「ワグナーチューバ」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
Hidecchi (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
17行目:
'''ワーグナーチューバ'''('''Wagner tuba''')は、[[オーケストラ]]で稀に見かける中低音域の[[金管楽器]]であり、主に[[ホルン]]奏者が持ち替えて演奏する。外観は、ドイツや東欧の吹奏楽に用いられる[[ユーフォニアム#ユーフォニアムと音域が近い楽器|テノールホルン]]や[[ユーフォニアム#各国のユーフォニアム|バリトン]]とよく似ているが、使われるマウスピースや楽器の構造が異なる。
 
== 成り立ち ==
この楽器は、[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]が『[[ニーベルングの指環]]』の上演に当たり、新たな音色を求めて編成に採り入れたものである。
 
28行目:
実際、ワグナーチューバ登場以前の類似の楽器は、枚挙に暇がない。例えば1844年にチェコの金管楽器製作者ヴァーツラフ・チェルヴェニー([[:cs:Václav František Červený|Václav František Červený]])の考案したチューバに似た金管楽器「コルノン」(cornon)は、ホルンと同じような小型のマウスピースを用い、左手で[[金管楽器#バルブ|ヴァルヴ]]を操作するものであったことが確認できる<ref>Günter Dullat "V.F.Červený & Söhne" Günter Dullat, Nauheim 2003 P.27-28</ref>。[[ユーフォニアム#ユーフォニアムと音域が近い楽器|テノールホルン]]や[[ユーフォニアム#各国のユーフォニアム|バリトン]]も、すでに登場していた。従って、リヒターが新しい楽器の製造依頼に奔走したのは、「全く新しい楽器の発明」というよりも、むしろ「ホルン奏者が演奏できるチューバの必要性」という切実な事情によったのではないかとも考えられる。
 
== 構造 ==
[[ホルン|フレンチ・ホルン]]より太く[[チューバ|バス・チューバ]]より細い円錐管を持つ。マウスピースはチューバのような茶碗形の浅めで大きなカップのものではなく、ホルンで用いられるシャンパン・グラス状のカップが深く小さいものを使う。ホルン奏者が演奏することを前提としているため、他の金管楽器とは異なり、右手でなく左手で[[金管楽器#バルブ|ヴァルヴ]]を操作するよう設計されている。
 
== 種類 ==
ワーグナーチューバには変ロ調(B♭)のテナーとヘ調(F)のバスの2種類がある。現在では、[[ホルン#ダブル・ホルン|ダブルホルン]]のように一本の楽器でテナーとバスを切り替えて使用できる物も製造されている<ref name="A.H"> [http://www.y-m-t.co.jp/alexander/110.html アレキサンダー社の紹介(日本語)]</ref>。これらはいずれも[[移調楽器]]であり、実音に対して変ロ調テナーが[[音程|長2度]]高く、バスでは[[音程|完全5度]]高くそれぞれ記譜される。ワーグナー自身は後に記譜法を変更し、変ホ調(E♭)のテナー([[音程|長6度]]高い)と変ロ調(B♭)のバス(1オクターブと[[音程|長2度]]高い)という形で楽譜を書いている([[ワルキューレ (楽劇)|ワルキューレ]][[ジークフリート (楽劇)|ジークフリート]]で見られる)<ref name="A.I">伊福部昭『管絃楽法・上巻補遺』音楽之友社、1968年 ISBN 4-276-10680-x</ref>が、実際の楽器の調性が変わった訳ではない。ワーグナー以後の作曲家は、さらに1オクターブ高く移調して書いている<!--推測でしかないがホルンとの持ち替えを便利にするためか?-->(例:[[アントン・ブルックナー|ブルックナー]][[交響曲第7番 (ブルックナー)|交響曲第7番]]、[[リヒャルト・シュトラウス|R.シュトラウス]][[エレクトラ (リヒャルト・シュトラウス)|エレクトラ]]<ref name="W.P"/>)。こちらの書き方の方が一般的である<ref name="A.I"/>。
 
== 使用法 ==
ワーグナーチューバはテナー2本とバス2本の4本セットで用いることを想定して登場した楽器であり、ワーグナー以降は、[[アントン・ブルックナー|ブルックナー]]がこの編成を踏襲している。しかし、この用法に限定されず、自由に採り入れられたケースもある([[イーゴリ・ストラヴィンスキー|ストラヴィンスキー]]の『[[春の祭典]]』、[[バルトーク・ベーラ|バルトーク]]の『[[中国の不思議な役人]]』ではテナーが2パートのみ、[[リヒャルト・シュトラウス]]の[[アルプス交響曲]]ではテナーが4パートのみ)。<!--R.シュトラウスの「アルプス交響曲」では、Tenortuben が4パートあるが、Bが2つ、Fが2つになっている。なぜかFをBaßtubenとは書いていない。「ドン・キホーテ」や「英雄の生涯」の初演の後に、バリトンの方が相応しいと思ったという旨を明らかにしているくらいなので、実際にどの楽器を使うかということは、あまり頓着がなかったのだろうか-->
 
なお、スコアに変ロ調のテナーチューバ(Tenortuba, Tenor Tuba, Tuba tenore、そしてそれらの複数形など)が指定されている場合は、ワグナーチューバのテナーを想定している場合と、[[ユーフォニアム#ユーフォニアムと音域が近い楽器|テノールホルン]]や[[ユーフォニアム#各国のユーフォニアム|バリトン]]、[[ユーフォニアム]]が想定されている場合とがある。両者の判別は、ホルンからの持ち替えがあるか否かが決定的であるが、記譜法や、現場の慣例、指揮者の指示により、作曲者の意図とは別の楽器で実演される場合もある。<!--アマチュアなどでワーグナー・チューバがない場合はドイツ製の[[テナー・ホルン]]の代用が音色的にほとんど区別できないほど良く似ているので効果的である。ただし右バルヴである。--><!--アマオケ云々は余談的なので削除。テノールホルンで代用されるのはB♭管テナーのワーグナーチューバだけで、F管バスは代用されない。--><!--ワルシャワフィル来日時、トロンボーン奏者2名がバリトンでホルンパートに入り込み、「ヴァルキューレの騎行」を演奏したケースがある。パートは不明だが、バスの可能性もある。伝統的だとか演奏効果というより、来日する面子の事情だったのではないかと想像する。この一曲のためにホルンだけ多く連れてくるわけにもいかなかっただろうし、丁度ラヴェル編の「展覧会の絵」のソロでバリトンが必要だったので、アシの一人にでもバリトンを吹かせて、これで行っちゃおうということだったのかも知れない。なんだか初演時を彷彿とさせられるエピソード。)-->
 
== 使用例 ==
ワーグナーチューバの使用例は決して多いとは言えないが、ワーグナーの『ニーベルングの指環』の他にも、[[アントン・ブルックナー|ブルックナー]]の[[交響曲第7番 (ブルックナー)|第7番]]・[[交響曲第8番 (ブルックナー)|第8番]]・[[交響曲第9番 (ブルックナー)|第9番]]の交響曲、[[リヒャルト・シュトラウス]]の楽劇『[[エレクトラ (リヒャルト・シュトラウス)|エレクトラ]]』『[[影のない女]]』や[[アルプス交響曲]]、[[イーゴリ・ストラヴィンスキー|ストラヴィンスキー]]の『[[火の鳥 (ストラヴィンスキー)|火の鳥]]』や『[[春の祭典]]』、[[アルノルト・シェーンベルク|シェーンベルク]]の『[[グレの歌]]』、[[バルトーク・ベーラ|バルトーク]]の『[[中国の不思議な役人]]』などで見ることができる。
 
ワーグナーチューバが主役となる作品は極めて限られる。イギリスの作曲家アンドリュー・ダウンズ([[w:Andrew Downes (composer)|Andrew Downes]])は、2005年に8本のワーグナー・チューバのための《5 Dramatic Pieces》を作曲した[http://www.wagner-tuba.com/downes_wt_5pieces.htm]。[[ドイツ]]のボーフム交響楽団([[:de:Bochumer Symphoniker|Bochumer Symphoniker]])にはワーグナーチューバによる四重奏団があり、世界中からレパートリーを探している。
 
== 脚注 ==
{{reflist}}
 
== 外部リンク ==
*[http://www.wagner-tuba.com/ wagner-tuba.com] - 英語
 
==脚注==
{{reflist}}
 
{{オーケストラの楽器}}
56行目:
[[Category:ホルン]]
[[Category:エポニム]]
[[Category:リヒャルト・ワーグナー]]