「F-35 (戦闘機)」の版間の差分

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; AN/AAQ-40 EOTS
[[ファイル:F-35 EOTS.jpeg|thumb|250px|EOTS]]
機首下面に取り付けられた[[ロッキード・マーティン]]社とBAEシステムズ社共同開発の電子・光学式照準システムEOTS({{lang-en-short|Electro-Optical Targeting System}}:電子式光学照準システム)は、カヌー型の[[ハウジング]]に収容されてF-35の機首下面に設置されており、赤外線とレーザーを使用した目標捕捉・照準装置である。この装置は[[AN/AAQ-33|AN/AAQ-33 スナイパーXR]]をベースとしいくつかの部品を共用としたものでほぼ同等の性能・機能を備えており、長距離の空対空目標または空対地目標の探知やレーザーによる測距と目標指示を行えるものであり、[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]・[[レーザー誘導]][[兵器]]の運用が可能である。また、[[赤外線捜索追尾システム|IRST]]のような[[赤外線]]による目標探知機能を持ち、運用法の一つとして、地上目標に対する戦術[[偵察]]任務などの付与が検討されている<ref>[http://www.thedailybeast.com/articles/2014/12/26/newest-u-s-stealth-fighter-10-years-behind-older-jets.html?via=newsletter&source=CSMorning Newest U.S. Stealth Fighter ‘10 Years Behind’ Older Jets]</ref>。
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本機の[[ステルス性|高ステルス性能]]を維持するためには、[[ミサイル]]や[[爆弾]]類の機外搭載は避けて胴体内兵器倉(Weapon-bay)の中に隠し持つようにして搭載する必要がある。隠密性より[[兵器]]の搭載能力が優先される場合には、機外に7ヶ所ある[[ハードポイント]]に[[パイロン]]を装着し、合計で約8トンの重さの兵器が搭載できる<ref>{{Cite book|和書|author = 青木謙知「F-35がF-Xに選ばれた理由」|title = 軍事研究2012年​​3月号|date = 平成24年3月1日|publisher = ジャパン・ミリタリー・レビュー|series = |isbn = |ref=青木}}</ref>。
 
胴体内兵器倉は、兵器倉内天井部と内側扉内部に1ヶ所ずつ、左右合わせて4ヶ所のハードポイントを備え、空対空ミッションでは左右で最大4発のミサイルを、空対地ミッションでは2,000[[ポンド (質量)|lb]] [[JDAM]] 2発と[[空対空ミサイル#中射程|中距離空対空ミサイル]]2発を搭載可能である<ref name="F-35_brief">[http://www.jsf.mil/downloads/documents/AFA%20Conf%20-%20JSF%20Program%20Brief%20-%2026%20Sept%2006.pdf F-35 Program Brief], USAF, 26 September 2006.</ref>。空対艦ミッションでは、兵器倉には搭載できない[[ハープーン (ミサイル)|ハープーン]]などの[[対艦ミサイル]]を主翼下に搭載して運用するが、これではステルス性を損ねるため、代わりにF-35に搭載するために[[ノルウェー]]のコングスヴェルグ社がロッキード・マーティンと共同開発している、[[Joint Strike Missile|JSM]]と呼ばれるステルス性のある形状の[[空対艦ミサイル]]を兵器倉内部に搭載することとなる<ref>[http://www.kongsberg.com/en/KOG/News/2009/June/0906JSMAndLockheedMartin.aspx "Important cooperative agreement with Lockheed Martin."] ''Kongsberg Defence & Aerospace'', 9 June 2009. Quote: "The missile has a range in excess of 150 nautical miles."</ref>。また、F-35BではV/STOL時に兵器倉の内側を開き揚力増強装置としても使用する。
 
本機は3つのブロックに区分して製造され、段階的に完成度を高めていくことが計画されており、最初のブロック1<ref>前期型の「ブロック1A」と後期型の「ブロック1B」に分けられる。</ref>では、基本的な戦闘能力を持ち、兵装は[[AIM-120 (ミサイル)|AIM-120 AMRAAM]]・JDAM GPS誘導爆弾の搭載能力を持つが、次のブロック2<ref>前期型の「ブロック2A」と後期型の「ブロック2B」に分けられる。</ref>では、阻止攻撃能力・限定的な空対空能力・近接航空支援能力・敵防空制圧能力を持ち、JDAM GPS誘導爆弾以外の空対地攻撃兵器の搭載も可能となる。最後のブロック3<ref>ブロック2とほぼ同等の初期版「ブロック3I」と完全版の「ブロック3F」に分けられる。</ref>では、完全な戦闘能力を持ち、あらゆるミッションをこなすJSFとなり、計画されているあらゆる兵装の搭載が可能としている。また、ネットワークを利用した情報共有などを行う、ネットワーク・セントリック・オペレーション(NCO)構想に完全に適合する機能を有する予定である。
 
[[ロッキード・マーティン]]は、兵器倉内部のハードポイントを現状より増やす研究を行っており、ブロック3の機体からそれが可能になるとしている。ステーション数は、兵器倉内天井部は1つもしくは2つを交換式で選択できるようにし、兵器倉外側扉の内側に2ヶ所増設することで、最大5ヶ所、左右合わせて10ヶ所となる。また、内側扉内部ステーションに[[サイドワインダー (ミサイル)|AIM-9]]を搭載する際には専用の2連装[[ランチャー]]を用いるとしており、この場合だとAIM-9を2発搭載しつつ4ヶ所のステーションが使用可能となる<ref name="smsf35p51">「世界の名機シリーズF-35ライトニングII」p51</ref>。
 
なお、F-35は[[日本]]の[[F-X (航空自衛隊)|次期戦闘機]]に選定されたが、日本が独自に運用する[[99式空対空誘導弾|AAM-4]](中距離対空ミサイル)は、[[AIM-120 (ミサイル)|AIM-120]]に比べ太く、兵器システムの大部分を担任しAIM-120のメーカーでもある[[レイセオン]]によれば、F-35の胴体内兵器倉への装着は極めて困難で、機体側の改修は可能だろうが、加えて兵器システム用ソフトウェアの書き換えなどの手間と費用を考慮すれば、実績のあるAIM-120をF-35と共に導入することが合理的との見解を示している<ref name="F35-10">月刊「航空ファン」 2011年 5月号</ref>。それに対して、ロッキード・マーティンのスティーブ・オブライアン副社長は、長さがほぼ同じであればスペース的な問題は生じず、太さ1インチ(=2.54cm)の差というのは大した差ではなく、装着用アタッチメントを変更するだけで済むので、このことが大きな問題になることはないとの見解を示している<ref name="F35-11">月刊「航空ファン」 2011年 10月号</ref>(ただし、[[指令誘導]]装置J/ARG-1の搭載が必要であるという点や大型の制御翼については触れていない)。これに関しては[[MBDA]]の[[ミーティア (ミサイル)|ミーティア]]を共同で改良の上搭載するという案が挙がっている<ref>{{cite news |title=日本の武器輸出が本格化、英とミサイル研究・米にセンサー |newspaper=[[トムソン・ロイター]] |date=2014-7-17 |url=http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0FM1K820140717 |accessdate=2014-7-17|author=久保信博 }}</ref><ref>{{cite news |title= 日英でミサイル技術を共同研究 政府、NSCで決定へ |newspaper=[[日本経済新聞]] |date=2014-7-17 |url=http://www.nikkei.com/article/DGXNZO74365920X10C14A7PP8000/ |accessdate=2014-7-17 }}</ref>。
 
主翼にある翼下パイロンは左右に3ヶ所ずつあり(一番外側は[[空対空ミサイル]]専用)各種ミサイル・爆弾が搭載可能である<ref name="F-35_brief"/>。胴体の下にも1ヶ所あり、ステルス性を犠牲にする代わりに[[ガンポッド|機関砲ポッド]]または[[増槽|ドロップタンク]]が搭載可能である。
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; SDB
[[小直径爆弾]]と呼ばれる「SDB」<ref>{{lang-en-short|small diameter bomb}}</ref>は、開発段階から第五世代戦闘機の爆弾槽に合わせて小径に設計された爆弾である。戦闘機としての空戦能力と高いステルス性能を維持したまま、[[A-10 (航空機)|A-10]]の後継機として[[空襲|爆撃]]任務にも対応する必要から、ウェポンベイ内に制限された狭い爆弾槽をより有効に活用する要請に応えて開発されている。
 
=== ミッションソフトウェア ===
本機のミッションソフトウェアは4,300,000行を超える膨大なソースコードを有するため、SDD作業において3つのブロックに区分して製造され、完成度を段階的に高めていくことが計画されている。またSDD作業以降の発展版も計画されている。
 
; ブロック0
: SDD機初期の機体には、基本的な機体管理ソフトウェアしか搭載されておらず、ブロック0とも呼ばれるがこれは正式なバージョンとして存在する訳ではない。
; ブロック1A
: 基本的な戦闘能力を持ち、兵装はAIM-120 AMRAAM・JDAM GPS誘導爆弾の搭載能力を持つ。[[オランダ]]向けの初号機「AN-1」のみが搭載。
; ブロック1B
: アメリカ空軍の初期評価試験機に搭載されたバージョン。
; ブロック2A
: 基本的なデータリンクやセンサーシステムの機能全てが使用可能。LRIP4の生産機体から搭載。
; ブロック2B
: 阻止攻撃能力・限定的な空対空能力・近接航空支援能力・敵防空制圧能力を持ち、JDAM GPS誘導爆弾以外の空対地攻撃兵器の搭載も可能となる。F-35Bはこのバージョンで初期作戦能力を獲得した。
; ブロック3I
: ブロック3の初期版。ブロック2Bの演算能力を強化。F-35A/Cはこのバージョンで初期作戦能力を獲得する予定。
; ブロック3F
: ブロック3の完全版にしてSDD作業での最終仕様。完全な戦闘能力を持ち、あらゆるミッションをこなすJSFとなり、計画されているあらゆる兵装の搭載が可能としている。また、ネットワークを利用した情報共有などを行う、ネットワーク・セントリック・オペレーション(NCO)構想に完全に適合する機能を有する予定である。
; ブロック4
: ブロック3の機能強化版。JSMや[[B61 (核爆弾)|B61]]核爆弾の運用能力付加、データリンクシステムの強化が行われる予定。
; ブロック5
: AN/APG-81レーダーへの海洋モードの追加、電子戦システムのアップグレード、AIM-120の6発同時携行能力の付加などを予定。
; ブロック6
: 推進システムの管理機能、電子攻撃機能、友軍の追跡能力、全方位での脅威のパッシブ探知/反応機能を強化する予定。
; ブロック7
: 生物/化学戦環境下での防護機能強化などを予定。
 
=== 愛称 ===
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=== 課題 ===
[[2011年]][[1月6日]]、[[アメリカ海兵隊|海兵隊]]型のF-35Bについて[[ロバート・ゲーツ]][[アメリカ合衆国国防長官|国防長官]]は、システム開発実証(SDD)が[[2016年]]まで遅れ、初期作戦能力獲得は[[2017年]]になる見込みと、2年以内に改修ができないあるいは計画通りに進展がない場合は、開発が中止になるだろうと発表した。[[アシュトン・カーター]]国防次官は、現在の[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の財政状況を鑑みて「高額になりすぎて負担しきれない」として、計画の見直しが必要だと指摘した<ref name="AFP20110520"/>。実際には上述したように、F-35Bは2015年に初期作戦能力を獲得した
 
2011年[[12月16日]]、産経新聞は[[アメリカ国防総省]]内部資料を出所とした「ステルス性能に疑問」という記事を報じ、また、具体的問題点として、攻撃能力、被弾や事故時の生存可能性、旋回や上昇など飛行性能、[[空対空ミサイル]]の発射、[[電子戦]]能力が[[テストパイロット]]などより運用上深刻な、または特別な懸念として挙がっている、としている。それによると、報告者は国防総省のアハーン次官補代理ら計5人で、報告書では「今後の生産を中止するような根本的なリスクは認められなかった」としながらも、上述の問題点より「設計の安定性で信頼に欠ける」と結論し、「調達・生産計画の真剣な再考」が求められている、としている<ref>{{cite news |title=F35 空対空ミサイルとステルス性能に疑問 米国防総省内部資料 |newspaper=産経新聞|date=2011-12-15|url=http://sankei.jp.msn.com/world/news/111215/amr11121520070013-n1.htm |accessdate=2011-12-25}}</ref>。
 
[[2013年]][[1月14日]]には、飛行領域の拡張作業で深刻な問題が発生したため、全型で維持旋回荷重を引き下げ(A型4.6G、B型4.5G、C型5.0G)、マッハ0.8から1.2への加速時間も延長(A型8秒延長、B型16秒延長、C型43秒延長)することが報道された<ref>{{cite news |title=Pentagon lowers F-35 performance bar |newspaper=Flightglobal|date=2013-01-14|url=https://www.flightglobal.com/news/articles/pentagon-lowers-f-35-performance-bar-381031/ |accessdate=2016-04-10}}</ref>。5.0G以下の維持旋回荷重は[[第3世代ジェット戦闘機]]である[[F-4 (戦闘機)|F-4]]や[[F-5 (戦闘機)|F-5]]並の数値であり、[[地対空ミサイル]]などに対しての脆弱性が危惧されている。C型の43秒もの加速時間延長は、燃料消費量の増大を招き、作戦遂行に支障をきたす場合も出てくると指摘されている。アメリカ国防総省は、これらの問題点については戦術や訓練を慎重に計画することで補える部分もあるとしている<ref>「世界の名機シリーズF-35ライトニングII 最新版」p74</ref>。
 
上記課題について2013年[[5月23日]]に発表されたアメリカ国防総省の報告書によると、昨年のF-35計画は全体のコストが45億[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]下がっており、上昇傾向にあったコストが減少に転じた<ref>{{cite news |title=Pentagon: F-35 Program Costs Fell $4.5 Billion Last Year |newspaper=Defense News|date=2013-05-23|url=http://www.defensenews.com/apps/pbcs.dll/article?AID=2013305230020 |accessdate=2013-06-15}}</ref>。また、2013年[[5月31日]]には、[[2017年]]になる見込みだった空軍の初期作戦能力獲得も2016年へ前倒しされることが発表された<ref>{{cite news |title=US Air Force: F-35 To Be Deployable in '16 |newspaper=Defense News|date=2013-05-31|url=http://www.defensenews.com/apps/pbcs.dll/article?AID=2013305310018 |accessdate=2013-06-15}}</ref>。
 
[[2016年]][[2月1日]]に公表された報告書では、精密技術試験の結果、依然として問題が複数残っていることが明らかになった。特に深刻なのが[[射出座席]]で、パイロットの体重が62kg未満だと射出時に座席が後方へ回転し、パイロットの首をのけぞらせて死に至らしめる可能性があるという<ref>{{cite news |title=F35戦闘機にまだ多数の「欠陥」 運用予定に影響も 米軍報告|newspaper=AFPBB News|date=2016-02-04|url=http://www.afpbb.com/articles/-/3075703 |accessdate=2016-03-14}}</ref>。
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[[2011年]]末にA型の導入を決定した[[日本]]の[[防衛省]]は、1機あたりの調達価格を本体のみ約89億円(スペア部品などを含めた場合約99億円)としていた<ref>{{cite news |title=中ロへの抑止力意識=1機約99億円−次期戦闘機 |newspaper=時事通信|date=2011-12-20|url=http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011122000051 |accessdate=2011-12-25}}</ref>。翌[[2012年]][[6月29日]]に正式契約が交わされた際には、2016年度に導入する4機については1機当たりの価格が約96億円(交換部品を含め約102億円)と上昇<ref name=jiji20120629>{{Cite news | newspaper=時事通信 |date=2012-6-29 |url=http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012062900078| title = F35、本体96億円=7億円上昇―政府が正式契約 |accessdate=2012-6-29}}</ref>。毎日新聞は2012年9月4日の記事において、製造に習熟していない作業員が製造に関わっているためコストが上昇し、一機当たりの価格が当初の1.5倍の150億円に達する見通しとなったと報じている<ref>{{cite news |title=F35:1機当たりの価格150億円に 防衛省概算要求 |newspaper=毎日jp|date=2012-09-04|url=http://mainichi.jp/select/news/20120904k0000e010209000c.html |accessdate=2012-09-04}}</ref>。
 
上記課題について2013年[[5月23日]]に発表されたアメリカ国防総省の報告書によると、昨年のF-35計画は全体のコストが45億[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]下がっており、上昇傾向にあったコストが減少に転じた<ref>{{cite news |title=Pentagon: F-35 Program Costs Fell $4.5 Billion Last Year |newspaper=Defense News|date=2013-05-23|url=http://www.defensenews.com/apps/pbcs.dll/article?AID=2013305230020 |accessdate=2013-06-15}}</ref>。また、2013年[[5月31日]]には、[[2017年]]になる見込みだった空軍の初期作戦能力獲得も2016年へ前倒しされることが発表された<ref>{{cite news |title=US Air Force: F-35 To Be Deployable in '16 |newspaper=Defense News|date=2013-05-31|url=http://www.defensenews.com/apps/pbcs.dll/article?AID=2013305310018 |accessdate=2013-06-15}}</ref>。
 
その後[[2014年]][[10月30日]]、アメリカ国防総省は外国向けにF-35の複数年契約を提示し、米軍向けより価格を引き下げる予定であることを発表した<ref>{{cite news |title=米F-35戦闘機、外国には値引き提示へ=国防総省 |newspaper=[[ウォール・ストリート・ジャーナル]] |date=2014-10-31 |url=http://jp.wsj.com/news/articles/SB11875414796426453974304580247701880715226|accessdate=2014-11-1}}</ref>。