の力は、中心ピンにより台車枠へと伝達する。上下方向を含めた力の伝達経路を表1に示す。
 
{|class="wikitable" style="font-size:90%; text-align:center;"
69 ⟶ 67行目:
 
== ボルスタアンカーの特長 ==
[[画像:TR Swing hanger sect0.gif|250px|thumb|図2-1 スイングハンガー揺れ枕式枕梁台車(1点支持)。揺れ枕守方式。]]
[[画像:TR Swing hanger sect1.gif|250px|thumb|図2-2 スイングハンガー揺れ枕式台車の動き。]]
[[画像:PC24kei railway truck part.JPG|250px|thumb| [[24系客車]]のカニ24のスイングハンガー式(揺れ枕吊り式)台車に使用されている上揺れ枕(右側)と下揺れ枕(左側)]]
[[ファイル:JNR DC80 Truck DT31 20071019 001.jpg|250px|thumb|スイングハンガー方式空気バネ台車。横に設けられた棒状のものは、空気バネの上部に設けられた上揺れ枕と台車枠の間で結合されたボルスタアンカー。<br />[[国鉄キハ80系気動車]]]]
77 ⟶ 75行目:
前節では、ボルスタアンカーの基本的な役割とその機構について、枕梁台車において牽引力(前後方向の力)を伝達するものとして解説した。しかしながら、枕梁台車の牽引力伝達は、必ずしもボルスタアンカーによる必要はなく、より簡便な機構でも可能であった。ここでは、枕梁台車における牽引力伝達方式の変遷について述べるとともに、ボルスタアンカーの特長について解説する。
 
図2-1は、'''スイングハンガー方揺れ枕式'''(揺れ枕吊り方式)と称する台車形式であり、枕梁台車では古くから広く用いられてきた形式である。この形式では、上揺れ枕、下揺れ枕と呼ばれる2本の枕梁を有し、枕バネはこの2本の枕梁の間に設置される。また、下揺れ枕は台車枠から「吊りリンク」と呼ばれる部品によりハの字形に6-7度前後に傾斜して吊り下げられており、左右に揺れる構造となっている<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_220"/>。この構造は、台車に作用する左右方向の衝動を緩和する働きと、曲線通過時に車体の中心と台車の中心が偏倚して重心が移動した際に、速やかに元の位置に引き戻す力(復元力)が働く仕組みとなっている<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_215"/>。
 
さて、図2-1で示した台車は、スイングハンガー方揺れ枕式の中でもさらに歴史の古い形式であり、上揺れ枕の中央上面に下心皿が設けられており、車体下部の台枠の枕梁中央下面に設けられた上心皿(中心ピン)と結合して、台車の回転中心となり、車体の重量を負担すると同時に台車からの牽引力を伝達する1点支持方式である。側受は原則として荷重を受けておらず、車体傾斜時のみに車体を預ける転倒防止装置であった。また、牽引力の伝達についても'''揺れ枕守'''(ゆれまくらもり)という方法によっている。スイングハンガー方式では、上揺れ枕と台車枠の間で牽引力の伝達が必要となるが、古い台車では上揺れ枕と台車枠の間に「すり板」を設け、相互に振動する部材(上揺れ枕と台車枠)を接触させることで、牽引力の伝達を行う揺れ枕守方式が主流であった。
 
揺れ枕守は、すり板1枚で牽引力の伝達が行えることから、構造が簡単で安価な手法である。その一方で、台車の揺れにより絶えず摺動(しゅうどう)を起こしていることから摩耗し、走行に応じて台車枠と上揺れ枕の間に隙間を生じ、牽引力の伝達に「がたつき」を起こすことが欠点である。スイングハンガー方揺れ枕式台車は部材点数が多く、それぞれの部材の拘束が少なく自由度が高いことから、複雑な揺れを示す(図2-2)。この揺れによって、揺れ枕守は激しい摩耗を起こし、前後方向にがたつきを生じることで、さらに揺れが増すといった悪循環を引き起こしやすい。
 
=== 改善できる効果 ===
95 ⟶ 93行目:
ここまで機構の解説に紹介した枕梁台車は「ダイレクトマウント方式」と呼ばれるもので、枕バネを車体の直下に配置し、台車の回転を枕バネと台車枠の間で行う方式である。この方式は歴史的に比較的新しいものであり、枕梁を用いた台車にはこのほかにも多数の形式がある。いずれの形式の場合でも、ボルスタアンカーは枕バネの上下端を前後方向に拘束する構造であるが、形式の違いによりボルスタアンカーの取り付け位置に差異が見られる。
 
また、前節で述べたとおり、牽引力の伝達は揺れ枕守による場合もあり、ボルスタアンカーは枕梁台車に必ずしも設けられるものではない。台車の変遷から、スイングハンガー方揺れ枕式にはボルスタアンカーのないものが比較的多く見られるほか、インダイレクトマウント方式でも揺れ枕守による牽引力伝達を行う形式も希ながら存在する。
 
=== スイングハンガー方揺れ枕式 ===
<!-- 機構図追加予定 -->
スイングハンガー方揺れ枕式では、2本の枕梁(揺れ枕)を有しているが、ボルスタアンカーは上揺れ枕と台車枠の間のみに取り付けられる。ボルスタアンカー付きスイングハンガー方揺れ枕式台車では、荷重は以下のように伝達する。
; 車体重量(上下方向荷重)
: 車体 - 心皿・側受 - 上揺れ枕 - 枕バネ - 下揺れ枕 - 吊りリンク - 台車枠 - 軸バネ
182 ⟶ 180行目:
=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<ref name="ここまできた!鉄道車両_113">[[#ここまできた!鉄道車両|ここまできた!鉄道車両 p.113]]</ref>
<ref name="ここまできた!鉄道車両_114">[[#ここまできた!鉄道車両|ここまできた!鉄道車両 p.114]]</ref>
<ref name="鉄道の科学_35">[[#鉄道の科学|図解・鉄道の科学 p.35]]</ref>
193 ⟶ 192行目:
<ref name="鉄道車両メカニズム図鑑_220-221">[[#鉄道車両メカニズム図鑑|鉄道車両メカニズム図鑑 pp.220-221]]</ref>
<ref name="電車基礎講座_117">[[#電車基礎講座|電車基礎講座 p.117]]</ref>
<ref name="電車基礎講座_126">[[#電車基礎講座|電車基礎講座 p.126]]</ref>
<ref name="電車基礎講座_128">[[#電車基礎講座|電車基礎講座 p.128]]</ref>
<ref name="電車基礎講座_129">[[#電車基礎講座|電車基礎講座 p.129]]</ref>
<ref name="鉄道車両技術入門_12">[[#鉄道車両技術入門|鉄道車両技術入門 p.12]]</ref>