「恒温動物」の版間の差分

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== 概説 ==
生物における恒温性とは体温の自律的な恒常性のことを指す。[[哺乳類]]・[[鳥類]]においては、かつては固有かつ普遍の特殊形質であると思われていたこともあるほど一般的に認められる生理的性質である。このため、「恒温動物」という用語は(深い検討を欠いたまま)哺乳類と鳥類のこととほぼ同義的に用いられていた。しかし、生物の体温に関する様々な事実の発見が積み重なるにつれて、それは事実誤認であることがわかってきた。そのため、近年用法が変化してきたり使用頻度が減ってきている用語である。
 
関連した生物学用語として、「内温性」「外温性」「異温性」がある。
また、より非活動的な生物、例えば植物ではごく少数例しか発見されていない。恒温性とされるのは2007年現在世界で上記の[[ハス]]・[[ザゼンソウ]]・[[ヒトデカズラ]]の3種でしかも恒温部分は開花中の花器ないし花序のみである。内温性はより広くの種や部位で認められ、例えば多くの大型樹木は早春の萌芽期初期には周囲の雪が融解するほど体温を上昇させ、幹で数度の温度を保つ。このことにより、零度以下の気温の中で糖類の転流を促進する。これも恒温性とは見なせないが、広くとらえれば内温性とは見なせる。</br>
=== 欠点 ===
恒温といえるほどに体温を安定させるためには産熱と冷却を行わねばならない。後述するように[[体温]]を上昇させることは産熱を盛んにし体表面の断熱性を向上させればよいので比較的容易である。しかし、外気温以上に冷却することは困難である。そのためか、多くの恒温動物、特に放熱に不利な陸上生物では住環境温度よりもかなり高い体温(30-44℃)を持つのが普通である。多くの鳥類や哺乳類、ミツバチなど高度の体温恒常性を持つ生物では、低気温時のみならず休息や睡眠時にもさほど体温を下げられない(下げると死亡する。=[[低体温症]]を参照)。この体表から逃げる熱を補うための熱を体内で作り続ける=餌が大量に必要であり、[[食糧]]確保の面で変温動物よりもリスクが大きい。おおざっぱに言って、同程度の体重の変温動物の数十倍程度(双方最適体温の時。同体温で比べれば数倍程度)の[[代謝]]率(≒必要食料量および産熱量)であるとされている。例えば、[[コアラ]]と[[ナマケモノ]]は樹上で木の葉を摂食し、ほとんどを眠って過ごすというよく似た生態と同程度の体重を持つ哺乳類であるが、典型的な恒温動物とされる[[コアラ]]の日当たり摂食量は500g以上に達するのに対し、典型的変温動物とされる[[ナマケモノ]]は10g程度である。</br>
このため、体温の維持が難しい寒冷地に生息する小型種を中心に休息時や[[冬眠]]・[[睡眠]]時、低気温時などでは維持設定体温を下げる、もしくは体温を維持しないという適応するものが存在する<ref name="drop body temp"/>。</br>
 
例えば[[トラ]]では[[シベリア]]の[[亜種]]([[アムールトラ]])が最も体格が大きく、[[ジャワ]]の亜種([[ジャワトラ]])で最も小さい。[[イエスズメ]]では、[[北米]]に[[ヨーロッパ]]から移入されてから150年程度で[[フロリダ]]の集団と[[カナダ]]の集団では亜種レベルの体格差が生じたことが知られている。同一個体中でも、ウミガメやマグロ類では[[熱帯]]や[[亜熱帯]]の浅海域で成長し、大型になるに従って[[高緯度]]地域や[[深海]]域に活動範囲を広げる。例えば[[オサガメ]]の成体は[[亜寒帯]]域まで生息するが、産卵は主に[[熱帯]]域、幼体は[[亜熱帯]]域までしか認められていない。[[クジラ]]類では食料が少ないにもかかわらず温帯域や亜熱帯域まで移動して産仔を行う[[種 (分類学)|種]]が多い。亜寒帯以北で生活環を完了するネズミザメでは一腹産子数は4匹以下と少なく、体長80cm程度以上の大きな子供を産む。一方、[[比熱]]・[[熱伝導率]]が大きく放熱に有利な水中環境では大型化できる。[[クジラ]]類は[[海]]水に熱を逃がすことができるため例外的に巨大化しているが海水に浸かっていないと体温が上がりすぎて死に至るといわれる。また、大型の[[マグロ]]類を釣り上げたときは速やかに冷却しないと急速に体温が上昇するため肉が傷み(ヤケ)商品とならないことが知られている。
 
最小級の哺乳類と鳥類である[[トウキョウトガリネズミ|チビトガリネズミ]]、[[キティブタバナコウモリ]]や[[マメハチドリ]]、前述の[[スズメガ]]や[[ヤンマ]]類の体重も1.5g程度以上であり、1個体のみで体温を安定的に維持するのはこの辺が限界であろうとされている。彼らは大量の餌を採るが、その多くは体温維持にのみ使われているわけである。[[ハチドリ]]や[[コウモリ]]はあまりの小型化したため恒常的な体温維持が難しくなったため、前記のような変温的な体温制御をおそらく再獲得したのであろう。だが、その制御は不完全なため<ref>例えばマルハナバチは蜜量が多い花では低気温下でも安定した高体温で高速に採蜜するが、蜜量が少ない花では高気温時に低体温(変温)で採蜜する。また、スズメガやヤンマは激しい活動を行わない幼虫時は典型的な変温動物である。ハチドリではこのような細かい体温制御方法の変更は報告されていない</ref>か、よく似た[[ニッチ]](生態的地位)を占める[[スズメガ]]や[[ヤンマ]]に比べ分布域、種数ともに大幅に少ない。[[トガリネズミ]]は相当するニッチを占める動物がないためか全世界的に分布する。しかし、地上徘徊性[[食虫動物]]としては、同程度の大きさの[[オサムシ]]や[[ムカデ]]、[[カエル]]や[[トカゲ]]より繁栄しているとは言い難い。このように小型動物の[[ニッチ]]の多くは変温的体温調節のできる[[昆虫]]を始めとした[[節足動物]]、[[爬虫類]]、[[両生類]]、[[魚類]]などで占められている。
 
=== 慣性恒温性と運動による恒温性 ===
現生動物で慣性恒温性を積極的に利用しているとされるものには、皮肉なことに哺乳類の[[ラクダ]]がある。ラクダでは飲食物が欠乏する場合、昼夜温の差が激しい砂漠において、夜は低体温を許容し、昼は高体温を許容する。このことにより、その大きな体格による熱慣性を利用して、比較的低コストで一日を通しての体温変動を少なくしているとされている([[アフリカゾウ]]も同様のことをしている可能性が指摘されている。もしそうであれば、ゾウはGigantothermと本当にいっていいかもしれない)。慣性恒温性とはいえないが積極的に大きな体格による熱慣性を利用している他の例としては、ガラパゴスの[[ウミイグアナ]]がある。[[ウミイグアナ]]は日光浴をして体温を上げた後に冷たい海中で海藻を摂食する。[[ウミイグアナ]]が同所的に生息する[[リクイグアナ]]よりも体格が大きいのはこの時に熱慣性が大きいことが有利であるからであるとの説がある。
 
静止時、つまり運動による産熱がない状態で、体温を保てるかどうかで恒温性かどうか区別することもある。マグロ類やネズミザメは生きている限り運動を続けるので、わざわざ別途の産熱機能を持つ必要がない。そして10℃水中で長時間体温(そして生命も)を保てる哺乳類や鳥類は少数派であるが、[[ネズミザメ]]や[[マグロ]]は保てる。つまりこれも、[[深層意識]]として「鳥類や哺乳類は特別優秀」という意識が働いているためにする区別であろう。
 
=== アレンの法則と表面形状 ===
また、[[骨]]や[[歯]]、[[角]]、[[鱗]]、[[耳石]]のような硬組織における[[年輪]]のような[[成長線]]の有無で恒温と変温の推定をすることもあるが、これはその個体の当該硬組織の成長速度に大きな変動があり、かつ、それが残ったことを示しているに過ぎない。つまり、成長線があったからと言って、変温動物である、もしくは無ければ恒温動物である、とはいえない(つまり化石などによる体温調節能の憶測は非常に困難)。
 
現生生物の例では、通常典型的な恒温動物である大型哺乳類にも成長線が形成されるものがたくさん存在する。[[クジラ]]類の[[歯]]や[[骨]]、[[ウシ]]類の[[角]]や[[象牙]]には明確に成長線があり、[[シカ]]類の骨格や歯にもしばしば認められる。また、通常、成長線のできない[[ヒト]]の[[骨]]においても、季節的に飢餓状態に置かれたことによると思われる成長線(飢餓線:ハリス線、Harris' Line)が認められる例がある。野生の[[イノシシ]]の牙には通常明瞭な成長線があるが、飼育下の[[ブタ]]では観察されない。<ref>熊本大学社会文化研究7(2009) 155ブタ・イノシシ歯牙セメント質年輪の形成要因と考古学的応用</ref>これも野生下では栄養状態に季節的変動があるが飼育下ではほとんどいことが原因であろうと推定されている。<ref>R.M.Laws Age determination of Pinpeds with special reference to growth layersm the teeth. Zoo geogegraphical rerationship saugetierk 1962.27:l29-l46</ref><ref>[[大泰司紀之]]「ニホンジカ第一切歯、第一臼歯セメント質を用いた年齢鑑定」「解剖学雑誌」48巻1973</ref><ref>Helen Grue and Birger Jensen 1973 Review of the formation of incremented lines in tooth cementum of terrestrial mammals. Danish review of game biology 11:pp3-48</ref>
 
季節変動のある地域で数年以上にわたって成長し、成長が季節変動する変温動物は数多くあるが、その硬組織に成長の変動が残るとも限らない。例えば[[セミ]]や[[ロブスター]]は何年にもわたって成長する変温動物であるが、硬組織を脱皮によって捨てるため成長線は残らない。当たり前であるが季節変動のない地域に生息している変温動物、例えば熱帯の[[ワニ]]類や[[ニシキヘビ]]類には基本的に成長線は認められない。