「隠し剣 鬼の爪」の版間の差分

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回復したきえと共に暮らし始め、宗蔵は心の安らぎを覚える。だが、世間の目は二人が同じ家に暮らすことを許さなかった。宗蔵はきえを愛している自分と、彼女の人生を捻じ曲げている自身の狡さに悩む。そんな時、藩に大事件が起きた。宗蔵と同じく藩の剣術指南役・戸田寛斎の門下生だった狭間弥市郎が謀反を企んだ罪で囚われ、さらに山奥の牢を破って逃げ出したのだ。宗蔵は、逃亡した弥市郎を斬るよう、家老の堀に命じられる。そうすれば、狭間と親しかったお前の疑いも晴れると。
 
かつて狭間は門下生の中でも随一の腕前であった。しかしある時を境に宗蔵に抜かれ、それを宗蔵が戸田より授かった秘剣隠し剣鬼の爪」によるものだという不満を抱いていた。狭間の妻からの命乞いを拒んだ宗蔵は、不条理さを感じつつも藩命に従い、狭間との真剣勝負に挑む。戦いの中、宗蔵は語る。鬼の爪とは、狭間の思うような技ではないと。そして宗蔵は師より新たに伝授されていもう一つの秘剣「龍尾返し」を用い、隠し剣「鬼の爪」を振るうことなく狭間を倒す。深手を負った狭間は「龍尾返し」を「卑怯な騙し技」と罵りながら、失意の中で鉄砲隊に撃たれて死んだ。
 
しかし戦いのあと、堀が狭間の妻を騙し、辱め、彼女を死に追いやった所業を知るにおよび、ついに鬼の爪が振るわれる。城内の廊下で進み出て控える宗蔵を見咎め、何の用かと問いただす堀。宗蔵が不意に逸らした視線につられたその刹那、全ては終わっていた。無表情に立ち去る宗蔵を呆然と見つめた後、倒れる堀。大慌てで医師が呼ばれるが、既に堀は事切れていた。遺体を検分した医師も、あまりに奇妙な遺体の状況に匙を投げ、ふと呟く。これは人間ではなく、何か別のモノに与えられた傷ではないか、と。実は鬼の爪とは、僅かな傷跡を除けば一切の証拠を残さず一撃・一瞬にして相手を屠る小柄を用いた暗殺剣であり、およそ武士が決闘の場で振るうに相応しいものではないどころか、口にするのも憚られる裏の技であったが故に、宗蔵はああ言ったのだった。