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抗腫瘍作用、痴呆症との関連、出典に基づく追記。
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{{記事名の制約|ビタミンB<{{sub>|6</sub>}}}}
'''ビタミンB<{{sub>|6</sub>}}''' (vitamin B<{{sub>|6</sub>}}) には、'''[[ピリドキシン]]''' (pyridoxine)、'''[[ピリドキサール]]''' (pyridoxal) および'''[[ピリドキサミン]]''' (pyridoxiamine) があり、[[ビタミン]]の中で[[水溶性ビタミン]]に分類される生理活性物質である。
 
生体内では[[アミノ酸]]の代謝や[[神経]]伝達に用いられ、不足すると[[痙攣]]や[[てんかん]]発作、[[貧血]]などの症状を生じる。[[ヒト]]の場合、[[腸]]内通常[[細菌]]食物に含まれるため食事合成する原因で不足すること欠乏症ないまれいわれる<ref>http://www.biochem.osakafu-u.ac.jp/NC/NutrChem1.pdf {{リンク切れ|datename=2012年11月}}<"merck_ch004"/ref>が、食品加工工程中での減少や[[抗生物質]]の使用などによって不足することも考えらある。抗[[結核]]薬の[[イソニアジド]](INH)は、ビタミンB{{sub|6}}と構造が似ており、ビタミンB{{sub|6}}に拮抗して副作用を引き起こすことがある。そのためイソニアジドとビタミンB{{sub|6}}は、しばしば併用される。欠乏すると様々な症状を呈する<ref name="merck_ch004">[http://merckmanual.jp/mmpej/sec01/ch004/ch004i.html ビタミンB6欠乏症と依存症] メルクマニュアル</ref>
抗[[結核]]薬の[[イソニアジド]](INH)は、ビタミンB<sub>6</sub>と構造が似ており、ビタミンB<sub>6</sub>に拮抗して副作用を引き起こすことがある。そのためイソニアジドとビタミンB<sub>6</sub>は、しばしば併用される。欠乏すると様々な症状を呈する<ref name="merck_ch004">[http://merckmanual.jp/mmpej/sec01/ch004/ch004i.html ビタミンB6欠乏症と依存症] メルクマニュアル</ref>。
 
補酵素形は[[ピリドキサール-5'-リン酸]]である。
 
== 構造式 ==
{| style="text-align: center"
| [[画像:Pyridoxine.svg|120px|ピリドキシンの構造式]] || [[画像:Pyridoxal.svg|120px|ピリドキサールの構造式]] || [[画像:Pyridoxiamine.svg|120px|ピリドキサミンの構造式]]
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== 機能 ==
ビタミンB6の[[代謝]]で活性な形態である[[ピリドキサールリン酸]]は、主要な[[栄養素]]の代謝、[[神経伝達物質]]合成、[[ヒスタミン]]合成、[[ヘモグロビン]]合成及び[[遺伝子発現]]などの多くの反応に関与している。ピリドキサールリン酸は一般的に多くの反応の[[補酵素]]として機能し、[[脱炭酸]]、[[転移]]、[[ラセミ化]]、[[離脱]]、[[置換]]およびβ-基の反応を促進する<ref name="Combs">Combs, G.F. The Vitamins: Fundamental Aspects in Nutrition and Health. 2008. San Diego: Elsevier</ref>。また、抗腫瘍作用の存在が指摘されている<ref name=jsnfs.68.13 />。ビタミンB6による代謝は[[肝臓]]で行われる。
 
=== アミノ酸の代謝 ===
ピリドキサールリン酸(PLP) (PLP) は、[[アミノ酸]]を異化する[[トランスアミナーゼ]]補因子である。 ピリドキサールリン酸は、2つの反応を経由して[[システイン]]に[[メチオニン]]に変換する2つの酵素の必須成分である。ビタミンB6が欠乏した状態では、これらの酵素の活性の低下をもたらすことになる。 ピリドキサールリン酸はまた、[[セレノメチオニン]]から[[セレノホモシステイン]]への代謝に関与する[[酵素]]に不可欠な補因子であり、その後、セレノホモシステインから[[セレン化水素]]になる。ビタミンB6は、[[トリプトファン]]から[[ナイアシン]]への変換のために必要とされ、ビタミンB6が低い状態はこの変換に支障を来すことになる<ref name="Combs"/>。 またピリドキサールリン酸は、アミノ酸の脱カルボキシル化によって生理学的に活性な[[アミン]]を生成する際に使用される。これのいくつかの注目すべき例としては、[[ヒスチジン]]から[[ヒスタミン]]を、[[トリプトファン]]から[[セロトニン]]を、[[グルタミン酸]]から[[γ-アミノ酪酸]](GABA) (GABA) を、[[レボドパ|ジヒドロキシフェニルアラニン]]から[[ドーパミン]]を生成させることがあげられる。
=== アミノ酸の代謝糖新生 ===
ビタミンB6は、[[糖新生]]においても役割を果たしている。ピリドキサールリン酸は、糖新生の基質として利用されるアミノ酸に必須である[[転移反応]]を触媒することができる。また、ビタミンB6は、[[グリコーゲン]]分解が起こるために必要な酵素である[[グリコーゲンホスホリラーゼ]]の必須補酵素である。
ピリドキサールリン酸(PLP)は、[[アミノ酸]]を異化する[[トランスアミナーゼ]]補因子である。 ピリドキサールリン酸は、2つの反応を経由して[[システイン]]に[[メチオニン]]に変換する2つの酵素の必須成分である。ビタミンB6が欠乏した状態では、これらの酵素の活性の低下をもたらすことになる。 ピリドキサールリン酸はまた、[[セレノメチオニン]]から[[セレノホモシステイン]]への代謝に関与する[[酵素]]に不可欠な補因子であり、その後、セレノホモシステインから[[セレン化水素]]になる。ビタミンB6は、[[トリプトファン]]から[[ナイアシン]]への変換のために必要とされ、ビタミンB6が低い状態はこの変換に支障を来すことになる<ref name="Combs"/>。 またピリドキサールリン酸は、アミノ酸の脱カルボキシル化によって生理学的に活性な[[アミン]]を生成する際に使用される。これのいくつかの注目すべき例としては、[[ヒスチジン]]から[[ヒスタミン]]を、[[トリプトファン]]から[[セロトニン]]を、[[グルタミン酸]]から[[γ-アミノ酪酸]](GABA)を、[[レボドパ|ジヒドロキシフェニルアラニン]]から[[ドーパミン]]を生成させることがあげられる。
=== 糖新生 ===
ビタミンB6は、[[糖新生]]においても役割を果たしている。ピリドキサールリン酸は、糖新生の基質として利用されるアミノ酸に必須である[[転移反応]]を触媒することができる。また、ビタミンB6は、[[グリコーゲン]]分解が起こるために必要な酵素である[[グリコーゲンホスホリラーゼ]]の必須補酵素である。
=== 脂質代謝 ===
ビタミンB6は、[[スフィンゴ脂質]]を生合成する酵素の必須成分である<ref name="Combs"/>。特に、[[セラミド]]の合成は、ピリドキサールリン酸を必要とする。この反応において、[[セリン]]は脱炭酸され、[[パルミトイル]]CoAと結びついて[[スフィンガニン]]を生成する。これは[[脂肪酸]][[アシルCoA]]と結びついて[[ジヒドロセラミド]]を生成する。ジヒドロセラミドは、不飽和化されてセラミドを生成する。 [[スフィンゴシン-1-リン酸]]を分解する酵素[[S1P]][[リアーゼ]]もピリドキサールリン酸に依存するため、スフィンゴ脂質の分解もビタミンB6に依存している。
== 代謝機能 ==
ビタミンB6の主な役割は、代謝に関与する体内の多くの他の酵素の補酵素として作用することである。この役割は、活性型のピリドキサールリン酸によって行われる。この活性型は、食品に含まれている[[ピリドキサール]]、[[ピリドキシン]]及び[[ピリドキサミン]]から変換される<ref name="pmid21005738 ">{{cite journal | author = Lichtstein HC, Gunsalus IC, Umbreit WW | title = Function of the vitamin B6 group; pyridoxal phosphate (codecarboxylase) in transamination | journal = J Biol Chem. | volume = 161 | pages = 311–20 | year = 1945 | pmid = 21005738 | url=http://www.jbc.org/content/161/1/311.full.pdf | format=PDF | issue=1}}</ref>。
 
ビタミンB6は、以下の代謝過程に関与している。
* アミノ酸、[[グルコース]]および[[脂質代謝]]
* 神経伝達物質合成
* ヒスタミン合成
* ヘモグロビン合成と機能
* 遺伝子発現
 
=== アミノ酸代謝 ===
ピリドキサールリン酸は、合成から分解までのほぼすべてのアミノ酸代謝に関与する。<br>
1.# アミノ基転移:アミノ酸を分解するのに必要な[[トランスアミナーゼ]]酵素はピリドキサールリン酸の存在に依存している。これらの酵素の活性は、アミン基を元のアミノ酸から別のアミノ酸などに移動させるのに重要である。<br>
2.# 含硫基移動:ピリドキサールリン酸が[[シスタチオニン]]合成酵素と[[シスタチオナーゼ]]の機能のために必要な補酵素である。これらの酵素は、メチオニンをシステインに変換する。<br>
3.# セレノアミノ酸代謝:[[セレノメチオニン]]は、食餌中に存在する[[セレン]]の主要な形である。ピリドキサールリン酸は、食餌中のセレン化合物を利用できるような酵素の補因子として必要とされる。ピリドキサールリン酸は、[[セレノホモシステイン]]から[[セレン化水素]]を生成してセレンを放出する補因子の役割を果たしている。セレン化水素は、セレンをセレン含有タンパク質中に組み込むことができる<ref name="Combs"/>。<br>
4.# ビタミンB6はまた、トリプトファンからナイアシンを生成するために必要とされ、ビタミンB6の欠乏はこの変換を損うことになる。
 
=== 神経伝達物質の合成 ===
ピリドキサルリン酸依存性酵素は、[[セロトニン]]、[[ドーパミン]]、[[アドレナリン]]、[[ノルアドレナリン]]及び[[γ-アミノ酪酸]](GABA)の5つの重要な神経伝達物質の生合成において役割を果たす<ref name="Combs"/>。 神経修飾物質のD-セリンを合成する[[セリン]][[アミノ酸ラセマーゼ|ラセマーゼ]]も、ピリドキサールリン酸依存性酵素である。
=== ヒスタミン合成 ===
ピリドキサールリン酸は、ヒスタミンの代謝に関与している<ref name="Combs"/>。
=== ヘモグロビン合成と機能 ===
ピリドキサールリン酸は、[[アミノレブリン酸シンターゼ]]の補酵素として働くことによって[[グリシン]]と[[スクシニルCoA]]がD-[[アミノレブリン酸]]へ縮合することでヘモグロビンの合成の第一歩を行う<ref>{{cite web|url=http://www.rpi.edu/dept/bcbp/molbiochem/MBWeb/mb2/part1/heme.htm |title=Heme Synthesis |doi=10.1042/BJ20030513 |publisher=Rpi.edu |accessdate=2012-11-02}}</ref>。また、ピリドキサールリン酸は、ヘモグロビンの酸素結合を強化するために、ヘモグロビンの2つの部位に結合する<ref name="Combs"/>。
=== 遺伝子発現 ===
ビタミンB6は、ホモシステインをシスタチオニンを経てシステインに変換する。ピリドキサールリン酸は、特定の遺伝子の発現の増減に関与している。細胞内のビタミンの増加レベルは、[[グルココルチコイド]][[ホルモン]]の転写の減少につながる。また、ビタミンB6欠乏症は、[[アルブミン]][[mRNA]]の発現の増加につながる。また、ピリドキサールリン酸は、種々の転写因子と相互作用することにより、[[糖タンパク質]]IIbの遺伝子発現に影響を与え、[[血小板]]凝集の阻害をもたらす<ref name="Combs"/>。
 
== 欠乏症 ==
* [[ペラグラ様症候群]]、[[脂漏性皮膚炎]]、[[舌炎]]、[[口角症]]、リンパ球減少症。成人では希に、うつ状態、錯乱、脳波異常、痙攣発作。
 
成人では希に、うつ状態、錯乱、脳波異常、痙攣発作。
[[ホモシステイン]]の代謝が十分に行われず高ホモシステイン血症を呈し、[[痴呆症]]との関連性が指摘されている<ref name=jsnfs.68.13>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/68/1/68_13/_article/-char/ja/ 叶内宏明、ビタミンB{{sub|6}}の抗腫瘍作用およびホモシステインの神経傷害の作用機序,食品摂取頻度と血漿ホモシステイン濃度に関する研究] 日本栄養・食糧学会誌 Vol.68 (2015) No.1 p.13-17, {{DOI|10.4327/jsnfs.68.13}}</ref>。
 
=== ギンナン食中毒 ===
[[イチョウ]]の[[銀杏]]にはビタミンB<{{sub>|6</sub>}}の類縁体4-O-メチルピリドキシン ([[ギンコトキシン]]、4-O-methylpyridoxine、MPN) が含まれているが、これはビタミンB<{{sub>|6</sub>}}に拮抗してビタミンB<{{sub>|6</sub>}}欠乏症を呈し[[Γアミノ酪酸|GABA]]の生合成(GABAは脳内で[[グルタミン酸]]のα位の[[カルボン酸|カルボキシル基]]が[[酵素]]反応により除かれることによって生成)を阻害し、まれに[[痙攣]]などを引き起こす。大人の場合かなりの数を摂取しなければギンナン食中毒になることはないが、場合によっては、1日5 - 6粒程度でも中毒になることがあり、特に報告数の70%程度が5歳未満の小児である<ref>[http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~wadakg/keyword/ginkgofoodp.html 北海道医療大学薬学部 - 銀杏食中毒とは] 最終更新日:2010.6.17</ref>。
 
=== 中華料理店症候群 ===
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== 過剰症 ==
ピリドキサンははっきりとした毒性を示す唯一の水溶性ビタミンである。栄養所要量(RDA)の100倍以上、200mg/日以上を摂取すると神経症状(感覚神経障害)が生じる。ピリドキサンの摂取を止めると、完全ではないにしろ十分な改善が認められる。ビタミン欠乏性[[ニューロパシー]]のビタミン補給療法実施時に、進行性感覚性失調、重度の位置感覚、振動感覚障害を含む靴下-手袋状に現れる末梢神経障害<ref name="merck_ch004"/><ref>[http://dx.doi.org/10.2169/naika.81.219 高橋和郎:ビタミン補給療法の再検討] 日本内科学会雑誌 Vol.81 (1992) No.2 P219-221, {{DOI|10.2169/naika.81.219}}</ref>
ピリドキサンははっきりとした毒性を示す唯一の水溶性ビタミンである。
栄養所要量(RDA)の100倍以上、200mg/日以上を摂取すると神経症状(感覚神経障害)が生じる。
ピリドキサンの摂取を止めると、完全ではないにしろ十分な改善が認められる。
ビタミン欠乏性[[ニューロパシー]]のビタミン補給療法実施時に、進行性感覚性失調、重度の位置感覚、振動感覚障害を含む靴下-手袋状に現れる末梢神経障害<ref name="merck_ch004"/><ref>[http://dx.doi.org/10.2169/naika.81.219 高橋和郎:ビタミン補給療法の再検討] 日本内科学会雑誌 Vol.81 (1992) No.2 P219-221</ref>
 
== 脚注 ==
<references />
 
== 関連項目 ==
* [[栄養学]] - [[栄養素]]
 
== 外部リンク ==
* [http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail149.html ビタミンB6解説 -「健康食品」の安全性・有効性情報] ([[国立健康・栄養研究所]])
* [http://hfnet.nih.go.jp/contents/indiv_agreement.html?48 ビタミンB6 -「健康食品」の安全性・有効性情報] (国立健康・栄養研究所)
 
{{ビタミン}}