「F-35 (戦闘機)」の版間の差分

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JSFの名の通り、ほぼ同一の機体構造を用いながら、基本型の通常離着陸([[航空機の離着陸方法#通常離着陸機|CTOL]])機である'''F-35A'''、短距離離陸・垂直着陸([[航空機の離着陸方法#短距離離陸垂直着陸機|STOVL]])機の'''F-35B'''、[[艦載機]](CV)型の'''F-35C'''という3つの派生型を製造する野心的なプロジェクトである。[[戦闘機]]の[[マルチロール機]]化は、現代の戦闘機開発の主流となっているが、[[1960年代]]には空軍の[[戦闘爆撃機]]と海軍の艦隊防空戦闘機を兼務する[[F-111 (航空機)|F-111]]の開発において、機体が大型化し想定した任務の全てを果たせず、失敗している。対してF-35は、比較的小型の機体で多任務と[[ステルス性|ステルス能力]]の付加、さらには基本設計が同一の機体でCTOLとVTOLを派生させるという前例の無い多任務能力を達成し、採用予定国も複数に上る。また、F-35Bは世界初の実用超音速VTOL戦闘機となる。
 
アメリカ空軍・[[アメリカ海軍|海軍]]・[[アメリカ海兵隊|海兵隊]]、[[イギリス空軍]]・[[イギリス海軍|海軍]]、[[トルコ空軍]]、[[航空自衛隊]]、[[ノルウェー空軍]]などが採用を決定しており、あわせて2,443機が製造される見込みであるが、開発の遅延や当初予定より大幅なコスト高などの課題も抱える。一方で今後半世紀程は世界中の空軍や海軍で各仕様が運用されることが決まっており、[[オーストラリア空軍]]などは既にF-35Aを受領している。[[2016年]][[1月]]にはイギリス海軍に、アメリカ以外では初のF-35Bが引き渡され、今後もA型を中心とし順次各国引き渡される。2014年3月時点で開発総額は3,912億[[アメリカ合衆国ドル|ドル]](40兆円)に達すると判明している<ref name="AFP20110520">{{cite news |title=なぜ米国はF35戦闘機に巨額を費やすのか? |newspaper=AFPBB News|date=2014-03-15|url=http://www.afpbb.com/articles/-/3009733 |accessdate=2015-09-26}}</ref>。
 
== 開発の経緯 ==
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空中給油受油装置として、A型は背部に空軍式([[空中給油#フライングブーム方式|フライング・ブーム方式]])のリセプタクル、B/C型は機首右側に海軍式([[空中給油#プローブアンドドローグ方式|プローブ・アンド・ドローグ方式]])のプローブを装備する。
 
コックピットには前方ヒンジ方式の一体型[[キャノピー]]を採用した。これによりアクチュエーターの小型化と重量の軽減が可能となった。合わせて、整備の際のアクセスも容易となった。電気システムのユニットや整備アクセス関連のユニットを、それぞれ胴体側面に配置したことにより、今までと比べて少ないアクセスパネルで対応できるようになっている<ref>月刊『JWings』2007年5月号 p12</ref>。
 
一つの基本設計を基に、通常離着陸([[航空機の離着陸方法#通常離着陸機|CTOL]])型、短距離離陸・垂直着陸([[航空機の離着陸方法#短距離離陸垂直着陸機|STOVL]])型、[[艦載機]](CV)型と3タイプの開発・製造を目指すものの、設計の共通性は高い。各タイプの設計に占める独自設計部分はA型が19.8%、B型が32.6%、C型が43.1%と、艦載機用の追加パーツが多く最も共通性の低いC型においてすら50%以上の完全な共通設計、もしくは同類設計が用いられている<ref>「世界の名機シリーズF-35ライトニングII」p23</ref>。複座の[[練習機]]型は存在せず、パイロットの教育はフルミッション・シミュレーター(FMS)と呼ばれるフライトシミュレーターを使って行われる。このFMSは360度のドーム型スクリーンを備え、実機と同じソフトウェアを搭載し、A/B/Cの3タイプいずれにも設定可能である。また整備士の教育用として兵装搭載トレーナー(WLT)、射出システム整備トレーナー(ESMT)と呼ばれる実物大[[モックアップ]]が用意されており、前者は胴体と主翼を再現した兵器類の搭載訓練用、後者は機首とコックピットを再現した[[射出座席]]・キャノピー投棄システム訓練用となっている。これらもパーツの組み換えなどで3タイプ全てに対応可能である<ref>月刊『JWings』2012年8月号 p47-49</ref>。
 
ステルス性については詳細が公表されていないものの、機体表面のほとんどに用いられるカーボン複合材には、カーボン素材の段階からレーダー波吸収材(RAM)が混合されているという新しい手法が用いられており、その上で要求されたステルス性を満たすべくRAM塗料による塗装を行っている<ref>月刊『JWings』2012年1月号 p45</ref>。機体の製造においては、外部シールドライン制御と呼ばれる工法を使用しており、機体各部の繋ぎ目をほとんど無くして、そこにレーダー波吸収材(RAM)RAMでシールすることにより、繋ぎ目での段差や溝を無くすことで、そこからのレーダー反射を防いでいる。機内には大容量の燃料タンクが搭載されており、F-22と同様に[[アンテナ]]や[[センサー]]類の張り出しを極力設けない設計を採用して、内蔵アンテナとセンサーを一体化させ、それを機体フレーム内を埋め込むことで、その効果を高めている。単発のF-35の機体サイズ自体もF-22と比べて小型化したことで、目視での発見を困難とする(低視認性)<ref>「世界の名機シリーズF-35ライトニングII」p31</ref>。機体表面のほとんどはカーボン複合材製で、カーボン素材の段階でRAMが混合されているという新しい手法が用いられており、その上からRAM塗料による塗装を行っている<ref>月刊『JWings』2012年1月号 p45</ref>。
 
なお、機体形状についてX-35から変更された点は以下の通り。
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*[[F/A-18E/F (航空機)|F/A-18E/F]]([[ゼネラル・エレクトリック F414|F414]]、ドライ出力:62.3kN×2=124.6kN、A/B出力:97.9kN×2=195.8kN)
 
しかし、この大型・高推力エンジンと固定エアインテークの取り合わせにより、騒音が大きくなってしまった<ref>『[[航空ファン (雑誌)|航空ファン]]』2009年 2月号</ref>。一方でとされるが、アメリカ国防総省が[[2014年]]に公開した調査報告書によると、F-35Bの騒音は既存の戦闘機とほぼ同じ水準であるという調査報告書も開示されている<ref>{{cite news |title=F-35Bの騒音は既存の戦闘機並み、米国防総省が調査報告書を公開 |newspaper=businessnewsline|date=2014-11-27|url=http://business.newsln.jp/news/201411271749580000.html |accessdate=2016-04-17}}</ref>。エンジンはプラット・アンド・ホイットニー以外からの供給も考慮され、[[GEアビエーション]]および[[ロールス・ロイス・ホールディングス|ロールス・ロイス]]それぞれが[[ゼネラル・エレクトリック/ロールス・ロイス F136|F136]]を開発していたが<ref name="smsf35p58">「世界の名機シリーズF-35ライトニングII」p58</ref>、[[2011年]][[12月2日]]に開発は中止された<ref>[http://breakingdefense.com/2011/12/f136-rest-in-peace-ge-rolls-formally-declare-its-over/?icid=related5 F136, Rest In Peace; GE, Rolls Formally Declare It’s Over]</ref>。代替エンジン自体は、[[1996年]]11月より検討作業が行われていた<ref name="smsf35p58"/>。
 
STOVL機であるF-35BはV/STOL能力のために軸駆動式リフトファン方式とジェット推力を下方に偏向させる特殊なエンジンノズルを採用している。V/STOL時に発揮されるすべての推力を合計した最大垂直推力は180.8kNであり、その内訳は、ノズルを90度下方に偏向させた場合のエンジン推力最大値である83.1kN、リフトファンの最大83.1kN、左右それぞれのロールポストからの最大14.6kN(2基計)、である<ref>[http://www.pw.utc.com/Content/Press_Kits/pdf/me_f135_stovl_pCard.pdf Power for F-35B Short Take Off and Vertical Landing (STOVL)]</ref>。ちなみに、V/STOL時の姿勢制御は、機体のローリング制御をロールポストからの吹き出し量により、また、ヨーイング制御をエンジン排気ノズルの角度調節により、それぞれ行う<ref name="空母型護衛艦のステルス戦闘攻撃機F-35B">青木謙知著、『空母型護衛艦のステルス戦闘攻撃機F-35B』、「海上自衛隊の空母型護衛艦」、[[軍事研究]]2010年1月号別冊、(株)ジャパン・ミリタリー・レビュー</ref>。軸駆動式リフトファンはロールスロイスが開発したものであり、リフトファンは二重反転型となっている。リフトファンはエンジンの低圧タービン・クラッチ・減速機を介して接続されたドライブシャフト<ref>Warwick, Graham. "[http://www.aviationweek.com/Blogs.aspx?plckBlogId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9c&plckPostId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9cPost:ecd93cec-3ad2-4ced-89e7-b166bda4b838 F-35B - Clutch]" ''[[Aviation Week & Space Technology]]'', December 09, 2011. Accessed: April 10, 2014.</ref><ref>Warwick, Graham. "[http://www.aviationweek.com/Blogs.aspx?plckBlogId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9c&plckPostId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9cPost:d3c882b1-9bb6-4091-8262-a65f82cb171c F-35B - Driveshaft]" ''[[Aviation Week & Space Technology]]'', December 09, 2011. Accessed: April 10, 2014.</ref>で駆動される。ドライブシャフトの出力は最大29,000馬力である<ref>Warwick, Graham. "[http://www.aviationweek.com/Blogs.aspx?plckBlogId=blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9c&plckPostId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9cPost:361db9aa-4f91-4719-bab3-a7bc544c1019 F-35B - The STOVL Challenges]" ''[[Aviation Week & Space Technology]]'', December 09, 2011. Accessed: April 10, 2014.</ref><ref>Warwick, Graham. "[http://www.aviationweek.com/Blogs.aspx?plckBlogId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9c&plckPostId=Blog:a68cb417-3364-4fbf-a9dd-4feda680ec9cPost:3cb0d3a7-41e6-47eb-9591-1bd43742a6b2 F-35B - Lift Fan]" ''[[Aviation Week & Space Technology]]'', December 09, 2011. Accessed: April 10, 2014.</ref><ref name="vtolx35">[http://www.vtol.org/Lockheed.htm Lockheed Propulsion System] ''VTOL.org''. Retrieved: 19 September 2010.</ref>。
 
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[[2013年]][[1月14日]]には、飛行領域の拡張作業で深刻な問題が発生したため、全型で維持旋回荷重を引き下げ(A型4.6G、B型4.5G、C型5.0G)、マッハ0.8から1.2への加速時間も延長(A型8秒延長、B型16秒延長、C型43秒延長)することが報道された<ref>{{cite news |title=Pentagon lowers F-35 performance bar |newspaper=Flightglobal|date=2013-01-14|url=https://www.flightglobal.com/news/articles/pentagon-lowers-f-35-performance-bar-381031/ |accessdate=2016-04-10}}</ref>。5.0G以下の維持旋回荷重は[[第3世代ジェット戦闘機]]である[[F-4 (戦闘機)|F-4]]や[[F-5 (戦闘機)|F-5]]並の数値であり、[[地対空ミサイル]]などに対しての脆弱性が危惧されている。C型の43秒もの加速時間延長は、燃料消費量の増大を招き、作戦遂行に支障をきたす場合も出てくると指摘されている。アメリカ国防総省は、これらの問題点については戦術や訓練を慎重に計画することで補える部分もあるとしている<ref name="smsf35p74"/>。
 
整備用の情報システムとして開発が進められているALIS({{lang-en-short|Autonomic Logistics Information System}}:自動兵站情報システム)は、端末を機体に接続することで故障個所や対処方法を診断し、維持・補修の効率を向上させるシステムであるが、2015年には機体に問題ありと警報を発したケースの8割が誤警報だったという報告があり<ref>{{cite news |title=Problems plaguing F-35's next-gen maintenance system |newspaper=Defense News|date=2015-04-15|url=http://www.defensenews.com/story/military/2015/04/15/problems-facing-f35-maintainers-automated-system/25781075/ |accessdate=2016-04-17}}</ref>、[[2016年]]3月には国防総省検査局から最新版のアップデートについて、十分な試験なしの適用は危険との反対意見が出ている<ref>{{cite news |title=国防総省検査局、F-35/ALIS 2.0.2のアップデート適用で待った |newspaper=businessnewsline|date=2016-03-08|url=http://business.newsln.jp/news/201603082233450000.html |accessdate=2016-04-17}}</ref>。
 
2016年[[2月1日]]に公表された報告書では、精密技術試験の結果、依然として問題が複数残っていることが明らかになった。特に深刻なのが[[射出座席]]で、パイロットの体重が62kg未満だと射出時に座席が後方へ回転し、パイロットの首をのけぞらせて死に至らしめる可能性があるという<ref>{{cite news |title=F35戦闘機にまだ多数の「欠陥」 運用予定に影響も 米軍報告|newspaper=AFPBB News|date=2016-02-04|url=http://www.afpbb.com/articles/-/3075703 |accessdate=2016-03-14}}</ref>。