「新聞常用漢字表」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
表現・構成の整理、文化庁サイトへのリンクを更新、朝毎読3紙の用字用語手引書について更新・追加、各社音訓の扱いを追加
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'''新聞常用漢字表'''(しんぶんじょうようかんじひょう)は、[[日本新聞協会]]新聞用語懇談会がまとめた漢字表で、[[新聞]]記事などで使用する漢字の字種とその音訓を示す。日本新聞協会が発行する『新聞用語集』(日本新聞協会)に掲載される新聞表記の基準の一つ。現行のものは、[[2010年]]に告示された改定「[[常用漢字]]表」の2136字から7字を除いた2129字に常用漢字[[表外字]]5字を加え'''2134字'''の使用を認めている。
 
新聞常用漢字表の名は、『新聞用語集』では2007年版で初めて用いられた。ただし[[時事通信社]]が1981年に発行した『記事スタイルブック : 記者のための新用字用語集』やその後継となる『最新用字用語ブック』では、『新聞用語集』に先立ってこの名称が使われている。
 
日本国内の新聞・[[通信社|通信]]・[[放送]]各社は、原則としてこの表に準拠して漢字を使用している。この表を基に若干の増減を加え自社独自の基準を定めることもある。
 
本項では、2007年に「新聞常用漢字表」と名付けられるより前に新聞用語懇談会が示した漢字表や漢字使用基準のほか、市販されている報道各社の用字用語手引書が掲載する漢字表などについても扱う。
 
== 表外字・表外音訓を使用する場合 ==
新聞常用漢字表の表外字・[[表外音訓]]を含む語は『新聞用語集』の「用字用語集」に掲げる言い換え・書き換えを活用し<!-- 2007年版141ページ -->、書き換え・言い換え・表現の工夫が困難な場合、読み仮名を付けて使用することができる<!-- 2007年版144ページ〜 -->とされる。「用字用語集」で、表外字・表外音訓を含む語にルビが付く場合、読み仮名を付けて使う。『新聞用語集 2007年版』は、以下の場合については例外として表外字・表外音訓を使ってよいとする<!-- 2007年版141ページ〜 -->。
* 固有名詞や次に示すような特殊な語。
*# 栄典、称号、官職名およびこれに類するもの。
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=== 当用漢字補正案 ===
[[1954年]]3月15日、国語審議会は新聞界の要望を基に、28字を削除し28字を追加し2字に音訓を追加、1字の字体を変更するという内容の「[http://wwwkokugo.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/joho/kakuki/02/bukai01/03.html 当用漢字表審議報告]」をまとめた。将来当用漢字を正式に見直す際の参考資料、補正案の報告と位置付けられたが、文芸界や教育界、法曹界の反対にあった。このため正式な答申や内閣告示には至らず、公用文や教科書などの漢字使用には影響しなかった。新聞界ではこれを「当用漢字補正案」と呼び、4月からその内容を紙面に反映させた<ref name="kyokaiho19540322">「当用漢字補正 全面実施に実験期間 新聞雑誌がまず使用 国語審議会 法令外来語などにも結論」『新聞協会報』昭和29年〔1954年〕3月22日2面</ref>。1955年の『新聞用語言いかえ集』やその後身に当たる『新聞用語集』は1956年10月の初版以降、常用漢字表告示による当用漢字表廃止まで、この補正案の内容を加味した漢字表を収録する。
; 追加28字
: 亭(テイ) 俸(ホウ) 偵(テイ) 僕(ボク) 厄(ヤク) 堀(ほり) 壌(ジョウ) 宵(ショウ・よい) 尚(ショウ) 戻(もどす) 披(ヒ) 挑(チョウ) 据(すえる) 朴(ボク) 杉(すぎ) 桟(サン) 殻(カク・から) 汁(ジュウ・しる) 泥(デイ・どろ) 洪(コウ) 涯(ガイ) 渦(カ・うず) 溪(ケイ) 矯(キョウ) 酌(シャク) 釣(つり) 斉(セイ) 竜(リュウ)
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=== 17字の復活と8字の追加 ===
内閣が[[1973年]]6月に内閣が改定「当用漢字音訓表」と改定「送り仮名の付け方」を告示したのを機会に、新聞用語懇談会は「社会一般の慣用度が高く、適切な言い換え、書き換えがない」として、従来使用してこなかった以下の漢字の使用を認めた。これにより新聞が使用する漢字の字種は'''1875字'''になった。
; 新聞で削除していた当用漢字のうち再び採用した字(「補正」削除から“復活”)17字
: 丹 劾 唐 嚇 堪 奴 寡 悦 煩 爵 璽 罷 迅 逓 錬 隷 頒
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この追加については『[[朝日新聞]]』1980年10月26日朝刊5面「読者と朝日新聞」欄、『日常語診断3』17ページ、『日常語診断4』20ページ(前掲1980年10月26日「読者と朝日新聞」欄要旨と1981年9月20日付同欄全文を再録したコラム「たいくつ帳 当用漢字と常用漢字と朝日新聞」)で説明されている。『新・記者ハンドブック : 用字用語の正しい知識』([[共同通信社]]、1973年)の「新聞当用漢字」も同様の追加を施している。
 
なお当このから点で「稼」について「かせ-ぐ」の訓を朝日は認めている<ref name="nichijogo3">『日常語診断3』17ページ </ref>が、共同は認めていない<ref name="kishahan1973"> 『新・記者ハンドブック』1、15、144ページ </ref>。<!-- 『日本新聞協会三十年史』216ページには「従来表外字扱いとしていた、いわゆる補正案で削除された二八字を表内字として、その半数以上の使用を認めた措置(四十七年八月)」とある。『日常語診断3』17ページは「新聞協会では昭和四十七年以降、……次の九字の表外字使用を認めた」とする。 -->
 
== 常用漢字告示から改定まで ==
[[1981年]][[10月1日]]に1945字から成る[[常用漢字]]表が告示された。新規に追加された95字の中には、1954年の「当用漢字補正案」が示した追加候補28字と、19731970に新聞が新たに使用することとしい始めた当用漢字表外字8字が含まれる。補正案の通り「燈」の字体が「灯」に改められた。他の当用漢字全文字が引き続き収録され削除された字はなかった。新聞用語懇談会は、常用漢字表外字6字を追加して使用することとした。これは、新聞協会が常用漢字表に追加を希望していた漢字のうち、字数に制限があるなどのため採用されなかったものである<ref name="asahi1981-09-20">片山朝雄「読者と朝日新聞 常用漢字表と本紙の記事 表の趣旨を守るのが大原則 字種と音訓は少し違います」『朝日新聞』1981年9月20日朝刊5面、縮刷版787ページ</ref>。補正案が削除候補とした28字のうち19731970に“復活”しなかった11字について、引き続き使用しないこととした。使用頻度が低い(謁・朕)、同音字で書き換えられる(箇・遵・脹・附・濫)、仮名書きが一般的(虞・且・但・又)といった理由による<ref name="ISBN4166603663">『新聞と現代日本語』51ページ</ref>。これにより新聞紙上で使用できるとされた漢字の字種は'''1940字'''となる。同年9月に発行された『新聞用語集』ではこの増減を施した漢字表を「'''常用漢字表(新聞用語懇談会が使用することを決めた字種と字音を含む)'''」として掲げた。このほか特例として表外字を含むものの読み仮名なしで使用できる12語(「華僑」「歌舞伎」「小唄」「鍾乳洞」「浄瑠璃」「枢機卿」「関脇」「箏曲」「長唄」「端唄」「琵琶」「弥生(式)」)を掲載した。
; 追加6字
: 亀(キ・かめ) 舷(ゲン) 痕(コン) 挫(ザ) 哨(ショウ) 狙(ソ・ねら-う)
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[[2004年]]には、「柵」「芯」の単漢字2字について読み仮名を付けずに使用できることとした。この2字は、常用漢字の見直しが近いということで使用字種の追加という形ではなく「用字用語集」に特例として追加される形となった。
 
『新聞用語集 2007年版』で初めて漢字表「'''新聞常用漢字表'''」という付けられた。『新聞用語集』に先立って[[時事通信社]]が1981年に発行した『記事スタイルブック : 記者のための新用字用語集』やその後継となる『最新用字用語ブック』ではこの名称が使われている。常用漢字表の1945字に、新聞用語懇談会が使用を認めた表外字45字を加えた1990字を示す。常用漢字表のうち、新聞用語懇談会が使用しないとした11字が不使用のままであるため、この時点で使用できる漢字の字種は'''1979字'''となる。このほかに、言い換え、書き換えが困難であるという理由で、特例として読み仮名を付けずに使用できる表外字を含む「一揆」「旺盛」「元旦」「斬新」「獅子」「庄屋」「僧侶」「戴冠・戴帽(式)」「奈落」「伴侶」「蜂起」「捕捉」「馬子唄」「蜜月」「冥王星」「冥土」「冥福」「拉致」などの<!-- 34 -->語が「用字用語集」に掲げられている。
 
== 常用漢字表改定後 ==
[[2010年]]に[[常用漢字#改定|改定常用漢字表]]が答申・告示された。新たに196字が追加され、5字が削除された。従来、新聞用語懇談会が使用を認めていた常用漢字表外字45字のうち、「磯」「哨」を除く43字が新たに常用漢字となった。2004年以降特例として読み仮名なしで使用できた「柵」「芯」も常用漢字に加わった。日本新聞協会は、同年11月、改定常用漢字表で新たに追加された字種・音訓の扱いやこれに伴う変更点を示す『2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版』を発行した。
 
新聞用語懇談会が使用しないとしてきた11字のうち、「脹」1字が常用漢字表から削除され、「謁」「箇」「濫」の3字については使用可とされた(ただし「箇」は助数詞でない「箇所」「箇条(書き)」に、「濫」は「氾濫」に用法が限定されている。また「謁」「濫」には読み仮名を付けることとした社がある)。「脹」は常用漢字表から削除され、残りの7字は引き続き使用しないこととなった。「箇」を使用することにしたことに伴い、従来「個」に「カ」の音を追加していたのを取りやめた。このほか新聞用語懇談会が2001年以降使用を認めていた「鶴(カク)」「脇(キョウ)」「柿(シ)」「嵐(ラン)」について、字そのものは常用漢字表に入ったが、訓読みだけが認められ音読み表外音となったため、新聞常用漢字表から音読みが削除された。必要な場合は読み仮名をつけて使用する。
 
新聞常用漢字表により使用できるとされた漢字の字種は、改定常用漢字表の2136字から7字を除いた2129字に表外字5字を加えた'''2134字'''となった。
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: 証(あか-す) 鶏(とり) 虹(コウ)
 
改定常用漢字表で削除された「銑」を含む「銑鉄」は、特例扱いで引き続き読み仮名なしで使用できることとなった。他に「用字用語集」で新たに特例扱いとされた語に「貫禄」「肛門」「蘇生」「挽回」がある。
 
改定常用漢字表に新たに追加された字種・音訓は、この時点ではまだ学校で教育されていない。新聞用語懇談会が難読(または仮名書きが定着している)と判断した表内字・表内音訓を含む語には、当分の間読み仮名を付けるとされたもの(例・「隠蔽(いんぺい)」「毀損(きそん)」)と、漢字・仮名書きが併記されたもの(例・「曖昧・あいまい」「鬱・うつ」)とがあり、「用字用語集」に示されている。新聞協会が独自に実施した大学生を中心にした読み調査と、[[NHK放送文化研究所|日本放送協会放送文化研究所]]による高校生を対象とした同種調査の正解率を根拠<!-- 『2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版』まえがき -->としている。
 
=== 各社の使用字種の異同 ===
常用漢字表改定後に市販された各社の用字用語手引書により、新聞常用漢字表との異同が確認できるものを挙げる。朝日新聞については、常用漢字表との異同を掲げた
; [[共同通信社]]『記者ハンドブック &#x003A; 新聞用字用語集』第12版「漢字表」
: 新聞常用漢字表に「炒(いた-める)」1字を追加。
; [[時事通信社]]『最新用字用語ブック』第6版「新聞常用漢字表」
: 新聞用語懇談会のものと同じ。なおこの版の「用字用語集」で「炒(いた-める)」は読み仮名なしで使用できる特例扱いとされた
; [[朝日新聞社]]『朝日新聞の用語の手引 新版(2010(2015)「朝日新聞漢字表」
: 追加(改定常用漢字表に18字追加。新聞常用漢字表の追加5字のうち「胚」は朝日新聞漢字表には追加されない。'''強調部'''は新聞常用漢字表の追加字。従来「冤(エン)」が独自に追加されていたが、常用漢字表改定を機に表内字扱いを取りやめた<!-- 朝日新聞2010年12月1日朝刊27面(縮刷版27ページ) -->)
:* '''磯(いそ) '''炒(いた-める) 笠(かさ) '''絆(きずな) '''杭(くい) 釘(くぎ) 栗(くり) 捧(ささ-げる) 獅(シ) '''哨(ショウ) 疹(シン) '''蘇(ソ) 竪(たて) 杖(つえ) 辻(つじ) 扮(フン) 牢(ロウ) 禄(ロク)
: 追加する字訓(新聞常用漢字表の追加音訓のうち「虹」の字音「コウ」は朝日新聞漢字表には追加されない。'''強調部'''は新聞常用漢字表の追加字訓)
:* 懐(なつ-こい) 近(ちか-しい) 空(むな-しい) 経(た-つ) '''鶏(とり)''' 巧(たく-む) 失(う-せる) '''証(あか-す)''' 潜(ひそ-める) 発(た-つ) 絡(から-げる)
: 表外字として扱う常用漢字66字(新聞常用漢字表が使わないとした7字を全て含む。「謁」「濫」は引き続き表外字扱い)
:* 挨 曖 畏 彙 咽 鬱 畝 謁 艶 虞 苛 劾 蓋 顎 且 毀 僅 憬 梗 喉 傲 刹 拶 恣 摯 璽 羞 遵 凄 脊 羨 詮 箋 塑 遡 唾 堆 戴 但 綻 緻 嫡 捗 朕 椎 塡 貪 氾 汎 罷 膝 肘 附 訃 蔽 貌 昧 又 冶 瘍 沃 辣 濫 慄 弄 麓
: 表外音訓として扱う38字の41音訓
; [[読売新聞社]]『読売新聞用字用語の手引』第3版「常用漢字表[新聞協会新聞用語懇談会および本社が使用を決めた字種、音訓を含む]」
:* 嘲(あざけ-る) 怨(エン) 牙(ガ) 瓦(ガ) 潰(カイ) 嗅(キュウ) 錦(キン) 詣(ケイ) 隙(ゲキ) 繭(ケン) 塞(サイ、ソク) 蔑(さげす-む) 賜(シ) 餌(ジ) 𠮟(シツ) 袖(シュウ) 宵(ショウ) 憧(ショウ) 拭(ショク) 痩(ソウ) 貼(チョウ) 拙(つたな-い) 諦(テイ) 溺(デキ) 萎(な-える) 妬(ねた-む) 罵(ののし-る) 剝(ハク) 眉(ビ、ミ) 餅(ヘイ) 詔(みことのり) 陵(みささぎ) 淫(みだ-ら) 冥(ミョウ) 湧(ユウ) 窯(ヨウ) 藍(ラン) 籠(ロウ、こ-もる)
: 新聞常用漢字表に「栗(くり)」1字を追加。
; [[読売新聞社]]『読売新聞用字用語の手引』第34版「常用漢字表[新聞協会新聞用語懇談会および本社が使用を決めた字種、音訓を含む]」
: 新聞常用漢字表に「卿(キョウ、ケイ)」「栗(くり)」12字を追加。
; [[日本放送協会]]『NHK漢字表記辞典』「常用漢字一覧」「NHKが独自に使うことを決めた漢字と音訓」
: 新聞常用漢字表に「鵜(う)」「炒(いた-める)」「肛(コウ)」「諜(チョウ)」「挽(バン)」「禄(ロク)」の6字を追加。
; [[毎日新聞社]]『電子書籍版 &#x003A; 毎日新聞用語集』(2014年)「毎日漢字表」「毎日漢字音訓表」
: 新聞常用漢字表に「炒(いた-める)」「蘇(ソ)」「呆(ホウ)」3字を追加。
: 新聞常用漢字表に「降(くだ-す、くだ-る)」「還(かえ-す、かえ-る)」の4訓を追加。
 
== 脚注 ==
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* 朝日新聞社用語幹事編『日常語診断4』朝日新聞社(朝日ブックレット ; 12)、1983年
* 朝日新聞社用語幹事編『朝日新聞の用語の手引』[[朝日新聞出版]]、2010年 ISBN 9784022289155
* 朝日新聞社用語幹事編『朝日新聞の用語の手引 新版』朝日新聞出版、2015年 ISBN 9784022289162
* 共同通信社編著『新・記者ハンドブック : 用字用語の正しい知識』改定新版、共同通信社、1973年
* 共同通信社編著『記者ハンドブック : 新聞用字用語集』第12版、共同通信社、2010年 ISBN 9784764106192
* 時事通信社編著『最新用字用語ブック』第6版、時事通信社、2010年 ISBN 9784788710795
* [[NHK放送文化研究所]]編『NHK漢字表記辞典』[[NHK出版]]、2011年 ISBN 9784140112991
* 毎日新聞社編『[http://blog.mainichi-kotoba.jp/2014/11/blog-post_8.html 電子書籍版 毎日新聞用語集]』毎日新聞社、2014年
* 読売新聞社編著『読売新聞用字用語の手引』第3版、[[中央公論新社]]、2011年 ISBN 9784120042218
* 読売新聞社編著『読売新聞用字用語の手引』第4版、[[中央公論新社]]、2014年 ISBN 9784120045981
* [[文化審議会]] 第11回国語分科会漢字小委員会 [http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongoseisaku/bunkasingibunkashingikai/kanji_11kokugo/kanji_kako/11/gijiroku.html 議事録] 配布資料:金武伸弥「[http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongoseisaku/bunkashingikai/kokugo/bunkasingikanji_kako/kanji_1111/pdf/siryou_2.pdf 新聞表記の現状と制定経緯 -常用漢字表との異同を中心に-]」
* 金武伸弥著『新聞と現代日本語』[[文藝春秋]]([[文春新書]] ; 366)、2004年 ISBN 4166603663