「バナッハの不動点定理」の版間の差分

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''注意 3'' この定理を実際に使うとき、一般に最も難しい点は ''T''(''X'') ⊆ ''X'' を満たす ''X'' を適切に定めることである。
 
== 証明 ==
=== バナッハによる証明 ===
 
任意の ''x''<sub>0</sub> ∈ (''X'', ''d'') に対して列 {''x<sub>n</sub>''} を ''x<sub>n</sub>'' = ''T''(''x''<sub>''n''−1</sub>) によって定義する。バナッハによる元々の証明は、いくつかの補題を示すことで完成される:
 
<blockquote>'''補題 1''' すべての ''n'' ∈ '''N''' に対して、''d''(''x''<sub>''n''+1</sub>, ''x<sub>n</sub>'') ≤ ''q<sup>n</sup>d''(''x''<sub>1</sub>, ''x''<sub>0</sub>) が成り立つ。</blockquote>
 
''証明'' 帰納法によって証明される。基本となる ''n=1'' の場合は、
 
:<math>d(x_{1+1}, x_1) = d(x_2, x_1) = d(T(x_1), T(x_0)) \leq qd(x_1, x_0)</math>
 
より従う。ある ''k'' ∈ '''N''' に対して成立すると仮定すると、次が成り立つ。
 
: <math>\begin{array}{rclll}
d(x_{(k + 1) + 1}, x_{k + 1}) & = &d(x_{k + 2}, x_{k + 1}) \\
& = &d(T(x_{k + 1}), T(x_k)) \\
& \leq &q d(x_{k + 1}, x_k) \\
& \leq &q q^kd(x_1, x_0) && \text{Induction Hypothesis}\\
& = &q^{k + 1}d(x_1, x_0).
\end{array}</math>
 
[[数学的帰納法]]より、すべての ''n'' ∈ '''N''' に対して補題は示される。
 
<blockquote>'''補題 2''' {''x<sub>n</sub>''} は (''X'', ''d'') における[[コーシー列]]で、''X'' 内のある極限 ''x*'' に収束する。</blockquote>
 
''証明'' ''m'', ''n'' ∈ '''N''' を、''m'' > ''n'' を満たすものとする。このとき次が成り立つ。
 
: <math>\begin{array}{rclll}
d(x_m, x_n) & \leq &d(x_m, x_{m-1}) + d(x_{m-1}, x_{m-2}) + \cdots + d(x_{n+1}, x_n) && \text{Triangle Inequality} \\
& \leq &q^{m-1}d(x_1, x_0) + q^{m-2}d(x_1, x_0) + \cdots + q^nd(x_1, x_0) && \text{Lemma 1}\\
& = &q^n d(x_1, x_0) \sum_{k=0}^{m-n-1} q^k \\
& \leq &q^n d(x_1, x_0) \sum_{k=0}^\infty q^k \\
& = &q^n d(x_1, x_0) \left ( \frac{1}{1-q} \right ) && \text{Geometric Series}
\end{array}</math>
 
ε > 0 を任意とする。''q'' ∈ [0, 1) であることより、十分大きな ''N'' ∈ '''N''' に対して次が成り立つ。
 
:<math>q^N < \frac{\varepsilon(1-q)}{d(x_1, x_0)}.</math>
 
したがって ''m'', ''n'' を十分大きな数とすれば、次が得られる。
 
:<math>d(x_m, x_n) \leq q^n d(x_1, x_0) \left ( \frac{1}{1-q} \right ) < \left (\frac{\varepsilon(1-q)}{d(x_1, x_0)} \right ) d(x_1, x_0) \left ( \frac{1}{1-q} \right ) = \varepsilon.</math>
 
ε > 0 が任意であることより、列 {''x<sub>n</sub>''} はコーシー列であることが分かる。
 
<blockquote>'''補題 3''' ''x*'' は ''T'' の[[不動点]]である。</blockquote>
 
''証明'' 再帰的な関係 ''x<sub>n</sub>'' = ''T''(''x''<sub>''n''−1</sub>'') の両辺の極限を取る:
 
:<math> \lim_{n\to\infty} x_n = \lim_{n\to\infty} T(x_{n-1})</math>
 
''T'' は縮小写像なので、連続である。したがって、極限を写像の内側で取ることが出来る:
 
:<math>\lim_{n\to\infty} x_n = T\left(\lim_{n\to\infty} x_{n-1} \right). </math>
 
したがって、''x*'' = ''T''(''x*'') である。
 
<blockquote>'''補題 4''' ''x*'' は ''T'' の (''X'', ''d'') 内における唯一つの不動点である。</blockquote>
 
''証明'' ''y'' も ''T''(''y'') = ''y'' を満たす不動点であるとする。このとき
 
:<math>0 \leq d(x^*, y) = d(T(x^*), T(y)) \leq q d(x^*, y)</math>
 
が成り立つ。''q'' ∈ [0, 1) であることに注意すると、この不等式は 0 ≤ (1−''q'')''d''(''x*'', ''y'') ≤ 0 を意味する。したがって ''d''(''x*'', ''y'') = 0 であり、[[距離函数|正定値性]]から ''x*'' = ''y'' が成り立つ。
 
=== より短い証明 ===
 
つづいて近年 Journal of Fixed Point Theory and its Applications に掲載されたより簡単な証明を紹介する(参考文献を参照)。
 
三角不等式より、''X'' 内のすべての ''x'', ''y'' に対して、次が成り立つ。
 
:<math>\begin{array}{rl}
d(x,y) &\le d(x,T(x)) + d(T(x),T(y)) + d(T(y),y) \\
&\le d(x,T(x)) + q d(x,y) + d(T(y),y).
\end{array}</math>
 
これを ''d''(''x'', ''y'') について解くことで、次の「基本縮小不等式」(Fundamental Contraction Inequality)が得られる。
 
:<math>d(x,y) \le \frac{d(T(x), x) + d(T(y),y)}{1-q}.</math>
 
''x'' と ''y'' がいずれも不動点であるなら、この不等式は ''d''(''x'', ''y'') = 0、すなわち ''x'' = ''y'' を意味し、''T'' は高々一つの不動点しか持たないことが分かる。''T'' をそれ自身と ''n'' 回合成することで、写像 ''T<sup>n</sup>'' を定義する。帰納的に、この写像は定数 ''q<sup>n</sup>'' についてリプシッツ条件を満たすことに注意されたい。あとは ''X'' 内の任意の ''x''<sub>0</sub> に対して列 {''T<sup>n</sup>''(''x''<sub>0</sub>)} がコーシー列であることを示し、したがって ''X'' のある点 ''x*'' に収束することを示せばよい。その点は上述のように明らかに ''T'' の不動点である。基本縮小不等式において ''x'' と ''y'' をそれぞれ ''T<sup>n</sup>''(''x''<sub>0</sub>) と ''T<sup>m</sup>''(''x''<sub>0</sub>) に置き換えると、次の成立が分かる。
 
:<math>\begin{array}{rcl}
d(T^n(x_0), T^m(x_0)) &\le& \frac{d(T(T^n(x_0)), T^n(x_0)) + d(T(T^m(x_0)),T^m(x_0))}{1-q}, \\
&=& \frac{d(T^n(T(x_0)), T^n(x_0)) + d(T^m(T(x_0)), T^m(x_0))}{1-q} \\
&\le& \frac{q^n d(T(x_0), x_0) + q^m d(T(x_0), x_0)}{1-q} \\
&=& \frac {q^n + q^m} {1-q} d(T(x_0) ,x_0).
\end{array}</math>
 
''q'' < 1 なので、最後の表現は ''n'', ''m'' → ∞ に対してゼロに収束し、このことは {''T<sup>n</sup>''(''x''<sub>0</sub>)} がコーシー列であることを意味する。''m'' → ∞ に対しては、第一の証明で現れた次の不等式が得られる。
 
:<math> d(T^n(x_0), x^*) \le \frac {q^n} {1-q} d(T(x_0) ,x_0). </math>
 
これは {''T<sup>n</sup>''(''x''<sub>0</sub>)} が ''x*'' に収束する収束率を与えるものである。
 
== 関連項目 ==