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== 構造 ==
インスリンはアミノ酸からなるペプチドで、A鎖とB鎖の[[二量体]]という構造を有している。
[[プロセッシング]]される前のプリプロプロテインは、ロイシン(18%)(18%)、グリシン(11%)(11%)、アラニン(9%)(9%)38%38%とその4割近くを占める。
これはプロセッシング後に4つに切断され、そのうちの2つがA鎖とB鎖として切りだされ二量体を構成する。
 
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B鎖: FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKT <br/>
 
二量体のアミノ酸比率は、システイン(12%)(12%)とロイシン(12%)(12%)がもっとも多く合計で1/4{{frac|1|4}}を占める。
 
== 生化学 ==
=== インスリンの作用機序 ===
*インスリンは細胞膜にあるインスリン[[受容体]]に結合する。
*インスリン受容体は、インスリンが結合すると[[チロシンキナーゼ]]として活性化し、細胞質内のIRS-1(Insulin1(Insulin Receptor Substrate-1)1)が[[リン酸化]]される。
*IRS-1→PI3キナーゼ([[ホスファチジルイノシトール]]3キナーゼ)→PKB(プロテインキナーゼB)と信号が伝達され、細胞質のGLUT-4(GLUcose4(GLUcose Transporter-4)4)が細胞表面へ浮上する。
*GLUT-4は[[グルコース]]を[[カリウム]]とともに血中から細胞内へ取り込む。例えばGLUT-4が多く存在する[[脂肪細胞]]に取り込まれたグルコースは細胞中で中性脂肪へ変換、蓄積される。
*インスリンにより[[交感神経]]系が刺激され、Na<sup>+</sup>/H<sup>+</sup>交換輸送体機能が亢進し、[[尿細管]]でのNa<sup>+</sup>再吸収が増加して、体内のNa<sup>+</sup>量と水分量が増加して、[[高血圧]]や[[浮腫]]をきたす。
:* インスリンは腎の近位尿細管細胞にあるNa<sup>+</sup>依存性モノカルボン酸トランスポーター(SMCT1)(SMCT1)に作用し、Na<sup>+</sup>の再吸収を亢進させる。<ref>Medical Tribune 2011年1月27日号 別刷</ref>
 
=== インスリンの生化学振動 ===
[[ファイル:Pancreas insulin oscillations.svg|thumb|250px|膵臓から放出されるインスリンの濃度はおおよそ3~6分の周期で振動している{{Sfn|Hellman|2007|}}]]
 
:([[:en:Insulin oscillation]]参照)
 
食事後の1~2時間ほどの消化の間、膵臓からのインスリンの放出は血中濃度が一定となるようには放出されてはおらず、3~6分の周期で血中インスリン濃度をおおよそ100 ピコ[[モル]]/Lから800 ピコモル/L以上へと変動するように放出されている。
これは細胞にあるインスリン[[受容体]]の(インスリンに対する感応度や細胞表面の受容体の数そのものを減少させる){{仮リンク|脱感作|en|Downregulation}}を避け、インスリンの主要標的である肝臓の細胞に対してインスリンが十分に作用を果たせるようにするためではないかと考えられている。{{Sfn|Hellman|2007|}}
インスリン受容体の脱感作はインスリン抵抗性とも関連があると見られることから、
インスリン療法の管理においては、このインスリン振動すなわち一定濃度ではなく理想的には血中濃度が周期的に変動するような投与についてその有効性を検討する必要があり、将来のインスリンポンプはこの点について考慮されることが望まれる。
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== 歴史 ==
[[ファイル:Insulincrystals.jpg|thumb|[[結晶]]したインスリン(NASA撮影)]]
[[1869年]]にドイツ[[ベルリン]]の医学生[[パウル・ランゲルハンス]] (Paul(Paul Langerhans)Langerhans) は、顕微鏡で見た[[膵臓]]の構造を研究していた。後に[[ランゲルハンス島]]として知られる「小さな枠の集合体」は当時まだ知られていなかったが、[[エドワール・ラゲス]] ([[:en:Edouard Laguesse|Edouard Laguesse]]) は、それらが消化に関わる大きな役割を果たすものであり得ると主張した。
 
[[1889年]]、[[リトアニア]]出身の[[ドイツ]]の内科医[[オスカル・ミンコフスキ]] ([[:en:Oskar Minkowski|Oskar Minkowski]]) と[[ヨーゼフ・フォン・メーリング]] ([[:en:Joseph von Mehring|Joseph von Mehring]]) は健康な犬の[[膵臓]]を取り除く研究を行った。実験が始まって数日後、ミンコフスキーは[[ハエ]]がいつもこの犬の[[尿]]に群がっていることに気付いた。尿を調べてみると、糖分が含まれており、ここで初めて[[膵臓]]と[[糖尿病]]との関係が実証された。
 
[[1901年]]、[[アメリカ]]の病理学者[[ユージン・オピー]]([[:en:Eugene Lindsay Opie|Eugene Opie]])によりランゲルハンス島と糖尿病との関連が明らかにされたとき、この研究は新たな段階を迎えた。つまり、[[糖尿病]]はランゲルハンス島の部分的あるいは全体的な破壊によって引き起こされるということがわかったのである。しかしながら、ランゲルハンス島が果たす特定の役割については、ここではまだよくわかっていなかった。[[ファイル:insulin_synthesis.png|framed|right|1. Preproinsulin ('''L'''eader, '''B''' chain, '''C''' chain, '''A''' chain)chain); proinsulin consists of BCA, without L<BR>2. Spontaneous folding<BR>3. A and B chains linked by sulphide bonds<BR>4. Leader and C chain are cut off<BR>5. Insulin molecule remains]]
 
それから20年、これに連なる数々の研究が科学者の間で行われた。[[1921年]]には、[[カナダ]]の整形外科医[[フレデリック・バンティング]](Frederick(Frederick Banting)Banting)と医学生[[チャールズ・ベスト]]([[:en:Charles Herbert Best|Charles Best]])が研究室でインスリンの抽出に成功した。
<!--
 
However the Nobel prizes committee in 1923 credited the practical extraction of insulin to a team at the [[University of Toronto]]. In October 1920 [[Frederick Banting]] was reading one of Minkowski's papers and concluded that it was the very digestive secretions that Minkowski had originally studied which were breaking down the secretion, thereby making it impossible to extract successfully. He jotted a note to himself ''Ligate pancreatic ducts of the dog. Keep dogs alive till acini degenerate leaving islets. Try to isolate internal secretion of these and relieve glycosurea.''
 
He travelled to Toronto to meet with [[John James Richard Macleod|J.J.R. Macleod]], who was not entirely impressed with his idea. Nevertheless he supplied Banting with a lab at the University, and an assistant, medical student [[Charles Best]], and ten dogs, while he left on vacation during the summer of 1921. Their method was tying a ligature (string)(string) around the pancreatic duct, and when examined several weeks later the pancreatic digestive cells had died and been absorbed by the immune system, leaving thousands of islets. They then isolated the protein from these islets to produce what they called ''isletin''. Banting and Best were then able to keep a pancreatectomized dog alive all summer.
 
Macleod saw the value of the research on his return from Europe, but demanded a re-run to prove the method actually worked. Several weeks later it was clear the second run was also a success, and he helped publish their results privately in Toronto that November. However they needed six weeks to extract the isletin, dramatically slowing testing. Banting suggested they try to use fetal calf pancreas, which had not yet developed digestive glands, and was relieved to find this method worked well. With the supply problem solved, the next major effort was to purify the protein. In December 1921 Macleod invited the brilliant [[biochemist]], [[James Collip]], to help with this task, and within a month he felt ready to test.-->
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1922年の春が過ぎ、ベストは大量の需要にも応えられるように抽出技術を工夫したが、精製は未熟であった。1921年の発表の直後、[[イーライリリー・アンド・カンパニー|イーライリリー社]]から、彼らは支援の申し出を受けており、4月にこの申し出を受けた。11月にリリー社は技術の革新に成功し、非常に純粋なインスリンの生産に成功した。このインスリンは、アイレチンという名ですぐ市場に出された。
 
[[1933年]]には、ポーランドの[[精神医学|精神医学者]]{{仮リンク|マンフレート・ザーケル|en|Manfred Sakel}}により、インスリンを大量投与することにより低血糖ショックを人為的に起こさせて精神病患者を治療するという[[インスリン・ショック療法]]([[:w:Insulin shock therapy|Insulin shock therapy]])が考案されたが、死亡例が多く、その後[[電気けいれん療法]]、薬物療法([[クロルプロマジン]]に代表される[[抗精神病薬]])などが登場したため1950年代には廃れた。
 
2013年、カナダはフレデリック・バンティンらの研究論文や臨床データとインスリン普及後の各国からの報告レポートなどを、[[ユネスコ記憶遺産]]へ申請し登録された<ref>[http://www.unesco.org/new/en/communication-and-information/flagship-project-activities/memory-of-the-world/register/full-list-of-registered-heritage/registered-heritage-page-8/the-discovery-of-insulin-and-its-worldwide-impact/ UNESCO Memory of the World Archives]</ref>。
 
== ノーベル賞 ==
インスリンについては五人が、ノーベル賞を受賞している。インスリンを発見したバンティングと[[ジョン・ジェームズ・リチャード・マクラウド|マクラウド]]が1923年に賞を受賞。その後も、1958年にタンパク質の中で世界で初めてインスリンのアミノ酸構造を解明した[[フレデリック・サンガー]] (Frederick(Frederick Sanger)Sanger) が、1964年に[[ドロシー・ホジキン]] (Dorothy(Dorothy Crowfoot Hodgkin)Hodgkin)が、1977年には[[ロサリン・ヤロー]](Rosalyn(Rosalyn Sussman Yalow)Yalow)が[[ラジオイムノアッセイ]]をインスリンで開発した事で、それぞれノーベル賞を受賞している。<!--For this landmark discovery, Macleod and Banting were awarded the [[Nobel Prize]] in [[Physiology]] or [[Medicine]] in [[1923]]. Banting, apparently insulted that Best was not mentioned, shared his prize with Best, and MacLeod immediately shared his with Collip. The patent for insulin was sold to the [[University of Toronto]] for one dollar.
 
The exact sequence of [[amino acid]]s comprising the insulin molecule, the so-called [[primary structure]], was determined by British molecular biologist [[Frederick Sanger]]. It was the first protein the structure of which was completely determined. For this he was awarded the [[Nobel Prize in Chemistry]] in 1958. In 1967, after decades of work, [[Dorothy Crowfoot Hodgkin]] determined the spatial conformation of the molecule, by means of [[X-ray diffraction]] studies. She also was awarded a Nobel Prize.-->
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[[ファイル:Insulin pen.JPG|thumb|インスリンペン型注入器]]
1921年に[[インスリン]]の分離に成功。1型糖尿病における薬物療法として、現在のところ唯一の治療法である。インスリンは[[タンパク質]]であるため、消化管内で速やかに分解されるため経口投与不可能である。そのため皮下注射によって投与することが多い。インスリン製剤は、作用発現時間、作用持続時間、原料となる動物種(牛、豚、人)によって分類されている。組み換えDNA技術によってヒト型インスリンが開発されてからはヒト型を用いるのが一般的である。ヒト型インスリン は大腸菌や酵母菌にヒトインスリン遺伝子を導入しインスリンを生産している。
 
 
=== 作用時間による製剤の分類 ===
{{main|インスリンアナログ}}
 
インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間によって超速効型、速効型、中間型、混合型、持効型溶解に分類される。持続型 (ultralente(ultralente, U)U)というものも存在するが、近年ではあまり用いられない。インスリン製剤はカートリッジ製剤、キット製剤、バイアル製剤があるが、ここでは簡単のためバイアル製剤を用いて説明する。
;超速効型インスリン製剤
{| class="wikitable" style="margin:auto; text-align:left;"
|- style="text-align:left; background-color:#CCCCCC;"
!style="white-space: nowrap;"|一般名!!style="white-space: nowrap;"|商品名!!style="white-space: nowrap;"|発現時間(min)(min)!!style="white-space: nowrap;"|最大作用時間(Hr)(hr)!!style="white-space: nowrap;"|持続時間(Hr)(hr)
 
|-
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:作用時間が短いため、各食前1日3回の投与では食前に高血糖となる可能性があり、中間型インスリンを朝と夕に投与したり、持効型溶解を朝または就寝前に投与することが多い。
:速効型インスリンは六量体形成となって凝集する傾向があり、六量体から単量体への分離が吸収の過程で[[反応速度#律速段階|律速段階]]となっていた。超速効型インスリンは、新しい[[遺伝子組換え]]技術を利用して、[[アミノ酸配列]]を変更し、六量体形成を起こしにくくした[[インスリンアナログ]]である。
:Insulin Lisproインスリン・リスプロ([[ヒューマログ]])、Insulin Aspartインスリン・アスパルト(ノボラピッド、Aspと記載])、Insulin Glulisineインスリン・グルリジン(アピドラ)がよく知られている。臨床的特徴としては、者にはほとんど差がない。
 
 
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{| class="wikitable" style="margin:auto; text-align:left;"
|- style="text-align:left; background-color:#CCCCCC;"
!style="white-space: nowrap;"|商品名!!style="white-space: nowrap;"|発現時間(min)(min)!!style="white-space: nowrap;"|最大作用時間(Hr)(hr)!!style="white-space: nowrap;"|持続時間(Hr)(hr)
 
|-
118 ⟶ 117行目:
{| class="wikitable" style="margin:auto; text-align:left;"
|- style="text-align:left; background-color:#CCCCCC;"
!style="white-space: nowrap;"|商品名!!style="white-space: nowrap;"|発現時間(Hr)(hr)!!style="white-space: nowrap;"|最大作用時間(Hr)(hr)!!style="white-space: nowrap;"|持続時間(Hr)(hr)
 
|-
126 ⟶ 125行目:
|}
 
:速効型と中間型を10%10%から50%50%の割合で混ぜた混合型インスリンがよく使われている。
 
;中間型インスリン製剤
{| class="wikitable" style="margin:auto; text-align:left;"
|- style="text-align:left; background-color:#CCCCCC;"
!style="white-space: nowrap;"|商品名!!style="white-space: nowrap;"|発現時間(Hr)(hr)!!style="white-space: nowrap;"|最大作用時間(Hr)(hr)!!style="white-space: nowrap;"|持続時間(Hr)(hr)
 
|-
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;持効型溶解インスリン製剤
:インスリン・グラルギン([[ランタス]])、インスリン・デテミル([[レベミル]])、インスリン・デグルデク([[トレシーバ]])が知られている。インスリン基礎分泌の補充によく用いられる。ランタスとトレシーバは血中濃度がピークなしに24時間持続するため一日1回の皮下注射で用いられる。
 
=== 投与方法 ===
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* ペン型注射器
**カートリッジ交換式
**[[ディスポーザブル]](使いきったら廃棄)
ペン型注射器を用いて、1日数回の[[皮下注射]]によってインスリン注入を行う。
* インスリンポンプ
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:中心静脈栄養時の血糖コントロール
;インスリン療法の相対的適応
:インスリン非依存状態の例でも著名な高血糖(例えば、空腹時血糖値250mg/dldL以上、随時血糖値350mg/dldL以上)を認める場合。
:経口薬療法では良好な血糖コントロールが得られない場合(SU薬の一次無効、二次無効など)
:やせ型で栄養状態が低下している場合
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を確認することが望ましい。これらに該当するようならば糖尿病専門医がいる施設や[[教育入院]]を用いないと外来でのコントロールは危険である。
 
インスリン療法では注意するべきことがいくつかある。インスリンの導入では皮下注射を自分で行えなければならない、[[血糖自己測定]](SMBG)(SMBG)ができなければならない。[[シックディ]]の対応、[[低血糖]]の対応といった問題を克服しなければ自宅では行うことができない。入院中は看護師の管理によって教育が不十分でも管理可能だが、退院前にこれらの教育がなされていなければ大きな事故につながりかねない。
 
特に気をつけることが低血糖の対応である。低血糖発作は初期ならばブドウ糖を摂取することで改善できる。しかしこのあと、低血糖になったからということで次の投与のインスリンを自己判断でスキップしてしまう場合が多い。低血糖が起こった場合は責任インスリンの調節をし再発予防を行わないと意味がないのでこういったことには十分留意する。
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==== 強化インスリン療法 ====
強化インスリン療法とは、インスリンの頻回注射。または持続皮下インスリン注入(CSII)(CSII)に血糖自己測定(SMBG)(SMBG)を併用し、医師の指示に従い、患者自身がインスリン注射量を決められた範囲で調節しながら、良好な血糖コントロールを目指す方法である。基本的には食事をしている患者では、各食前、就寝前の一日四回血糖を測定し、各食前に速効型インスリン(R)(R)を就寝前に中間型インスリン(N)(N)の一日四回を皮下注にて始める。オーソドックスなやり方としては各回3~4単位程度、一日12~16単位から始める。量を調節する場合は2単位程度までの変更にとどめた方が安全である。超速効型インスリン(Q)(Q)や持続型も近年は多く用いられる。
;インスリン絶対的適応
初期投与量としては0.5単位/Kgkg/dayにて開始し、数日の効果判定後0.7~1.2単位/Kgkg/dayで維持する場合が多い。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|体重!!style="white-space: nowrap;"|単位の計算値!!style="white-space: nowrap;"|処方例!!style="white-space: nowrap;"|朝食前R!!style="white-space: nowrap;"|昼食前R!!style="white-space: nowrap;"|夕食前R!!style="white-space: nowrap;"|就寝前N
|-
|50Kg50kg||25単位||24単位||6||6||6||6
|-
|60Kg60kg||30単位||32単位||8||8||8||8
|-
|70Kg70kg||35単位||36単位||9||9||9||9
|}
食前血糖値、空腹時血糖値が140mg/dldL以上や食後2時間血糖値が200mg/dldL以上の場合は責任インスリンの増量を検討する。食前血糖値が70mg/dldL以下であれば責任インスリンの減量を検討する。但し、調節するインスリンの総量は4単位を超えない範囲で行うのが安全である。
 
;インスリン相対的適応
初期投与量としては0.2単位/Kgkg/dayにて開始し、数日の効果判定後0.3~0.5単位/Kgkg/dayで維持する場合が多い。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|体重!!style="white-space: nowrap;"|単位の計算値!!style="white-space: nowrap;"|処方例!!style="white-space: nowrap;"|朝食前R!!style="white-space: nowrap;"|昼食前R!!style="white-space: nowrap;"|夕食前R!!style="white-space: nowrap;"|就寝前N
|-
|50Kg50kg||10単位||11単位||3||3||3||2
|-
|60Kg60kg||12単位||12単位||3||3||3||3
|-
|70Kg70kg||14単位||16単位||4||4||4||4
|}
食前血糖値、空腹時血糖値が140mg/dldL以上や食後2時間血糖値が200mg/dldL以上の場合は責任インスリンの増量を検討する。食前血糖値が70mg/dldL以下であれば責任インスリンの減量を検討する。但し、調節するインスリンの総量は4単位を超えない範囲で行うのが安全である。
 
=== シックディルール ===
糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食思不振のため食事ができない状態を[[シックディ]]という。この場合の対応としては主治医や医療機関に連絡を行い指示を受ける、インスリンを決して自己中断をしない、水分を摂取して十分に脱水を防ぐ、口当たりがよく消化によいものを摂取し絶食にならないようにする、血糖を3~4時間ごとに測定する、可能ならば尿中ケトン体を測定するといったことが原則となる。2型糖尿病で食事が十分に摂取できていれば普段通りにインスリンの投与を行い、食事量が半分ならばインスリンを普段の半分量使用する、殆ど摂取が不可能ならば血糖値に応じてインスリンスライディングスケールで対応するのが一般的である。1型糖尿病の場合は基礎分泌に相当するインスリン量は変更しないのが原則である。入院の適応を考えるべき状況とは高熱が2日以上続く時や、嘔吐や下痢が続く時、脱水や尿量減少が認められるとき、高血糖(350mg/dldL以下にならない)や尿中ケトン体陽性が続く時、高血糖に伴う症状(口渇、多飲、多尿、急激な体重減少、意識障害)があるときなどがあげられる。この状態になった場合は糖尿病性昏睡などの治療にのっとって治療を行う。
 
==== その他の療法 ====
基礎インスリン分泌が保たれているような患者では、速効型(または超速効型)インスリンの毎食前3回注射など強化インスリン療法に準じた注射方法がある。また頻回のインスリン注射が困難な患者や強化インスリン療法が適応とならない患者(殆どが相対的適応)では混合型または中間型の一日1回~2回投与という方法もある。具体的にはNを朝食前に一回打ちにしたり、混合型製剤を朝食前、夕食前の2回打ちにし、食後血糖を抑えるためαグルコシターゼ阻害薬を併用した入りするなどがオーソドックスといわれている。このような投与法でもインスリン量は0.2単位/kgにて開始し、0.5単位/kgまで増量可能である。中間型を2回打ちする場合は朝:夕を2:1または3:2の比率とすることが多い。中間型インスリンが一日10単位以上の場合は一日二回と分けることが多い。
;二相性/混合インスリンアナログ一日二回法
初期投与量としては0.2単位/Kgkg/dayにて開始する。経口薬を併用することが多い。昼食前後の責任インスリンは存在しない。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|体重!!style="white-space: nowrap;"|単位の計算値!!style="white-space: nowrap;"|処方例!!style="white-space: nowrap;"|朝食直前!!style="white-space: nowrap;"|昼食直前!!style="white-space: nowrap;"|夕食直前!!style="white-space: nowrap;"|就寝前
|-
|50Kg50kg||10単位||10単位||6||0||4||0
|-
|60Kg60kg||12単位||12単位||8||0||4||0
|-
|70Kg70kg||14単位||14単位||10||0||4||0
|}
;持続型溶解インスリンアナログ一日一回法
初期投与量としては0.1単位/Kgkg/dayにて開始する。経口薬を併用することが多い。食前血糖値で効果判定を行う。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|体重!!style="white-space: nowrap;"|単位の計算値!!style="white-space: nowrap;"|処方例!!style="white-space: nowrap;"|朝食前!!style="white-space: nowrap;"|昼食前!!style="white-space: nowrap;"|夕食前!!style="white-space: nowrap;"|就寝前
|-
|50Kg50kg||5単位||5単位||0||0||0||5
|-
|60Kg60kg||6単位||6単位||0||0||0||6
|-
|70Kg70kg||7単位||7単位||0||0||0||7
|}
空腹時血糖80mg/dldL以下ならば2単位の減量を検討、空腹時血糖130mg/dldL以上ならば2単位の増量を検討する。
;ステロイド糖尿病におけるインスリン療法
ステロイドの血糖上昇作用は投与後2~3時間で発現し5~8時間で最大に達する。即ち空腹時血糖は正常であっても午後から夜にかけて高血糖になりやすい。食後血糖が250~300mg/dldLに達した場合はインスリン療法を行う場合が多い。なお経口薬でも血糖コントロールは可能である。もともとインスリンを用いている場合はPSL5mgにつきインスリン2~4単位の増量が必要となる場合が多い。インスリンを用いていない糖尿病患者の場合はPSL20mg/dayで12~18単位/day、PSL40mg/dayで26から3226~32単位/dayが最終投与量となる場合が多い。また非糖尿病患者の場合は0.2単位/Kgkg/dayでインスリン療法を開始する。[[ステロイドパルス療法]]では血糖が400mg/dldL程度まで急激に上昇するため一時的にスライディングスケールを用いることが多い。下記がよく用いられるスライディングスケールの例である。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|血糖値(mg(mg/dl)dL)!!style="white-space: nowrap;"|処置
|-
|<70||50%50%ブドウ糖20ml20mL静注、またはブドウ糖10g内服
|-
|70~150||stay
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病棟などでは[[インスリンスライディングスケール]]という方法をとることがある。これは各食前の血糖値に基づいてその時にうつインスリンを決定するという方法であり、短期間ならば良いが血糖の変動を激しくするので避けたほうが良い。本来は食事摂取できない糖尿病患者の血糖コントロールで用いられたプロトコールである。以下に一例を示す。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|血糖値(mg(mg/dl)dL)!!style="white-space: nowrap;"|処置
|-
|<70||50%50%ブドウ糖20ml20mL静注、またはブドウ糖10g内服
|-
|70~150||stay
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速効型インスリンまたは超速効型インスリンの皮下持続投与によってインスリンの血中濃度を一定に保ち低血糖や高血糖のリスクを軽減する治療である。大まかの治療目標を以下に纏める。()は緩めの目標である。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|時間!!style="white-space: nowrap;"|血糖値(mg(mg/dl)dL)
|-
|食前||80~110(130)80~110(130)
|-
|食後2時間||180(200)180(200)以下
|-
|就寝前||100~140
314 ⟶ 313行目:
|午前3時||90以上
|}
CSIIでは強化インスリン療法(4回打ち)の時のインスリンの60~80%60~80%のインスリン量でコントロールできる場合が多い。基礎注入量と食前ボーラス量を決定する。基礎注入量が全体の40~50%40~50%を占め、残りが食前ボーラスとなることが多い。
 
==== 糖尿病緊急症のときのインスリンの使用 ====
[[糖尿病性ケトアシドーシス]](DKA)(DKA)や非ケトン性高浸透圧性昏睡(HHS)(HHS)の場合、インスリンを投与することがある。生理食塩水で500~1000ml500~1000mL/hrの輸液を開始し、Rを10単位静注する。以後は0.1単位/kg/hrにて点滴静注する。血糖が250~300mg/dldLHCO3>18HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>>18、pH>7.3になるまで続ける。インスリン投与にて[[低カリウム血症]]となるためカリウムを補充する必要がある。これはインスリンがカリウムを消費することと糖尿病性緊急症の時はアシドーシスがあるためカリウムが高めに測定されるということの二つの理由で説明できる。[[乳酸アシドーシス]]の場合も基本的な対応は同様であり、脱水の是正、高血糖を伴う場合は高血糖の是正を行う。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|欠乏物質!!style="white-space: nowrap;"|DKAでの欠乏量!!style="white-space: nowrap;"|HHSでの欠乏量
|-
|総水分||4~6l4~6L||4~9l4~9L
|-
|水分||100ml100mL/Kgkg||100~200ml100~200mL/Kgkg
|-
|Na||7~10mEq/Kgkg||5~13mEq/Kgkg
|-
|Cl||3~5mEq/Kgkg||5~15mEq/Kgkg
|-
|K||3~5mEq/Kgkg||4~6mEq/Kgkg
|-
|PO4||5~7mmol/Kgkg||3~7mmol/Kgkg
|-
|Mg||1~2mEq/Kgkg||1~2mEq/Kgkg
|-
|Ca||1~2mEq/Kgkg||1~2mEq/Kgkg
|}