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主に天然鉱物としての無機物[[結晶]]を指すが、[[ラピスラズリ]]、[[柘榴石|ガーネット]]のような数種の無機物の[[固溶体]]、[[オパール]]、[[黒曜石]]、[[モルダバイト]]といった[[アモルファス|非晶質]]、[[珊瑚|サンゴ]]や[[真珠]]のように生物に起源するもの、[[琥珀|コハク]]のように有機物であるもの、[[ジルコニア|キュービックジルコニア]]を代表とする安定化剤という名の添加物を混合した人工合成物質など様々である。
 
古の[[中華文化|中華文明]]圏では、このような石を『玉(ぎょく)』と呼んだが、非透明、あるいは半透明のものだけが珍重され、その中でも[[ヒスイ|翡翠]]が代表的だった。透明なものは『玉』として扱われず、石の扱いであった。例えば[[ダイヤモンド]]を表す漢語は「金剛石」であり、玉ではない。一方で西欧を含む非中華文明圏では、ダイヤモンドに代表される透明な鉱物が宝石として特に珍重された。
 
== 条件 ==
宝石としての必須条件は何よりその外観が美しいこと、次に希にしか産しないこと(希少性)であるが、第三の重要な条件として、耐久性、とりわけ硬度が高いことが挙げられる。これは、硬度が低い鉱物の場合、時とともに砂埃(環境に遍在する[[石英]]など)による摩擦風化・劣化のために表面が傷ついたりファセットの稜が丸みを帯びたりして、観賞価値が失われてしまうためである。例として[[ダイヤモンド]]は[[モース硬度]]10、[[ルビー]]・[[サファイア]]はモース硬度9である。石英のモース硬度は7であり、これらの宝石の硬度は石英のそれより高いことに注意されたい。例外的に硬度が7以下であっても[[オパール]]、[[真珠]]、[[サンゴ]]などはその美しさと希少性から宝石として扱われる。
 
硬度以外の耐久性の条件としては、衝撃により破壊されないこと([[じん性]])、ある程度の耐火耐熱性があること、[[酸]]、[[アルカリ]]といった化学薬品に侵されないこと、経年変化により変色、退色しないことなどが挙げられる。その他、大きさ、色彩、透明度などの鑑賞的価値、知名度などの財産的価値といった所有の欲求を満たす性質が重要である。
 
ただし、宝石と云う扱いを受けても、知名度があまり高くない石は、収集家やマニア向けの珍品逸品、いわゆるコレクターズアイテムの位置に留まり、見た目の美しさと希少性だけが取り上げられ、その他の条件についてはかなり緩くなっている場合が多い。この手の石にはモース硬度2~5などといった傷つき易い石、空気中の湿気を吸い取ったり、酸化が進んで変質する石、紫外線を吸収して自然と退色する石、1カラットに満たない小さなそれしか取れない石、はてはお湯をかけるだけで溶けてしまう石などがあり、当然取り扱いには注意を要する。
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== 資産価値 ==
鉱物の中で[[金属]]にあたり、希少性が高く化学反応や[[風化]]などによる経年変化が著しく低い鉱物を[[貴金属]]といい、[[金]]、[[プラチナ]]などが該当する。資産としてみた場合、'''換金性、実用用途に関しては貴金属の方が宝石よりはるかに優れている。'''貴金属、とりわけ金は価格算定の根拠となる世界的に通用する評価基準が決められており、相場や[[市場]]が整備されているのに対し、宝石はダイヤモンドこそ国際的な評価基準ルールや市場、相場が定められているものの、それ以外はどの宝石もその評価基準は厳密ではなく、国や民族によっても大きく異なる。具体的には、翡翠は東アジアの国々では高く評価されるが、欧米での評価はそれほどでもない(欧米で高く売買されるときは、最終的に中国に売り込むことが目論まれている)。[[誕生石]]が国によって異なるのもその辺の事情を物語っている。
 
貴金属は宝飾向け以外に、電気電導性に優れている、著しい展延性を有するので[[金箔|箔]]にしやすい、基本的に錆びないというその特性を生かした工業用途も多々あるが、宝石の工業用途は[[研磨材]]、[[ボーリング]]マシンのロッド、[[切削加工]]工具(バイト)などに使用されるダイヤモンドを除けば非常に限られている。かつては[[レコード]]針(サファイア)や機械式時計の[[軸受け]](ルビー)などがあったが、現在は[[レーザー]]発振媒質(ルビー,人工ガーネット)や[[水晶振動子]]ぐらいしかない。ゆえにダイヤモンドは一見貴金属並みの資産価値が確立されているように思えるが、火災などの高温環境にさらされると損傷を受け、資産価値が損なわれる可能性があるため、資産として保有し続けるには難がある。
 
== 命名 ==
宝石の名称は地名や[[ギリシャ語]]から名付けられることが多い。特に古くから宝石として扱われてきたものには、ルビーとサファイア、[[エメラルド]]と[[アクアマリン]]のように無機物としての組成は同一だが、微量に混入する不純物([[ドーパント]])により色が変わると名称も変わるものがある。中でも水晶を代表とする[[二酸化ケイ素]]を組成とするものは、その結晶形や昌質、色や外観が異なるだけで石英(クォーツ)、水晶(クリスタル)、アメシスト(紫水晶)、シトリン(黄水晶)、[[玉髄]](カルセドニー)、[[瑪瑙|メノウ]](アゲート)、ジャスパー、[[カーネリアン]]、[[クリソプレーズ]]、[[アベンチュリン]]など様々な名称で呼ばれている。また近年宝石として評価されるようになった新発見の鉱物に関しては、[[ゾイサイト]]や[[スギライト]]など発見者や研究者の名に由来するものが多い。
 
== 分類 ==
宝石は約70種ほどあるとされるが、よく知られた宝石は20種程度である<ref>[[白水晴雄]]・[[青木義和]] (1989)「宝石のはなし」, p.&nbsp;8; [[技報堂出版]] ISBN 4-7655-4558-7</ref>。
=== 価値による分類 ===
{{Main2|詳細|貴石}}
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;鉱物結晶
: [[元素鉱物]] ~ [[ダイヤモンド]] C、[[硫黄]] S
:: 実質ダイヤモンドのみで、硫黄は硬度が低い(モース硬度2)2)ため、[[コレクターズアイテム]]としてしか扱われない。
: [[硫化鉱物]] ~ [[白鉄鉱]]、[[黄鉄鉱]] ともに FeS<sub>2</sub>、[[黄銅鉱]] CuFeS<sub>2</sub> など。
:: [[ヴィクトリア朝]]のイギリスなどでは多用されたが、時間と共に空中の湿気と反応して[[硫酸]]が浸み出る欠点がある。
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::: <!--また化学組成からわかるようにケイ酸塩鉱物、塩化物との固溶体でもある。-->トルマリンはエルバイト以外にも数種あり、その組成はまた異なる。
:* ケイ酸塩及びフッ化鉱物 ~ F-Type [[トパーズ]] Al<sub>2</sub>SiO<sub>4</sub>F<sub>2</sub>
::: フッ素 (F) が水酸基 (OH) に置換された OH-Type トパーズもある。
: [[ハロゲン化鉱物]] ~ [[蛍石]] CaF<sub>2</sub> [[フッ化ナトリウム|ヴィヨーマイト]] NaF<sub>2</sub> など。
:: 美しいものもあるが、一般にどれも硬度が低く希少性にも欠ける(ただしヴィヨーマイトは希少)
:: それ以上に[[食塩]] NaCl に代表されるように、水溶性の石が多くコレクターズアイテムか飾り石程度にしか扱われない。
: [[炭酸塩鉱物]] ~ [[方解石]] CaCO<sub>3</sub>、[[白鉛鉱]] PbCO<sub>3</sub> など。
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:: アウイライトはケイ酸塩、硫酸塩、塩化物から構成される固溶体。-->
:; 結晶構造による分類
::鉱物結晶由来の石は、一つの大きな結晶からなる単結晶と、複数の小さな結晶粒が無数に集合して成立する多結晶の二つに大別される。多結晶に分類される石は、その全てが不透明~半透明であり、結晶と結晶の間に隙間を有する([[多孔質]])ため、染料などで染めやすいといった特徴がある。このような多結晶の石を集合体と呼び、構成する結晶粒の大きさにより、それぞれ顕晶質(結晶粒を肉眼で確認できる)、微晶質(結晶粒を顕微鏡下で確認できる)、潜晶質([[直交ニコル]]顕微鏡下でのみ結晶粒が確認できる)と呼んで区別する。
::* 単結晶 - ダイヤモンド、サファイアなどよく知られた透明な鉱物結晶宝石。
::* 顕晶質集合体 - 水晶の群晶(クラスター)など。置物などにはされるがあまり装身用のジュエリーにはならない。
::* 微晶質集合体 - アヴェンチュリン、クォーザイトなど。
::* 潜晶質集合体 - カルセドニー(玉髄)、ターコイズ(トルコ石)など。
; 固溶体(混晶)
: [[ペリドット]] (Mg,Fe)<sub>2</sub>SiO<sub>4</sub>
: ガーネット ~ 主に以下の6種のケイ酸塩鉱物の固溶体。但し、比重の関係から下の3種(含カルシウム系)と上3種が混じりあうことは滅多にない。
::アルマンディン Fe<sup>2+</sup><sub>3</sub>Al<sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>、パイロープ Mg<sub>3</sub>Al<sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>、スペッサルティン Mn<sub>3</sub>Al<sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>
::アンドラダイト Ca<sub>3</sub>Fe<sup>3+</sup><sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>、グロッシュラー Ca<sub>3</sub>Al<sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>、ウヴァロヴァイト Ca<sub>3</sub>Cr<sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>
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: など。ガーネットやペリドットは固溶体であるが、構成する物質はどれもケイ酸塩鉱物なのでケイ酸塩鉱物とも言える。
; 非晶質
: オパール、黒曜石(オプシディアン)、モルダバイト、[[テクタイト]]など。
: 主成分はどれも二酸化ケイ素 SiO<sub>2</sub>。
; 化石由来
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: 象牙の主成分はヒドロキシアパタイト Ca<sub>5</sub>(PO<sub>4</sub>)<sub>3</sub>(OH)で鼈甲は[[タンパク質]]。
; その他
: キュービックジルコニア([[二酸化ジルコニウム]]と安定化剤の混合物)、[[隕石]]など。
 
=== 生成要因による分類 ===
; 天然宝石
: カットや研磨を除き、([[模倣宝石]]に対して)人の手が加わっていない宝石。古くから王侯貴族が所有し、[[西洋の冠|王冠]]などに取り付けられている石、博物館などに収蔵されているものが多く、特に大きな石については[[ホープダイヤモンド]]といった固有名が付けられる。宝石のなかでは確実に資産価値があり、現在でもごくまれに大きなものが産出されるが、種によっては非常に珍しいので高値で取引されることがある。であるが、そのためには合成宝石や処理宝石でないことを証明する専門家の鑑定書などを要する。
: なおどの石にどの程度の資産価値がつくかは石の種類、大きさ、美しさ、来歴(石の産地など)などにより異なる。新鉱山発見などで資産価値が劇的に下がる場合もあるし、逆にニセモノと判明しても[[宝飾品|ジュエリー]]に付けられた石はジュエリーそのものの[[骨董品|骨董]]的、美術的価値が認められればそれほど下がらない場合もありえる。
; 処理宝石
: 天然宝石に外観の改良(エンハンスメント)・改変(トリートメント)処理が加えられた石。天然宝石に含められることが多い。宝石店で宝石として指輪やネックレスのトップに加工され、天然を謳っているものはたいていこの類で、身を飾る目的には合致するが資産価値は乏しい。主な処理には加熱([[石英#色つき水晶|黄水晶]])、電磁波・放射線照射([[トパーズ|ブルートパーズ]])、着色目的を含めたガラスやオイルの含浸(エメラルド)、貴金属類の[[蒸着]]([[アクアオーラ]]など)がある。経年変化や長期にわたる紫外線曝露、ひどい場合は[[超音波洗浄機]]による洗浄で処理前の姿に戻ってしまうことがある。
; [[模倣宝石#合成宝石(人工宝石)|合成宝石(人工宝石)]]
: 天然宝石と同一の成分から科学的に作り出された宝石。天然宝石と化学成分・物理特性・内部構造が同じである。合成手法により原価が大きく異なるので価格も変わり、[[ベルヌーイ法]]で合成されたものは組成や結晶構造は全く同じにもかかわらず、単なる飾り石とされふつう宝石扱いされない。熱水法やフラックス法はコストも時間もかかるので製造原価が嵩むが、それでも天然宝石や処理宝石に比較して価格は安い。さらに、天然宝石にはしばしば見られる内包物(インクルージョン)やヒビ、傷がなく、見た目は天然宝石より美しいにもかかわらず一般に評価は低く、日本ではニセモノ扱いの域を出ず資産価値もないとされる。ダイヤモンドの場合は採算性の問題から[[遺灰ダイヤモンド]]といった非常に特殊な需要を除き、宝石質の石が合成されることはほとんどない。<!--工業用[[研磨材]]や[[切削加工]]工具の先端に取り付ける刃として使用されることが多い。-->
; [[模倣宝石#人造宝石|人造宝石]]
: 天然宝石とは異なる物質を使用して作り出された、天然宝石様の宝石。もともとは工業用材料の開発において、偶然生み出されたものを宝石向けに転用したもの。キュービック・ジルコニア (CZ)、[[イットリウム・アルミニウム・ガーネット|ヤグ (YAG)]]、スリージー (GGG) など。本来[[ジルコニア]]は[[:en:Baddeleyite|バデライト]]という鉱物であるが、単屈折にするために添加物を加えて[[立方晶]](キュービック)とするなどにより[[ダイヤモンド]]に作為的に近づけたものである。
; [[模倣宝石#模造宝石|模造宝石]]
: [[ガラス]]・[[プラスチック]]・[[陶磁器|陶器]]・[[骨]]・[[植物]]などを使用して天然宝石を模したもの。[[ラインストーン]]や[[タチウオ]]の皮を貼った模造真珠、プラスチックパールなど。