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線維筋痛症に伴う疼痛の適応追加
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| licence_US =duloxetine
}}
'''デュロキセチン'''(Duloxetine)は、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]](SNRI)と呼ばれる第三世代の[[抗うつ剤|抗鬱剤]]の一つである。
 
[[フルオキセチン]]の開発にも携わった、[[イーライリリー]]社によって[[1980年代]]後半に合成され、[[1988年]]に開発がスタートした。
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しかし、[[1996年]]に[[治験|第III相試験]]に入らないことを決定したイーライリリー社は開発から退き、日本での[[塩野義製薬]]の単独開発が始まり、その成果を見たイーライリリー社は[[1999年]]に再開発を始め、[[2001年]]にFDAに申請、[[2004年]]4月に承認された。[[2012年]]現在、日本をはじめ95カ国で承認されている。
 
日本では2010年4月に'''デュロキセチン塩酸塩'''(''Duloxetine HCl'')として、イーライリリー社及び塩野義製薬から'''サインバルタ<sup>&reg;</sup>'''の[[商標|商品名]]で薬価収載されている。
 
== 適応 ==
[[うつ病|鬱病]]・うつ状態、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛
 
日本では[[2012年]]2月に「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」が追加適応された。更に、2015年5月、「線維筋痛症に伴う疼痛」について追加承認された<ref>{{cite web |url=https://mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/51605/Default.aspx |title=医療用薬10製品に新効能などの追加承認 |publisher=ミクス |date=2015-05-27 |accessdate=2015-05-28}}</ref>。
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== 薬理 ==
デュロキセチンは既存のSNRI([[ミルナシプラン]]、[[:en:Venlafaxine|ベンラファキシン]]<ref>日本では未発売</ref>)と同様に[[セロトニン]](5-HT)及び[[ノルアドレナリン]](NA)の再取り込みを阻害し、[[シナプス]]間隙、細胞外の5-HTとNAの濃度を上昇させる。既存のSNRIと比べ、5-HT及びNA再取り込み阻害作用が強く、[[ドーパミン|ドパミン]](DA)再取り込み阻害作用は殆どない。第三世代の特徴としても、各神経物質受容体に対しての親和性が低く、抗コリン作用やα1拮抗作用による心毒性が少ないとされる。これらと5-HT, NA再取り込み作用の機序から、副作用を抑えた[[三環系抗うつ薬|三環系抗鬱薬]]と見ることができる。
 
また、[[前頭前皮質]]におけるDAの濃度が上昇する。これは、前頭前皮質にDAトランスポーターの分布が少なく、そのためNAトランスポーターを介して前シナプス終末部に取り込まれる。しかし、デュロキセチンはNAトランスポーターを阻害するため、DAの再取り込みも阻害し、細胞外の遊離DAの濃度が高まるとされる。
 
DA濃度が高まり、前頭前皮質の血流が増加すると認知、情動行動などの改善にもつながることが、統合失調症患者にDAアゴニストの[[アンフェタミン]]を投与した結果の報告から分かる<ref name="11-06-01">{{Cite journal |coauthorsauthors=Daniel DG, Weinberger DR, Jones DW, et al|year=1991|title=The effect of amphetamine in regional cerebral blood flow during cognitive activation in schizophrenia|journal=J. Neurosci|volume=11|pages=pp. 1907-1917}}</ref>。
 
中断後症候群も他のSSRIやSNRIに比べて軽いという<ref name="110803-01">{{Cite book ja-jp| author=Stephen M. Stahl| translator=仙波純一、松浦雅人、中山和彦、宮田久嗣| year=2010| title=精神薬理学エセンシャルズ -神経科学的基礎と応用-| edition=3| isbn=978-4895926409| pages=p. 570}}</ref>
 
=== 併存疾患に対しての効果 ===
うつ病患者には、大うつ病エピソード以外にも付随する症状を伴っている場合が多い。特に、慢性疼痛や血管運動症状などがあり、それに付随する形でうつ病患者では[[非ステロイド性抗炎症薬]]の使用量が多くなる傾向にある。
 
線維筋痛症などの慢性疼痛や血管運動症状のように5-HTとNA再取り込み阻害作用が適度なバランスである必要がある疾患に対し、
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== 使用上の注意 ==
本剤の意識消失発作の発症頻度は0.27%27%と低いが、日本における発売後8ヵ月間で2例の意識消失発作を起こしたという報告があるので<ref name="10-12-26">{{Cite Journal|和書 | coauthors=山本 暢朋、相澤 玲、稲田 俊也| year=2011| month=1| title=多剤併用中の難治性うつ病患者にduloxetineを追加投与して意識消失発作がみられた2症例| journal=臨床精神薬理| volume=14| issue=1| pages=pp. 103-106| issn=1343-3474}}</ref>、注意が必要である。
1例目は手足を動かしていたことからけいれん痙攣発作である可能性が高く、2例目も発作時の脈拍、血圧が正常であったためにけいれん痙攣発作である可能性が高い<ref name="10-12-26" />。
また、2例ともにデュロキセチンの投与を中止したところ、発作は起こらなくなった。
 
一般的に抗うつ剤はけいれん痙攣閾値を下げるので<ref name="10-12-30">{{Cite journal| coauthorsauthors=Pisani F, Oteri G, Costa C, Di Raimondo G, Di Perri R| year=2002| title=Effects of psychotropic drugs on seizure threshold.| journal=Drug Saf.| volume=25| issue=2| page=pp. 91-110| url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11888352| id=PMID 11888352}}</ref>、抗うつ剤の多剤投与を行っている患者には特に注意を要す。
 
=== 禁忌 ===
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== 相互作用 ==
デュロキセチンは主に'''CYP1A2'''と'''CYP2D6'''で代謝され、各酸化的代謝にはCYP1A2が中程度に親和性を示し、特に5-hydroxy体と4-hydroxy体の酸化的代謝にはCYP2D6が強く親和性を示す。主要代謝物の活性価は低く、臨床では問題にならず、抗うつ作用を発現させるのはデュロキセチンの未変化体であることが示唆される。
 
デュロキセチンは中程度にCYP2D6を阻害するが、CYP2D6を誘導する薬物は知られていない。また、CYP1A2の阻害能は最小限であり、誘導をすることもないとされる。
 
このことから、[[シトクロムP450|チトクロームP450]]に関与しないミルナシプランには劣るが<ref name="11-06-02">{{Cite journal|和書|coauthors=川崎博己、山本隆一、占部正信ほか|year=1991|journal=日本薬理雑誌|volume=98|issue=5|pages=pp. 345-355|title=新規抗うつ薬 milnacipran hydrochloride(TN-912)の脳波および循環器に対する作用|publisher=日本薬理学会|issn=0015-5691|}}</ref>、デュロキセチンの薬物相互作用は比較的少ないとされる。
 
しかし、デュロキセチンは軽いCYP2D6阻害薬であり、強力なCYP2D6阻害薬の[[パロキセチン]]や高用量(100mg~)でCYP2D6を阻害する[[セルトラリン]]、強力なCYP1A2阻害薬の[[フルボキサミン]]との併用で最大血中濃度とAUCの上昇が見られたため、それらの阻害薬との併用には注意すべきである。
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==関連項目==
* [[ミルナシプラン]]('''トレドミン<sup>&reg;</sup>''')
* [[抗うつ薬|抗鬱薬]]
* [[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]
* [[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]