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根圏の生物への影響
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根圏に含まれない土壌空間をbulk soil(bulkは大部分の意)と呼ぶ。
 
== 根圏に供給されるへの物質供給 ==
根圏は、bulk soilよりもはるかに多くの天然の[[有機物]]を含有する<ref name=Stotsky2000 />。なぜなら、根から様々な[[化合物]]が周囲の土壌環境へと放出されるためである。この放出された有機物をrhizodeposition(depositionは堆積物の意)、あるいは根分泌物(Rootexudate)と呼ぶ。多くの細菌はこ光合成により固定さらのた全炭素量(光合成により生成された有機物を摂取し、生息し中の炭素の総量)の5%から10%は根に放出されている。それら細菌を捕食する[[原生動物]]や[[線形動物]]の数も、bulk soilより多い。このため、植物が必要とする栄養循環や病害抑制多く放出量根のすぐ隣で発生する<ref name=nrcs 0.1mg-C/>g-soil以上にも及ぶ
 
多くの細菌は根分泌物を摂取し、生息している。それら細菌を捕食する[[原生動物]]や[[線形動物]]の数も、bulk soilより多い。このため、植物が必要とする栄養循環や病害抑制の多くは根のすぐ隣で発生する<ref name=nrcs />。
=== 気体 ===
根細胞が[[細胞呼吸|呼吸]]をすることにより、[[二酸化炭素]]が根圏に排出される<ref name=biol.tsukuba />。[[酸素]]は植物の地上部から[[通気組織]]を通じて根圏に供給される。根圏微生物はこの酸素を利用することができる<ref name=biol.tsukuba />。
 
=== 脱落細胞根圏に供給される物質 ===
==== 気体 ====
根細胞が[[細胞呼吸|呼吸]]をすることにより、[[二酸化炭素]]が根圏に排出される<ref name=biol.tsukuba />。[[酸素]]は植物の地上部から[[通気組織]]を通じて根圏に供給される。湿地帯の水生植物は特に通気組織を発達させている。根圏微生物はこの酸素を利用することができる<ref name=biol.tsukuba />。
 
==== 脱落細胞 ====
[[根端]]の[[分裂組織]]が活発に分裂して根が伸長すると、分裂組織を覆っている[[根冠]]は剥がれ落ちる。そして、新しい根冠が生える。根冠が新生されてから剥がれ落ちるまで数日程度である<ref name=biol.tsukuba />。
[[根毛]]は根の伸長領域で形成されており、普通、根の伸長に伴って古いものから枯死・脱落していく。根毛の脱落は普通、新生されてから数日から数週間である。さらに、伸長領域の表皮や根の部分も伸長に伴って脱落する<ref name=biol.tsukuba />。
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不溶性の鉄結合型の[[リン酸]]に[[落花生]]の根の細胞を加えると、リン酸は鉄から遊離して溶出する。これは、細胞壁中の[[フェノール]]化合物が、リン酸と結合している鉄を吸着するためと考えられている。鉄結合型はそのままでは微生物にとって利用不可能であるため、この現象により微生物はリン酸を利用可能となる<ref name=biol.tsukuba />。
 
==== 高分子有機物 ====
根冠や根端近くの表皮細胞は、[[デンプン]]から生成された[[粘液質]](ムシラーゲ、[[:en:mucilage|mucilage]])を[[ゴルジ体]]経由で多量に分泌している<ref name=biol.tsukuba />。粘液質は[[ガラクツロン酸]]重合体を主成分とする。そのほか、[[ラムノ-ス]]や[[フコース]]などの酸性[[多糖]]を含む。粘液質は、土壌の保水力を高める働きを持つ<ref name=hirooka2014 />。また、[[アルミニウム]]などの陽イオンを吸着する<ref name=Ryo1998 /><ref name=Ryo1998-2 />。アルミニウムは植物にとっても微生物にとっても有害であり、粘液質は生物から隔離する作用があると考えられる。以上の作用により、根圏は植物や根圏微生物にとって適切な環境となる。
 
多種多様な[[タンパク質]]は植物から根圏に供給されている。根圏はbulk soilと比べて[[脱リン酸化酵素]]活性が高い。農耕地および野草地での16種の植物の根圏と非根圏における酸性脱リン酸化酵素活性の比較では、根圏における活性は非根圏のそれより1.1-26.8倍高かった<ref name=tanno1994 />。脱リン酸化酵素は、土壌中の有機物に[[エステル結合]]しているリン酸を[[加水分解]]し、植物や根圏微生物に利用可能にする。
 
==== 低分子有機物 ====
植物の根から[[滲出]]される低分子有機物には、[[糖]]や[[アミノ酸]]、[[有機酸]]といった、微生物が栄養として直接、摂取することができる物質がある。これらとは別に、植物の[[二次代謝産物]]もある。二次代謝産物は根圏微生物に様々な影響を及ぼす。
 
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植物の根からネギは揮発性[[硫黄]]化合物である[[アルキルシステインスルフォキシド]]を根から分泌する。この揮発性化合物は、病原性菌類''Sclerotium cepivorum''の[[菌核]]の発芽を誘導することが知られている<ref name=biol.tsukuba />。
 
== 根圏の生物への影響 ==
根圏は、そこに生育する生物(細菌、真菌、他の植物など)へも、根の持ち主である植物にも影響を与える。その効果は生育の促進であったり、逆に阻害であったりする。生物間の相互作用はその生物同士の関係([[相利共生]]や[[排他主義]])や生活様式を決める。
=== 微生物数 ===
=== 根圏生物への生育促進 ===
根圏には非根圏土壌(植物の根による影響が及ばない土壌領域)に比べて著しく微生物数が大きい。その比は40倍から200倍に及ぶといわれている<ref>https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/52/12/52_799/_pdf</ref>。
植物は根から多くの化合物を分泌する。これら分泌物は根圏中の他の生物[[相利共]]に役割果たす。
 
* 植物からの物質供給を主な要因として、根圏は非根圏土壌(植物の根による影響が及ばない土壌領域)に比べて著しく微生物数大きい。その比は40倍から200倍に及ぶといわれている<ref>https:/ name=morikawa2014 /www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/52/12/52_799/_pdf></ref name=Timmusk2011 />。細菌など根圏生物はこの供給物質を栄養源としている
=== 相利共生 ===
植物は根から多くの化合物を分泌する。これら分泌物は根圏中の他の生物との[[相利共生]]に役割を果たす。
* [[菌根菌]]は[[ストリゴラクトン]]を分泌し、[[胞子]]の発芽を促進し、[[菌根]]への生長を開始させ、コロニー形成を可能にさせる。
* [[寄生植物]]の[[ストライガ属]]はストリゴラクトンの存在を検出し、それらを検出したときに発芽する。その後、根へと移動し、栄養素源として利用する。
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* 非共生的(または自由生活)な窒素固定細菌は、特定の植物(多くの草本を含む)の根圏の外で生育でき、根圏では共生的な窒素固定細菌と同様に窒素ガスを固定する。根圏微生物と植物との関連は緩いと考えられているにもかかわらず、根圏微生物は植物の状態に非常に強く応答する。例えば、イネの根圏における窒素固定細菌の日内周期は植物の挙動を模倣したものである。また、イネの成長段階では窒素固定細菌は窒素をより多く固定して供給する傾向にある。成長段階ではイネは窒素をより多く要求する<ref name=Sims1984 />
 
=== 排他根圏の植物への生育促進 ===
根圏の根の持ち主である植物は、根圏中の他の生物の生育を促進することで、その見返りを受け取り、生育を促進してもらっている。このため、植物と一部の根圏生物との[[相利共生]]の関係が構築されている。以下に根圏微生物による生育促進効果を示す。
* 土壌中の不溶性リンの可溶化<ref name=Rodriguez1999 />
* 鉄[[キレート剤]]である[[シデロホア]]を生産し、鉄を可溶化させる。
* 菌根形成の活性化
* [[オーキシン]]や[[サイトカイニン]]といった[[植物ホルモン]]を分泌し、植物の生長を刺激する。
 
=== 物数育阻害 ===
いくつかの植物は、同種または多種の生物の増殖や生育を阻害する[[アレロパシー]]物質を根から分泌する。
* [[桃]]や[[カンキツ]]のアレロパシー物質は同種の果樹の生育を抑制する。
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<ref name=Hiltner1904>{{cite journal |author=L. Hiltner |title=Über neuere Erfahrungen und Probleme auf dem Gebiete der Bodenbakteriologie unter besonderer Berücksichtigung der Gründüngung und Brache |journal=Arbeiten der Deutschen Landwirtschaftlichen Gesellschaft |volume=98 |pages=59-78 |date=1904 }}</ref>
<ref name=Hiltner2008>{{cite journal |author=Anton Hartmann |author2=Michael Rothballer |author3=Michael Schmid |title=Lorenz Hiltner, a pioneer in rhizosphere microbial ecology and soil bacteriology research |journal=Plant and Soil |volume=312 |issue=1 |pages=7-14 |date=November 2008 |url=http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11104-007-9514-z |doi=10.1007/s11104-007-9514-z}}</ref>
<ref name=morikawa2014>{{cite journal |author=森川正章 |author2=菅原雅之 |author3=鈴木和歌子 |author4=三輪京子 |title=水生植物に見いだされた新しい表層微生物作用 |journal=化学と生物 |volume=52 |issue=12 |pages=799-804 |date=2014 |url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/52/12/52_799/_pdf |doi=10.1271/kagakutoseibutsu.52.799}}</ref>
<ref name=Timmusk2011>{{cite journal |author=Salme Timmusk |author2=Viiu Paalme |author3=Tomas Pavlicek |author4=Jonas Bergquist |author5=Ameraswar Vangala |author6=Triin Danilas |author7=Eviatar Nevo |title=Bacterial Distribution in the Rhizosphere of Wild Barley under Contrasting Microclimates |journal=PLoS ONE |volume=6 |pages=e17968 |date=March 23, 2011 |url=http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0017968 |doi=10.1371/journal.pone.0017968}}</ref>
<ref name=Rodriguez1999>{{cite journal |author=Hilda Rodrı́guez |author2=Reynaldo Fragaa |title=Phosphate solubilizing bacteria and their role in plant growth promotion |journal=Biotechnology Advances |volume=17 |issue=4-5 |pages=319–339 |date=October 1999 |url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0734975099000142 |doi=10.1016/S0734-9750(99)00014-2}}</ref>
}}