「ヨハネの手紙二」の版間の差分

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{{新約聖書}}
『'''ヨハネの手紙二'''』(ヨハネのてがみに)は[[新約聖書]]正典中の一書で[[公同書簡]]と呼ばれる書簡の一つ。他のヨハネ書簡などとともに[[ヨハネ文書]]と分類されることもある。13節のみで構成され、[[旧約聖書|旧約]]・新約を通じて聖書中最短の書である。『'''ヨハネによる第二の手紙'''』、『'''第二ヨハネ書'''』などとも呼ばれる。
 
この記事名は[[新共同訳聖書]]に基づくものだが、『'''ヨハネの第二の書'''』([[文語訳聖書]])、『'''ヨハネの第二の手紙'''』([[口語訳聖書]]、[[フェデリコ・バルバロ|バルバロ訳聖書]]、[[フランシスコ会訳聖書]]、[[岩波訳聖書|岩波委員会訳聖書]])、『'''ヨハネの手紙 第二'''』([[新改訳聖書]])、『'''イオアンの第二書'''』([[日本正教会訳聖書]])などとも訳される。
この手紙は「選ばれた婦人とその子たちへ」あてられている。「選ばれた婦人のこどもたちがあなたによろしく」という箇所を「キリヤ」という特定の女性名でおきかえる異読もある{{要出典|date=2013年2月}}。13節のうち7節は『[[ヨハネの手紙一]]』と重複した内容になっている。手紙の受取人はその信仰を称賛され、偽教師に警戒するよう戒められている。
 
== 著者・執筆年代 ==
言語分析から本書簡と『[[ヨハネの手紙三]]』の著者は同じであるとみなされている。伝承によって著者とされたヨハネなる人物は『[[ヨハネによる福音書]]』および『[[ヨハネの黙示録]]』の著者であるとみなされてきたが、そのような見解は現在ではほとんど支持されていない。{{要出典|date=2013年2月}}
著者は1節で「長老のわたし」([[口語訳聖書|口語訳]])<ref>Wikisource日本語版の[[:s:ヨハネの第二の手紙(口語訳)]]より。以下同じ。</ref>)と名乗っている。同じ名乗りは『[[ヨハネの手紙三]]』の冒頭にも見られる。この長老は高齢者とは限らず、個別の教会(群)の指導者と理解されるが、後代の[[長老 (キリスト教)|職制としての長老]]とは異なるとされる<ref>{{Harvnb|松永|1991|p=465}}</ref><ref>{{Harvnb|大貫|1995|p=132}}</ref>。
 
伝統的な理解では、これらの手紙は『[[ヨハネによる福音書]]』および『[[ヨハネの手紙一]]』の著者と同じく[[ヨハネ (使徒)|使徒ヨハネ]]であろうとされてきた<ref>{{Harvnb|フェデリコ・バルバロ|1975|p=639}}</ref><ref>{{Harvnb|泉田|宇田|服部|舟喜|1985|pp=1324-1325}}</ref>。[[フェデリコ・バルバロ]]は、その中でも第二の手紙は第一の手紙が書かれて間もない時期(西暦94年頃から100年の間)に[[エフェソス]]で成立したと推測した<ref>{{Harvnb|フェデリコ・バルバロ|1975|pp=639-640}}</ref>。『[[新聖書辞典]]』では80年代末から90年代初頭にエフェソスで作成されたという見解が伝統的な説として挙げられている<ref>{{Harvnb|泉田|宇田|服部|舟喜|1985|pp=1322-1323}}</ref>。
==関連項目==
*[[ヨハネによる福音書]]
*[[ヨハネの黙示録]]
*[[ヨハネの手紙一]]
*[[ヨハネの手紙三]]
*[[公同書簡]]
 
他方で、主として[[高等批評]]の見地から疑問も寄せられ、成立は1世紀末から2世紀初頭の[[シリア]]あるいは[[小アジア]]のどこか<ref name = yamauchi_p220>{{Harvnb|山内|1994|p=220}}</ref><ref>{{Harvnb|大貫|1995|pp=153-154}}</ref>などとも言われ、著者の同一性についても様々な意見がある。使徒ヨハネかどうかはともかく、内容や文体の分析からも三書簡が同一人物の手になるものであろうことを主張する者がいる一方で<ref>{{Harvnb|中村|1980|pp=441-442}}</ref>、第二と第三が同一で第一が別<ref>{{Harvnb|宮内|1989|pp=756, 758}}</ref><ref>{{Harvnb|大貫|1995|pp=151-152}}</ref>、第一と第二が同一で第三は別<ref>{{Harvnb|田川|2015|pp=834-836}}</ref>などいくつもの説があり、確定しているとは言いがたい<ref name = yamauchi_p220 /><ref>{{Harvnb|大貫|1995|p=152}}</ref>。
 
「長老」の正体を{{仮リンク|パピアス|en|Papias_of_Hierapolis}}が言及している[[長老ヨハネ]]と想定する説もある<ref>{{Harvnb|ヨハネス・シュナイダー|1975|p=405}}</ref><ref>{{Harvnb|旧約新約聖書大事典|1989|p=1254}}</ref>。また、「第一・第二」と「第三」が対立関係にあると見る[[田川建三]]は、第三の手紙で批判的に言及されているディオトレフェスか彼に近い人物が第一と第二の手紙の著者であろうと推測している<ref>{{Harvnb|田川|2015|p=836}}</ref>。
 
=== 順序 ===
第一から第三までの手紙はそれほど隔たっていない時期で書かれたということで大方の意見が一致するが、第二の手紙が何番目に書かれたかには議論がある。第二の手紙は第一のダイジェスト版のように見えることから、第一を踏まえて書かれたと見る者がいる一方<ref>{{Harvnb|宮内|1989|p=756}}</ref>、第二が念頭に置いていたのは第三で、第三、第二、第一の順に書かれたと見る者もいる<ref>{{Harvnb|松永|1991|p=444}}</ref>。そもそも厳格に順序を確定させようとする試み自体に否定的な意見もある<ref>{{Harvnb|大貫|1995|p=153}}</ref>。
 
== 宛先 ==
この手紙は「選ばれた婦人とその子たち」へ宛てられている。この「婦人」の原語κυρίαについて、固有名詞と理解して「キュリア」という女性と見る説もあったが、現在では一般的とはいえない<ref name = matsunaga_p465>{{Harvnb|松永|1991|p=465}}</ref>。むしろ、「婦人」は教会の比喩表現であろうと理解されることがしばしばである<ref name = matsunaga_p465 /><ref>La TOB, 1972, p.759</ref><ref>{{Harvnb|中村|1980|p=436}}</ref><ref>{{Harvnb|宮内|1989|p=756}}</ref><ref>{{Harvnb|日本聖書協会|2004|p=448(新)}}</ref><ref>{{Harvnb|秋山|2005|p=495}}</ref>。聖書関連の[[ギリシア語]]辞典でもそのように注記しているものがあり<ref>{{Harvnb|岩隈|2008|p=277}}</ref>、教会を呼ぶ時の当時の慣用表現と結びつける意見もある<ref>{{Harvnb|田川|2015|pp=488-489}}</ref>。
 
== 内容 ==
「長老のわたし」は、手紙の受取人に対しその信仰を称賛し、互いに愛し合うことの大切さを説き、偽教師に警戒するよう勧めている。その内容には第一の手紙との並行関係をかなりの程度読み取ることができ<ref name = nakamura_p433>{{Harvnb|中村|1980|p=433}}</ref>、[[ギュンター・ボルンカム]]は第一の手紙に比べて「何ら新しいものをもたらさない」<ref>{{Harvnb|ギュンター・ボルンカム|1972|p=233}}</ref>とまで評している。他方で、他の[[ヨハネ文書]]に見られない特色として、3節の「憐み」の付加、8節の「報い」について、10節の異端に対する「挨拶」の禁止の3点を挙げる者もいる<ref name = nakamura_p433 />。
 
挨拶の禁止は[[反キリスト]]に向けられている。ここでの反キリストは「イエス・キリストが肉体をとってこられたことを告白しないで人を惑わす者」(7節)を指す。ここで排撃されている思想は[[グノーシス主義]]と推測されることもある<ref>{{Harvnb|日本聖書協会|2004|p=448(新)}}</ref>。ほか、第一の手紙で排撃されている思想と関連付けつつ、[[ケリントス]]との類似性が指摘されることもあるが、相違点も見られる<ref>{{Harvnb|大貫|1995|p=156}}</ref>。挨拶は当時の[[オリエント]]においては仲間や連帯を意味する行為であったとされ、そのことがこうした厳格な禁止の背景にあったとも言われる<ref name = Schneider_p414>{{Harvnb|ヨハネス・シュナイダー|1975|p=414}}</ref>。「その人を家に入れること」も禁じるということとあわせ、地域的背景として、異端の教えを説く者が巡回説教者として巡っていたのだろうと推測されている<ref name = Schneider_p414 /><ref>{{Harvnb|松永|1991|p=468}}</ref>。
 
前述の通り非常に短い手紙だが、これは[[パピルス]]1枚にしたためたことによる紙幅の都合であろうと言われている<ref>{{Harvnb|Senior|Collins|2006|p=1662}}</ref><ref>{{Harvnb|フランシスコ会聖書研究所|2013|pp=666(新)}}</ref>。
 
== 脚注 ==
{{reflist|2}}
 
== 参考文献 ==
* ''[[共同訳聖書#TOB:フランスの共同訳聖書|Traduction œcuménique de la Bible. Edition Intégrale. Nouveau Testament]]'', Les Editions du Cerf / Les Bergers et Les Mages, 1972 (La TOB)
* {{Citation|last1=Senior|first1=Donald|last2=Collins|first2=John J.|year=2006|title=The Catholic Study Bible. [[新アメリカ聖書|The New American Bible]]|edition=2|publisher=[[オックスフォード大学出版局|Oxford University Press]]|isbn=1556653409}}
* {{Citation|和書|last=秋山|first=憲兄|author-link=秋山憲兄|year=2005|title=新共同訳聖書 聖書辞典|edition=2|publisher=[[新教出版社]]|isbn=4400110737}}
* {{Citation|和書|last=岩隈|first=直|year=2008|title=新約ギリシヤ語辞典|edition=増補改訂|publisher=[[教文館]]|isbn=9784764240322}}
* {{Citation|和書|editor1-last=泉田|editor1-first=昭|editor1-link=泉田昭|editor2-last=宇田|editor2-first=進|editor2-link=宇田進|editor3-last=服部|editor3-first=嘉明|editor3-link=服部嘉明|editor4-last=舟喜|editor4-first=信|editor4-link=舟喜信|editor5-last=山口|editor5-first=昇|editor5-link=山口昇 (神学者)|year=1985|title=[[新聖書辞典]]|publisher=[[いのちのことば社]]|isbn=4264007062}}
* {{Citation|和書|editor=旧約新約聖書大事典編集委員会|year=1989|title=旧約新約聖書大事典|publisher=教文館|isbn=4764240068}}
* {{Citation|和書|last=大貫|first=隆|author-link=大貫隆|year=1995|contribution=ヨハネの手紙|editor=新約聖書翻訳委員会|title=新約聖書III ヨハネ文書|publisher=[[岩波書店]]}}
* {{Citation|和書|author=[[ヨハネス・シュナイダー]]|year=1975|title=公同書簡(NTD新約聖書註解)|publisher=NTD新約聖書註解刊行会}}
* {{Citation|和書|last=田川|first=建三|author-link=田川建三|year=2015|title=新約聖書 訳と註・第六巻|publisher=[[作品社]]|isbn=9784861821554}}
* {{Citation|和書|last=中村|first=和夫|author-link=中村和夫|year=1980|contribution=ヨハネの第一の手紙/ヨハネの第二の手紙/ヨハネの第三の手紙|title=総説新約聖書|publisher=[[日本基督教団出版局]]}}([[荒井献]]・[[中村和夫]]・[[川島貞雄]]・[[橋本滋男]]・[[川村輝典]]・松永晋一 共著)
* {{Citation|和書|author=[[日本聖書協会]]|year=2004|title= 新約聖書スタディ版 - わかりやすい解説つき聖書 新共同訳|publisher=日本聖書協会|isbn=9784820232322}}
* {{Citation|和書|last=松永|first=希久夫|author-link=松永希久夫|year=1991|contribution=ヨハネの手紙一/ヨハネの手紙二/ヨハネの手紙三|editor1=[[川島貞雄]]|editor2=[[橋本滋男]]|editor3=[[堀田雄康]]|title=新共同訳 新約聖書注解II|publisher=[[日本基督教団|日本基督教団出版局]]|pages=444-474}}
* {{Citation|和書|last=宮内|first=彰|author-link=宮内彰|year=1989|contribution=ヨハネの第一の手紙/ヨハネの第二の手紙/ヨハネの第三の手紙|editor1=[[山谷省吾]]|editor2=[[高柳伊三郎]]|editor3=[[小川治郎]]|title=増訂新版 新約聖書略解|edition=増訂新版34|publisher=[[日本基督教団|日本基督教団出版局]]|pages=743-759}}
* {{Citation|和書|last=山内|first=一郎|author-link=山内一郎|year=1994|contribution=ヨハネの第一、二、三の手紙|title=聖書の世界 総解説|edition=改訂|publisher=[[自由国民社]]|pages=219-221}}
* {{Citation|和書|author=[[フェデリコ・バルバロ]]|year=1975|title=新約聖書|publisher=[[講談社]]}}
* {{Citation|和書|author=フランシスコ会聖書研究所|year=2013|title=原文校訂による口語訳 聖書|publisher=サン パウロ}}
* {{Citation|和書|author=[[ギュンター・ボルンカム]]|translator=[[佐竹明]]|year=1972|title=新約聖書(現代神学の焦点6)|publisher=[[新教出版社]]}}
 
==関連項目==
{{Wikisource|ヨハネの第二の手紙(口語訳)}}
{{Wikisource|ヨハネの第二の書(文語訳)}}
* [[ヨハネ文書]]
**[[ヨハネによる福音書]]
**[[ヨハネの手紙一]]
**[[ヨハネの手紙三]]
*[[ヨハネの黙示録]]
 
{{公同書簡}}
{{デフォルトソート:よはねのてかみ2}}