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概要、日本の労働基準の概論・各論の修正
(概要、日本の労働基準の概論・各論の修正)
{{No footnotes|date=2016年3月}}
 
'''労働基準'''(ろうどうきじゅん)という語は、一般的には、[[労働者]]を保護するための労働関係確保され関すべき労働条件の最低基準であって、法令又は条約により定められたものを指す。狭義の労働基準には、個別的労働関係使用されていおけ最低労働者に関条件を指るもののみが含まれるが、広義の労働基準には、集団的労働法立法過程における政労使三者協議関係労働行政機構のあり方職業安定雇用・職業に関する差別の排除能力開発、社会保障、雇用促進立法職業訓練行政機構に関すること等労働に関することすべてに関する基準含まれる。本項では、主として狭義の労働基準について解説する。狭義の労働基準については、各国が法令で定める法令はたもののほか'''個別的国際労働係法'''、'''労働保護法'''、'''が条約又は勧告として定めた国際労働基準関係法令'''などに分類されがある。
 
==日本の労働基準==
===概要===
現代の[[日本]]における労働基準は、[[日本国憲法]]の規定(第18条第27条第2項ほか)及び[[国際労働機関|ILO]]条約・勧告等にもとづいて、主に法令によって、主に労働者、使用者又は事業者の権利義務として定められ(ただし、[[労働者派遣]]においては、[[労働者派遣法]]の定めるところにより、使用者及び事業者たる派遣元事業者に課せられた義務の一部が派遣先事業者に委譲される)、その履行確保は、労使当事者の努力はもとより、[[強行法規|民事的強行法規性]]、違反者に対する刑事罰、国の[[行政警察活動|行政監督]]<ref name="厚生労働省労働基準局2011-労働法コンメンタール③労働基準法 上">{{cite book|和書
|title = 労働法コンメンタール③ 労働基準法 上
|author = 厚生労働省労働基準局
}}</ref>(立入検査、報告徴収、許認可、不利益処分等)により図られている。
 
現代の日本における労働基準関係を定める法令としては、[[労働基準監督官]]等が監督を行う[[労働基準法]](1947年)、[[最低賃金法]](1959年)、[[じん肺法]](1960年)、[[炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法]](1967年)、[[労働安全衛生法]](1972年)、[[作業環境測定法]](1975年)、[[賃金の支払の確保等に関する法律]]及び(1976年)、[[家内労働法]]の8法(この(1970年)(以上8法については[[労働基準監督官]]が監督指導及び犯罪捜査を行う。)、[[労働時間等の設定の改善に関する特別措置法]]等の法律並びに[[自動車運転者の労働時間等の改善のための基準]]等の[[法規命令]](1989年)雇用均等行政において行政指導及び行政処分を行う[[雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律]](1972年)、[[育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律]](1991年)、[[短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律]]等の法律(1993年)民事の場における個別労働関係の安定及び紛争解決ための[[民法 (日本)|民法第3編第2章第8節]](1896年)、[[労働契約法]](2007年)、[[個別労働関係紛争時間等解決設定促進改善に関する特別措置]](1992年)等が挙げられる。
 
とりわけ労働基準法は、上記法令日本中でも、労働基準に関する[[基本法]]と言うことができる。即ち、労働者<ref>[http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%98%4a%93%ad%8a%ee%8f%80%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S22HO049&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 労働基準法]第9条</ref>、使用者<ref name="「使用者」の定義">労働基準法第10条</ref>、[[賃金]]<ref>労働基準法第11条</ref>等個別的労働関係における諸概念について定義し、他の多くの労働法令がこの定義に準拠している<ref>[http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8d%c5%92%e1%92%c0%8b%e0%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S34HO137&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 最低賃金法]第2条, [http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%82%b6%82%f1%94%78%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S35HO030&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 じん肺法]第2条第1項, [http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%59%8d%7a%8d%d0%8a%51%82%c9%82%e6%82%e9%88%ea%8e%5f%89%bb%92%59%91%66%92%86%93%c5%8f%c7%82%c9%8a%d6%82%b7%82%e9%93%c1%95%ca%91%5b%92%75%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S42HO092&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法]第2条, [http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%98%4a%93%ad%88%c0%91%53%89%71%90%b6%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S47HO057&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 労働安全衛生法]第2条, [http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%c0%8b%e0%82%cc%8e%78%95%a5%82%cc%8a%6d%95%db%93%99%82%c9%8a%d6%82%b7%82%e9%96%40%97%a5&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S51HO034&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 賃金の支払の確保等に関する法律]第2条, [http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8c%f6%89%76%92%ca%95%f1%8e%d2%95%db%8c%ec%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H16HO122&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 公益通報者保護法]第2条第1項</ref>。
 
労働基準法は、同居の親族、家事使用人、国家公務員等後述するように適用除外された者以外のすべての労働者について適用がある。この労働基準法上の労働者性の判断は、契約その他一切の形式に関わりなく、実態により客観的に判断される。即ち、例えば明示的には雇用契約を締結せず、そのかわりに形式上・表面上は[[請負]]、[[業務委託]]等の契約を締結していても、実態として時間的に拘束され、仕事内容の業務遂行方法に関する具体的指示を受けていること等の労働者たる諸要件(=使用従属性)が認められる者は、労働基準法上の労働者としての保護を受ける。従って、労働者を使用する事業について、法人個人、営利非営利、外資系か否かを問わず適用がありされ、労働者についても、パート、アルバイト、研修医、外国人、不法就労外国人等適用が有含まれる。
 
労働者使用従属性は、第一に従事する作業が指揮監督下にあるかということ(使用者が業務遂行につき具体的な指揮命令を行うこと、時間的・場所的拘束を行うこと等)、第二に報酬の労務対償性により判断すべきものとされており、その判断基準は労働基準法研究会報告<ref>[http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf 労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日]</ref>及び労働者性検討専門部会報告<ref>[http://aichi-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0115/6838/roudousyasei0803.pdf 労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 平成8年3月]</ref>に詳しい(ただし、[[労働組合法]]における「労働者」の意義は労働基準法のそれとは異なる<ref>[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO174.html 労働組合法]第3条</ref>ので注意されたい。)。
 
また、作業の指揮監督性が弱いために労働者とまでは言えないものの、報酬の労務対償性が強いとされる[[家内労働者]](いわゆる「内職」)については、[[家内労働法]]により、若干ながら労働者に準じた保護が図られている<ref>[http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%89%c6%93%e0%98%4a%93%ad%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S45HO060&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 家内労働法]</ref>。
労働基準法の適用単位は、[[事業場]]である。事業場とは、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体を意味し、例えば、工場、店舗、支店、営業所などの事業単位を意味する。ただし、新聞社の通信部等規模が著しく小さいものについては直近上位の事業場に一括して取扱い、また、同一場所におけるものでも例えば工場内の診療所、食堂等のように、その管理が全体から明確に区別された部門については、これを独立した一事業場として扱うことにより法がより適切に運用できる場合においては、独立した一事業場として取扱うこととされている<ref>厚生労働省労働基準局 『労働法コンメンタール③ 労働基準法 上』 株式会社労務行政、2011年、111-112頁。ISBN 978-4-8452-1262-0。</ref>。
 
労働基準法の主たる名宛人は使用者であるが、使用者の範囲には、事業主はもとより、事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者が含まれる<ref name="「使用者」の定義" />一方、労働安全衛生法の主たる名宛人である事業者は、個人事業である場合はその事業主、法人事業である場合はその法人であり、営業利益の帰属主体そのものに安全衛生上の義務を課している<ref>昭和47年9月18日発基第91号</ref>。日本においては、このように、労働基準の履行確保義務は第一に労働者を直接使用する事業(使用者ないし事業者)に課されており、労働法制一般は労働と請負とを峻別して構築されているが、方で、建設業及び造船業に関しては元方事業者(殆どの場合、元請負人がこれに該当する)にも下請会社の労働者に関する安全衛生上の措置義務(特別規制等)を罰則付で負わせたり<ref>労働安全衛生法第31条等</ref>、建設業に関しては元請負人が災害補償を行うこと<ref>労働基準法第87条</ref>とされているなどしたり等、一部で例外もみられる。この労働体系制上の混乱は、戦前の雇用法制において労働者供給請負業を認めていたこと、戦後も労働者供給請負業が建設業界等において広く事実として存在してきたことによるとする説<ref>[http://hamachan.on.coocan.jp/hougakkaishi.html 「請負・労働者供給・労働者派遣の再検討」濱口桂一郎]</ref>がある。
 
労働基準法、最低賃金法、じん肺法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症にする特別措置令(家内労働安全衛生も含む。)、作業環境測定法、賃金の支払の確保等に関する監督機関(法律、家内労働法の履行確保8法及び自動車運転者の労働時間等の改善のための行政監督を行う行政機関)基準については、原則として国の機関である狭義の[[労働基準監督機関]]([[厚生労働省]][[労働基準局|労働基準局長]]、[[都道府県労働局|都道府県労働局長]]、[[労働基準監督署|労働基準監督署長]]及び[[労働基準監督官]]並びに厚生労働省[[雇用均等・児童家庭局|雇用均等・児童家庭局長]]及びその指定官吏)であが行政監督を行っている<ref>労働基準法第11章</ref>が、後述するように[[国家公務員]]、[[地方公務員]]、[[船員]]、[[鉱山における保安]]等については、例外として、[[人事院]]、[[人事委員会]]、[[市町村長]]、[[国土交通省]]、[[経済産業省]]等他の機関が行政監督を担っている(これらをすべてまとめて広義の労働基準監督機関と呼ぶことができる)。
 
労働基準の適用の除外及び特例については、後述する。
労働基準関係法令の適用の除外及び特例は、非常に複雑である。後に詳述するが、同居の親族及び家事使用人に関する全面適用除外及び公務員に関する全部又は一部の適用除外並びに業種、事業場の規模、労働の態様等による適用除外又は特例が存在する。
 
===労働者保護規定各論===
====賃金====
[[賃金]]は、原則として、毎月1回以上、定期に、その全額を、[[通貨日本円]]で、直接労働者に支払わなければならない<ref>労働基準法第24条</ref>。したがって、賃金を各月で支払わない月があること不定支払日までに支払わないこと、賃金から控除・相殺を行うこと、現物支給をすること、代理人に支払うことなどは原則禁止されている。また、その額は、地域別・産業別に定められた[[最低賃金]]額以上でなければならない<ref>最低賃金法第4条</ref>。
 
ただし、所得税、住民税、健康保険料その他のいわゆる[[公租公課]]については、賃金から控除することができ、また、弁当代、親睦会費等の公租公課以外のものであっても、賃金控除に関する[[労使協定]]を締結すれば、賃金から控除することができる<ref>労働基準法第24条第1項但書</ref>が、事理明白でないものの控除は認められない<ref>昭和27年9月20日基発第675号、平成11年3月31日基発168号</ref>。
また、[[就業規則]]の制裁規程にもとづいて減給を行うことは許されているが、その減給額は1つの行為につき[[平均賃金]]の半額以下でなければならない等とされ、言うまでもなく当該減給は労働者の行為に対して合理的かつ相当なものでなければならない<ref>労働基準法第91条</ref>。
 
改善基準は、労働基準法等法律の委任を受けない労働省告示であるが、路面運送における労働時間及び休息時間に関する条約(国際労働機関第153号,1979年6月27日採択,未批准)、路面運送における労働時間及び休息期間に関する勧告(国際労働機関第161号,1979年6月27日採択)に準拠し、中央労働基準審議会の審議を経て成立したもので、労働基準法に無い「拘束時間」、「休息期間」、「運転時間」等の概念を用いて自動車運転者につき多角的な労働時間規制を敷いている。拘束時間は、労働時間や休憩時間を合わせたもので、即ち使用者による一定の拘束下にある時間を言う。例えばトラック運転手については、拘束時間は1日につき最大16時間、1箇月につき293時間、連続運転時間は1回4時間までとされ、勤務と勤務の間には最低8時間の休息期間が確保されなければならない。改善基準の内容は、[[貨物自動車運送事業法]]及び[[道路運送法]]の委任を受けた[[国土交通省]]告示<ref>貨物自動車運送事業の事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準(平成13年国土交通省告示第1365号)、旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準(平成13年国土交通省告示第1675号) </ref>において準用されており、行政監督は労働基準監督機関と運輸機関(国土交通省[[自動車局]]、[[地方運輸局]]、[[運輸支局]])とが独立に、又は合同で行い、違反事実を相互通報<ref>[http://www.joshrc.org/~open/files2/20060213-001.pdf 平成18年2月13日国自総第506号・国自旅第238号・国自貨第105号「自動車運転者の労働条件改善のための相互通報制度について」]</ref>している。労働基準監督機関は、所管する改善基準に罰則等の制裁規定がないため改善基準違反に対して是正指導をするに留まるが、貨物自動車運送事業の許可官庁である運輸機関は違反事業者に対して車両使用停止、事業停止等の[[行政処分]]を行うことができる<ref>貨物自動車運送事業法第23条及び第33条、道路運送法第40条及び第79条の12</ref>。しかし、実際には、改善基準違反は時間外労働協定違反を伴うことが多いことから、労働基準監督機関も併せて労働基準法違反について是正指導することが多い。
 
====奴隷的拘束及び非民主的労働慣行の撤廃====
暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制すること([[強制労働]])は、我が国の労働基準法令で最も重い罰則を以て禁止されている<ref>労働基準法第5条、日本国憲法第18条関係</ref>。また、3年(一定の高度専門知識等を必要とする業務に従事する者及び満60歳以上の者については5年)を超える有期労働契約、労働者の労働契約違反や不法行為に対する損害賠償額を予定する契約、前借金の相殺、貯蓄の強制、労働者の精神の自由を不当に拘束する手段となることから、禁止されている。