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== 糖尿病性多発神経障害 ==
糖尿病性多発神経障害は糖尿病患者の大半が罹患し、緩徐だが確実に進行し、激しいしびれや疼痛のためADLが著しく阻害される場合があり、自律神経障害のため生命予後が短縮するため最も問題となる病型である。糖尿病性多発神経障害の頻度は血糖コントロールが悪いほど、糖尿病の罹患年数が長引くほど高くなる。病理学的には遠位性軸索障害(dying-back degeneration)である。糖尿病性多発神経症状は足首より近位に運動感覚症状が広がることはかなり進行した症例に限られ、手に足病変類似の変化がでることは少ない。
 
=== 成因 ===
特にポリオール代謝の活性の亢進、プロテインキナーゼC(PKC)活性異常、酸化ストレスの増加、グリケーションの増加が糖尿病慢性期合併症で重要な役割を担っている。
;ポリオール代謝
[[ポリオール]]は2価以上の水酸基を有する糖アルコールの総称で、グルコースのポリオールは[[ソルビトール]]と言われる。ポリオール経路はグルコースからソルビトール、ソルビトールから[[フルクトース]]というわずか2段階の反応から成り、[[アルドース還元酵素]]がその律速段階である。ポリオール代謝と他の成因との間に密接なクロストークが存在する。末梢神経ではシュワン細胞における'''ポリオール代謝亢進'''が神経障害の発症、進行に深く関与すると考えられる。アルドース還元酵素阻害薬である[[エパルレスタット]]が日本で開発され臨床応用されている。
;プロテインキナーゼC
[[プロテインキナーゼ]]C(PKC)は細胞に普遍的に発現しているキナーゼであり、[[リン脂質]]、カルシウムイオン、ジアシルグリセロールなどにより活性化される。糖尿病の末梢神経では血管系組織主体の神経外膜でPKC活性が亢進し、神経系主体の神経内膜でPKC活性は低下する。神経系のPKC活性の低下、血管系のPKC活性の亢進が神経機能障害の原因となる。
;酸化ストレス
[[活性酸素]]の過剰産出または好まざる組織での活性酸素の産出が抗酸化酵素や[[抗酸化物質]]の能力を上回り、局所で産出と消去のバランスが崩れると活性参加による細胞や組織の障害が発生する。この状態を[[酸化ストレス]]と呼んでいる。末梢神経は酸化ストレス防御機構が脆弱であり酸化ストレスが神経障害の発症や進展に寄与している。抗酸化薬である[[αリポ酸]]は糖尿病性神経障害を改善させることが報告されている。ドイツでは臨床応用されているが日本人ではαリポ酸による[[インスリン自己免疫症候群]]が報告されており内服には特別な配慮が必要である。
;グリケーション異常
グリケーション異常としてはAGE-RAGE系が重要である。AGE-RAGE系は高血糖の記憶を形成するのに関わっている。これは[[終末糖化産物]](AGEs)とその受容体であるRAGEによる系である。AGEsは糖による蛋白、脂質、核酸の非酵素的糖化反応([[メイラード反応]])の結果、生体内に促進的に形成・蓄積される糖化修飾物質の総称である。AGEsは酸化ストレスや炎症、高血糖下で内因性に形成されるだけでなく外因性に食品中や喫煙により摂取されている。糖尿病患者がある程度の期間高血糖に暴露されてしまうと生体がそれを「高血糖のつけ・借金」として認識してしまい、その後血糖コントロールを図っても必ずしも血管合併症の進展を抑えることができないという現象である。
;神経栄養因子
末梢神経系は中枢神経系とことなり再生能力を有するが糖尿病性神経障害では再生能力が極端に低下している。[[神経栄養因子]]である[[NGF]]、IL、[[VEGF]]、[[IGF]]などを投与したり[[ウイルスベクター]]を用いた[[遺伝子治療]]、神経栄養因子補充を目的とした骨髄由来間葉系幹細胞、骨髄由来内皮細胞前駆細胞移植などの[[細胞移植]]による治療も研究されている。
;血流障害
糖尿病性神経障害では血流障害が発症に関与している。大血管や小血管の内皮細胞の障害で虚血や再灌流障害が起こる。
 
=== 神経症候学 ===