「日本語の方言」の版間の差分

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(出典付与)
 
==== 裏日本的音韻 ====
北海道沿岸部・東北地方全域・[[新潟県]][[越後国|越後]]北部・[[栃木県]]・[[茨城県]]および[[鳥取県]][[伯耆国|伯耆]]西部・[[島根県]][[出雲国|出雲]]においては、イ段・ウ段の母音は[[中舌母音]][ï]・[ɯ̈]となる<ref name="平山1998"/><ref name="加藤1986">加藤正信「音韻概説」『講座方言学 1 方言概説』</ref>。また[[千葉県]]・[[埼玉県]]東部や[[富山県]]・[[石川県]]・[[福井県]][[嶺北]]でも若干こうした現象がある。特にシとス、チとツ、ジ(ヂ)とズ(ヅ)の区別がなくなる現象が、北海道沿岸部・[[福島県]]北部以北の東北地方大部分・新潟県越後北部・富山県の一部・島根県出雲に分布している(東関東では区別がある)<ref name="方言概説78-81">『講座方言学 1 方言概説』78頁-81頁。</ref>。また出雲や[[米子市]]では「く」「ぐ」「ふ」を除くほとんどのウ段音がイ段音との区別をせず[ï]と発音される。ただ、近年ではこれら[[四つ仮名]]の区別がないのは高年層に限られ、若年層では中舌的発音そのものを失って共通語と同じ発音になっている地域が多い<ref name="方言概説78-81"/>。
 
また、これらの地域とほぼ重なるように、北海道沿岸部・東北・東関東・北陸・出雲などでは、エ段の音は[[基本母音]]の[[非円唇前舌半狭母音|e]]となり、共通語の[ɛ ˔]よりも狭くイ段に近い発音となる。特に母音単独拍でのイとエは、北海道南部・東北大半・茨城県・栃木県(西部除く)・千葉県北部・越後北中部・富山県大部分・石川県の一部・島根県出雲・隠岐において区別がなく、両者の中間音[e][e˔]などで発音される<ref name="方言概説81-84">『講座方言学 1 方言概説』 81-84頁。</ref>。ただしこれらの地域のイ段母音は中舌母音[ï]であるため、母音単独拍において[[音素]]イ/i/が欠如しているとみなされる。なお、東北地方の北部や日本海側では、中年層ではイとエの区別がなくても老年層(1986年時点)では区別があった<ref name="方言概説81-84"/>。
また、雲伯地域や北陸の一部では、オ段の音は共通語のオよりもウ段に近い発音となり、母音単独ではウとオの区別がない。
 
ウ段母音は、東京方言でも[[円唇後舌狭母音|u]]よりやや中舌寄りで円唇性の弱い[[ɯ]]であるが、西日本方言(北陸・雲伯を除く)や九州方言では唇の丸みを帯びかつ奥舌母音の[u]で発音される<ref name="平山1998"/>
 
==== 西南日本的音韻 ====
かつての中央語でも、現在の濁音に当たるものは直前に鼻音を伴っていたと考えられており、諸方言に残る発音もその名残とみられる。現在(2002年時点)では、衰退が進んで入り渡り鼻音はほとんど高年層に限られるようになり、東北南部では高年層でも入り渡り鼻音を保持している者が少ない<ref name="現代日本語講座29-30"/>。カ行・タ行の濁音化はこれより若い世代でも保たれているため、tの有声化したdと本来のdとが同じ発音になる場合がある。
 
ガ行鼻濁音は、東北だけでなく近畿以東の広い範囲に分布し、語中・語尾のガ行子音を[ŋ]と発音するのが日本語の標準発音とされている。ただ近年は、中年層以下では鼻濁音を失う傾向にあり、特に京都・大阪や北海道などでの衰退が進んでいる<ref>平山「全日本の発音とアクセント」</ref>。一方、中国地方・[[香川県]]・[[愛媛県]]・九州地方の大部分には鼻濁音が元々なく、語中・語尾においても破裂音[[有声軟口蓋破裂音|g]]または摩擦音[[有声軟口蓋摩擦音|ɣ]]である。
 
==== 古音の残存 ====
濁音の鼻音化のほかにも、各地方には、かつて中央で使われた古い発音の残る地域がある。
 
共通語のセに対しシェ、ゼに対しジェと発音する地域が、東北地方・西日本の所々・九州のほぼ全域に分布している(東北ではシェがヒェにもなる)<ref name="平山1998"/><ref name="佐藤2002">佐藤亮一「現代日本語の発音分布」</ref>。かつての京都でもこのような発音を行っていて、セ・ゼは関東地方から広まった発音とみられる。
 
かつての中央語では、ハ行は[[無声両唇摩擦音|ɸ]]を使ってファ、フィ、フ、フェ、フォと発音されていたが、その後フを除いて[h]となった(ヒは[[無声硬口蓋摩擦音|ç]])。しかし、東北地方北部や島根県出雲などの方言では今もハ行子音に [ɸ]が現れる。
 
==== 連母音融合・開合の区別 ====
「無い」を「ねー」、「寒い」を「さみー」のように、東日本方言や中国方言、九州方言では連母音の融合が盛んで、北陸方言・近畿方言・四国方言ではほとんど起こらない。連母音aiは、東日本・中国・九州のほとんどで融合するが、地域によりエー、エァー[ɛː]、アェー[æː]、アーなどと変化に富んでいる<ref name="金田一音韻">金田一「音韻」『金田一春彦著作集第8巻』</ref><ref name="平山1998"/>。「無い」を例にとれば、「ねー」、「ねぁー」、「なぇー」、「なー」となる。aiが[ɛː]や[æː]となる場合はeiの融合したエーと区別されるが、東京ではどちらもエーとなって区別がない。また、連母音oiやuiは、aiに比べると融合する地域は狭いが、関東西部・中部・中国・九州などで、「遅い→おせー」のようにoiはエーになり、「寒い→さみー」のようにuiはイーになる<ref name="金田一音韻"/>。九州の大部分ではoiはイーにもなり、[[名古屋市]]付近ではoiはオェー[öː]に、uiはウィー[üː]になる。
 
古い時代の連母音au・ou・oo・euは、中世には、auは[ɔː]となり、ou・oo・euは[oː]と発音されるようになった。auの変化した音を開音と言い、ou・oo・euの変化した音を合音と言い、この区別を「開合の区別」と言う。京都などでは江戸時代には開合の区別がなくなり両者ともにオーに統合され、日本の多くの地域でも同様に変化してそれが共通語となっている。そのため、「楊枝(歴史的仮名遣いで「やうじ」)」も「用事(歴史的仮名遣いで「ようじ」)」も「ヨージ」となっている。
 
一方、開合の区別を残している地域もある。新潟県越後中部では、「楊枝(やうじ)」を「ヨァージ[jɔːdʒi]」、「用事(ようじ)」を「ヨージ[joːdʒi]」のように、開音はオァー[ɔː]、合音はオー[oː]となって区別が残っている。また山陰の[[兵庫県]][[但馬国|但馬]]北部・鳥取県・島根県出雲・隠岐では、「女房(にょうばう)」を「ニョーバ」と言うように開音はアーとなっていて、オーとなった合音との区別を残している。九州や新潟県佐渡では、開音はオーとなったが、合音はウーになっているため、「楊枝」は「ヨージ」だが「用事」は「ユージ」である<ref>『現代日本語講座 第3巻 発音』24-25頁。</ref>。<ref>この節は主に金田一春彦「音韻」『金田一春彦著作集第8巻』玉川大学出版部による。</ref>
 
==== 琉球方言の音韻 ====
それぞれのタイプのアクセントは無関係に成り立っているのではなく、一定の対応関係がある。日本語に古くからある語は、全国の方言アクセントの比較から、いくつかの語群に分けることができる。例えば2拍名詞は第1類から第5類まで5つの[[類 (アクセント)|類]]に分けられる(下表)。第1類の語に助詞を付けた「牛が・口が・水が」は、東京(東京式アクセント)では「低高高」と発音されるが、京都(京阪式アクセント)では「高高高」と発音される。第2類と第3類は、東京式や京阪式では統合してどちらも同じアクセントとなり、「音が・足が・川が」は東京では「低高低」だが、京都では「高低低」である。一方、鹿児島(二型式アクセント)では第1類と第2類が同じアクセントだが、第3類は異なっている。第4類と第5類も、東京ではともに「高低低」だが、京都では第4類は「低低高」、第5類は「低高低」となって区別される。
 
; 全国各都市のアクセント<ref name="平山1998">平山輝男「全日本の発音とアクセント」</ref>
{| class="wikitable"
!colspan="2"|&nbsp;!!語例!!秋田!!東京!!富山!!京都!!高知!!広島!!鹿児島
学校文法では、動詞の活用を[[未然形]]、[[連用形]]、[[終止形]]、[[連体形]]、[[仮定形]]、[[命令形]]の6種類としているが、ここでは未然形のうち「行こう」「食べよう」などにあたる形を'''意志形'''、連用形のうち「行っ(た)」「食べ(て)」などにあたる形を'''音便形'''として分けて記述する。また本土方言のほとんどで終止形と連体形の区別がないため、区別する場合を除きどちらも「終止形」として記述する。
 
共通語の活用の種類には[[五段活用]](四段活用)、[[上一段活用]]、[[下一段活用]]、[[カ行変格活用]]、[[サ行変格活用]]がある。このほかに、[[奈良県]][[十津川村]]・[[和歌山県]]中部・[[愛媛県]]東宇和地方・九州地方には[[上二段活用]]・[[下二段活用]]があり<ref name="講座方言学概説125">『講座方言学 1 方言概説』125頁。</ref>、[[京都府]][[丹後国|丹後]]・[[兵庫県]][[但馬国|但馬]]・中国地方・四国地方・九州地方には[[ナ行変格活用]]がある<ref name="講座方言学概説125"/>
 
ワ行五段活用の終止形は、一部に「こー」(買う)、「おもー」(思う)と言う地域がある。また青森県とその周辺では、「かる(買う)」、「おもる(思う)」のようにワ行五段がラ行五段に変化している。
次に各活用形の地域差を示す。
;未然形
:未然形は、五段動詞はア段で表し、上一段動詞はイ段、下一段動詞はエ段で表す。<!--浜名湖付近・三重県志摩・-->奈良県南部<ref name="方言叢書奈良県方言">西宮一民(1962年)「奈良県方言」井上史雄ほか編(1996年)『日本列島方言叢書16 近畿方言考4(大阪府・奈良県)』ゆまに書房。</ref>・[[紀伊国|紀伊]]・[[島根県]][[出雲国|出雲]]・[[肥筑方言|肥筑]]・[[薩隅方言|薩隅]]・沖縄本島では、一段・二段動詞で「起きらん」(起きない。ただし沖縄本島はʔukiraN)のように五段化した形を用いる<ref name="講座方言学概説125"/>
;意志形
:意志形は、「未然形+む」に由来する形である。上一段動詞では、中国・九州で「みゅー・みょー」(見よう)、下一段・下二段動詞では中国で「うきょー」(受けよう)、九州で「うきゅー・うきょー」と言う<ref name="講座方言学九州概説"/><ref name="講座方言学概説123"/>。五段動詞では、兵庫県但馬北部・鳥取県・島根県出雲では「行か(ー)」のようにア段になる<ref>鎌田良二(1979年)「兵庫県方言文法 -但馬編-」井上史雄ほか編(1996年)『日本列島方言叢書17 近畿方言考5(兵庫県)』ゆまに書房。</ref><ref>『日本のことばシリーズ 31 鳥取県のことば』(1998年)</ref><ref>『日本のことばシリーズ 32 島根県のことば』(2008年)27頁。</ref>。全国の所々(近畿南部・九州各地など)で、一段動詞が五段化して「起きろー」「逃げろー」のように言う<ref>『講座方言学 1 方言概説』123頁。</ref>
;連用形
:五段動詞はイ段で、上一段動詞はイ段で、下一段動詞はエ段で表す。
;音便形
:音便形は、「-て」「-た」などが付いた場合に用いられる活用形である。元々は連用形であったが、「書きて→書いて」「待ちて→待って」のように五段動詞では音便が起こっているためここでは区別して音便形とする。
:ア・ワ行五段動詞は、東日本と山陰で「思って」のように促音便、山陰を除く西日本で「おも(ー)て」のようにウ音便になる。東西の境界は、太平洋側では愛知県・岐阜県が促音便で近畿以西がウ音便だが、日本海側では新潟県越後の中部・北部および佐渡、富山県以西でウ音便である<ref name="講座方言学概説123"/>。山陰で促音便なのは京都府奥丹後・兵庫県但馬・鳥取県・島根県出雲・[[隠岐国|隠岐]]<ref name="講座方言学概説123"/>
:カ行五段は「書いて」のようにイ音便が多いが、[[八丈島]]では「書って」という<ref name="講座方言学概説123">『講座方言学 1 方言概説』123-124頁。</ref>。ガ行五段も「嗅いだ」のようにイ音便が多いが、秋田市や[[長野県]]中部・南部、近畿の一部<ref name="方言叢書近畿一般30">井上史雄ほか編『日本列島方言叢書13 近畿方言考1 近畿一般』ゆまに書房、1996年、30ページ。</ref>などには「かんだ」のような撥音便があり<ref name="講座方言学概説123"/>、岐阜県[[飛騨国|飛騨]]にはイ音便のほかに「かぎた」のような非音便形もある<ref name="講座方言学概説123"/>
:サ行五段動詞は、西日本([[静岡県]]以西。近畿・[[愛媛県|愛媛]]を除く)で「起こいた」のようなイ音便がある<ref name="講座方言学概説123"/>。ただ、イ音便となる語が限られている地域もあり程度はさまざまである。東日本では「起こした」のように非音便である。
:バ行・マ行五段動詞は、「飛んだ」「読んだ」のように撥音便の地域が広いが、[[富山県]][[五箇山]]・[[三重県]][[志摩国|志摩]]・奈良県南部<ref name="方言叢書近畿一般30"/>・愛媛県・[[高知県]]・中国地方西部・九州地方に「とーだ(飛)」「のーだ(飲)」のようなウ音便がある。八丈島では「飛った・飛っだ」「読った・読っだ」と促音便を用いる<ref name="講座方言学概説123"/>
;終止形・連体形
:本土方言のほとんどで終止形と連体形の区別はない。[[長野県]]の[[秋山郷]]では両者とも「書こ」「見ろ」とオ段で言う。一方、[[伊豆諸島]]の[[利島]]や八丈島では終止形で「書く」「見る」、連体形は「書こ」「見ろ」と言って区別する。ただし、八丈島での自然な言い切りは「書こわ」「見ろわ」のように「連体形+わ」で表す。また、利島では終止形は「書くべい」「書くな」など限られた形で現れ、言い切りには「書こ」と言う。<ref name="講座方言学関東261-268">『講座方言学 5 関東地方の方言』261頁-268頁</ref>
:仮定形には、西関東から九州東部までの範囲(近畿中央部除く)では「書きゃ(ー)」「見りゃ(ー)」のような形を用いる。
;命令形
:命令形は、五段動詞では「開け」のようにエ段で表す。<!--ただし八丈島では「連用形+ろ」を用いる。-->一段動詞には、東日本と肥筑方言(筑前を除く)で「起きろ」のような「ろ」の付いた形、西日本(糸魚川-静岡県中部以西)では「起きよ」のような「よ」の付いた形や「起きい」「食べえ」のような形を用いる<ref>『講座方言学 1 方言概説』122頁。</ref>。このほかに、北海道<ref>『日本のことばシリーズ 1 北海道のことば』(1997年)14頁-15頁</ref>・[[秋田県]]・[[山形県]][[庄内地方|庄内]]・[[新潟県]][[越後国|越後]]や九州各地や沖縄本島で「受けれ」(ただし沖縄本島はʔukireː)のような五段化した形を用いる。
==== 動詞に付く接辞 ====
===== 打ち消し =====
動詞の打ち消しには、東日本で「未然形+ない・ねー」、西日本・琉球で「未然形+ん」を用いる。「-ん」の範囲は新潟県[[佐渡国|佐渡]]・[[糸魚川市|糸魚川]]・長野県[[木曽谷]]・[[伊那谷]]<ref name="講座方言学中部86">『講座方言学 6 中部地方の方言』86頁。</ref>・静岡県[[大井川]]以西および[[山梨県]]中央部<ref name="講座方言学概説127">『講座方言学 1 方言概説』127-128頁。</ref>。東日本ではラ行五段で「分かんない」のように撥音化が起こる場合がある。近畿中央部では「-ん」は強い打ち消しを表し、「-へん・やへん」の形が普通の打ち消しを表す。このほか、八丈島で「連用形+んなか」、山梨県[[奈良田]]・静岡県大井川上流で「未然形+のー」、和歌山県・[[三重県]]南部で「五段未然形+ん」に対し「一段未然形+やん」、<!--和歌山で「未然形+な」、-->隠岐で「未然形+の」、沖縄県[[八重山列島]]で「未然形+ぬ」と言う<ref name="講座方言学概説127"/>
 
打ち消しの過去・完了には、東日本では「未然形+なかった・ないかった」を用い、「未然形+なんだ」を用いるのは新潟県佐渡・富山県・長野県中信・南信<ref name="講座方言学中部86"/>・山梨県中央部・静岡県大井川から近畿地方を含んで中国地方東部・四国地方([[高知県]]除く)までである<ref name="講座方言学概説127"/>。また三重県[[伊勢国|伊勢]]で「五段未然形+んだ」「一段未然形+やんだ」、近畿中央部で「-へなんだ・やへなんだ」、中国地方西部・高知県・[[豊日方言|豊日]]では「未然形+ざった・だった」、九州の一部で「未然形+じゃった」を用いる<ref name="講座方言学概説127"/>。九州では「未然形+んじゃった」が最も盛んで、[[福岡県]][[筑前国|筑前]]では「未然形+んやった」、[[熊本県]](特に若い世代)で「未然形+んだった」を用いる<ref name="講座方言学九州概説"/>。西日本(九州含む)の若い世代では「未然形+んかった」が盛ん。
 
===== 推量・意志 =====
 
===== 継続相・完了相 =====
「〜ている」は、東日本・[[福井市]]付近・近畿中央部では「音便形+てる」、北陸(越後除く)・愛知県・近畿大半では「音便形+とる」、島根県出雲では「音便形+ちょる・ちょー」と言う。上記以外の西日本、すなわち岐阜県・奈良県南部<ref name="方言叢書奈良県方言"/>・兵庫県[[播磨国|播磨]]・中国地方(出雲除く)・四国地方・九州地方では、進行・継続を表す[[相 (言語学)|相]]に「連用形+よる・よー・ゆー」など、完了後の状態を表す相に「音便形+とる・ちょる・とー・ちょー・ちゅー」などを用いて区別する。また紀伊では前者に「-やる」、後者に「-たる・たーる」などを用いる<ref>『講座方言学 1 方言概説』144-145頁。</ref>。このうち薩隅では老年層を除き区別が失われており<ref name="講座方言学九州概説"/>、その他の地域でも区別はそれほど厳密なものではない<ref>『講座方言学 1 方言概説』145頁</ref>。
 
===== 仮定条件 =====
形容詞は、北奥羽方言で活用しなくなりつつあり、関東や近畿、出雲でもその傾向がある。特に秋田県では形容詞が全く活用せず、「たげぁぐ」(高く)、「たげぁがった」(高かった)、「たげぁば」(高ければ)ように、終止形(たげぁ)に直接さまざまな接辞が付く<ref>『講座方言学 4 北海道・東北地方の方言』173頁。</ref>。
 
終止形・連体形は、北海道・本州・四国・[[豊日方言|豊日]]・[[対馬]]で「たかい(高)」のようなイ語尾を用いる。一方、[[肥筑方言]](対馬除く)では「たかか」のようなカ語尾で、薩隅はイ語尾とカ語尾の併用([[大隅国|大隅]]はイ語尾がかなり優勢)である<ref name="講座方言学九州概説"/>。八丈島では終止形語尾が「-きゃ」(たかきゃ)、連体形語尾が「-け」(たかけ山)である。琉球方言のうち、[[宮古島]]では「たかかい」[takakaï](平良方言での例)のように「語幹+くあり(かり)」に由来する形を用い、それ以外他の地にあたる[[奄美諸島]]・[[沖縄諸島]]・[[多良間島]]・[[八重山列島]]では「たかさん」(首里方言での例)のように「語幹+さあり」に由来する形を用いる<ref>『講座方言学 10 沖縄・奄美の方言』70頁-71頁。</ref>。
 
形容詞の連用形は、東日本と琉球で「-く」を用いるが、西日本ではウ音便を用いる。ウ音便も地域により、「赤くなる→あこ(ー)なる/あか(ー)なる」「嬉しくない→うれしゅーない/うれし(ー)ない」と様々に形が変化している。
 
推量を表すには、静岡県東部と中国地方大半・九州地方では「たかかろー」、兵庫県但馬北部・鳥取県・島根県出雲では「たかからー」と言う。関東の若い世代と東北では「たかいべ(ー)」、[[福島県]]・関東地方・伊豆諸島のそれぞれ古い世代では「たかかんべ(ー)」、茨城県から千葉県中央部にかけての古い世代で「たかかっぺ(ー)」、八丈島では「たかかんのー」と言う。そのほか、各地で「-やろ(ー)・じゃろ(ー)・だろ(ー)」「-ろ(ー)」を使う。
 
==== 形容動詞 ====
共通語では形容動詞の終止形語尾は「だ」であり、各地の方言でも断定の助動詞(体言につくもの)と同じく「だ」「じゃ」「や」とする地域が多いが、西日本の所々(特に中国・四国)では、形容動詞の終止形を「静かな」のように「-な」の形とする<ref name="講座方言学概説138"/>。一方、北奥羽方言では連体形の場合も「静かだ晩」のように言う<ref name="講座方言学概説138">『講座方言学 1 方言概説』138頁。</ref>
==== 助詞・その他 ====
===== 断定の助動詞 =====
|んて||静岡県の[[静岡市]]以東と八丈島<ref>『講座方言学 6 中部地方の方言』170頁。</ref>
|-
|で||長野県(東信のぞく)・静岡県・愛知県・岐阜県・[[福井県]]・三重県・滋賀県・京都府北部・薩隅方言<ref name="講座方言学概説143"/><ref name="講座方言学中部21-23"/><ref>『日本のことばシリーズ 24 三重県のことば』(2000年)</ref><ref>井之口有一『滋賀県方言の調査研究』(1961年)</ref><ref>『日本のことばシリーズ 26 京都府のことば』(1997)17頁。</ref>
|-
|さかい・さけ・はかい・はけ・すけ・しけ・っけ・け||近畿地方・北陸地方・新潟県・山形県([[置賜地方|置賜]]除く)・青森県[[南部地方]]<ref name="講座方言学概説143">『講座方言学 1 方言概説』143頁。</ref><ref name="講座方言学北海道・東北235"/><ref name="明治書院青森"/><ref>『講座方言学 4 北海道・東北地方の方言』327頁。</ref><ref>『日本のことばシリーズ 15 新潟県のことば』(2005年)29頁-30頁。</ref>
|-
|よって・よってに||近畿地方<ref>『日本のことばシリーズ 29 奈良県のことば』(2003年)30頁。</ref><ref>『日本のことばシリーズ 27 大阪府のことば』(1997年)51頁。</ref><ref>『日本国語大辞典 第二版 第十三巻』(2002年)647頁。</ref>
|-
|けん・けー・きん・きー・けに・きに||中国地方・四国地方・九州地方<ref name="講座方言学概説143"/>
|-
|せん・せに・せーに||長崎県の所々・壱岐・[[天草諸島|天草]]<ref name="講座方言学九州概説"/>
|-
|で||薩隅方言
|-
|から・かい||宮崎県、鹿児島県[[種子島]]・[[屋久島]](「かい」は宮崎県のみ)<ref name="講座方言学九州概説"/>
{{See also|日本語#歴史}}
=== 琉球方言の分岐 ===
現代の日本語の方言は本土方言と[[琉球方言]]に大別され、琉球方言が本土方言と分岐したのは非常に古い時期と考えられる。[[服部四郎]]は京都方言と首里方言の分岐年代を1500〜2000年前と推定しており、また外間守善は琉球方言の日本祖語からの分岐を2〜7世紀と考えた<ref>『岩波講座 日本語11方言』191頁。</ref>
 
=== 上代東国方言 ===
 
=== 江戸時代 ===
現代の方言分布は、江戸時代の藩の領域に沿うことがあり、特に[[津軽藩]]や[[仙台藩]]、[[薩摩藩]]など東北や九州でこの傾向が強い。このことから江戸時代の藩制によって今日の方言圏が形成されたことが分かる<ref>『概説日本語の歴史』240-241頁。</ref>。当時、藩の間の移動は制限され、藩が小さな国家のように機能していたためである。
 
江戸時代には方言を集めた書物が増えた。[[越谷吾山]]著の『[[物類称呼]]』(1775)の以下の記述などから、東西方言の違いが意識されていたことも分かる。