「酸化チタン(IV)」の版間の差分

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隠蔽力の特徴、光触媒の防止について加筆
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酸化チタン(IV)は、[[フッ化水素酸]]、熱濃[[硫酸]]および溶融[[アルカリ塩]]に溶解するが、それ以外の酸、アルカリ、水および有機溶剤には溶解しない。
 
アナターゼ型のバンドギャップは3.2 [[電子ボルト|eV]]であり、387 nm([[紫外線]])より短波長の光を吸収すると[[価電子帯]]の[[電子]]が[[伝導帯]]に励起され、自由電子と[[正孔]]を生成する。通常、自由電子と正孔は直ちに再結合し、熱に変わる。しかし、この正孔の[[酸化力]]は非常に強いため、これら自由電子と正孔が例えば[[水]]と反応すると[[活性酸素種]]が生成される。活性酸素種の生成は二酸化チタンへの超音波照射によっても引き起こすことができる<ref name=Nobuaki2008 />
 
600 {{℃}}600℃以上では[[水素]]ガスにより部分的に[[還元]]され、青色のチタン(III)の混ざった酸化物を生成する。ただし[[酸素]]に触れると速やかに酸化チタン(IV)に戻る。従って、酸化チタン(IV)に担持した[[貴金属]]触媒を高温で水素還元すると、[[SMSI]] (Strong Metal Support Interaction) を発生しやすい。900℃以上の水素中で還元した場合は、濃青色不定比組成の酸化チタンTiO<sub>x</sub>(x=1.85〜1.94)を生成する<ref name=Tsuyumoto2000 />。この組成では常温常圧で酸素に触れても安定である。この不定比組成の酸化チタンは斜方晶系の結晶構造をもち、熱電変換能を示す<ref name=Tsuyumoto2006 /><ref name=nissan />。
活性酸素種の生成は二酸化チタンへの超音波照射によっても引き起こすことができる。2008年に、二酸化チタン存在下での超音波照射の酸化力(ヒドロキシルラジカルの生成力)を、[[サリチル酸]]の酸化によるサリチル酸誘導体[[2,3-ジヒドロキシ安息香酸]](DHBA)および[[2,5-ジヒドロキシ安息香酸]] (2,5-DHBA)の生成によって評価した研究が行われた。その結果、酸化チタンと[[酸化アルミニウム]]の存在は超音波照射でのDHBA生成を促進させ、また、酸化チタンのヒドロキシルラジカルの生成力が酸化アルミニウムより優位に大きいことが明らかとなった<ref name=Nobuaki2008 />。
 
600 {{℃}}以上では[[水素]]ガスにより部分的に[[還元]]され、青色のチタン(III)の混ざった酸化物を生成する。ただし[[酸素]]に触れると速やかに酸化チタン(IV)に戻る。従って、酸化チタン(IV)に担持した[[貴金属]]触媒を高温で水素還元すると、[[SMSI]] (Strong Metal Support Interaction) を発生しやすい。900℃以上の水素中で還元した場合は、濃青色の不定比組成の酸化チタンTiO<sub>x</sub>(x=1.85〜1.94)を生成する<ref name=Tsuyumoto2000 />。常温常圧で酸素に触れても安定である。この組成では斜方晶系の結晶構造をもち、熱電変換能を示す<ref name=Tsuyumoto2006 /><ref name=nissan />。
 
== 用途 ==
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=== 化学物質や微生物などの分解===
387 nmより短波長の光を受けると、[[水]]などに反応したときに種々の[[活性酸素種]]を生成する性質がある。活性酸素種は一般に非常に強い[[酸化力]]をもち、化学薬品や[[細菌]]などに対して分解作用を示す。酸化チタン(Ⅳ)を含む壁や床のコーティングは、[[ブラックライト]]([[紫外線]]ランプ)の照射により殺菌処理できる<ref name=K&S53 />。酸化チタンの分解剤としての特徴として以下があげられる<ref name='Taya2010' />。
# 照射する光強度を制御することで、分解活性を調節することができる。
# 光強度が一定のとき、反応速度、すなわち基質に対する作用の強さも一定となる。
# 光のON/OFF操作で、その効果を瞬時に変更できる。活性酸素種の寿命は非常に短く、OFF後には直ちに消失して反応系内に残留しない。
 
酸化チタンナノ粒子は、[[高分子]][[電解質]]の[[ポリアクリル酸]](PAA)で化学修飾すると酸化チタンナノ粒子をして、中性[[水素イオン指数|pH]]溶液中(例えば、[[浄水施設]]の浄水槽)に懸濁させることができる<ref name=Chiaki2007 />。また、酸化チタンと異なり、PAAは[[酵素]]や[[抗体]]といった[[タンパク質]]と容易に結合させるこしたPAAができ、この結合を介して、酸化チタンの有害物質分解にタンパク質の機能ナノ粒子連携さ組み合わて用いこと研究できる。このため汚染がん治療や処理をはじめ、医療や公衆衛生でこの技術の利が期待さを目標として行われている。但し、有機物含有量が多い環境には向かない<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/105/8/105_507/_article/-char/ja/ 田谷正仁、二酸化チタン複合材料の調製と殺菌システムへの適用] 日本醸造協会誌 Vol.105 (2010) No.8 p.507-511, {{DOI|10.6013/jbrewsocjapan.105.507}}</ref><ref name=Kazusa2010 /><ref name=Kazuaki2012 /><ref name=Ogino2010 />。
 
==== [[抗菌]]素材====
病院などで、壁や床が酸化チタンでコーティングされている。このコーティングに[[ブラックライト]]([[紫外線]]ランプ)を照らすだけで殺菌処理することができる<ref name=K&S53 />。
 
==== 水処理技術====
[[17β-エストラジオール]](E2)は河川や浄水処理水中での汚染が問題視されている[[環境ホルモン]]の一つであるが<ref group="注釈" name=estradiol />、酸化チタンはE2を分解することができる。[[ポリアクリル酸]](PAA)で修飾して中性pHで溶液中に懸濁するようにした酸化チタンも分解活性を持ち、E2で汚染された水に懸濁することでE2を分解除去することができる。
 
2007年に、抗E2[[抗体]]を、PAAの[[カルボン酸]]とこの抗体の[[アミノ基]]の間の[[共有結合]]を介して、PAAで修飾した酸化チタン(PAA-TiO{{sub|2}})ナノ粒子上に固定する技術が開発された<ref name=Chiaki2007 />。'''抗E2抗体固定化酸化チタン'''({{lang-en-short|anti-E2-antibody-immobilized TiO{{sub|2}}: E2Ab-PAA-TiO{{sub|2}}}})ナノ粒子は、100nm未満の粒径で、中性pHで溶液中に懸濁することができる。このナノ粒子上の抗E2抗体は環境中からE2を認識して結合し、酸化チタンに引き寄せるため、E2Ab-PAA-TiO{{sub|2}}ナノ粒子のE2分解効率はただのPAA-TiO{{sub|2}}ナノ粒子よりも高い。
 
==== がん治療====
PAA修飾酸化チタン({{lang-en-short|PAA-modified TiO{{sub|2}}:PAA-TiO{{sub|2}}}})ナノ粒子に[[がん細胞]]特異的な抗体を固定してがん細胞に集積するようにし、そこに外部からエネルギーを与えることで局所的に活性酸素種を生じさせ、がん細胞のみを死滅させる研究がおこなわれている。がん細胞を特異的に認識する抗[[EGFR]]抗体(la)を修飾したPAA-TiO{{sub|2}}(PAA-TiO{{sub|2}}/la)をがん細胞([[Hela細胞]])に添加し、わずか1J/cm{{sup|2}}のUV照射を行うとHela細胞が特異的に死滅することが確認されている<ref name=Kazusa2010 />。PAA-TiO{{sub|2}}/laが最もラジカルを多量に生じさせるUV照射量は3J/cm{{sup|2}}である<ref name=K&S53 />。
 
酸化チタンの活性化に超音波を使用する方法も研究されている。[[肝細胞]]を認識する[[B型肝炎]][[ウイルス]]由来のpre-S1/ S2タンパク質を[[アミノカップリング法]]で表面に固定した酸化チタンナノ粒子は肝細胞に特異的に取り込まれる。この性質を利用し、TiO{{sub|2}}/ pre-S1/S2タンパク質(肝細胞を認識するタンパク質のモデル)をHepG2がん細胞(ヒト肝癌由来細胞株)に取り込ませ、超音波を照射するとHepG2がん細胞を特異的に損傷させることができることが2010年に報告された<ref name=Ogino2010 />。0.4 W/cm{{sup|2}}の超音波照射強度で顕著な細胞損傷が観察された。この方法は'''二酸化チタン/超音波照射法''' ({{lang-en-short|ultrasound irradiation(US/TiO{{sub|2}}) method}})と名付けられており、従来の[[光線力学的治療]](PDT)<ref group="注釈" name=PDT />を用いた手法に代わるがん治療法('''超音波力学的治療'''、{{lang-en-short|sonodynamic therapy}})として期待されている。
 
2012年に報告された更なる研究で、HepG2がん細胞へのTiO{{sub|2}}/pre-S1/S2タンパク質の取り込みには6時間かかり、取り込んだ細胞に1 MHzの超音波を照射(0.1 W/cm{{sup|2}}、30秒)すると細胞損傷および死滅が起こることが実証された<ref name=Kazuaki2012 />。すなわち、[[アポトーシス]]がUS/TiO{{sub|2}}法処理の6時間後に観察され、生存能力のある細胞濃度は96時間でコントロールの46%にまで低下した。また、HepG2細胞を移植したマウスの腫瘍にTiO{{sub|2}}/pre-S1/S2(0.1 mg)を直接注入し、1 MHzの超音波照射を1.0 W/cm{{sup|2}}で60秒間施す実験も行われた。超音波照射も酸化チタンの注入もされていないコントロール群のマウスと超音波照射だけ施されたマウスでは腫瘍体積の増加が多く見られたが、US/TiO{{sub|2}}法を試みたマウスでは体積の増加が抑えられており、腫瘍の増殖に対する阻害効果が観察された<ref name=Kazuaki2012 />。
 
=== オフセット印刷===
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世界保健機関は「発がん性の可能性がある」と指摘している。特に粉塵に関しては、疎水性の微粒子が肺に与える影響が懸念されている。[[国際がん研究機関|IARC]] は、発がん性に関してグループ3(ヒトに対する発癌性が分類できない)に分類していたが、2006年にグループ2B(人に対して発がん性がある可能性があるもの)に変更している<ref name=monographs />。妊娠中のマウスに皮下注射された酸化チタン(IV)ナノ粒子が、胎児の未発達な血液脳関門や精巣関門を通過して脳や精巣に到達し、機能低下を引き起こしたという報告もある<ref name=Ken2011 />。
 
== 注釈 ==
{{Reflist|group="注釈"|refs=
<ref name=estradiol>17β-エストラジオール(E2)は[[魚類]]体内において[[エストロゲン]]([[女性ホルモン]])として振る舞う。また、魚類は鰓や皮膚で常に直接水と接触しているため、環境水中のエストロゲンやエストロゲン様物質の影響を受けやすい。このため、環境水に溶け込んだE2に魚類が被爆するといわゆる[[内分泌かく乱]]が起こりやすく、オスの魚類生物のメス化を引き起こす。E2が原因と考えられている水圏環境汚染の事例はいくつか報告されている。例えば、1980年代前半にイギリスの下水処理場放流先河川から雌雄同体化した[[コイ科]]の[[ローチ (コイ科)|ローチ]]が頻繁に見つかり、下水処理水に含まれるE2などの天然エストロゲンなどの化学物質が主な原因と考えられた。日本で平成10年から4年間行われた、全国109水系の一級河川でのエストロゲン汚染の実態把握調査では、E2濃度は最高27ng/L検出され、E2が検出された水系は全体の72%だった。(出典:田中宏明; 山下尚之 (2005). "し尿に由来する河川のエストロゲン汚染と魚類の雌性化". ''J. Natl. Inst. Public Health'' '''54''' (1): 22–28。http://www.niph.go.jp/journal/data/54-1/200554010005.pdf)</ref>
<ref group="注釈" name=PDT>'''光線力学療法'''(({{lang-en-short|photodynamic therapy:PDT}})とは、光照射による活性酸素種({{lang-en-short|reactive oxygen species:ROS}})の生成現象を利用するがん治療法の一つであり、新しい技術としてよく研究されている。典型的なPDTはポルフィリンIXのような光反応性のROS合成物質及びそれを活性化させる何か、典型的にはレーザー、を組み合わせた治療法である。PDTは、細胞の損傷もしくは死滅を引き起こすROSが生成されることにより効果を発揮する。しかし、レーザー照射範囲が限られるために、PDTの医療利用は皮膚がんの場合に制限されている。出典: Baozhong Zhao; Yu-Ying He (2010). " Recent advances in the prevention and treatment of skin cancer using photodynamic therapy". '' NIHPA Author Manuscripts'' '''10''' (11): 1797–1809。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3030451/</ref>
}}
 
== 出典 ==