「担保責任」の版間の差分

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== 概説 ==
担保責任は主に有償契約において権利の供与あるいは目的物に瑕疵がある場合に、相手方の保護を図るため売主など給付義務者が負うべき責任である。[[債務不履行|債務不履行責任]]が[[過失責任]]であるのとは異なり、担保責任の性質は[[無過失責任]]である(通説)<ref name="omi130">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、130頁</ref><ref name="endo38">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、38頁</ref>。担保責任の内容は、契約の[[解除]]、代金減額請求、損害賠償である<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、38頁<name="endo38"/ref>。
 
担保責任は民法の[[b:民法第561条|561条]]から[[b:民法第572条|572条]]に規定がある(このうち[[b:民法第562条|562条]]については他人の権利の売買における善意の売主の保護を目的とする規定であり本質的には担保責任の問題ではない<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、38頁<name="endo38"/ref>)。担保責任について定める以上の条文は[[有償契約]]の典型である売買契約について定めた民法第三編第二章第三節にあり、[[b:民法第559条|559条]]本文が「この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する」と規定することから他の有償契約にも準用される。ただし、有償契約であっても労務供給契約のうち雇用契約のように担保責任の規定について準用の余地がない場合もある<ref>柚木馨・高木多喜男編著 『新版 注釈民法〈14〉債権5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1993年3月</ref>。
 
担保責任の種類には大きく分けて'''権利の瑕疵についての責任'''(権利の不存在や制限)である'''追奪担保責任'''(広義)と'''物の瑕疵についての責任'''(物の品質における欠陥)である'''瑕疵担保責任'''の二つがあるが、このうち「追奪担保責任」の語については現行民法上の権利の瑕疵についての責任が必ずしも追奪(取戻し)を要件としていないことから的確さを欠くとの指摘もある(詳細後述)<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、130頁<name="omi130"/ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、38頁<name="endo38"/ref><ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、129-130頁</ref><ref name="kawai142">川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、142頁</ref>。
 
なお、無償契約の場合には原則として担保責任を負わないが、[[悪意]]の場合(瑕疵を知っていた場合)には担保責任を負うと定められている場合がある(贈与者の担保責任につき[[b:民法第551条|551条]])。
 
=== 債務不履行責任との関係 ===
担保責任は以下の点で債務不履行責任と異なる<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、142-143頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、38頁<name="endo38"/ref>。
* 帰責事由
: 担保責任の場合には売主の帰責事由は法文上要求されていない(無過失責任)。これに対して債務不履行の場合には売主に帰責事由が必要である(過失責任。[[b:民法第415条|415条]])。担保責任が無過失責任である理由は契約の有償性によるものとされる<ref name="kawai143">川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、143頁</ref>。
* 責任の内容
: 担保責任の内容は契約解除、損害賠償([[b:民法第561条|561条]]・[[b:民法第563条|563条]]・[[b:民法第566条|566条]]第1項・[[b:民法第567条|567条]]・[[b:民法第568条|568条]]・[[b:民法第570条|570条]])、代金減額請求([[b:民法第563条|563条]]・[[b:民法第565条|565条]]・[[b:民法第568条|568条]])であり、法文上においては完全履行履行請求権については定められていない。これに対して債務不履行責任の内容は損害賠償、不完全履行の場合の完全履行請求、契約解除であり代金減額請求については定められていない。
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: 担保責任に基づく契約の解除の場合には催告は要求されないが([[b:民法第561条|561条]]・[[b:民法第563条|563条]]・[[b:民法第565条|565条]]・[[b:民法第566条|566条]]・[[b:民法第567条|567条]]・[[b:民法第570条|570条]])、債務不履行に基づく契約の解除の場合には相当期間を定めて催告する必要がある([[b:民法第541条|541条]])。
* 損害賠償の範囲
: 債務不履行責任の場合には損害の全部に及ぶ([[b:民法第416条|416条]])。この点について学説には信頼利益説(原則として信頼利益の範囲に限られる)、契約履行利益説(原則として履行利益に及ぶ)、対価的制限説(代金額の範囲に限定される)が対立する<ref name="omi145-146">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、145-146頁</ref>。判例は565条の事例について履行利益には及ばないとした(最判昭57・1・21民集36巻1号71頁)。後に述べるように学説に対立があるが、判例は565条の事例で履行利益に及ばないとしたものがある。
* 期間制限
: 担保責任では原則1年間であるのに対し、債務不履行責任は[[消滅時効]]の一般原則により10年となる([[b:民法第167条|167条]]第1項)。
 
=== 担保責任と特約 ===
担保責任に関する規定は[[強行法規]]ではないので特約で軽減あるいは免責することができる<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、156頁</ref><ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、131頁</ref><ref name="endo40">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、40頁</ref>。ただし、担保責任について免責する特約をしたときであっても、売主が知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については売主は免責されない([[b:民法第572条|572条]])<ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、285-286頁</ref>。なお、担保責任を加重する特約も有効である<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、156頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、40頁<name="endo40"/ref>。また、[[商法]]第526条、[[消費者契約法]]第8条、[[宅地建物取引業法]]第40条、[[住宅の品質確保の促進等に関する法律|住宅品質確保法]]第94~97条に特則があり、民法の原則を修正している。
 
== 担保責任の種類 ==
=== 権利の瑕疵についての責任(追奪担保責任) ===
権利の瑕疵についての責任は、[[ローマ法]]以来、取引の相手方が権利者たる第三者から取戻し(追奪)を受けた場合の責任、'''追奪担保責任'''として概念づけられてきたものである(狭義の追奪担保責任)<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、130頁<name="omi130"/ref>。ただ、現行民法はこれ以外の場合にも権利の瑕疵についての責任を拡張しており、権利の不存在のほか他権利により制限を受ける場合も含めて広義の追奪担保責任と呼ばれる<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、130頁<name="omi130"/ref>。
 
「追奪担保責任」はローマ法以来の沿革に基づく語であるが、現行民法の権利の瑕疵についての責任は必ずしも追奪(取戻し)を要件としておらず、数量不足の場合のように追奪の概念が全く当てはまらない場合もあることから「追奪担保責任」の語は正確さを欠くという指摘もある<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、130頁<name="omi130"/ref><ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、142頁<name="kawai142"/ref>。
 
なお、数量不足は本質的には広い意味での物の隠れた瑕疵とみるべきだが、効果として代金減額を規定する関係から権利の瑕疵と同列に規定され、また、一部滅失も本質的には権利の瑕疵ではないが、一部が他人の物であった場合と性質が同じであることから権利の瑕疵と同列に規定されている<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、124頁</ref>。
 
==== 権利の全部が他人に属する場合 ====
[[b:民法第561条|561条]]は権利の全部が他人に属する場合の担保責任について定めている。無過失責任であり売主の過失は不要である(通説・判例。大判大10・6・9民録27輯1122頁)<ref name="kawai144">川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、144頁</ref>。
* 他人物売買の有効性
: 他人の権利を売買の目的とすること(いわゆる[[他人物売買]])については、[[フランス民法]]はこれを原始的不能として契約を[[無効]]とするが、[[ドイツ民法]]ではこれを有効とする([[b:民法第560条|560条]])<ref name="omi122">内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、122頁</ref><ref name="omi132">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、132頁</ref>。日本の民法でも他人の権利を売買の目的とすることを有効とした上で、給付義務者(売主)はその権利を取得して相手方(買主)に移転する義務を負うとする([[b:民法第560条|560条]])<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、122頁<name="omi122"/ref><ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、132頁<name="omi132"/ref>。
* 契約解除権
: 上の場合において給付義務者(売主)がその権利を相手方(買主)に移転できない場合は、相手方(買主)は契約の[[解除]]ができる([[b:民法第561条|561条]]前段)。催告は不要である<ref name="kawai145">川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、145頁</ref>。移転不能か否かは社会観念・取引通念によって判断される<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、143頁<name="kawai143"/ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、40-41頁</ref>。また、移転不能は原始的不能に限らず後発的不能でもよい(大判大10・11・22民録27輯1978頁、最判昭25・10・26民集4巻10号497頁)<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、144頁<name="kawai144"/ref>。
: 買主に帰責事由があるときは解除権は認められない(通説・判例。最判昭17・10・2民集21巻939頁)<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、144頁<name="kawai144"/ref>。相手方(買主)が権利者から直接目的物の権利を譲り受けたために給付義務者(売主)が給付義務を履行できなくなったときは相手方(買主)に解除権は認められない(大判昭17・10・2民集21巻939頁)<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、132頁<name="omi132"/ref>。
* 損害賠償請求権
: 相手方(買主)は目的物が他人の権利であることを知っていたときは損害賠償の請求をすることができないが、知らなかった場合には損害賠償を請求できる([[b:民法第561条|561条]]後段)。解除権と併せて行使しうる(通説)<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、144頁<name="kawai144"/ref>。
* 期間制限
: [[b:民法第561条|561条]]の担保責任の期間制限については特に定められていない。一般には[[b:民法第563条|563条]]の場合と異なって権利が他人に帰属するものであることの立証は容易であり、権利行使期間を短期間に限定する必要がないことが理由とされる<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、40-43頁</ref>。しかし、このような説明については説得的な正当化とはいえないとの指摘もある<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、150頁</ref>。期間制限について特に定めがないことから、一般原則に従って10年の消滅時効(167条1項)にかかることになる<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、145頁<name="kawai145"/ref>。
* 善意の売主の保護
: 給付義務者(売主)が他人の権利であることを知らなかった場合([[善意]])は、給付義務者(売主)が契約を解除できる([[b:民法第562条|562条]])。ただし、先に述べた通り、この[[b:民法第562条|562条]]は善意の売主の保護のための規定であり、厳密には担保責任について定めた規定ではない<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、38頁<name="endo38"/ref><ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、281頁</ref>。
なお、他人物売買において追奪担保責任と債務不履行責任は互いに成立要件に差異があることから要件を満たす限りいずれを主張することもできる<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、132頁<name="omi132"/ref>。後発的不能の場合に売主に帰責事由がある場合には、561条の担保責任のほか債務不履行責任を追及しうる(最判昭41・9・8民集20巻7号1325頁)<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、144頁<name="kawai144"/ref>。
 
==== 権利の一部が他人に属する場合 ====
[[b:民法第563条|563条]]は売買等の有償契約の目的である権利の一部が他人の権利であるため、給付義務者(売主)がその部分の権利を相手方(買主)に移転できない場合の担保責任について定める。移転不能の意義は前条の場合と同じである。
* 代金減額請求権
: 相手方(買主)はその不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求できる([[b:民法第563条|563条]]第1項)。代金減額請求権は本質的には契約の一部解除である<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、146頁</ref>。客観的価格の均衡が成立すべきであり代金減額請求において相手方の善意・悪意は問わず、売主の帰責事由も不要である<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、133頁</ref><ref name="kawai147">川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、147頁</ref>。代金を支払済の場合にも返還請求しうる<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、147頁<name="kawai147"/ref>。
* 契約解除権
: 残存する部分のみであれば相手方(買主)がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は契約を解除できる([[b:民法第563条|563条]]第2項)。悪意の買主は移転不能を予期しえた立場にあることから解除権は認められていない<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、147頁<name="kawai147"/ref>。
* 損害賠償請求権
: 相手方(買主)は、権利の一部が他人の権利であることを知らなかった場合のみ、損害賠償を請求できる([[b:民法第563条|563条]]第3項)。
* 期間制限
: 買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ1年以内に行使しなければならない([[b:民法第564条|564条]])。ここでいう「事実を知った時」とは相手方(買主)が給付義務者(売主)の担保責任を追及しうる程度に確実な事実関係を認識するに至った時点をいう(最判平13・2・22判時1745号85頁)<ref name="omi133-134">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、133-134頁</ref>。ただし、相手方(買主)が事実を知るに至った場合であっても、その責めに帰すことのできない事由によって給付義務者(売主)が誰か知らない場合には、その売主を知った時となる<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、133name="omi133-134頁<"/ref>。
: 判例によれば、この期間内に裁判外で権利を行使すればそれによって生じる請求権はそこから一般の消滅時効10年にかかるという(大判昭10・11・9民集14巻1899頁、最判平4・10・20民集46巻7号1129頁)。しかし、このような解釈は法律関係の早期の安定という観点から担保責任の期間を短期にしている民法の趣旨を没却するものであるとの批判があり<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、134頁</ref>、学説には、この期間は[[除斥期間]]であるとする説、除斥期間でかつ裁判上の請求を要するとする説、消滅時効の時効期間で権利行使の結果として発生する権利もこの時効期間にかかるとする説などの諸説がある<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、44-45頁</ref>。近時、担保責任によって生じる損害賠償請求権にも消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当であるとした判例がある(最判平13・11・27民集55巻6号1311頁)。
 
76行目:
: [[商人 (商法)|商人]]間の売買において、買主はその売買の目的物を受領したときは、遅滞なくその物を検査しなければならず、検査を怠った場合や、あるいは検査により数量不足を発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知をしなければ、数量不足を理由とした担保責任の追及はできない(商法526条)。
* 数量超過
: 数量超過の場合であっても、売主保護の特別規範というものが存在しない以上、当事者の意思表示の解釈によるべきであり売主には当然には代金増額請求権は認められない(通説・判例。大判明41・3・18民録14輯295頁、最判平13・11・27民集55巻6号1380頁)<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、153頁</ref><ref name="omi136">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、136頁</ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、61頁</ref>。
 
==== 用益権の負担がある場合 ====
[[b:民法第566条|566条]]は売買等の有償契約の目的物が、他の占有を伴う物権([[地上権]]・[[永小作権]]・[[地役権]]・[[留置権]]・[[質権]])や登記をした[[賃借権]]の目的となっているため(同条第1項)、あるいは売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった、または、その不動産について登記をした賃貸借があったため(同条第2項)に、善意の買主が契約の目的を達成できない場合の担保責任について定める。第1項にいう「登記をした賃貸借」とは対抗力ある賃貸借を指し、[[借地借家法]]・[[農地法]]など特別法の規定により登記以外の方法で対抗力を備えている賃貸借においても担保責任を生じる([[罹災都市借地借家臨時処理法]]による賃貸借につき最判昭32・12・21民集11巻13号2131頁を参照)<ref name="omi137">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、137頁</ref><ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、151頁</ref><ref name="endo47">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、47頁</ref>。悪意の相手方(買主)は用益権による利用制限を予期しえた立場にあるため担保責任を追及できない<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、151-152頁</ref>。なお、厳密には上の第2項の場合は利用権が制限されているわけではない点で第1項の場合とは異なるが、責任の類型としては利用権が制限されている場合と同視しうることから1項が準用されている<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、47頁<name="endo47"/ref>。
* 契約解除権
: 相手方(買主)は契約の[[解除]]ができる([[b:民法第566条|566条]]1項前段・2項)。
85行目:
: 損害賠償を請求できる(566条1項後段・2項)。
* 代金減額請求権の問題
: 用益権の負担がある場合の担保責任については、用益の制限による減価分を比例的に算出することは困難なため代金減額請求権は認められていない<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、152頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、48頁</ref>。なお、法律上の瑕疵について瑕疵担保責任ではなく本条によるべきとする説がある<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、136頁<name="omi136"/ref>。
* 期間制限
: 相手方(買主)が事実を知った時から1年以内に行使しなければならない(判例として最判平4・10・20民集46巻7号1129頁参照)。判例によれば、この1年の期間制限は除斥期間を規定したものと解すべきであり、この損害賠償請求権を保存するには、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はない。
 
==== 担保権の負担がある場合 ====
[[b:民法第567条|567条]]は売買等の有償契約の目的物が、他の占有を伴わない[[担保物権]]([[先取特権]]・[[抵当権]])の目的となっているため、その実行により相手方(買主)が権利を失った場合の担保責任について定める。法文上は先取特権と抵当権が挙げられているが、質権や仮登記担保権が設定されていた場合も含まれる<ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、62頁</ref>。この類型では担保権の行使により買主がその所有権を失ったことが要件とされるが、これは担保権が設定されているだけでは直ちに不利益を生じるものではないためとされる<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、153頁</ref><ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、283頁</ref>。なお、本来的に売主は債務履行によって担保権の負担を消滅させ買主の所有権を保全すべきものであること、被担保債務の弁済は相手方が悪意の場合にも当然に予期していたはずであること、悪意でも担保権が実行されない限り用益の妨げにはならないことから567条の担保責任には原則として善意・悪意の区別はない<ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、62頁</ref><ref name="endo49">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、49頁</ref><ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、136頁<name="omi136"/ref>。
* 契約解除権
: 相手方(買主)は契約の[[解除]]ができる([[b:民法第567条|567条]]1項)。
98行目:
: 相手方(買主)は損害賠償を請求できる(567条3項)。
* 期間制限の問題
: 早期に迅速な処理が必要とされないこともあり期間制限については特に定められていない<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、153-154頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、49頁<name="endo49"/ref>。
 
=== 物の瑕疵についての責任(瑕疵担保責任) ===
権利の瑕疵についての責任に対し、目的物に隠れた[[瑕疵]]がある場合の[[b:民法第570条|570条]]の責任(物の瑕疵についての責任)を瑕疵担保責任と呼び、担保責任の中でも中心的位置を占め、契約法上において重要な意味を持つ条文である<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、49頁<name="endo49"/ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、63頁</ref>。
 
==== 担保責任の法的性質 ====
111行目:
* 理論構成
: 不特定売買において瑕疵ある目的物が給付された場合、債務の本旨の履行とはいえず、売主に対して不完全履行による債務不履行責任を追及しうる。これに対し、特定物売買においては売買の目的物には代替性がなく、瑕疵のない特定物が存在しない以上、売主はその目的物を給付すれば債務の履行となり売主の給付義務は消滅するため債務不履行責任を追及する余地もなくなる。しかし、これでは売買代金を支払った買主は予定の品質・性状の物の給付を受けられないことになり不公平な結果となることから、特定物売買における買主保護のために法律(民法)によって売主に対して特に定めた責任が担保責任であるとする。
* 法定責任説の帰結と問題点<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、125頁</ref><ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、139頁</ref><ref name="endo54">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、54頁</ref>
# 特定物売買については瑕疵担保責任により無過失責任になるのに対し、不特定物売買については通常の債務不履行責任により過失責任となる。
# 特定物売買については買主の完全履行請求権(瑕疵修補請求)が可能であるのに対し、不特定物売買では完全履行請求権(瑕疵修補請求)は認められない。
#: この点については、信義則あるいは取引慣行から認めうるとする学説がある<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、54頁<name="endo54"/ref>。
# 特定物売買については瑕疵担保責任により損害賠償の範囲は原則として信頼利益の限度となるが、不特定物売買の場合には債務不履行責任であり履行利益を含む損害一般に及ぶ。
#: この点については、売主に過失がある場合には履行利益の範囲に及ぶものと解されている<ref name="endo57">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、57頁</ref>。
# 特定物売買においては契約の解除に催告は不要であるのに対し(570条・566条1項)、不特定物売買では原則として契約の解除に催告を要する(541条)。
# 特定物売買の場合の責任は瑕疵担保責任で1年なのに対し、不特定物売買の場合の責任は債務不履行責任であり10年ということになる。
#: この点については、通常の経済取引において品質の瑕疵を10年間も主張しうるというのは長すぎるとの批判がある<ref>内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、128頁</ref>。そのため、不特定物売買の場合の債務不履行責任が10年となる点については、[[信義則]]あるいは566条3項あるいは548条を類推適用して縮減すべきとみる学説がある<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、54頁<name="endo54"/ref>。
 
===== 契約責任説(債務不履行責任説) =====
127行目:
* 契約責任説の帰結と問題点<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、140頁</ref>
# 瑕疵担保責任が無過失責任とされる理由づけ
#: 損害賠償の一般原則は過失責任であり無過失責任を広く認めるべきではない(無過失の売主に帰責事由のある売主と同等の賠償請求を認めうることになり疑問)とする点が挙げられている<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、57頁<name="endo57"/ref>。この点については帰責事由の有無により範囲を画する学説があり、また、そもそも瑕疵担保責任は無過失責任ではないとみる学説もある<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、57-58頁</ref>。
# 瑕疵担保責任の期間が1年なのに対し、債務不履行責任に基づく完全履行請求権は10年ということになる。
# 不特定物売買で瑕疵ある給付があった場合の瑕疵担保責任と債務不履行責任の関係
143行目:
==== 隠れた瑕疵 ====
* 「瑕疵」の意義
: 570条にいう「瑕疵」とは取引通念からみてこの種の物が通常であれば有するべき品質・性状を有さず目的物に欠陥が存在することをいう<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、160頁</ref><ref name="endo50">遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、50頁</ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、64頁</ref>。契約の趣旨から個別的に判断されるが、契約時に給付義務者が見本や広告などで一定の(特殊の)品質・性状を保証した場合(見本売買・広告売買等)にはそれを標準とし、その表示された品質・性状に至らない場合には瑕疵となる(大判大15・5・24民集5巻433頁)<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、160-161頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、50頁<name="endo50"/ref><ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、283-284頁</ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、63頁</ref>。
* 法律上の瑕疵
: 瑕疵には物理的瑕疵と法律的瑕疵(法律上の障害)が考えられるが、後者が570条の瑕疵にあたるかについては議論があり、判例は一貫して570条を適用しこれを肯定するが(宅地造成目的で売買された山林が森林法上の保安林であった事例につき最判昭56・9・8判時1019号73頁)、多数説は瑕疵担保責任として扱うと強制競売の場合に担保責任を認められなくなり(570条但書参照)不均衡を生じるとして法律上の障害には566条を類推適用して処理されるべきとする<ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、65頁</ref><ref name="omi145">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、145頁</ref><ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、161頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、51頁</ref>。
* 「隠れた」の意義
: 570条にいう「隠れた」とは、相手方が取引上において一般的に要求される程度の注意をもって発見できないことであり、その瑕疵について善意・無過失であることをいう(通説・判例)<ref>遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、52頁</ref><ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、284頁</ref><ref>大島俊之・下村正明・久保宏之・青野博之著 『プリメール民法4 第2版』 法律文化社〈αブックス〉、2003年3月、64頁</ref>。
* 瑕疵の存在時期
: 瑕疵の存在時期については'''瑕疵契約時存在必要説'''(法定責任説の立場。契約締結時に存在する原始的瑕疵であることが必要で、締結後の瑕疵は債務不履行の問題とする)、'''瑕疵契約時存在不要説'''(契約責任説の立場。原始的瑕疵であることは不要とする)、'''危険移転時説'''(危険負担的減額請求権説の立場。危険移転時を基準とする)があり、この点については学説によって見解が分かれる<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、145頁<name="omi145"/ref><ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、320頁</ref>。判例は瑕疵が契約時に存在することは不要であるとする(大判昭8・1・14民集12巻71頁)。
* 善意・過失の問題
: 瑕疵担保責任を追及しうる買主は善意者に限定されるが、過失がある場合については学説により見解が分かれる<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、145頁<name="omi145"/ref>。判例は無過失であることを必要とする(大判大13・6・23、最判昭41・4・14)。買主の悪意・過失の立証責任は売主が負う(大判昭5・4・16)。
 
==== 責任の内容 ====
* 損害賠償請求権(570条・566条1項後段)
: 損害賠償の範囲については、'''信頼利益説'''(法定責任説の立場。原則として信頼利益の範囲で、売主に過失がある場合に履行利益に及ぶ)、'''履行利益説'''(契約責任説・債務不履行責任説の立場。原則として履行利益に及ぶ)、'''対価的制限説'''(危険負担的減額請求権説の立場。代金額の範囲に限定される)があり対立する<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、145name="omi145-146頁<"/ref>。
* 契約解除権(570条・566条1項前段)
: 給付が数量的に可分である場合には一部のみの解除も認められる<ref name="omi147">近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、147頁</ref>。
* 代金減額請求権の問題
: 危険負担的減額請求権説においてはこれを認めるが、減額の範囲の算定は困難であるとして多数説・判例はこれを否定する(最判昭29・1・22民集8巻1号198頁)<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、147頁<name="omi147"/ref><ref name="kawai164">川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、164頁</ref>。
* 期間制限
: 566条が準用される結果、契約解除権・損害賠償請求権は、相手方(買主)が事実を知った時から一年以内に行使しなければならないことになる。なお、これらの権利については目的物引渡しを受けたときから10年の消滅時効にかかる([[b:民法第167条|167条]]第1項)<ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、164頁<name="kawai164"/ref>。
* 商人間の場合の特則
: 商人間の売買において、買主はその売買の目的物を受領したときは、遅滞なくその物を検査しなければならず、検査を怠った場合や、あるいは検査により瑕疵を発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知をしなければ、瑕疵を理由とした担保責任の追及はできない(商法526条)。
254行目:
 
=== 強制競売における担保責任 ===
強制競売においてはその結果を確実にして事後の紛争を生じさせないよう売主の担保責任が軽減されている<ref name="wagatsuma287-288">我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、287-288頁</ref>。
* 権利の瑕疵の場合
: 強制競売における買受人は、561条から567条までの規定により、債務者に対して契約解除・代金減額を請求することができる([[b:民法第568条|568条]]第1項)。この場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部・一部の返還を請求することができる(568条第2項)。本条は担保権の実行による任意競売にも適用がある(通説・判例。大判大8・5・3民録25輯729頁)<ref>近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、137頁<name="omi137"/ref><ref>川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、155頁</ref>。強制競売の場合には原則として損害賠償は認められないが、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人はこれらの者に対し損害賠償の請求をすることができる(568条第3項)。
* 物の瑕疵の場合
: 強制競売において物の瑕疵についての担保責任は排斥される([[b:民法第570条|570条]]但書)。
268行目:
=== 担保責任と他制度との関係 ===
* 錯誤との関係
: 担保責任と錯誤の関係については両者は趣旨・要件を異にするとして選択的に主張しうると解する見解もあるが、担保責任の存続期間が1年と短い関係上、通説は担保責任の存続期間終了後に錯誤無効を主張しうるのは民法の趣旨に反するとして担保責任の要件を満たす限り錯誤無効の規定は排斥される(瑕疵担保責任優先説)とみるが、判例は要素の錯誤が成立する場合には瑕疵担保責任は排斥されるとする(錯誤優先説。最判昭33・6・14民集12巻9号1492頁<ref>我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、287 name="wagatsuma287-288頁<"/ref>。
 
== 各種契約と担保責任 ==